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魔を討つは異世界の拳〜格闘バカの異世界ライフ、気合のコブシが魔障の世界を殴り抜く〜  作者: 白酒軍曹
ギルド編

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第2話 親父

 エイルは家に着くと、母に自分が料理を振る舞うことを伝え食材を確認した。米は余裕、母が野菜スープの作り途中だったのでスープは使わせてもらう。

 野菜類はキャベツ、ニンジン、ゴボウ、ジャガイモ、ニンニク。エイルが前世で知っているものと比べれば、品質は格段に劣るが大体同じ様な形と味だ。調味料は塩と山椒、それとお袋の味を作り出す自家製ソース。醤油が欲しいところだが、売ってもいないし、エイルは作り方を知らないので作れない。窯に火は入っていたので米を仕掛けて、外の窯にも火を分けてから氷室へ肉を取りに向かった。


 この国では1家に1台の冷蔵庫として氷室を持っており、エイルの家は1畳くらいの氷室を持っている。蔵の中に1畳くらいの範囲を1メートル程度掘って1部屋作り、冬の内に雪を敷き詰め食材の保存を行っている。

 これだけでも田植えの時期くらいまでは持ち、氷属性の魔法が使える者が家に居れば、凍結を繰り返す事で真夏くらいまでは持たせる事ができる。天啓の儀で『魔法使い』を授かるレベルなら1年持たせる事はできる。

 魔法は冒険者の特権では無く、民間人でも使うことはできる。家族の誰かが凍結魔法が使えないと氷室の維持が出来ないので、凍結魔法は学校教育でも習う必須スキル扱いだ。エイルの家で凍結魔法を使えるのは母だけで、父も魔法は使えるが上手く扱えるのは地属性だけだった。


 エイルはお目当ての猪肉と猪脂を持って台所へ戻った。脂は冬場にしっかり付いた脂身を切出し、スーパーの「お肉1パックに付き1つまでお取り下さい」サイズに切り分けて保存してある。肉はある程度の塊で保存しておいて、色の悪い所を小削ぎ落としてから使う。エイルは下処理をしてから具材一式を外に持って行った。

 外ではエイルの作業中に両親が気を利かせて、コンテナをひっくり返した椅子と、コンテナに板を渡したテーブルを用意していた。即席の椅子に腰掛けてお喋りをしている人の輪から外れ、ガルルは家畜小屋の牛の所へ行って仲良くベロベロと舐め合っている。


 エイルはドワーフの鍛冶屋に作って貰った中華鍋を持って来て火にかけた。猪脂を適量放り込み、油が溶け出し馴染ませたところで刻みニンニクを一摘み。続いて飯を放り込み、油を絡めて炒めていく。

 湯がいておいた具材を混ぜてもう一度火を通し、塩とソースで味付けをして、この世界に来てかなりレベルアップした中華鍋を振る技術で、美しいアーチを描いて飯と具を混ぜていく。仕上げに山椒で香りを付けたら、有り合わせチャーハンモドキの完成だ。

 初見は驚いていた両親も、今は「エイルは料理も出来るんだよ」と、女性陣に息子を売り込んでいる。


 全員分揃ったところで、恵みへの感謝と新たな豊穣への祈りを捧げて実食だ。

「うまっ!これはこの辺りの料理なんすか?」

「街の食堂でも見た事無いな。エイルさん、この料理の名前はなんですか?」

 エイルは言うか言わまいか、少し困った顔をして料理の名前を言った。

「これは『チャーハン』っていうんだ」

「「チャー······ハン?」」

「これはね!見た目のまま、炒め飯って言うんだよ。エイルは天啓の儀の後から変な事を言うようになって、山に籠るようになったけど、真面目で努力家で優しい子なんだよ」

 せっかく来た嫁候補を逃すまいと、エイルの母がフォローを入れた。

「はい。この間助けて頂いたとき、エイルさんに御自身でなさっている修行のお話を聞かせて頂きました。身体だけでなく心も鍛えていらっしゃって、とても頼もしく感じました」

「ベル、エイルさんの背中は安心するって言ってたよ。私も背負ってもらいたいよー」

「ちょ、ちょっとミーア!言わないでぇ!」

「あ、あら、そうなの?エイルは詳しい事教えてくれないのよ」

 エイルの母が食い付いて、女性陣で話が始まった。

「スマンな。俺の親が出しゃばってしまって」

「いえ、そんな事無いですよ。急に押しかけておいてご馳走までしてもらって、こっちこそすみません」

「でもホント来てよかったっすよ。エイルさんの炒め飯も、お母さんのスープも美味いし。あ、おかわり貰って良いすか?」

 おかわり用に大皿に盛っておいたチャーハンも、アレクスとキールがどんどん減らしていってくれる。ベルカノールとミーアも、協力して一人一皿平らげた。

 鳥人種は五本の指を持つ()が無く、翼角部に親指の様なものが有り、そこでスプーンを摘んだりは出来るが、手がある事が前提の社会で生きるには介助が必要だ。なので鳥人種は人懐っこい性格をしていて、ミーアもお洒落で髪を編んだり、今も皿を持ち上げるのはベルカノールに助けて貰っている。


 食べるものも無くなって、食後の雑談が一区切り着いたところで、アレクスが今日ここに来た本題を話し始めた。

「エイルさん、この間は本当にありがとうございました!あの後アンナさんからも、リーダーの心構えを色々と教えて貰って、エイルさんとアンナさんには本当にお世話になりました!それで翌日、皆んなと話し合いをして、俺達の気持ちを纏めて来ました!エイルさん!俺達のパーティーに入ってくれませんか!」

 パーティーの勧誘······ソロ冒険者として定着したエイルには、ここ数年縁の無い話だった。

「気持ちは嬉しいが、俺は毎日稽古をしたいから、これからも冒険者は7日に1回でやっていこうと思っている」

「それはアンナさんからも聞きました。でも、俺達もっとエイルさんから色々教わりたいんです!お願いします!!」

 アレクスに続き、他の三人もエイルに祈るような目で訴える。

「一人でやっている奴は、一人の方が良いから一人でやっているんだ。だから──」

 その時、割って入った凄みのある父の声により、エイルは話を止めざるをえなかった。

「いい加減にしないかエイル。お前が山で何をやっているか詳しくは知らないが、それはそこの彼等を一人前に育てるよりも重要な事なのか?それにアレクス君。エイルは7日に1度しか街に降りない世間知らずだ。エイルよりも優秀な冒険者······人はもっと大勢居るだろう。そういう人から、冒険者や生き方を教わった方が良い。アレクス君、こんな息子だが、まだ誘ってくれる気持ちがあるのなら是非誘ってやってくれ。さあ母さん、後は皆んなに任せてお暇しよう」

 エイルの両親は席を立った。エイルの父は、はっきりとは言わなかったが「あんな事を続けて何になるんだ」とエイルに言い。「息子は冒険者としても、人としても半人前だ」とアレクス達に言った。

 暫らく経って意を決したエイルとアレクスが、同時に口を開くことになった。

「エイルさ──」

「アレクス、父さんの言う通りだ」

 エイルはアレクスを手で制して、話を続けさせてもらった。

「アレクス、キール、ベルカノール、ミーア、皆んな済まなかった。こんな俺に声を掛けてくれたのに、俺は詰まらない意地で突っぱねてしまった。ギルドに行ったときに皆んなと会ったら、また一緒に行こうって声掛けようとは思ってたんだ。だから、俺から言わせてくれ。アレクスのパーティーに、俺を仲間に入れてくれないか?」

 アレクス達はアイコンタクトを取り、パーティーを代表してアレクスが返事をした。

「俺達の意見は変わりません。エイルさん、宜しくお願いします!」

「やった!エイルさんが居れば百人力だぜ!」

「キールさっきの話聞いてたのか?俺は1人前ですら無いんだぞ」

 へへへ、と頭を掻いて照れ隠しをするキールの肩にアレクスが拳でツッコミを入れると、その場は笑いで包まれた。


「アハハ······ふう。でも、本当に良かったです。私は、エイルさんのキに興味があって、もっと教えていただきたいと思っていたんです。ああ、でも、修行はどうされるのですか?」

「興味を持ってもらえて嬉しいよ。そこまで言ってくれたのはベルカノールが初めてだ。毎日の修行は······河原でしようかと考えてる。町から少し離れているし、朝っぱらなら人目も無いだろうから」

「私も一緒に修行したいよー。そうだエイルさん、ベルのこと、ベルで良いんじゃないかなー?」

 魔人種の名付けには風水?占い?的なルールがある。他国から入った文化であるし、根拠も由来も定かで無ければ、目に見えて何かが起こる訳でもないので、親の匙加減では普通に名前を付けられる場合もある。

 捻れた二本角の魔人種は、お伽噺の魔王の1体『ベルフェゴ』からどれか一文字以上を含んだ名前にして、その名前の中に真名を隠している。真名は当てずっぽうで言い当てる事も出来るが、本来家族以外には、プロポーズが成立したときにのみ教えるローカルルールがあるので、『ロマンが無い奴』と嫌われる覚悟が必要だ。

 『ベル』は当然愛称で、家族からミーアに、ミーアからアレクス達に伝わっている。

「それじゃあ、宜しくベル」

「はい、宜しくお願いします!」

 そして新たにエイルもそこに加わるのだった。

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