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隠者のユウは隠居ができない  作者: 宮之内誠治(覇気草)
第二章:静かなる騒乱
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三十三話:学生たちの実習訓練 その3(ジークフリート)

 

 ***


 我が人間の若者を監督し、護衛することになるとは・・・長生きすれば奇妙な巡り合わせに遭遇するのも必然か。

 馬車で待っていると、若者たちが入って来た。男女それぞれ二人だ。

 先に自己紹介をする。

「我はジークフリート。お前たちの名は?」

 四人の中で、一番強そうな若い男が一歩前に出て答えた。

「・・・第三班リーダーのゼロスです。騎士を志望しています」

 一人が名乗ったことで、他は続いた。

「トレーズです。同じく騎士志望」

「シーナです! 魔術師を志望しています」

「シフォンです。射手で、騎士志望です」

 第一印象として、ゼロスはいい才能を持っている。だが欲に溺れる人間の顔つきだ。

 トレーズは充分過ぎる才能があり聡明であるが、まだ若すぎる。恐らくゼロスとは意見が別れると見た。

 シーナは元気がある。だが普通だ。努力次第だろう。

 シフォンは背が低過ぎる。騎士を目指すなら何かしら特技が欲しい所だが、顔つきから出る自信を見るに、あるのだろう。

「それで、お前たちは何をやるのが目的だ?」

 それにはゼロスが答えた。

「俺たちの目的は、ウェンズディ要塞の服飾店に注文していた旗を学園まで持って帰ることです」

「そうか。何日掛かる?」

「馬車で一日は掛かります。今から行けば、向こうに付くのは明日の昼頃です」

「ではすぐに向かうがいい」

 我は座って静かにする。

 四人は話し合って御者の順番を決め、まずはゼロスが御者として運転を始めた。最初の方こそ誰も何も話さなかったが、暇になった女二人がお喋りをし始め、トレーズが巻き込まれて会話に混ざる。

 丁度対面に座っているシーナはさっきからチラチラとこちらを見て、我慢しきれなくなったのか興味津々と言った具合に話し掛けて来た。

「あの、ジークフリートさんは、冒険者なんですか?」

 沈黙を続けることも考えたが、この様子では一日中付き纏われると判断し、話に付き合うことに決めた。

「・・・我はドラゴンだ」

 ぱあっと彼女の顔が明るくなった。

「やっぱり! 灰のドラゴン、ジークフリート。一年前のひっそりと幕を閉じたと言われる復活した魔王討伐に参加! それに加え、約五百年前の魔王討伐でも勇者と共に戦った英雄の一人、ですよね?」

 早口で捲し立ててくる。勢い余って席から立ち上がっている。

「詳しいな」

「はい! 目標ですから。私もいつか、あなた方に並べるほどの魔術師になります!」

「そうか。道は険しいが、やってみるがいい」

 頷いたシーナは座ると、深呼吸をして気持ちの高ぶりを戻した。

「・・・それで、良ければその魔王討伐を詳しく聞きたいのですが、話してくれますか?」

 期待の眼差しで見つめられる。二、三日の旅は始まったばかりで先も長い。守秘義務があるわけでもないことなので、語ってやることにした。

「・・・いいだろう」

「やった!」

 シーナが小さくガッツポーズをとった。立ち上がりそうになったのを見逃さない。

 落ち着きのない奴だ、と思いながらも我は一年前の出来事と、五百年ほど前の勇者と旅した魔王討伐のことを語った。

 シーナは真剣に聞きつつ、取り出したメモに内容を書き殴った。シフォンとトレーズも話を聞いていた。

 語り終える頃に、丁度休憩で馬車が止まった。ゼロスとトレーズは地図を見ながら今後の予定を話し合い、シーナとシフォンは休憩しつつ念の為に周辺警戒に当たっている。街道の真ん中だからこそ、何かがあった時に助けが期待できない。

 馬車の中から周囲を探ってみるが、蛇や大トカゲが散歩をしている。街道から少し外れた場所にいるので、こちらから仕掛けない限りは大丈夫だろう。その近くでヘルキャットという名称の大型の獰猛なネコが茂みに潜んでいるが、狙いは大トカゲの方。こちら側から騒動を起こさない限り問題は無い。

 大丈夫と判断した途端に、予定の確認をしていた男二人が騒ぎ始めた。

「ゼロス、確かにそれが最短な予定だろう。だが危険だ」

「トレーズ、町の外に出た時点で多少の危険は付きものだ」

「街道沿いでの野営は普通に危険だ。多少遅れたとしても、中継所での一泊は必要だ」

「これは実習訓練だ。普段やらないことをやってこその経験だろう」

「そんなことは騎士になってからでも出来る。彼女たちもいるのだ。わざわざ危険を冒すこともあるまい」

 お互い睨み合う。どちらも平行線となると分かっていて譲らないとは、根本的な価値判断が合わないのだろう。

 彼ら二人の言い合いのせいで、ヘルキャットがこちらの存在に気付いた。見張りをしているシーナとシフォンは二人に気が行ってしまって警戒が疎かになってしまっている。

 仕方がないので、馬車から降りて手ごろな小石を拾い、ヘルキャットのいる方に軽く投げた。居場所がバレたと察知したヘルキャットは慌てて離れて行った。普通なら届きもしない位置で立ち止まると、逃げる姿勢のままヘルキャットがこちらをみた。一睨みすると、完全に戦意を喪失してさらに慌てて視界から消えようと逃げた。

 脅威がなくなったのを確認して二人の方を見れば、丁度ゼロスが金貨を指で上に弾いてキャッチしたところだった。

「・・・表だな」

「そうだな。では君の方針で行くとしよう」

「そういうわけだ。中継所で休憩と野営の食材の買い込みをし、そのまま日が暮れるまで進む」

 ゼロスは全員に聞こえるようにそう言い、馬車に乗る。トレーズが御者台に乗り出すと、他も馬車に乗り、自然と休憩が終わって馬車は走り出す。

 再び出発して暫く、ゼロスがアイテム袋から楽器を取り出した。弦楽器だ。

 彼が徐に音の確認をする。揺れる車上を加味しても、悪くない音色だ。調整が終わったのか、奏で始める。静かな旅には丁度いい落ち着いた曲だ。

 ・・・人間という種族は、やはり興味深い。

 会話もなく、音の鳴る馬車は街道を進み続ける。陽が傾き始めた頃になって中継所に到着すると、弦楽器を仕舞ったゼロスが言った。

「一時休憩だ。予定通り食材を買いに行くが、他に出掛けたい者はいるか?」

 シーナとシフォンの二人が顔を見合わせ、目で通じ合うとシフォンが立ち上がって言った。

「なら、私がゼロスに付いて行こう」

 ゼロスはしまった、という顔をした。

「・・・シフォン、俺は大丈夫だ」

「駄目。ゼロスは目利きの才が無くて、無駄遣いもする。一人で買い物させるわけにはいかないよ」

「分かった。シーナと二人で行ってくれ」

「それはお断りします。馬車で待ってるから、いってらっしゃい」

「では行こうか。ゼロス」

「むう、仕方ないか」

 渋々と、ゼロスはシフォンに手を引かれて行った。

 そんな二人を、手を振って見送ったシーナは我に話し掛けて来た。

「あの二人、許婚の仲なんですよ。私も彼氏が欲しいなって思ったり・・・。ジークフリートさんって、恋愛とかしたことありますか?」

「無い」

「それだけ強くて、異性から好かれたりしなかったのですか?」

「むしろ恐れられていた。力というものは、強ければ強いほど孤独に向かっていくものだ」

 シーナの顔が曇った。何か嫌なことでも思い出しのだろう。

「・・・それって、権力とか、地位とかも含まれますか?」

「含まれる。金や物もそうだ。だが、人間の精神ではその孤独に耐えられるものは少ない。地位や権力、大量の財産に囲まれれば、力や欲に溺れ、そのうち自滅する。心当たりがあるのだろう?」

「うん・・・」

 こくり、と小さく頷いた。だが話す気は無いようで、黙って馬車から降りた。

 我は目を瞑る。今言ったことは他人事ではないからだ。

 ・・・人間だけではないぞ、シーナ。最上位種たるドラゴンでさえ、その身を滅ぼした奴は沢山いる。デスダイナよ、力に溺れて魔王となった時、失望したのだぞ。


 ある程度の時間が経ち、ゼロスとシフォンが大量の食材を抱えて戻って来た。シーナも表向きは機嫌を直しており、突如シーナが御者をやると言い出し、三人は何かを感じ取ったが特に反対する理由もなくそのままシーナが御者として馬車を動かし始めた。

 誰も何も言わず、陽が暮れてこれ以上馬車を動かすことは危険だと判断したゼロスがシーナに止めるよう伝え、今晩は街道の隅に寄せて魔法の明かりを灯し、馬車の傍でアイテム袋から出した薪を使って焚火を始めた。料理は女二人が手際よく作り始め、男二人は松明を手に周辺の状況を確認した。我も暗視で周囲を確認したが、今のところは特に大きな危険はない。

 料理が完成し、全員での食事となった。野菜と干し肉のスープに、焚火で温め外側がカリカリになったパン、売られていた鶏肉をエールに漬け塩を振って串焼きにしたものを食べた。

 美味い。酒があればいいのだが・・・。

 四人を見る。酒を嗜むにはまだ未熟だ。学生という身分で実習訓練中というのもあり、酒の期待はできない。

 割り切ってゆっくりとした食事を楽しむ。静かで落ち着いた食事だった。

 食事を終え、水の魔法で食器を洗って干し、夜の見張り番を決める。単純に男と女で別れ、先に女が寝るということに決まった。我もそれに従い馬車の中で横になるが、寝はしない。

 目を閉じて瞑想することはあるが、長い年月を経て、睡眠を必要としなくなったのだ。黙って周囲に意識を向けて警戒するが、特に何もなく交代の時間となった。

 ゼロス、トレーズ、我の三人で焚火を囲む。誰も口を開かず、焚火がパチパチと音を立てているだけだ。

 時間は過ぎ、夜が明けた。ゼロスが女二人を起こすと、すぐに片付けて馬車を走らせる。ゼロスは御者をしながら干し肉を齧り、我と三人も馬車の中で同じように干し肉を食べ、水を飲んだ。

 交代しながら馬車を走らせること数時間、ウェンズディ要塞とやらが見え始めた。

 ・・・人間が作ったにしては頑丈な要塞だな。

 少し離れた場所からでも見えるほど大きな壁が奥にある。山と山の間に作られた、ヘクトル帝国に対する強固な壁だ。それに対し、内側の、こちら側の壁は比較的に簡素だ。国境沿いの町としても機能しているのか、馬車や人が多く出入りしており、入るのには少しの時間を要した。

 中に入れば、都市と殆ど変わらない町並みがある。建物は密集し、道は広く行き交う馬車や人が多い。気になるのは、兵士の数も多いということだ。

 中心部を抜けて奥へ進み、商業区画に入った。様々な店が立ち並び、どれもこれも専門的な物を売っているようだ。馬車はさらに奥に向かい、少し寂れた雰囲気が漂う建物のうちの一軒の前に止まった。トレーズが御者台から降りて店を確認し、こちらに声を掛けて来た。

「みんな、着いたぞ」

 降りてゼロスを先頭として中へ入る。来店を知らせるベルが鳴る。

 正面すぐに服を着てポーズを取るマネキンが正面から出迎える。マネキンの服は人間の流行り物だろう。数百年前に流行った服を少しアレンジしたものだ。棚には衣服が所狭しと掛けられており、奥のカウンターの棚には色とりどりの布が巻かれた状態で置かれていた。

 女二人は、早速衣服を見物し始めた。ゼロスとトレーズはそんな二人を気にせず、カウンターに一直線で向かう。

 カウンターの上にある卓上ベルを改めて鳴らすと、カウンターの奥から、明るく洒落た服を着ている痩せた老人がひょこっと顔を出し、客がいると分かると姿を見せた。

「いらっしゃい。初めて見る顔だね。何か用かい?」

 ゼロスが代表して言った。

「俺たち、王立騎士魔術学園の者です。実習訓練として注文していた品物を受け取りに参りました」

「ああ、そういえば少し前に注文を受けたね。待っててくれ、すぐに持ってくるよ」

 男が裏に行くと、すぐに大きな巻いた布を手に戻って来た。

「これだよ。確認してくれ」

 カウンターに広げると、学園のシンボルらしい刺繍が施された立派な旗だった。何処を見ても欠点は見当たらない。実に素晴らしい出来だ。

「素晴らしい・・・」

 トレーズから感嘆の言葉が漏れた。

 店の主人はそれを聞いてにこやかな顔をした。

 ゼロスも頷き、言った。

「ありがとうございます。学園長もさぞお喜びになるでしょう」

「ああ、マリアンヌ・・・学園長にいい仕事をしたと伝えてくれ」

「分かりました」

 と言ってゼロスは旗を丸めてアイテム袋に仕舞い、未だ衣服を見物している二人に声を掛けた。

「シーナ、シフォン、帰るぞ」

「待って、記念に一つ買うから」

「私も、普段着をそろそろ変えようと思っていたんだ」

 ゼロスは溜息を吐き、トレーズは肩を竦めて二人して店を出た。我も興味は無いので出ていく。ゼロスは御者台で暇そうにし、トレーズは馬車の中で本を読み始めた。

 我は馬車の傍で行き交う人々を見始めると、ふとこちらに視線を向ける気配を察知し、気取られないように見れば、建物の間の路地からこちらを窺う誰かがいた。早々に訪ねて追い払おうかとも考えたが、実習訓練ということも加味して放置することに決めた。

 数十分が経過し、ようやくシーナとシフォンの二人が店から出て来た。二人とも買い物をして満足そうな顔をしている。

「ごめん、遅くなったよね」

「すまん」

「構わないよ、こうして本が読めたしね。ゼロス、もう出していいぞ」

 二人して謝るがトレーズは特に気にすることもなく本を仕舞い、ゼロスに全員が乗ったことを伝えると馬車が動き出した。このまま帰路に付くが、一台の馬車が距離を置いて付いて来ている。

 町中では同じ方向にたまたま向かっているという偶然で済むだろう。だが、町を出ても同じ馬車が同じ間隔を維持して後ろにぴったり付いてくれば、流石に誰かは不審に思うだろう。

 シフォンが怪訝な表情で馬車を見つめ、不審を抱いて口を開いた。

「なぁトレーズ、あの馬車、何かおかしくないか?」

「おかしいとも。だがまだ偶然という可能性は捨てきれない」

 トレーズは席を立つと、ゼロスに向かって言った。

「ゼロス、君も気付いているだろう? 一旦、馬車を止めよう」

「そうだな」

 トレーズの指示に賛成のようで、ゼロスは馬車を街道の隅に寄せて止まった。まだウェンズディ要塞から近い場所であり、休憩するには早過ぎる。

 後ろの馬車は通り過ぎることもなく、同じように止まった。ゼロスは御者台から降り、わざわざ外側から車輪を確認するフリをしてから馬車に入って来た。

「明らかにおかしいが、みんなどうしたい?」

 トレーズが真っ先に答えた。

「相手の正体、人数が分からない以上は迂闊に動くのは良くない。このままの状態を維持し、日暮れまでに向こうから仕掛けて来るのを待つのがいいだろう」

「いい案だ。そのあと、日が暮れたら闇に乗じて馬車を離れ、相手を確かめる・・・だろう?」

「ああ、その通りだ」

 二人だけで作戦が決まると、ゼロスは確認するようにシーナとシフォンに問い掛けた。

「という作戦で行こうと思うが、二人はどう思う?」

「私はそれでいいと思う」

 シーナは納得しているようであったが、シフォンは少し不満げな様子だ。

「私としては、戦う前提で今から向かって、相手の素性を確認した方がいいと思うのだが」

「一理あるな。トレーズ、どう思う?」

「それでも構わないのだが、今回の実習は護衛を依頼するほどだ。用心をするに越したことはないだろう」

「む、そうか。なら私もゼロスの作戦でいい」

「決まりだな」

 ゼロスが再び御者台に戻って馬車を動かす。すると後方にいる馬車も動き出した。人間の力では見えないが、さらに後方に馬車が一台、付いて来ている。恐らく後詰だろう。

 賢い人間ならばその存在を予想するだろうが、さてどうなるやら・・・。

 馬車は進む。後方を警戒しながらの旅路は精神的に辛いものであるが、彼らはそれを悟らせまいと敢えて陽気に振舞い、アイテム袋から楽器を取り出して演奏を始めた。よっぽどの切れ者でなければ、帰路に心が浮かれる若者としか思わないだろう。

 中継所で一旦休憩を取り、移動を再開する。陽が暮れてこれ以上の移動が困難になると、彼らは馬車を止めていつも通り焚火を作って料理を楽しみ、シーナとシフォンは寝たふりをする為に馬車に乗り込んで前から茂みの方へ移動する。それからトレーズと我が席を外してゼロスが一人となる。これはゼロスが自ら引き受けた囮だ。

 我は既に見えているが、少し離れた場所に止まっている馬車からは八人の男が音を立てずに素早く移動して来ており、後方にいた馬車からもさらに八人がこちらに向かっている。こちらは少し離れた位置に陣取って気取られないようにしており、総合的に見れば、こいつらは素人ではない。暗殺者、或いはそれ相応の訓練を受けた特殊な兵士の類だ。

 四人ではちと荷が重いと判断した我は、出ていくタイミングを伺う。丁度、独りで焚火をしているゼロスに一人の男がやって来たからだ。

「すいません、ちょっといいですか?」

 笑顔で声を掛けて来る男は、表面的には完璧な笑顔だが、分かる人間からすれば全く笑っていない。

「・・・なんでしょう?」

 ゼロスは敢えて立ち上がって応対する。剣の鞘を握ることで、警戒していることを見せる。

 男は鞘を持つ手をちらりと見つつ言った。

「旅の者なんですが、その、薪を買いそびれまして・・・少し分けて貰えませんか?」

「それは大変ですね。ここにあるので、どうぞ、持って行ってください」

「ありがとうございます。これで仲間たちと暖が取れそうです」

 相手はお礼を言って薪を拾い上げて離れて行く。周辺に展開している奴らが動き出した。それに応じ、我も動く。誰にも見つからないように音を消し、認識阻害の魔法を掛けた上で素早く、首を刎ねたり心臓を一突きにして仕留めて行く。次々と周辺から誰かが倒れる音に、薪を持つ男も、ゼロスも、待機している三人も動揺している。

 薪を持つ男の前に姿を見せると、彼は後ずさって口を開いた。

「だ、誰はあんた!」

「我はジークフリート。ドラゴンだ」

「ドラゴンだって? おい、やっちまえ!」

 彼の掛け声に答える者は、既にいない。

「無駄だ。先にいた奴らは全員殺した。待機している奴は今から殺してみせよう」

 待機している連中の所へ振り向き、口からブレスを吐いて辺り一面を焼く。夜ということも相まって、焼かれた人間が悲鳴を上げながら慌てふためくさまがくっきりと見えた。

 これで始末は完了し、振り返るとゼロスが男に対して剣を首筋に当てていた。

「勝負あったな。何故こんなことをやったのか、洗いざらいはいて貰うぞ」

 トレーズ、シーナ、シフォンも合流し、武器を取り上げ手を後ろで縛って座らせた男に対して尋問が始まった。

 ゼロスがナイフを手に彼の周りを回りながら問い掛ける。

「自己紹介といこう。俺はゼロス。ゼロス・ピースメイカー。王立騎士魔術学園の生徒で、公国南部の領の一部を任されているオンリー・ピースメイカー子爵の息子だ。あんたは?」

 彼は憎々し気に、だがはっきりと答えた。

「俺はヘクトル帝国第二軍所属、第二隠密隊リーダー、ジェイ。お前たちの殺害、或いは拉致を目的に襲撃した」

「威勢がいい。それに素直だ。その言葉の信憑を示すものは持ち歩いているか?」

「ない。今回の任務、万が一の失敗の際は全員が記録を抹消される手筈になっている」

「まぁそうだろう。だが随分と手筈のいいことだ。背後で誰が糸を引いている?」

 ゼロスがナイフで彼の腕を軽く切り裂いた。ジェイという男は顔を顰めて堪えた。

「知らん! 俺たちは上の命令によって動いたに過ぎない。命令の書類も読んだ後燃やして捨てた。証拠は一切ない」

「ありえないね。それだけでここまで正確に実習訓練の生徒を狙い撃ちなど出来る筈がない! トレーズ、物証は見つかったか?」

「いや、何も持っていない。後方にいた奴らは全員丸焦げで、衣服すらない」

 ゼロスが我を睨んだが、気にしない。むしろ頭を垂れて感謝されてもいいくらいだ。

「・・・質問を変えよう。誰が命令して行った?」

「・・・帝国第二将軍、シンデレラだ。俺たち隠密隊にレイクンド公国への入国手続きを済ませて、実習訓練を行う生徒を拉致、或いは殺害し、帝国に有利な交渉をせよという命令が下った。だが、証拠も残さないように徹底を言い渡された」

「どうやって公国へ入って来れた? そういう人間は、政治的取引でお互いの名簿が行き渡っているはずだが」

「それこそ知らない! 俺たちは命令を受けるだけの兵士に過ぎない。そっち側の貴族を当たってみることだな」

 ゼロスは再度ナイフで彼の腕を軽く切った。彼の苦痛が暗闇の中に広がる。

 念の為に周辺を探るが、声や血の臭いで寄ってくるような危険な魔物はいないようだ。

「いいだろう。それはこちらで調べるとしよう。命令の内容が知りたい。どうやって我々の日時と場所を把握した?」

「知らない。命令書に大体の時間と日時が書かれて潜伏していただけだ。実習に参加する名簿はあったが、それも頭に記憶した後すぐに燃やした。それに、強い護衛がいることは知らされていなかった」

 彼は嘘を吐いていない。恐らく、話しても何も問題ないように徹底した証拠隠滅を行っているからだろう。これだけ話を聞いて、報告したとしても、恐らく公国も帝国も大した反応は示さないだろう。彼らはそういう役割、使い捨てなのだ。

 ゼロスも分かった上で、大きな息を吐いて周りを回るのを止めて正面に立ち、ナイフを仕舞って剣を抜いて首筋に当てて、彼をしっかりと見据えて言った。

「・・・ジェイ、何か言い残すことはあるか?」

「そうだな・・・ヘクトル帝国と、俺の家族に幸あれ、かな」

 聞き終わると、彼は一瞬の躊躇の後にバッサリと首を斬った。シーナは口に手を当ててショックを隠し切れず、シフォンは目を閉じて視線を逸らした。トレーズだけが、全く動じずにゼロスの行いを真っ直ぐ受け止めていた。

 首を斬られて倒れた男に、ゼロスは一礼して剣を拭って仕舞い、薪を囲む場所から少し離れた場所へ移動させた。トレーズも、シーナもシフォンも手伝い、死体が集められて、魔術師であるシーナが火を点けた。轟々と燃える。その様は我にとっては清々しいものであるが、人間としては重いものなのだろう。それぞれが信奉している神様に、死者への弔いを行っている。神への導きを得た彼らは、これでアンデットにはならないだろう。

 重苦しい雰囲気に若者たちの表情は暗いまま、焚火を囲む。その焚火も誰も薪を足さずにいるせいで消えかけており、仕方なく我が薪をくべて口から火を吐いて復活させた。それでも四人は暗いままなので、我はゼロスに声を掛けた。

「ゼロス、楽器を貸せ」

「・・・ああ、どうぞ」

 面食らった彼は、アイテム袋から弦楽器を取り出して渡してくれた。我は音を鳴らして調律をし、準備が整うと軽快に弾いて歌う。数百年、連綿と受け継がれている大陸伝統の曲だ。暗く落ち込んだ人を慰め、陽気に明るく歌い出したくなるようなリズムで、弔いを済ませた後に歌われる詩でもある。

 最初は全員、意外そうな顔をして口を開けていたが、次第に落ち込んでいるのも馬鹿らしくなったのかそれぞれ楽器を取り出して合わせながら歌い出した。


 そして、歌って騒いで夜が更け朝日を迎えた。すっきりとした顔をした四人は、そのテンションのまま帰路へ着き、何事もなく昼頃に学園に到着した。

 ゼロスが代表して今回の件を報告すると、学園長は大きな溜息を吐いた。

「あなた方の所には帝国から特殊部隊が来たのですか。最早この学園が処理できる範疇を越えていますね。いいでしょう。私の方から国へ報告します。学生の皆さんは下がっていいですよ」

「はい、では失礼します」

 ゼロスたちが丁寧にお辞儀をして部屋を出ていくと、学園長は再び溜息を吐いた。

「帝国は何を考えているのか・・・とにかく、ジークフリートさん、生徒たちを守って下さりありがとうございました」

「仕事をしたまでだ。だが勘違いするな、くだらん諍いに巻き込まれる筋合いはないからな」

「ええ、理解しています。これは今回の依頼の報酬です。どうぞ受け取ってください」

 出された金貨を貰い受け、我はさっさと部屋を出て、転移魔法で寝床にしている山へ帰った。まだミホは帰っていないようだが、彼女ならもう放っておいても大丈夫だ。

 我は元のドラゴンの姿に戻り、力を蓄えつつ瞑想する。


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