第77話 《黄昏の陽射し》は超万能
今更感が強いけど。
俺の掛け声を皮切りに、エクレアはパッと表情が明るくなった。
「本当に! 本当にやってもいいんだね!」
「お前が言い出したんだろ。どうするんだ?」
「もちろんやるに決まっているよ。それじゃあ見ててね、私の《黄昏の陽射し》が火を噴くよ!」
「火は出ないけどな」
「そう思うかな? かなかなー?」
ウザい。俺は表情を歪めた。
するとエクレアは、少女の頭に手を置いた。
「それじゃあやってみよう。《黄昏の陽射し》。呪いを焼き切れ」
エクレアがそう宣言すると、突然右手のひらから光が優しく迸る。
少女のフードを被った頭に優しく包み込むように照射されると、表情が笑みを浮かべた。
温かいのだろうか? 焼き切れと言っている手前ではあるが、全然焼き切っている様子がない。
「おい、これで本当に解決しているのか?」
「ちょっとだけ見ててよ。私の魔法だよ、超万能な光なんだよ」
「熱じゃないのか?」
「それは第一段階だよ。第二段階は、光を熱に。熱を聖光に。だから呪いの闇は私の魔法の前では無力なんだよ!」
あまりにチート過ぎる。そんなの何でもアリじゃないか。俺は間目揺するほどエクレアを睨んだ。
コイツは恵まれている。だがその力をここまで巧みに操れるようになったのは、ひとえにコイツの努力の賜物だろう。
俺だってそうだ。《武具生成》も《武器庫の空間》も単純にここまでできるようになったのは、俺の経験が全てにある。
だからこそ、コイツがやろうとしているとんでもない偉業は俺にとって新しい経験値になる。
「それじゃあここから出力上げて、一気に焼き切るからね。少し熱いけど、頑張ってね」
「う、うん」
エクレアは慣らしを終えると、早速本領を発揮した。
少女の瞳が涙を吹き飛ばすほど乾いていく。
まるで体に取り付いた邪悪を濁りとして、涙と一緒に蒸発させているみたいだ。
「凄いな、お前」
「まだまだ。本番はここからだよ!」
どうやらまだ呪いは焼き切れていないらしい。
右手のひらから光がさらに強烈に迸り、少女は喉と腕に黒い靄が纏わり付いた。
「……く、くるひぃ」
「頑張って。呪いが抵抗しているの」
流石にこれは荒行だった。
俺は「ヤバいな」と口走り、少女は喉を抑えていた。
今にも窒息死してしまいそうなほど苦しみを上げていて。喉の奥から唾液と一緒に喘いでいる。よっぽど死に近い呪いらしい。
「おいエクレア。このままじゃマズいぞ」
「最悪人殺しかもね。でも大丈夫」
「何が大丈夫なんだ? お前のメンタルが怖いぞ」
俺はエクレアの言葉が怖くなる。
「もう見えたから。……そこだ!」
左手で何かを掴んだ。
心臓から飛び出した黒い靄は蔦のようで、まるで植物のようだった。
エクレアは迷いなく掴みかかると、《黄昏の陽射し》で焼き払う。
「この呪い。確かに強い死の臭いがするけど、結局焼き切れるなら私の敵じゃないんだよね」
エクレアの宣言通り、呪いは焼き切れた。
少女の喉や腕から蔦状の靄は消え、苦しみから解放される。
すると店の床に座り込み、口から大量の唾液と胃酸を吐き出した。
「ゲホッ……グァッ、ゲホッゲホッ……く、苦しい……けど、助かった?」
「うん。呪いはバッチリ焼き払ったよ」
エクレアはグッドマークを親指を立てて表現した。
すると少女は被っていたフードを外し、白い髪を露わにする。
額やこめかみからは汗がダラダラと流れていて、サウナから上がったみたいに整っていた。
「私は、助かった?」
「もちろん助かった……よ?」
「どうしてそこで疑問系なんだ」
「だって辛かったでしょ? こんなに苦しい超万能な応用法は、人には危険なんだよ」
「それはわかった。だがお前は強行したんだろ」
「もちろん。それしか手段はなかったからね」
要は、一歩間違えれば死んでいたわけだ。
全くどれだけ危険な綱渡りをするのか。
しかし、そのおかげで少女は解放され、猟銃の呪いも同時に解けたらしい。いや、焼き切ったようだ。
「これで分解もできるな」
「それじゃあやっぱり直せるんだね」
「……うるさい」
俺は猟銃を拾い上げた。
やはり壊れたままらしく、このままではまともに使えない。
とは言え役目を果たした以上、何を心配することがあるのか。
俺は甚だ疑問だ。
「……直せるの?」
「お前、もう立って平気なのか?」
「もちろん。鍛えてるから」
「そういう問題じゃないだろ。それより、この銃をまだ使うのか?」
「当然。私にはそれしかないから」
少女は今度は素直に俺に頭を下げた。
目の奥は遠くない。どうやら呪いが解けて正常に戻ったらしい。
つまりここにいるのは純粋な客だ。何にも縛られることがない。
俺にはそう感じたのだが、エクレアが笑っていたのが気色悪かった。
「なんだ」
「別にー。何でもないよー」
エクレアがとんでもなくウザかった。
とは言え、今回は結果オーライなので大目に見よう。
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