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魔法使いはとっくに来てた

作者: 瀬嵐しるん
掲載日:2022/11/13

シンデレラは、独りぼっちになってしまいました。

美しかった母とは幼い頃に死に別れ、優しかった父もまた、仕事で遠出をしている最中に亡くなったのです。


立派な屋敷はありますが、家族はいません。

父の後妻である継母と連れ子の義姉二人は、とても家族とは呼べないのです。


「シンデレラ、今日からお前は屋根裏へ住むのよ。

使用人はお金がかかるから、全員解雇。

屋敷の中も外も全部、お前一人でなんとかしなさい」


「はい、お義母さま」


「まあ、お前はもう使用人なのだから、奥様とお呼び!」


「はい、奥様」



シンデレラは一日中働き、屋敷の全ての仕事をこなします。


最初は失敗して叱られたものの、すぐに要領を覚えました。

ひと月もすると、食事は前以上に美味しくなり、掃除も行き届くように。

ドレスにはほつれ一つなく、靴はぴかぴかです。

やがて、文句の付け所を失った三人は、ただただ居心地のいい生活を満喫するようになりました。



それから一年後、王城から舞踏会の招待状が届きました。


「シンデレラ、私たちを最高の淑女にしなさい」


「はい、奥様、お嬢様」


シンデレラは三人分のドレスと靴とジュエリーを用意し、当日は彼女たちの着付けを完璧にこなしました。


「では、行ってくるわ」


「行ってらっしゃいませ」


ケチな継母も、今日だけは馬車を御者ごと借りました。

磨けば光るシンデレラを、王城に近づけるわけにはいきません。




継母に見守られ、義姉たちが王城の広間でダンスに興じていると、にわかに入口が騒がしくなりました。


「まあ、どちらの王女様?」


「見たこともない方だ」


「なんと美しいお姫様!」


真珠のように輝くドレスで入場したのは国で一番美しい娘、シンデレラ。


継母は、すぐにその顔を見て気が付きました。


「シンデレラ、お前……」


咎めようとしたその横を、王子が疾風のごとくすり抜けます。


「美しい方、どうか私とダンスを」


シンデレラは優しく微笑んで、王子の手を取りました。


二人の息の合ったダンスは会場中を魅了し、皆、ため息をつくばかり。

二曲、三曲と二人は踊り続けます。



楽団が演奏を止めた時、王子はシンデレラに跪きました。


「愛しき姫君、どうか、私の伴侶に」


「喜んで」


満場の拍手の中、継母が慌てて進み出ます。


「王子様、お待ちください!」


「貴女はどなただろうか?」


「その娘の義理の母でございます」


王子はシンデレラに向き直ります。


「本当か?」


「いいえ。そのご婦人は、たしかに亡き父の後妻ではありましたが、わたしの母ではございません」


「どういうことだろう?」


「父の死後、その方は、わたしを使用人として屋根裏に住まわせ、屋敷の仕事を全て一人でするように申し付けたのです。

名を呼ぶ時も、奥様と言うように命じられました」


「なるほど、それでは母とは呼べない。

これ以上、水を差すなら容赦はしない。すぐに立ち去るがよかろう」



青くなった継母は、義姉を連れて家に戻ります。

何がどうなっているのか、どうしてシンデレラは美しいドレスで舞踏会に出られたのか。

疑問に思って屋根裏部屋へ行ってみると、粗末なベッドでは老婆が高鼾で眠っていました。


「これは、どういうこと!? お前は誰なんだい?」


老婆は起き上がり、継母をじっと見ました。


「おや、あの子が帰ってこないってことは首尾よくいったんだね。

おめでたいこと」


「何がめでたいものか! 知っていることを、さっさとお話し!」


「おやおや、あたしが引導を渡す役目かい?

まあ、ものはついでだ。話してやろう」


老婆は全てを教えました。



実は老婆は魔法使い。

以前、シンデレラの産みの母に親切にしてもらった恩返しを、いつかその娘にしようと思っていたのです。


父親が亡くなり、継母たちから使用人同様に扱われていると聞いて、助け出そうとしたところ……


「シンデレラに断られたんだよ」


シンデレラは、老婆が魔法使いだと知ると、魔法を教えて欲しいと頼み込んだのです。


「屋敷中の仕事を片付けるなんて、人間業じゃ無理さ。

けれど、魔法の練習にはおあつらえ向きだ」


執事にメイドにコックに庭師。何人分もの仕事を、ただの娘が一人でこなせるわけがないのです。


「お前さん、あの子の仕事ぶりを、少しも不思議に思わなかったのかい?」


継母には返す言葉がありません。



一年間の修行を終え、シンデレラは立派な魔法使いになりました。


「シンデレラには人一倍、魔法使いの才能があった。やる気も負けん気もあった。だけど、お前さんが無理難題を言わなければ、こんな短期間ではマスターできなかっただろう」


継母は、もう怒る気力も出ませんでした。


「さて、シンデレラは王子妃になった。こんなボロ屋に未練はないだろう。

あとは自分たちで面倒見るがいいさ」


そう言うと、魔法使いの老婆は姿を消しました。



シンデレラのかけていた魔法はすっかり解け、屋敷はボロボロ。

素敵なドレスもジュエリーも、ごみ同然になってしまいました。


継母も義姉も途方に暮れるばかりです。

誰一人として料理どころか竈の火ひとつ熾せません。

洗濯どころか水汲みさえ出来ないのです。

それでも他に行く当てもなく、罵り合いながら暮らしていくしかありません。



一方のシンデレラは、自分の魔法で誂えたドレスです。

十二時過ぎても消え失せるどころか、ますます美しく輝きます。


ところが王子の方は善は急げと、とっとと自分の部屋に彼女を連れ込みました。部屋のテーブルには婚姻誓約書が置いてあり、二人でサインをすれば準備万端です。


しかしシンデレラは冷静です。ちょっと待ってと事の次第を告白しました。



「君が魔法使いなんて!」


王子は驚き目を瞠ります。

けれども、すぐに目を細め、愛しい妃を抱き寄せました。


「美しく思慮深く、正直者で努力家で魔法使い。これ以上の花嫁がいるものか!」


無事に二人はサインを終え、王子はシンデレラを抱き上げて寝室に飛び込みます。



その後も王子の想いは募るばかり。長い生涯の間も情熱が失われることはありませんでした。

お陰で王家は子だくさん。

それでも家族は仲が良く、継承権で揉める気配すらありません。


幸福な二人は国王と王妃となっても仲睦まじく、穏やかに国を守りました。


シンデレラが魔法使いだということは二人だけの秘密です。

彼女は、家族と国の困りごとにだけ、その力を内緒で振るったのでした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分で幸せをつかみ取るシンデレラがいいですね。 [一言] シンデレラのお話は子供の頃、苦手でした。 魔法使いに王子さま、本人は大した事せず、誰かに幸せにしてもらうシンデレラのお話に反発を覚…
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