三十八話:悪意
俺は『湖のさざなみ亭』に戻らず、そのままヘクトル帝国の『喫茶:兎の休憩所』に飛んだ。
「きゃっ!」
と飛んだ瞬間に女性の悲鳴が聞こえた。
振り返ると、ウサギの耳と尻尾が特徴のウェイトレスの少女が驚いたまま固まっていた。
「なにっ、どうしたの?」
少しだけ言葉を交わしたこともある店主が厨房から顔を出してきて、俺と目が合った。ウェイトレスはそそくさと離れていく。
「あっ、えーっと、隠者のユウさん・・・だよね?」
「覚えていたんだな」
「まぁ、Aランク冒険者って中々いないからね。それで、何の用?」
「イナハはいるか?」
店主の顔が意地悪な表情に変わった。
「・・・お兄さん、イナハさんのような子がお好みなんですか?」
「それはない。同じ冒険者として相談があって来た。何処にいる?」
面白く無い、と言いたげだが答えた。
「・・・イナハさんなら家にいると思いますよ。地図を書きましょうか?」
「頼む」
簡易的な地図を書いてもらい、店を出て俺はその地図を頼りに城下町を歩いた。歩く先は段々と整備されてしっかりとしたものに変わっていく。建物もより良いものになり、柵があり門番がいて、旗を掲げる家まである。恐らく貴族や豪商だろう。
・・・・・・随分といい所に住んでるな。
地図通りに立ち止まった家は、少女が独りで住むには大きすぎる、他の家と遜色ない豪勢な作りのモノトーン調の家だった。ベランダには布団が干されていて、在宅であることが分かる。
玄関扉に手を掛けようとして気付く。
むっ、結界が貼られている。割と厳重に・・・。
どうしようかと考え、普通にノックをしても出ないだろうと思って結界を破壊することにした。
扉に手を掛け、魔力を一気に流し込んで結界を乱し、そのまま崩して破壊した。
扉を開けて中に入ると、二階からドタバタと足音が聞こえ、可愛らしい一体型のウサギのパジャマ姿で現れ、敵意を剥き出しにした顔で大鎌を縮小したような鎌をこちらに差し向けた。
「何者! って・・・ユウ?」
「よっ」
「よっ、じゃないよ。結界を壊すな」
怒るが、その表情も可愛らしく鎌を投げたりしないことから、本気という訳ではないと判断した。
彼女は玄関扉に近づいて素早く結界を掛け直すと、俺に向き直る。
「・・・それで、私の家に上がり込んできて、何の用?」
「君を救いに来た」
「はああ?!」
「君を救いに来た」
「分かってるから。何がどうして、私を救いに来たってわけ?」
理由を説明する必要があるようだが、ヨハン・グリム卿の話をすれば逆に不審がられそうなので、敢えて伏せることにした。
「・・・・・・最近、ヘクトル帝国では不穏な動きがみられる。魔王討伐の借りもあるから、暫く傍に居てやろうと思ってな」
「いや、迷惑なんだけど」
「気にするな」
「気にするよ。第一、ユウは男でしょ。襲われないか気が気じゃないんだけど」
男では駄目か・・・なら。
その場で変身魔法を使い、つい最近していた女の姿になってみせる。だが、イナハの反応は良くない。
「・・・そういう理屈じゃないんだけど」
「とにかく、イナハの傍に暫く居ることにする。気が散るのなら姿を消すが?」
「いいよそれで。姿を消されたら余計に怖いから」
諦めたようで、イナハはキッチンの方へ移動して冷蔵庫からオレンジジュースの入ったガラス製のポットを取り出し、用意した二つのコップに注いで元に戻した。
その二つを持ってテーブルに置き、俺に片方を置いた場所へ座るように勧めて来る。
俺が座ると、イナハはオレンジジュースを一口飲んでから質問を始めた。
「私を救いに来たって話だけど、具体的には何から救うの?」
「直接的表現を避けて言わせてもらえば、悪意からだ」
「ふーん・・・どんな悪意?」
「物理的、或いは精神的、どちらもだ」
「私、これでもAランク冒険者なんだけど、そんな強い人間を敵に回す奴がいるってこと?」
「可能性は高い。君には守るモノが多いから、幾らでも手段はある」
イナハの表情が僅かに強張った。
「・・・ないよ。私には守るモノなんて」
俺は冷徹にイナハの弱点を突く。
「なら、今から君の関係者を殺して回ると、私が言ったらどうする?」
「・・・・・・」
「私が君の大切にしているだろうモノを奪って、指示通りに動かないと惨たらしく殺して広間にぶちまけるとしたら?」
「やめて」
「君が仲良くしている子供たちを連れ去って」
「やめてよ!」
ドンッとテーブルが叩かれる。いつもの彼女らしくなく、感情を剥き出しにしている様は、年相応の幼さだ。
俺はオレンジジュースを一口飲む。鮮度もよく、絞った時にほぐれて入った果肉もあり、濃厚な100%のオレンジジュースだということが分かった。
これ、美味いな。
あとで入手経路でも聞こうと思いながら、俺は言う。
「自覚をしてくれたようで何よりだよ。私は暫く傍に居るから、君はそうなる可能性を考慮して対策なり覚悟なり決めておくことだ」
「・・・本当に、何しに来たの?」
「さっきも言ったが、君を救いに来た」
睨むイナハの表情から、俺の言わんとしていることは理解してくれているようだ。イナハは救う。だが、それ以外の大切なモノは勘定には入れていない。救いたければ勝手に救え、というスタンスだ。
俺を睨んでいたイナハだが、ふと何かを閃いてクスリと笑った。
「・・・分かった。あんたがそう言うなら、しっかり私を救ってね。私は私の大切なモノを救うから」
その言葉に、つい不敵な笑みが零れてしまう。
「頑張るがいいさ」
オレンジジュースの入ったコップを掲げて、彼女の健闘を祈りつつ一息に飲み干した。
やはり美味い。
「・・・これ、手作りだよね。どこで大量の果物を仕入れてる?」
イナハは悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「・・・秘密」
飲み干したコップをイナハが台所へ持って行って洗っている間、室内を見渡す。現代風の間取りだが、少女らしい装飾品などは見当たらず、かなり質素だ。クッションはあるが、デザイン性はなくシンプルなものばかり。
個室でいつものバニー衣装に着替えたイナハが買い出しに行くというので付いて行こうとしたが、俺の同行を拒否した為に家で待つことになった。家の中を物色するわけにもいかず、殆ど意味の無い筋トレをして時間を潰す。
暇だ・・・。
「ただいま」
どうやら無事に帰って来れたらしい。
「おかえり」
「お昼ご飯、何か要望はある?」
「ない。手伝おうか?」
「大丈夫。一人分も二人分もそう変わらないし」
昼食が出来るまで、再び筋トレをして時間を潰した。
嗅ぎ慣れた魚の匂いがするから気になっていたが、運ばれて来た料理を見て俺は目を疑った。
独特の香ばしさ、パリパリの皮、細長い形・・・秋刀魚だこれ。
「イナハ、この魚って・・・」
「ん? 秋刀魚だけど」
あっけらかんと答えてくれる。実は俺は未だに海へ行っていない。海産物なんてミステルミスに来てから全く目にしていない。レイクンド公国産の淡水の鮭なら食べたことはあるが。
こんなところで海の幸を頂くことになるとは・・・。
「・・・ああ、ユウってもしかして、こっちで海に行ったことないの?」
「まぁね。特に用事もなかったから、一度も行ってない」
「それは勿体無いよ。今度、海行きな」
「そうする」
二人して「いただきます」をして食べ始める。
まず最初に秋刀魚を少し口に入れる。
うん、この塩っぽさとあっさりとした油と旨味。まさしく秋刀魚だ。
お焦げの付いたごはんを口に入れ、出汁の効いた魚介のスープを口に入れる。
やはり、島国で育ったこの肉体には合う。
久々に感動する食事を味わい、イナハが食器を洗っている所で玄関扉がノックされた。イナハと視線を交わし、俺が出ることにした。
ガチャリと扉を開ければ、そこには衛兵が五名ほど立っていてみんな仕事の目をしていた。
「・・・何か?」
と問えば、先頭にいた他より一回り歳を食った衛兵が答えた。
「あなたは誰です?」
「イナハの友人、旅の者だよ」
「そうですか。ここは冒険者、首狩り兎のイナハの自宅で間違いないですね?」
「そうだけど・・・」
「本人は在宅ですか?」
「いるよ」
本人がいるのが分かった途端、衛兵が懐から一枚の羊皮紙を取り出して見せながら言った。
「冒険者イナハに町中で殺人の容疑が掛かっています。こちらが令状です」
他の衛兵が家の中に押し入ろうとしたので、俺は扉を開けずに守る。
「・・・公務執行妨害になりますよ。扉を開けてください」
公権力で脅して来るが、そんなもので怯える俺ではない。令状とやらをサッと分捕って読んでみる。
ドラゴンズトゥームで散々見た公文書だ。幾つかの点が間違いであることが分かった。
まず日付、今日の午前中になっているが、殺人の容疑にしては幾ら何でも急すぎる。役所仕事は午前に手続きすれば午後になるくらいのものだ。毒物所持などの緊急性なら家宅捜索としてすぐに出されるが、殺人でこれだけ迅速な対応はよっぽどの要人を殺しでもしなければ有り得ない。
次に殺人の容疑だが、被害者の名前がない。まだ特定できていないのにこんなものを出したのなら、論外だ。
さらに、殺人に使われた物的証拠の記載が『何らかの凶器による殺傷』という曖昧過ぎるもので、何を使ってどうやって殺したかが書かれていない。これでは幾らでもでっち上げが出来る。
「・・・これ色々と間違ってる。書き直して出直してこい」
突きつけるように返して、衛兵が呆然としているうちに扉を閉めた。
すぐさま激しくノックされた。扉を開ければさっきより目つきが険しくなっていた。
「赤の他人にとやかく言われるつもりはない。今度やったら公務執行妨害、及び共犯の罪で逮捕する」
「随分と横暴だね。帝国の行政がどういったものか知らないけど、誰の指示で出された物なのかな?」
「教える筋合いはない」
手で他の衛兵に入るように指示するが、俺は手で衛兵を押し留めると、軽く押し返してやった。衛兵たちが尻餅を着き、立ち上がると戦う構えを取った。
・・・これはガチだな。
「捕まえろ!」
一斉に掛かって来たので風の魔法で吹き飛ばした。全員が数メートルほど飛んで道に倒れる。よろよろと立ち上がるが、圧倒的な力の差を思い知ったのか攻めてくる様子は見せず、年を食った衛兵が俺を睨みつけた。
「・・・覚えてろ」
そう言い捨てて他と一緒に逃げていった。
扉を閉めると、傍にイナハが立っていた。
「ユウ、何がどうなってるの?」
「知らん。けど君は、暫く姿をくらませた方がいいだろうね」
「・・・そうした方が賢明なんだろうけど、子供たちが心配かな」
「ではどうする?」
「暫く警戒するように伝えて、傍でコソコソと隠れてるよ」
外に出るので付いて行く。彼女がこの格好で町中を歩くのは茶飯事だと思うが、今になって視線が少し変な気がした。何か、良くないものを見ているような視線だ。町の外郭にある教会に到着すると、天気もいいのに誰も外にいない。
「・・・おかしい」
イナハは呟いて、足早に教会の扉を開けた。中では修道服を着ている老婆と若い女性が、子供たちを守るように立っていた。
イナハに気付くと、二人は警戒を解いて老婆が声を掛けた。
「イナハさん・・・来て下さったんですね」
「何かあったの?」
「ルールーが・・・攫われました」
「えっ」
「一瞬だったんです。ほんの少し、ルールーが私たちから離れた時に・・・三人の男が、口と手足を素早く縛って担いで行ってしまったんです」
「特徴は? どんな奴だった?」
「分かりません。普通の格好をしていて、顔は布で覆っていました。逃げた先も裏路地で・・・今は何処かも・・・」
「そう・・・私が必ず助けますから、気を落とさないでください」
イナハは教会を出て行く。その時に見た横顔は、静かな怒りで満ち溢れていた。
「それで、捜索する手立てはあるのか?」
「ない。けど・・・動かないと」
イナハは人通りの全くない裏路地に着くと、周りを見渡して言った。
「シロウサ、クロウサ」
スッと現れたのは、垂れ耳が特徴の白いバニーガールと、活発さが見て分かるピンとした耳の黒いバニーガールの女性だった。
「紹介するね、召喚獣のシロウサとクロウサ。今は人間形態だけど、本当はウサギだから」
「シ、シロウサです」
「クロウサだぜ」
「どうも、隠者のユウだ」
「じゃあ二人とも、ルールーが攫われたから、何とか跡を追えない?」
「ルールーちゃんですか。それなら匂いで追えるかも・・・」
「私らに任せろ!」
二人して鼻をスンスンと動かし、二人して耳がピコンと動いた。
「こ、こっちです」
「間違いない」
「案内して」
二人のバニーガールが跳ねるように走り出し、その後ろを追う。かなりの速度で裏路地を進むので追うのも一苦労だ。何回か表の大通りを抜け、感覚的に区画を丸々跨いだ裏路地に到着した。道具を作る店が多いのか、様々な音がそこら中から聞こえる。その中の一つの工房の前で、足が止まった。店を閉じて長いこと経っているのか、他と比べて随分とくたびれている。
「ここで間違いないんだね?」
イナハの呼びかけに二人は頷き、ドアノブに手を掛けた。
だがビクともせず、怒りで短絡的な思考に陥っているイナハは大きな杵を取り出すと、そのまま振り被って扉を破壊した。
大きな音が出ているのも気にせずに中に入るので、俺は認識阻害の魔法で姿を眩ませて様子を窺うことにした。
誰もいないことでイナハはずんずんと前に進み、奥へ行く。
奥では逃げ遅れた犯人三人組が隅にいて、一人はルールーらしい猿轡をされて手足を縛られた少女にナイフを突きつけ、もう二人はナイフをこちらに向けていた。
「止ま――」
ドンッと大きな音が響いて少女にナイフを突きつけている男の顔の真横に杵が突き刺さった。
「二度は言わない。今すぐその子を返せ。出ないと二度と顔を見せて外を歩け無くしてやるから」
殺さないとは友情だ。まぁ、俺でも町中で殺人は考える。
バニーガール二人が杵と大鎌を取り出し、さらにイナハも大鎌を取り出して呆然としている男の一人の首に当てた。流石にここまでされて命が惜しくない人間では無いようで、彼らはナイフを捨てると出口に向かってゆっくりと移動し、そそくさと逃げていった。
俺は後を追う。ここで逃がしてしまうのがイナハの甘さだろう。
逃げる三人を無音で追って行き着いたのは、イナハが住んでいる金持ちや貴族たちの家の一つだった。槌を象った紋章の旗があることから貴族だと察した。
三人が裏口から入って行くので、透過の魔法で壁をすり抜けて付いて行く。
階段を上がって到達したのは、綺麗な服を着る腹の膨れた壮年の男が作業する執務室だった。
ノックされると、男は眉を顰めつつも返事をした。
「何かね?」
恐る恐る扉が開かれ、三人が入って来ると初老の男は作業の手を完全に止めた。
「・・・手柄も無しに私の部屋に入って来るとは・・・一体何があった?」
「あの・・・首狩り兎の保護している教会の子供を攫ったまではいいんですが、居場所を嗅ぎつけられて、取り返されました」
ダンッとテーブルが叩かれる。
「馬鹿者! 跡を付けられていたらどうするつもりだ!」
「すいません・・・。でも、跡を付けられている気配はありません」
怒る所を耐えた腹の膨れた男は大きな溜息を吐いた。
「・・・お前たちのような冒険者崩れを、この私が拾ってやったんだ。次は失敗するな」
「はい。それで・・・俺たちだけではいい案が思い浮かばないので、お知恵を貸してくれませんか?」
「ふん、自覚するくらいの頭はあるようだな。ならば授けてやろう。奴が経営している『喫茶:兎の休憩所』を見張り、客がいなくなったところでウェイトレスを誘拐するのだ。三人いるんだ、一人は陽動で注意を逸らせばできる。簡単だろう?」
「はい、やってみます」
「分かっているだろうが、人質は夜に私の所へ連れて来るんだぞ」
「ええ、それでは・・・」
三人が出て行く。これ以上は追わない。もう少し泳がせた方がいいと判断したからだ。
この男の顔はしっかりと見て覚えた。
静かに家から出て次に向かう場所は衛兵詰所だ。そこらを歩いている衛兵について回り、門の傍にある詰所に到着した。壁をすり抜けて衛兵隊長の部屋に入り込むと、誰もいない。
机に近づいてみると、不用心なことにさっきの突き返した間違いだらけの令状が机の上にあり、隣には令状に関して書き直しを求める陳情書が置いてあった。
・・・こっちは別口か。
読んでみて、それがドワイト・ジャッジなる伯爵宛てだと分かった。
と、トイレにでも行っていたのであろう衛兵隊長が戻って来た。さっき会った歳の食った衛兵だった。
さっきのやり取りが気に入らなかったので、仕返しに悪戯を実行する。
棚に置いてある書類をバサバサと落とすと、衛兵隊長がびくつき、動きを止めた。
「なんだ・・・?」
次に反対側の賞状や盾などを落としていく。さらに壁のラックに掛けられている剣を引き抜いてそのままの勢いで扉に投げつけて突き刺した。
「誰かいるのか・・・?」
衛兵隊長はゆっくりと立ち上がると、恐る恐る扉に刺さった剣を引き抜いて軽く振り、部屋を見渡して警戒しながら鞘に戻して深呼吸し、慌てて部屋から出て行った。
流石に怖かったか。
この世界にはアンデットやゴーストの類が実在するが、姿を全く見せずに物を動かすような存在は上位のゴーストとされており、町中で出るものではない。
用も済んだのでイナハの家に帰るが、結界越しでもいる気配がない。布団が仕舞われていることから一度は帰宅したようである。
・・・教会か、或いは喫茶店か。
目星をつけて教会へ行くと、子供たちがシスターたちと遊んでいた。だがイナハの気配はない。付近を捜してみると、教会の屋根裏の窓から子供たちを見守っていた。
「ただいま」
挨拶するとイナハは振り返り、辺りをキョロキョロと見渡した。
ああ、忘れてた。
認識阻害と透過の魔法を解除して姿を見せると、彼女は胸を撫で下ろした。
「・・・怖いよ、それ」
「すまん。認識されないことに慣れていてな。たまに忘れる」
「・・・ま、いいわ。独りでどっか散歩していたみたいだけど、何か分かった?」
「幾つか分かった。衛兵の件と誘拐犯の件は別だが、根本は同じだと思う」
「というと?」
「それぞれ別の貴族が関わっているが、根底にある目的が君をどうにかしようというので一致している」
「・・・なんで私なの?」
「知らん。とにかく君という存在が邪魔なのだろう。衛兵の件に関してだが、ドワイト・ジャッジなる貴族が令状を出したみたいだ。心当たりは?」
「無い。顔も知らないし、悪い貴族のことは知り合いの貴族とか皇帝を頼ってるから」
道理で狙われる訳だ。個人で国家を揺るがしかねないレベルの冒険者が貴族と関わりがあり、皇族とも繋がりがあるとすれば、政争において邪魔者扱いされるのは目に見えてる。
呆れて溜息が出る。
「・・・君は馬鹿か?」
「は?」
間の抜けた声を出すが、こればっかりは問い質しておかないとまずい。
「君の転生者としての力はこの世界において国の拮抗を崩しかねない強大なものだ。国外に対しては重要な外交カードになるし、国内においても皇族や皇帝を支持する貴族の肩を持てば、自ずと派閥争いに巻き込まれる。それを理解しているのか?」
「・・・理解してる。でも、いい人と仲良くして何が悪いの?」
真っ当な意見だ。だが、甘い。
「悪くはない。だが権力者と仲良くなるということは、自然と立場を決めることになる。敵対している相手が、力を持つ君を無視する筈がない」
場合によっては、全てを失うだろう。
「・・・それでも私は、私のやりたいようにやる」
真っすぐな目に思わず、綺麗だ、と思った。
イナハ自身は気付いていないだろうが、真っすぐな目というのは他人の庇護欲を掻き立てるものだ。守り、守られていると気付くのはもう少し後だろう。
「なら、好きにするがいい」
俺から言うことはもう無かった。あとは彼女次第だ。
気を取り直して、誘拐犯のことを報告する。
「・・・・・・話を戻すが、誘拐犯の方も貴族が関わっている。お次の狙いは喫茶店だとさ」
「そう。じゃあユウは店を守ってくれる?」
「分かった。イナハは、衛兵が来たらどうするつもりだ?」
「その時は隠れるし、場合によっては臨機応変に動くよ」
「そうか。では私は町で酒でも飲んでくるよ」
「あっ、待って。いいこと思いついた」
イナハの悪だくみする顔に、俺は嫌な予感がした。




