表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠者のユウは隠居ができない  作者: 宮之内誠治
第一章:伝説の始まり
6/45

六話:初めての依頼に出る

 


 翌朝、早めに寝た俺は日が昇っていない時間に起きてしまった。仕方がないので惰眠を貪って時間を潰し、日が昇ってから一階の酒場に顔を出した。

 店主のルナがカウンターでグラスを拭いている。

「おはよう」

「あら、おはよう。随分と早起きね」

「昨日早く寝たからね。ちょっと出かけて来る」

「いってらっしゃい。お昼はどうする?」

「あー・・・いらないかな。それと食事で思い出した。ロザリーさんが、病気が治ったので復帰します、と言ってた」

「そっか・・・うん、わかった」

 伝言を伝えた俺は、早朝の街を出歩く。朝から商人や住人が行き交い、中央に着けば市場や出店で活気づいている。エリーとメリーがやっていた出店を見に行けば、ロザリーさんがエリーとメリーと一緒にサンドイッチを売っていた。どうやら普通に売れているようだ。

 買っている人たちの後ろに並んで待ち、自分が買える状態になって店の前に立つと彼女は気付いた。

「ユウさん。昨日は色々とありがとう。何か用ですか?」

「ん、様子見と、美味しいサンドイッチを買いに」

「そうですか。何がいいです?」

「オススメを一つ」

「じゃあ全種類サンドですね。どうぞ昨日のお礼なので持って行ってください」

「ああ、じゃあ貰っておきます。もう体は大丈夫なんですね?」

「ええ、あなたのお陰で、体も仕入れの食材も万端ですから。出店の販売が終わり次第、冒険者の宿には顔を出しますよ」

「そうですか。俺はギルドの方で依頼を見てきますので、また」

 エリーとメリーが手を振って来たので手を振り返して去り、歩きながらサンドイッチを食べつつ魔法で生成した水を飲んで喉を潤す。

 超美味い。そりゃ子供が作った料理が売れないわけだ。それにしても、こんなに美味い料理を作る人がいなくて子供だけが立っている状況なら、普通は何かしらの動きを起こすと思うが、この町の人間は非情なのか多忙で相手をしてられないのかどっちなのだろうか。

 冒険者ギルドに到着すると、昨日よりもずっと多い冒険者が朝食を食べたり二日酔いでダウンしていたり、大きな掲示板に群がっていた。

 興味があるので掲示板を覗いてみる。

 一番冒険者が群がっているのがEランクの依頼で、他の人が邪魔で全く見えず断念。

 次にDランクだが、厳ついおじさんたちや気の強そうなお姉さんたちがいたのでスルー。

 次にCランク、ブラックタイガーだのドラゴンワームだのトロールだの、チラホラ聞いたことのある名前の魔物が、絵付きで討伐依頼として張られている。

 Bランク以降だが、辛うじてBランクに一枚、ワイバーンの討伐が張られているだけで、それ以上は何もない。

 何を受けていいのか全く分からないので、丁度手が空いている事務員のナナさんに声を掛けた。

「ナナさん、おはようございます」

「おはようございます。昨日は宿を見つけられましたか?」

「まぁ、一応は。それより依頼がご覧の通り人だかりで全く見えなくて・・・何を受けたらいい?」

「ああ・・・朝はいつもあんな感じですからね。ユウさんは新人なので、講習も兼ねて特別に今回だけ私が見繕いましょう。次回からはあの中に割って入ってでも取って来て下さいね」

 カウンターの裏から紙束を取り出してぺらぺらめくり出した。どうやら依頼書の束のようで、その中から彼女が一枚取り出した。

「このウルフの群れの討伐なんてどうでしょう。ランクEの依頼です」

「じゃあ、それで」

「はい、では受諾したということで軽く説明を。このウルフの群れは北の森に住み着いていて、森に近づく樵や薬草取りの人間を襲っているそうです。依頼主は冒険者ギルド。報酬は少額ですが、この依頼はまぁ、低ランク冒険者の育成と仕事を兼ねたウルフの定期的な間引きが目的ですね。森の浅い部分でウルフを狩れるだけ狩って下さい。規定は最低でも六匹、上限は無し。期間は二日。また、討伐した証拠がいるので、倒したあとは死体を持ってくるか素材を見せに来て下さいね。それでは、無事を祈っています」

 依頼書にサインと判子が押され、それを渡される。

「行って来ます。の前に、武器屋は何処にあります?」

「武器屋はギルドから南側へ歩いた先にありますよ。鍛冶屋を兼ねているので、相応の値段はしますがオーダーメイドも出来ますよ」

「ん、では行って来ます」

 ギルドを出る。まずは武器屋だ。すばしっこいであろう狼を相手に、流石に素手はない。魔法を使って戦えはするが、こんな世界で生活するのだ。武器の一つでもぶら下げておきたい。

 少し歩くともくもくと煙を吐く石造りの建物が見えた。普通に武器屋と鍛冶屋の両方の看板が掲げられている。外まで鉄を叩く音が聞こえ、中に入るとカウンターでナイフを磨く背の低い女性が声を掛けて来た。

「やあお兄さん、見掛けない顔だね」

「ええ、まぁ、旅の者です。この町で冒険者登録をしたので、武器を買おうかと」

「そうかい。私はナベッタ。ドワーフだ。奥でカンカンやってるのは夫のミョール。で、あんたは?」

「ユウという者です」

「じゃあユウ、あんたはどんな武器を使える? 或いは、どんな武器が使いたい?」

「そうですね・・・槍と剣は使えます。ナイフも一応。使いたいとなれば、今回は剣ですね」

「へえ・・・じゃあそこらに置いてある武器を手に取ってごらん。何か違和感があったら言うんだよ」

 敵対する相手を殺しうる凶器を前に深呼吸し、俺は目に入った壁に掛けられた剣を手に取ってみる。鞘から引き抜いて軽く振ってみるが、重心が手前過ぎてしっくりこない。しかも両刃で押し込みにくい。やはり日本人としては刀がいい。

「すいません、片刃の剣ってありますか?」

 その問い掛けにナベッタさんの手が止まった。

「・・・まぁ、あるけど一般的じゃないね。夫が趣味で作ったのなら倉庫の奥に仕舞ってた筈。ちょっと待ってな」

 奥に引っ込んで少しして戻って来た。ナベッタさんが埃塗れで、手にしている鞘に収まった剣も、埃と蜘蛛の巣が付いていた。

 ナベッタさんの息で埃がある程度払われる。

「ほらあったよ。ちょいと手入れは必要だが、とにかく握ってみな」

 手に取って引き抜いてみる。軽く、且つ重心のバランスがいい。振るうと、感覚は刀と殆ど変わらない。刀身を観察してみるが、日本刀にある模様のようなものはなく一枚の鉄で作られたようだ。だがそれでも、重さや重心から来る刀との相似が、魅力的だった。

「これがイイ。これを下さい」

「いいけど正規の品じゃないから高いよ?」

「金は出す。これが気に入った」

「そこまで言われちゃあ、売らなきゃ恥ってもんだね。だがそいつは夫が丹精込めて作ったもんだ。値段は夫に決めさせる」

 別の通路の奥へ引っ込んだかと思うと、今まで鳴っていた鍛冶の音が消えてもう一人のドワーフが現れた。逞しい髭で、目が綺麗なおっさんドワーフだ。

「あんたが、俺の趣味で作った片刃の剣を買いたいって?」

「はい。これはいい剣です。軽量化と重心の調整により、切るのに特化した、玄人向けの剣」

「そこまで分かってるなら、俺としては言うことは無いんだがな。いてっ」

 ミョールさんがナベッタさんに後ろからしばかれた。

「そうやって作った物の値段を決めないから、あたしがいつも店番やってるんだよ? たまには店主らしく吹っ掛けなさい!」

 客の前で言うことじゃないが、こうでもしないとミョールさんは値段を気にしないのだろう。懐に金はあるので、極端な値段でもない限り、買う気でいるが。

「あー、じゃあ・・・大金貨、二枚だ」

「買った」

「あ、ああ・・・ありがとうございます」

 どうも接客慣れしていない人のようだ。言われた金額をカウンターに置いてそのまま持って帰ろうとしたところで、止められた。

「待て待て! それは倉庫に一年以上置いてあったものだ。今から手入れするから、少し待ってくれ。なぁに、時間はそんなに取らせん」

 やる気を出したミョールさんに片刃剣を引っ手繰られ、そのまま奥の工房だろう場所に行ってしまった。それから数分、店の武器を物色しながら待っているとミョールさんが片刃剣を持って戻って来た。鞘も装飾部も綺麗になっている。

「待たせたな。そいつに何かあったら、俺の所へ来てくれ。タダで見てやる。今後も『鍛冶屋兼武器屋のミョルナベ』を御贔屓に!」

「・・・また来ます」

 最後の挨拶はナベッタさんに言わされた感があったが、好感を持てた人たちに、また用があれば来たいと思った。

 武器も手に入れて上機嫌な俺は、さっそく森へと向かう。門から出る際にも身分証を求められたが、冒険者カードを見せるとすぐに通された。

 短い道中のあと、森に到着。夜とは違って普通に周囲を見渡せるのは有り難い。小鳥の囀りが聞こえて森林浴をするには丁度良い。観光や探検に来たわけではないのでさっさと奥へ進む。

 ここで、魔法でどうにか相手の位置が特定出来ないかと考え、立ち止まって現代のアクティブソナーのような感覚で魔法を練り、薄い膜の衝撃波を周辺に飛ばした。対象が最初から分かっているので、ウルフの集団を数カ所探知した。同時に、会うの気の無い個体や集団も探知し、俺は定期的にソナーを打ちながら縫うように森の中を進んだ。

 一番近い集団に着くまでに弾丸として使用する為の石ころを十個以上拾い、一つは手に持ったまま集団がいる場所に到着した。流石は野生の狼だ。視認した時には既に臨戦態勢が整っていた。

 石ころの投擲体制を取る。

 魔法付与。火属性、爆発・・・着弾から一秒。手榴弾のように!

 一番多い所へ・・・投げた!

 すぐに隠れる。

 爆発音と衝撃波、爆炎が隠れた木の横を通り過ぎた。

 投げた場所を覗けば、爆発地点を中心に焦げたウルフの群れが横たわっていた。

「やり過ぎたか・・・おっと!」

 木々は倒れたり火が点いていたりで、慌てて水の魔法で消化する。思い付きの攻撃方法だったが、極めて効果的で危険なことが証明された。素材として使い物にならない焦げたウルフたちを全てインベントリに仕舞っていき、次の場所をソナーで探知する。爆発音のせいか、他の集団は離れ始めているようだ。定期的にソナーを撃ち込んで現在地を確認しつつ跡を追い、次の集団に到着。

 さっきの要領でやれば一纏めにできるが、火の魔法は森で使うには危険過ぎる。だから少し工夫して、風の魔法による風の刃をイメージ。隙の無い折り重なった風の刃の炸裂を構想して石ころに魔法を付与。さっきよりも爆発を抑えた破片手榴弾の完成。

 ウルフが散らばる前に投げ込み、破片手榴弾の性質を考えて地面に伏せて隠れる。さっきよりも小さな爆発の後、手前の木々が次々と倒れていく音が聞こえた。

 音が収まったので起き上がって確認する。

「うわぁ・・・」

 酷過ぎて思わず声が出る。

 手榴弾の風の刃を諸に受けた木々はすっぱりと切れて倒れ、ウルフだったものがズタズタの状態で大量の血をまき散らして倒れていた。

「・・・これ、触らずに片付けられるかな?」

 血が滴り内臓が飛び出ているそれを、物は試しとやってみたら手を触れずにインベントリに仕舞うことに成功した。これで一応、依頼の目的は達成したが、満足の行く加減の効いた攻撃手段を会得していない。まだまだ時間があるので立ち止まって考える。

 なんとか手投げ式の武器でやり過ぎない手段を考えたが、何もいないところで幾つか試してみても、素材をあまり傷つけずに倒すことが出来ないと結論付けた。

「爆弾は火力過多・・・面による攻撃が駄目なら、点による攻撃がいいか? なら弓か銃・・・いや、そのものを生成する必要はないな。工程が増えるだけだ。弾丸を手から直接撃ち出す形式なら簡素でいいか。あとは魔法の属性・・・火は駄目だな。火事になる。水は圧縮がイメージし辛いし、電気による実体弾の超電磁砲は、制御が難しいし弾を作るのが面倒。となると消去法で、風か?」

 物は試しにと指を銃の形にして魔力を集中。風の刃を指の大きさに揃えて勢いよく撃ち出した。狙った木に当たり、刃物で刺したような穴が開いた。裏側へ回り込んでみると貫通しており、奥の木にも穴が開いていて、それも貫通していた。さらに調べてみると射程は数十メートルで木が五つ以上貫通していた。

 それから何回か撃ち出し方や他の属性や出力を調整した結果、最初の手を銃の形にして小さな風の刃を弾丸として撃ち出す方式に落ち着いた。繰り返し練習して、威力と貫通力をそのままに現実の弾丸と同じくらいの初速を得ることに成功した。

「フフフ・・・これなら、やれる!」

 納得のいく出来栄えに胸を躍らせつつ、風の弾丸で狩りをしてみると、これが思った以上に良かった。ウルフの頭部や首を撃ち抜いて、一撃で次々と仕留めることが出来た。要因は重量がゼロで反動が無く、魔法による射撃なので発砲音が無く、ブレもズレも調整と修正が体感で出来てしまうのでとても楽なのだ。しかもイメージと気合である程度の連射も利く。

 完璧な仕上がり、完璧な仕留め方に調子を乗って狩り続け、気付けば日は真上に昇り空腹がやって来た。昼食の用意をしていなかったのでここで狩りを中断し、町に戻る。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ