第56話 静かな森の中へ
まずは現場検証。
俺は冒険者ギルドを出ると、そそくさと歩き始めた。
少し足早になっているのだが、表情は一切変わらない。
冷たいと思われてもいい。俺は何も感じない。
ただ一つ懸念点なのは、余計に印象最悪になる中、エクレアが一切止めなかったことだ。
止めたには止めていた。しかし具体的に何をしたでもなく、ただ言葉で制そうとしていたに過ぎない。いつもらしくもないので、俺はどんな無茶ぶりが来るかと思っていたが、何やらここ最近は大人し目立った。
「アイツも少しが大人になったんだな」
俺は少しだけ感慨深い気持ちになった。
けれどそれ以上でもそれ以下でもない。ただ一瞬足を立ち尽くしただけだ。
それから少し冒険者ギルドを離れると、背後から気配を感じた。
「何か来たな」
俺は足を竦ませてしまった。しかしすぐに早歩きになって立ち去ろうとしたが、俺の首を絞めるように掴みかかった。
「ちょっと待ってよ、カイ君!」
「ぐはっ! これは予想していなかった」
「そんなのいいから。どうしてあんなこと言ったの! ギルドの空気最悪だったよ!」
「最悪だった? それがどうした」
「それがどうしたじゃないよ! コーフィンさんがいなかったら大変だったよ!」
「知るかそんなもの。それに手はずは売っていただろ?」
「えっ? ……ああ、そういうことね」
「理解が早くて助かる。お前も少しは大人になったんだな」
「大人になった? って、いつもだよ!」
「やっぱり子供か」
俺は服の汚れや埃を払うと、エクレアを切り離した。
それからエクレアは俺の顔を見ながら今回の件について深掘って来る。
「それでどうするの?」
「どうするもなにも。俺はゴブリンを狩るだけだ」
「やっぱりいつも通りだね。じゃあ私も協力するよ」
「いいのか? 無用な殺生だぞ」
「関係ないない。今回は緊急だもん! 刃向かう奴は殲滅するってね!」
「お前、キャラ変わり過ぎな」
俺でもドン引きしてしまった。
しかしエクレアらしいと言えばエクレアらしい。
何がどうではない。エクレアらしい太陽の輝きが背後から爛々としていた。
「それじゃあ早速あの森に向かって……」
「いや、それはない」
「あれれ? どうしてかな?」
「お前は馬鹿か。今の奴らは興奮状態。そんなモンスター相手に、お前ならどうする?」
「もちろん《黄昏の陽射し》で先制攻撃!」
「それができるのはお前だけだ。そのせいでゴブリンたちの戦意を削るのはいい考えだろうが、馬鹿げている」
「ムカッ! じゃあどうするの?」
エクレアは噛みついてきた。
例に漏れない不機嫌さを駆り立てると、俺はエクレアを連れて目的地へ向かう。
「付いて来い。話はまずそこからだ」
俺は先導して歩き始めた。
エクレアは首を傾げていたが俺の背中を見ると何を思ったのか、迷いながら付いてきた。
若干警戒心が低いと思いつつも、俺はエクレアが付いて来てくれたので、若干予定通りに事が運んでいた。本当に若干で、こんな無駄口を吐いている暇はなかった。
*
俺とエクレアがやって来たのは森に手前だった。
単にここに目的がなく来たわけではない。もちろん明白な目的はある。
それこそが、放置されていた馬車である。
「あっ、あそこに馬車があるよ!」
「予定通りだな。よし、探すぞ」
「探すって何を? もしかしてゴブリンの残した痕跡?」
「当然だ。闇雲に捜していてもきりがない。安易に森を荒らしたら向こうの思う壺だからな」
俺の思考は的確だった。
とは言え、エクレアが見当違いなことをし出してビックリした。
まさか積み荷を漁るとは安易に胆略過ぎる。
「うーん、どこにもないね。ひっかき傷が少しあるくらいかな?」
「何しているんだ」
「何って痕跡を探しているの。見てわからないの?」
「馬鹿か。そんなところにある痕跡、いくら探しても意味がないだろ」
「じゃ、じゃあどうするのよ!」
「決まっているだろ。重要なのは何が起きたかじゃなくて、その後何が起こったかだ」
「えっ? 何が起こったって、攫われちゃったんでしょ?」
「あのなー、お前の足元には何があるんだ?」
「足元? あっ!」
ふと下を見たエクレア。そこには小さな足跡が幾つも付いていた。
足跡は森の中を真っ直ぐ進んでいる。
重たいものでも持ったのだろうか? かなり凹みに重心が来ている。
「カイ君これって!」
「俺が探していたのはこれだ。間違いなく、この森の先。しかも最短距離で向かったな。ゴブリンは基本は小柄だ。おそらく数匹で運んだんだろう。見てみろ、地面の凹み具合が……」
「均一じゃないね。何かを運んでいるみたい。しかもバラバラ」
「それがミソだ。これで掴めたな。よし、足取りを追うぞ!」
「うん。何だかシリアス展開来たねっ!」
こんな状況でさえ、エクレアにとっては笑い事なのか。
何故か笑みを零していたが、きっと深い意味はない。
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