四十一話:隠者、将軍と戦う
皇帝アルバートから好きにしていいと言われて、行く当てもなく城の中をうろついている最中、イナハが邪魔にならない位置で立ち止まった。
「・・・ねぇユウ、なんで付いて来るの?」
「暇だから」
「武術大会、見に行ったらいいじゃん」
「興味ない。それより君に何かあってはいけないからな。傍にいるよ」
「いや、正直邪魔だからどっか行って欲しいんだけど。それに私、強いよ?」
「戦いでの強さは心配していないさ。だが未だ正体が掴めない相手は心を操って来る。もしかしたら今回の社交界に紛れ込んでいるかもしれない。私は問題ないが、イナハはそういう精神的な対策は出来ないだろう?」
「・・・まぁ」
的確な指摘に、イナハは俺を引き離せないと分かるや再び歩き始めた。
到着した先は普段は騎士や兵士たちが訓練している広々とした訓練場だった。今は社交界の為に一般用の観覧席と、主賓である将軍たちや王族の席がある。さらにバイキング形式の軽食や飲み物が置かれ、壁には大きなトーナメント表が設置されている。既に大会は始まっているようで、石畳のステージは安全防止の為に展開された魔石による結界の中で兵士たちが訓練用の武器を手に鎧を着て戦っていた。戦う兵士に向けて、仲間の兵士や騎士たちが応援をしているが、中には試合そっちのけで着飾った淑女や少女たちと会話する騎士もいた。
イナハは試合には興味を示さず、トーナメント表を見て安堵した。
「・・・良かった。公式には組み込まれてない」
「エキシビジョンだ。将軍に直接話を付けた方がいいだろう」
「分かってるって」
将軍たちのいる主賓席に移動すれば、色々な意味で強者の風貌を持つ四人の将軍たちが微動だにしない中、唯一、華やかなドレスを着たイナハと同じか少し年上の、金髪青眼の美少女が立ち上がった。
「イナハ、どうしたの?」
「アリシア・・・ちょっと、将軍たちに話があって来たんだ」
「将軍たちに?」
アリシアと呼ばれた彼女は、将軍たちを睨んだ。
将軍の一人は、他の将軍より二回り大きく、立派な口髭が特徴の褐色肌の男で、騎士らしい恰好をしている。傍には無骨な剣と盾が置かれていて、いつでも試合に参加できると言わんばかりだ。
もう一人は、飾り気は無くとも生地自体が高そうなベージュ色のドレスを着て、高そうな宝石の首飾りをしている、セミロングの茶髪の女性が不敵な笑みを浮かべていた。
三人目は白衣を着た細身の男性で、肌が不健康なほど白くて髪はボサボサ、目元にはクマが出来ているが、口元はにやついていた。
最後の一人はアリシアに似た女性で、彼女よりも大人で鋭い目つきをしている。着ているのは服ではなく鎧で、将軍の一人にしてはやけに華美な装飾がされた鎧と真っ白なマントだ。傍には豪華な装飾の剣を置いて座っている。
そのアリシアに似た女性が、俺を見極めるようにジッと見つめた。
イナハは気にせずに彼女の前に立って言う。
「アメリア、私は模擬戦なんてする気は無いよ」
「そうは言うが、イナハと戦う機会などそうそうないのだ。やってもらうぞ」
「やだ」
「・・・どうしても駄目か?」
「うん。代わりに隠者のユウが相手になるって」
「ハ?」
突然押し付けられて、思わず声が裏返った。
「やはり隠者のユウであったか。噂では男だと聞いていたが?」
「魔法で性別を変えられるんだって。それで、ユウと戦うってことでいい?」
「ああ。魔王を討伐した英雄とあらば不足はない。ガッツ将軍も、それでいいか?」
「うむ」
黙っていた口髭の褐色男が頷き、勝手に俺の模擬戦が確定した。振り返ったイナハの顔は、してやったりといった笑みを浮かべていて、俺はどうしようもなくて溜息を吐くしかなかった。
アメリアが席を立つと俺に向かって言った。
「隠者のユウよ、自己紹介がまだだったな。私は現皇帝アルバートの妹であり帝国軍第四将軍の、アメリア・ヤードだ。そしてこっちのアリシアは、アルバートと私の妹だ」
「初めまして」
「で、そっちの鎧を着た大男は第一将軍のガッツ・ハウツァーだ」
紹介された男が立ち上がった。思ったよりも大きく、身長は二メートルほどある。
「本大会の決勝後に、模擬戦をしていただく。よろしく頼む」
「あー、はい」
「それでこの女狐が、第二将軍のシンデレラ・クラーク」
嫌みの含まれた紹介でも女性は不敵な笑みを崩さずに立つと、ドレスの裾を摘まんでお辞儀――つまりカーテシーを上品にして見せた。
「ご機嫌よう、隠者のユウ様。今回の模擬戦での勝利、期待しております」
健闘とは言わない辺り、将軍二人が負ける前提の発言だ。ガッツは気にしていないが、アメリアはシンデレラに冷たい視線を送った。
シンデレラ、第二将軍・・・実習訓練を襲うように指示した奴か。
「シンデレラだったな。一つ聞きたいがいいか?」
「はい、なんでしょう」
「王立騎士魔術学園の学生が実習訓練を少し前に行った。その時に一部の者が謎の人間に襲われた。生け捕りにして尋問した結果、あなたの名前が挙がり、帝国の第二将軍による指示だと自白した。どうだ?」
「何のことやら、私には分かりませんわ」
動揺も見せず即座に知らぬ存ぜぬで通すシンデレラの反応は予想通りだった。やはり今回の一件はどうあっても追求できるものではないようだ。
これ以上追及したところで心象が悪くなるだけなので、俺は素直に引き下がる。
「そうか。ならいい」
「・・・最後の一人は第三将軍のウィル・ケミスト。彼は将軍でもあり科学者だ」
「よろしく」
「以上だ。何か聞きたいことはあるか?」
「そうだな・・・開戦派の貴族たちの裏にいる"あの方"なる人物を探しているのだが、何か知らないか?」
将軍たちは顔を見合わせた。
「俺は知らん」
「わたくしも存じ上げませんわ」
「同じく。科学技術なら明るいのだが」
「・・・どうやら、誰も知らないらしい」
「そうか。ではまたあとで」
将軍たちから離れて試合を観戦して時間を過ごす。イナハはアリシアと一緒にお茶をしながら観戦していた。
決勝戦。二人の騎士が相対する。トーナメント形式でかなりの疲労もあるというのに、二人の騎士は貴族や将軍の前だからか気丈に振舞い、お互いに握手をしてから離れてそれぞれ持っている武器を構えた。片方は槍、サブウェポンにショートソードが二本。片方は剣と盾だ。
――カーンッ!
と試合開始を知らせる金属音が鳴った。
まず動いたのは槍の騎士だ。鋭い突きで先制するが盾で防がれる。だが、それを承知のうえで積極的に足や頭を狙い、相手に反撃させないようにする。剣と盾の騎士も意図を察知して盾で急所を守るように構えつつ剣を振るって弾きながら前進して懐に入り込もうとする。ただ、槍の騎士もかなりの手練れであり、見事な足捌きで距離を一定に保って間合いを詰めらせないようにしている。
お互いに決定打が無いまま戦い続けているのを観覧席から見ている所、誰かが隣に座った。
「どうも、隠者のユウさん」
聞き覚えのある声で挨拶されたので振り向くと、『仕立て屋:デルフィニウム』の店主のアンジェリカ――アンジーがいつもの格好でいた。
「アンジーさん、どうしてここに?」
「大きな行事では不測の事態が付きものですからね。仕立て屋として、衣装が汚れたり破れた時に対処する裏方として、招待されていたんですよ」
「今はいいのか?」
「ええ、予備のドレスの手入れも終わりましたし、私の出番があるような事故は起こっていませんから」
話をしている間に、試合に動きがあった。
執拗に頭と足を狙われていた盾と剣の男は、片足にダメージが蓄積して動きが鈍くなり、ついには転倒させられ、首元に槍を突きつけられて降参した。
互いの健闘に拍手が送られ、優勝者にはアリシアから立派な剣が贈られた。
そして、アリシアと騎士がステージから離れたところでアメリアが立ち上がって全員に聞こえるように声を張り上げた。
「騎士も兵士もいい戦いであった。将軍として・・・皇女として誇らしく思う。これで午前の行事である武術大会は終わりであるが、最後に非公式の模擬戦を行う。私とガッツ将軍、そして魔王討伐を果たした隠者のユウが参加する。他に参加したい者がいるのならば、今ここで名乗りを上げよ」
騎士と兵士の間でざわめきが起こったが、誰も名乗りを上げなかった。
「・・・・・・では、三名で模擬戦を行う。観客にいる者よ、今暫く楽しんでくれ。騎士よ、兵士よ、我々の戦い、目に焼き付けるように」
騎士も兵士も無言で一斉に敬礼し、アメリアは座った。ガッツ将軍はヘルメットを被り、剣と盾を持ち、ステージに上がると俺に向かって剣を向けて来た。躊躇いなく向けてきたことから、ずっと居場所を確認していたようだ。剣の向けられる先に全員の視線が移り、俺は仕方なく観客席から立ち上がってステージに上がった。
ステージの傍で見物する騎士や兵士の声が聞こえた。
「隠者のユウは男ではなかったか?」
「賢者と同等っていうし、魔法だろう」
「綺麗だ・・・」
「正気か? 男だぞ」
「そんなことより、どっちが勝つと思う? 俺は隠者が勝つと思う」
「いやー、将軍でしょ」
などと言っている。
相対した将軍は外野の声など気にせず、俺だけを見つめていた。
「隠者のユウよ、魔王を倒したその力、見せてもらうぞ!」
「私としては、手の内は見せたくないんだがね」
ゼーレを引き抜いて構えると、ガッツ将軍も構えた。審判の男が俺と将軍を見比べ、試合開始の金属音を鳴らした。
――カーンッ!
開始直後、鎧を着込んでいるにも関わらず、常人ではありえない勇者やロイド並みの速さで一気に距離を詰めて魔力の込められた剣で突いて来た。
速いっ!
咄嗟にゼーレに魔力を込めて弾いて逸らし、ガッツ将軍の勢いに飲まれないように横へ下がる。反撃をしようにも将軍は俺の動きを確実に捉えて剣と盾で牽制し、正面に向くとまた一気に間合いを詰めて剣を振るってくる。一振りごとに狙いを変え、軌道をずらしてくるその剣筋は非情にやりにくく、将軍の対人戦闘能力の高さが分かった。
それらを全て防ぎつつ円を描くように逃げ続けると、将軍は足を止めた。
「・・・どうした、反撃しないのか?」
「隙を見せずによく言う」
「では、これならどうだ」
魔力が込められている剣からバチバチと放電が起こった。
――なるほど、雷の属性魔法か。道理で速いわけだ。
幾つかの攻撃方法を予測しながらゼーレを構えて警戒すると、将軍はさらに速くなって一瞬で間合いを詰め、力強く床を踏みつけた。
バチンッ!
と将軍を中心に大きな放電が起きて俺はもろに食らい、体に鋭い痛みが突き抜けた。
「くうっ・・・!!」
一瞬の隙が命取り。将軍が既に剣を振るう態勢を取っていたので、俺は咄嗟に手の内にインベントリから閃光玉の魔法を掛けた石ころを取り出して、目の前で放って光らせると同時、瞬間移動で将軍の背後へ移動した。
「ぬうっ、小癪な!」
流石は雷の属性を使うだけあって、生物から発せられる微弱な電磁波を頼りに俺の位置を特定して振り向きざまに剣を振るってきた。だが甘い。魔王との戦いで似た動きを経験している俺は、剣を強く上に弾いて隙を作らせ、魔力を込めた強烈な蹴りを、将軍が咄嗟に構えた盾の上からお見舞いした。将軍は弾丸のように吹っ飛んでステージの結界にぶつかると、そのまま前のめりに倒れた。
一同が静まり返る中、審判がハッとして声を上げた。
「しょ、勝者・・・隠者のユウ!」
拍手は起きない。自国の将軍が呆気なく負けた驚きの方が大きいのだろう。救護係りがステージに上がり込んでガッツ将軍を担架に乗せて運んでいった。
交代するように今度はアメリアがステージに上がり込んで来た。
「次は私と相手をして貰おうか」
剣を鞘から引き抜くと真っ白な刀身が姿を見せた。ゼーレと同じ材質で作られたオリハルコン製の剣だ。
アメリアは両手で剣を頭上で構えた。上段の構え――攻撃の姿勢だ。
正々堂々と戦うようなので俺も構えてやる。基本的な中段の構えで切先を相手の喉元に向ける。
俺とアメリアを見比べた審判が試合開始の金属音を鳴らした。
――カーンッ!
ガッツ将軍のように攻めて来るかと思ったが、アメリアは先ほどの戦いをしっかりと見ていたのか素早く一歩前に出て来るだけだった。俺はそれに合わせて一歩下がる。届かない間合いでの読み合いは静かなもので、アメリアが剣を下ろして下段の姿勢でまた一歩進んで俺が一歩下がるを繰り返し、ステージの端に来た所で横へ移動する。合わせるように同じ方向へ移動して距離を詰めたアメリアが動いた。
「やあっ!」
声を上げ、美しい白い刀身に魔力を込めて下からすくい上げるように剣が振るわれた。
俺もゼーレに魔力を込めて何か仕掛けてくると警戒する。
剣先が交わるまで二歩半ほどの距離があり、下から振るわれた剣が当然届くはずもないのだが、剣の刀身は伸びたように見えてゼーレを動かして横に弾いた。手応えが無く、視界に映るアメリアは弾かれたことが無いように既に上段の構えを取っていて、俺は何をして来たのか理解した。
――なるほど、魔法の刃か。
振り下ろされる剣をゼーレで受け流しながら横へ回り込むように移動するが、流石は将軍だけあって動きに付いてきて、攻撃に回る隙を与えて来ない。片手で風の刃を形成して飛ばしてみるが、魔法の障壁を展開してあっさりと防がれた。金属がぶつかり合う音を響かせながら弧を描くように足を動かしてアメリアの攻撃を防いでいると、彼女は足を止めた。眉間に皺を寄せてイラつきが見られる。
「・・・ガッツ将軍の時もそうだったが、何故積極的に攻撃して来ない」
戦いを見ていたアメリアにははぐらかしても納得しそうにないと思って、説明してやることにした。
「・・・単純に言うと、私が攻めたらすぐに終わるからだ」
キッ、と忌々し気に睨まれた。
「・・・本気を出していないと?」
「そうだ」
「ならば本気で来い! 騎士として、手加減されたままでは不本意だ」
「・・・・・・分かった」
ゼーレを構えて魔力を込めて、意識を集中する。アメリアも剣を構えて試合を再開させたところで、俺は彼女の後ろに転移して剣を振り下ろした。
流石は将軍。転移に反応してしっかりと防いでくれた。
だが、遅い。
防がれたゼーレを目にも止まらぬ速さで流すように引いて、空いている腹部を横一閃で斬った。装飾された鎧は魔力を帯びたゼーレを防ぎきれずあっさりと引き裂かれ、彼女の腹部から大量の血が流れ出した。
アメリアは斬られたショックで気絶し、そのまま仰向けに倒れた。
ゼーレを振って血を落とし、鞘に仕舞う。
周囲が沈黙した数秒後、審判が声を上げた。
「――しょ、勝者、隠者のユウ!」
拍手も何も起こらず、静かな状態のまま救護係りが急いで駆け付け、アメリアを担架に乗せて運んでいった。
静かに、それでも確実に動揺が広がる中で新たにステージに上がる人間がいた。
第二将軍のシンデレラ・クラークだ。彼女は不敵な笑みでステージの中心に立つと、パンッパンッと手を叩いて注目を集めた。
「・・・・・・皆さま、これにて午前の武道大会は終了とさせて頂きます。アメリア将軍の容体については、待機していた神官が処置をしておりますので御安心ください。隠者のユウの彼女の腕前もあり、そこまで大事でないと判断しております。このあとは食事会を開きますので、暫しの間、各部屋でお過ごしください」
言い終わると一礼して、シンデレラはアメリアが運び込まれた方へ去って行った。
・・・・・・しまった、マジで斬ってしまった。
シンデレラの発言によって場は落ち着き始めていたが、兵士や騎士たちから冷ややかな目で見られていた。ステージを降りたところで兵士や騎士たちから攻撃されないかと警戒したが、流石にそんなことはなく、近寄って来たイナハに手を取られてそのまま引っ張られた。
「こっちに来て」
連れて行かれるままにその場を後にして、人気のいない通路に来た所でイナハは足を止め、呆れた顔で言った。
「何やってんの、あんた。正気?」
「正気さ。彼女が本気で戦えと言ったから、少し本気になっただけだ」
「それで本当に斬るのは馬鹿だよ。あんたの実力なら寸止めくらい出来たでしょ」
正直なところ、寸止めというのが抜け落ちていた。
とは言えない。
「・・・すまん」
短い謝罪に、はあ、とイナハは溜息を吐いた。
「・・・謝罪で済めばいいね」
「そうだな」
駄目なら国を相手に戦う気でいるが、さてどうなるか。
二人で歩き始めてたまたま通り掛かった騎士にアメリアの場所を聞き、武術大会の開催場所だった訓練場の近くの救護室へ入った。中は病室のように白い布の仕切りが設置され、綺麗なベッドの上では負傷した兵士や騎士たちが横になっていた。奥の一画には仕切りで完全に閉ざされた場所があり、その手前に近衛騎士が見張りをしていた。
イナハはその近衛騎士に声を掛けた。
「ねぇ、ここにアメリアは居る?」
「はい、居ますよ。中にアリシア様も居ります」
「お見舞いしてもいい?」
「どうぞ」
すんなりと通されて中に入る。
「お見舞いに来たよ。思ったより元気そうだね」
「ああ、迅速な治療のお陰でな」
ベッドの上では、アメリアが簡素な服を着て体を起こしていた。傍ではアリシアが果物ナイフでリンゴの皮を途切れさせずに剥くのに集中していた。
だが、口を動かす余裕はあるようだった。
「イナハ、来てくれたんですね。お見舞いということは、何か美味しいものでも出してくれるんでしょ?」
「うーん、後で渡すつもりだったんだけどね」
イナハがインベントリから堂々と取り出したのは、異世界でお目に掛かるとは思いもしなかったデザートの定番、パフェだった。特注で作ったであろうパフェグラスの中には沢山の果物が綺麗に並んで入れられ、そこに生クリームやチョコソースが掛けられバニラアイスが乗り、そこからさらにアイスと合うチョコ菓子や棒状の菓子、果物が盛られて細長いスプーンが斜めに突き刺さっていた。冷やした状態で仕舞っていたのか、冷気が出ている。
「なんだそれは!」
「まぁ、美味しそう!」
姉妹揃ってパフェに目が釘付けだ。アリシアはリンゴを剥く手が止まってしまっている。
「パフェだよ。まだ試作品だから、味の保証は出来ないけど」
もう一つパフェを出して二人に渡す。
「これは・・・凄いな。母様と兄様の分は無いか?」
「あるよ。料理長のゼプトさんにもレシピと一緒に渡す予定だから」
「そうか。彼もさぞ喜ぶだろう」
「では、私たちは先にいただきましょう」
「うむ」
パクリ、と二人一緒にパフェを口にすれば、二人の顔が幸せそうに蕩けた。アメリアのしっかりとした態度も崩れ、普通の女性らしい可愛らしさが見れた。
と、このままでは謝罪をせずにお見舞いが終わりそうなので、俺はアメリアの正面に立った。
「アメリア、一言いいか?」
「ん、なんだ?」
「先ほどの模擬戦、斬ってすまなかった」
頭を下げて謝罪する。
「・・・なんだ・・・そんなことか。別に構わんよ・・・本気を出せと言ったのは・・・私なのだからな」
パフェをパクパク食べながら言われた。どうやら俺の謝罪よりパフェの方が重要らしい。
「用はそれだけか? なら・・・もういいぞ」
随分あっさりと謝罪が終わってしまった。イナハとしても当人が全く気にしていないならそれでいいらしく、姉妹二人に向かって言った。
「じゃあ、もう戻るよ。そのグラスはあげるから、また食べたくなったらゼプトさんに作って貰ってね」
「ああ」
「はい、また」
パフェが美味し過ぎるのか、去るというのに二人は顔すら向けなかった。




