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隠者のユウは隠居ができない  作者: 宮之内誠治
第一章:伝説の始まり
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九話:ドラゴン調査の準備をする

 


「ユウ、昇格用の依頼が決まった。ドラゴン調査だ」

 ギルドマスターの言葉に、ステーキを口に運ぶ手が止まった。

 マジかぁ・・・。


 俺はここ数日、生活に慣れる目的で適当に小遣い稼ぎの依頼を受けていた。今日はゴブリン狩りの際に森の奥の洞窟で発見したCランク級のゴブリンキングの首を持ち帰った所だ。

 ギルドマスターは隣に座ってウェイトレスに注文し、依頼書を俺に見せながら話し始めた。

「これがドラゴン調査の依頼書、Aランクだ。調査依頼は初めてだよな。調査は、採集や討伐と違ってギルドから調査員が同行することになっている。調査員が、対象の調査記録を取ることで依頼は完了。調査員が死んだり記録が取れなければ依頼は失敗だ。そういうわけで、護衛対象を連れて危険地帯に行くから調査依頼は難易度が他より高い。ただ、調査には相応の時間が掛かるからな。携帯食料や馬車などの費用はギルドが負担することになっている。質問はあるか?」

「調査期間はいかほど?」

「おっと、場所と期間を言い忘れていたな。西の山は見たことぐらいはあるだろう。あの山の北側の中腹辺りに寝床があると踏んでいる。期間は大体七日。同行する調査員の判断で伸びたり短くなったりする。出発は明日の早朝、冒険者ギルド前に集合。馬車を置いとくから、すぐに分かるだろう。他にはないか?」

 心配なことや不安なことを考える。幾つか出て来た。

「・・・馬車って、乗り心地はどうなのです?」

「長時間座っていると尻が痛くなる。荷物に余裕があれば、敷物を持っていくのを勧める」

 あとで買いに行こう。

「それで、肝心の同行する調査員に挨拶は出来ます?」

「出来るが今回はしなくていい。お前も知ってる、ナナに調査員として行かせる」

「それはどうも」

 聞きたいことも無くなった所で、ギルドマスターの料理が運ばれてきた。

「お、来たか。それじゃあ頑張れよ」

 ギルドマスターは食べ始める。途中まで食べていた俺はもう食べ終わる直前で、さっさと食べて依頼書を仕舞ってギルドを出た。

 町で敷物を買える店の聞き込みついでに出店の料理を大量に買い込む。串焼き、サンドイッチ、パン、薄く焼いた肉、果物各種、色々と買った。インベントリの特徴の一つに、仕舞ったアイテムをその時の状態のまま保存するというものがある。こうやって大量に買っておけば、いつでも買った時のままで食べられる。

 聞き込みも上手くいき、俺は冒険者用の防具店に辿り着いた。特徴もない防具の看板の店の前に立ち、深呼吸して店に入る。普通の気の良さそうなおっさん店主が鼻歌交じりに商品棚の防具を磨いていた。

 俺に気付いた店主が手を止めずに声を掛けた。

「やあ、いらっしゃい。クリスの普通の防具店へようこそ」

 出て行こうかと一瞬悩んだが、聞いてからでも遅くないと踏み止まる。

「・・・馬車で移動する時、楽になる敷物ってありますか?」

「あるよ。出して来るからちょっと待ってね」

 奥に引っ込み、何枚かの座布団を抱えて戻って来てそれをカウンターの上に並べ始める。

「最近、馬車の快適性を求める人が増えてね、うちでも取り扱いを増やしたんだ。こっちが一番いい奴。こっちに行くほど安くなるよ」

「じゃあ、一番いい奴を頼む」

「小金貨一枚だよ」

 小金貨を出しつつ、ちょっと気になって訊ねる。

「随分と高いように感じるけど、何故?」

「ああ、高い奴ほど高級素材を使ってる割合が多いからだね。流行になって来て、品の取り合いが起こっているのも高い理由だよ」

「高級素材ね・・・それって野生で獲れたりするもの?」

「グランドシープっていう、大型で凶暴な羊から取れる毛を使っている。見たことは無いけど、Cランク冒険者でも手が出せない奴だとは聞く」

「そりゃまた強そうで・・・」

 ふと、ドラゴン調査の道中で馬車が壊される可能性が頭を過った。

「さっきの敷物、在庫はどれくらいあります?」

「ん? あと九枚あるけど、それがどうかした?」

「全部下さい」

 店主の目が点になった。今までそういうことを言う人間に出くわさなかったようだ。我に返った店主が困惑しながら言う。

「・・・売るけどさぁ、理由を聞いても?」

「普段使い用に一枚。自分で使う予備と、予備の予備と、予備の予備の予備。これで計四枚。あとは相手に使わせる用と、その予備と、予備の予備と、予備の予備の予備。これで計八枚。残り二枚は予備の予備の予備の予備って所」

 インベントリによって嵩張らずに無限に所持できるし、金も使い切れないほどあるのなら当然の選択だろう。出店の商品も買い占めている。

 店主は引いている。気にせず小金貨九枚を差し出した。

「どうぞ」

「あ、ああ・・・まいどあり」

 買った敷物を全て仕舞い、店を出た。目的の物は買えた。あと必要なものがあるかと考えて、怪我をした時の回復手段やギルドが出す食料を工夫する必要もあると考えた。

 雑貨屋で調理器具一式を買い、ドラッガー調味料店へ入る。扉に仕掛けられた鈴が鳴って来店を知らせる。

「いらっしゃい。ユウか。今日は何をお求めで?」

「薬草と調味料をあるだけ欲しい」

「戦場にでも行って、救護と飯作りでも始めるつもりかい?」

「いいや、ちょっと遠出をするから、予備で多めに欲しい」

「・・・数百人分を予備とは、あんたは何処かの貴族様か?」

「ただの旅人で、冒険者だ」

「はは、そういうことにしておこう」

 立ち上がったピーターが扉に移動し、掛札を引っ繰り返して閉店にした。

「では、一つ一つ会計していくか」

「分かった」

 結構な時間を掛けて、裏の在庫も含めて店内が文字通りすっからかんになった。軽く大金貨数十枚が消し飛んだ。

 全ての会計を済ませたピーターも、椅子に座って満足気に空になった店内を見渡している。

「・・・また仕入れの旅に出ないと」

「なんかすまん」

「謝ることじゃない。暫くは店を開けないと思うが、また来てくれ」

「ああ」

 煙草を吸い始めたピーターの店から出る。

 あとは何が必要かと考えて、寝泊まりする毛布や寝袋が必要だと気付いた。調理器具一式を買った雑貨屋に置いてあった気がして戻り、目当ての物を買ってご満悦で湖のさざなみ亭に戻る。

 日も沈み始めており、中に入れば料理のいい匂いがする。

「ただいま」

「ユウさん、おかえりなさい」

「おかえりー」

 ウェイトレスとして働き始めたエリーとメリーに出迎えられつつ、俺はカウンターに座って店主のルナさんに報告する。

「ただいま。依頼はこなしたし、昇格の依頼が遂に来た」

「話は色々と聞いてるよ。まずは依頼の方、お疲れ様。たまたま遭遇したらしいゴブリンキングを倒したそうだね」

「まぁ、見つけて無視も出来ないしね」

「逃げ帰っても、誰も文句は言わないわ。冒険者なんて命あっての仕事だし。それで昇格依頼の方は、ドラゴン調査なんだってね」

「ええ。依頼が終わった後、準備に色々と回ってました」

「へえ、やっぱりあなたでも準備とかいるんだ」

「そりゃあ人間ですから。道中の移動とかは快適にしておきたい」

「えっ」

「えっ」

 どうも会話が噛み合っていない。ルナさんは眉間を抑えつつ問う。

「・・・ドラゴン対策の準備よね?」

「いや、道中の移動を楽にする準備」

 溜息を吐いて呆れられた。

「・・・ま、生きて帰って来なさい。夕食はどうする?」

「今貰うよ。料理はオススメで、エールも一杯」

 金を払うと、ルナさんはジョッキにエールを注ぎつつ厨房に向けて声を上げた。

「ロザリー、今日のオススメ一つ」

「はーい」

 返事が聞こえた。元気にやっているようだ。

 エールが目の前のカウンターに置かれ、同時に小皿に入った焼き魚の切り身が置かれた。

 これはロザリーさんが料理人として来てから始まったサービスで、酒と料理を注文したら、待っている間の摘みとして提供されるお通しのようなものだ。値段は料理の方に入っていて、余っている食材や調理で出た端材で作られているとか。

 酒を楽しみながら待っていると、オススメ料理が運ばれてくる。魚の香草焼きとそれに合わせたパンやスープやサラダだ。適切な調味料が使われたそれらはとてもとても美味い。

 明日の英気を養えた俺はさっさと部屋に戻って寝た。


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