二十八話:隠者のユウは隠居ができない
・・・・・・・・・・・・・・一年後。
その間に起こった出来事は彼らの歴史であり、俺の歴史ではないので割愛する。
新たな国『ドラゴンズトゥーム』の建国一周年記念として大規模な祭りが催されようとしていた。期間は三日、明日の一日目はドラゴンや多くの生物の供養祭に始まり、二日目はヘクター国王の即位一周年及び建国記念式典、三日目に周辺国との友好条約締結式だ。
周辺国からは商機と思った商人たちが街道の遠くまで列を作り、各国の貴族や要人が列の横をすり抜けて門の中へ入っていく。
空ではドラゴンやワイバーンが複数飛び交って周辺を警戒するように飛んでおり、地上では様々な魔物が街道を守るように見回っている。彼らの体には、何れもドラゴンズトゥームの紋章が入った布や飾りを付けられており、国に所属している魔物であると示している。
城下町では、先に入場を果たした商人たちがあちこちで店を開き、どこもかしこも人だらけ。丁度今、店と客で口論が始まった。たまたま近くにいた若く熱意のある衛兵が何事かと間に入っていく。活気づけば当然起こる問題であり、町としては健全な証であろう。
そんな町では、この国の旗と一緒に、レイクンド公国の旗が掲げられている。
城の中では、招待した一部の貴族や要人が寝泊まりしており、任命された役人や従業員、若い騎士たちが忙しなく動いている。式の準備や宴の段取りで天手古舞だ。本来警備する筈の兵士もその場の準備で手伝わされる始末である。
執務室では、ヘクター国王が高々と積まれている書類に次々と印鑑を押していた。だが、イライラが最高潮に達した彼はペンを置いて誰に向けるでもなく怒鳴った。
「ええい、多すぎだ! 誰だよ次から次へ書類を持ってくるのは! 俺の許可いらねぇものが大半じゃねぇか!」
見回りを終えてテレポートで戻って来た俺に言っているのかと思って、少しびくついた。
「・・・まぁ、仕方ないじゃないか。そういう仕事はジュンが担当していたんだから」
「ユウか。見回りはどうだった?」
「どこもかしこも人だらけ。初めての建国記念日は成功しそうだよ」
「そうか。俺とジュンの夢がこれで叶うな。で、ジュンは今どこに?」
「今は供養祭の準備で、町の外で会場を作っている」
「なら、準備が終えたら休憩してくれと言ってくれ。あいつ殆ど休んでいないだろう?」
「分かった。書類、頑張れ」
「あいよ」
ヘクターは書類仕事を再開し始めた。
俺はジュンが作業をしている供養祭の会場へ転移する。ドラゴンや人型のアイアンゴーレムが重いものを運び、多数の職人が会場を設営している。その中でヘルメットを被っているジュンがあれこれと指示を出していた。
「ジュン、進捗は?」
「ユウ。このままいけば、陽が傾くまでには終わりますよ」
「そうか。ヘクターから伝言。準備が終えたら休憩してくれ、だって」
「あはは、とうとう言われちゃいましたか。じゃあお言葉に甘えて、これが終わったら休ませて貰いますね」
伝え終えた俺は、城の天辺に転移してのんびりする。俺は今、新しい国の新たな歴史を見ているが、この国の人間にはなっていない。一応、肩書としてはレイクンド公国大使兼ドラゴンズトゥーム王国特別顧問となっている。
俺がやったことは、一年前に周辺国へレイクンド公国の大使として親書を渡し、魔王を討伐した人間として力を示しながら新たな国づくりに王としてのヘクターと参謀のジュンを推薦し、多少強引ながらも協力を取り付けて人や物資を融通するように働き掛けただけだ。レイクンド公国もそれに乗じるように、建国宣言から即日同盟を締結し、貴重な人材を幾らか寄越してくれた。
それでも悪いことは起こる。悪い芽は早めに摘むように動いてやってもいたが、何回か小規模な戦いや各国で血生臭い反乱が起こった。魔王の負の遺産によるアンデットや元人間の魔物事件もあった。その際、ヘクターが王としての器と力を示し、ジュンが参謀として政治的手腕を発揮したことで、俺は大した活躍をすることもなく各国との関係を確立させ、大きな争いは避けられた。
その後、人も物も集まっていき、異例の速さで町も大地も復興した。約束していたレイクンド公国までの街道についても、ジュンがテイムした魔物を利用することで手早く整備されて繋がり、周辺国との街道も整備し安全性を高めたことで、今回の友好条約を取り付けることに成功した。今や、この国と周辺国は大陸一安全な街道を持つ地域だと噂されているほどだ。
翌日、供養祭に向けて正装した二人が執務室でスピーチの確認をしていた。
「やあお二人さん、似合ってるね」
ヘクターは黄金の鎧の装備に、ちょっとしたお洒落の装飾を追加した格好だ。
ジュンは普通に役人の正装といった感じだが、傍には自らの手で魔改造を施した人と同サイズの要人警護に特化したアイアンゴーレムが立っており、しっかりとおめかししていた。
ヘクターが俺の格好を見て、鼻で笑う。
「・・・フッ、いつもの旅装束で言われても、嬉しくない」
「同感だよ。正装の一つでもしたらどうです?」
思ったよりも馬鹿にされた。だが別にいい。
「そのことなんだが、俺は祭りには参加しない」
「何故だ? 賓客として席は用意しているぞ?」
「そうですよ。魔王討伐に加え、復興にも、各国との関係改善にも手を貸してくれた英雄なんですから。是非参加してください」
俺は首を横に振った。
「折角だが遠慮する。俺は隠者のユウだ。隠居生活をするのが目的で、英雄になりたいんじゃない。だからここらで、お別れだ」
「・・・そうか。達者でな」
あっさりと理解してくれたヘクターに握手を求められたので、俺はしっかりと応じた。
「ユウさん、僕はまだ・・・あなたの政治的なやり方を学び終えていません。また会った時、教えて貰えませんか?」
「政治は学ぶもんじゃない。考えるものだ。君にはその能力があるから、大丈夫」
励ますように言ってジュンとも握手を交わし、俺は彼らから少し離れた。
「では、また会おう」
返事を待たずに、俺はテレポートでその場を去った。
一年経って改めて思う。隠者のユウは隠居が出来ない、と・・・。




