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隠者のユウは隠居ができない  作者: 宮之内誠治(覇気草)
第一章:伝説の始まり
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二十三話:魔王対策

「残念だったわね。ユウ」

 いつもの暗い空間にスポットライトのような光が照らす花畑だけの場所で、ミスティアが椅子に座り紅茶を飲んでいる。視線は伏せ気味で、弔意が見て取れる。テーブルの上には茶菓子もあり、来ることが分かっていたのか対面には湯気を出す紅茶が置かれている。

 俺自身のことで言いたいことを抑えて座り、紅茶を一口飲んでから別の問題を問う。

「・・・アレは魔王なのか、勇者なのかどっちだ?」

「魔王であり勇者よ。封印が長かったせいで、肉体は一体化し、主導権は完全に魔王に渡っている。勇者の魂は魔王に囚われ、救いたければ殺すしかない」

「そうか。殺せそうにないのだが?」

「ごめんなさい。私自身は想定外だけど、神様たちにとっては想定内だったみたい」

 彼女はその場で頭を下げた。

 くだらない。

「なら、俺が今からすることに神様から文句は出ないよな?」

「言わせないわ。私だって臨時で神様やるくらいの実力はあるんだから」

「じゃあ、付き合え」

「えっ、あっ・・・そういうのは、もう少しお互いを知ってからにしましょう?」

 俺は溜息を吐いた。自分自身の伝える力の不足が嫌になる。

「すまん、特訓に付き合って欲しい」

「ああ、そう・・・いいわ。付き合ってあげる」

 一瞬がっかりしたミスティアは、ふんすとやる気を見せた。

「行くぞ!」

 俺はテーブルを足で引っ繰り返してインベントリから投げナイフを取り出し、彼女に殴り掛かるように接近する。だが、倒れた椅子にミスティアはおらず、周囲の暗い景色が変化する。

 遠くで大爆発のキノコ雲が見えたかと思うと、一瞬にして花畑は荒廃した元の世界に似た現代的な建築の町に変わり、目の前に錆び付いた門が閉じた状態で出現し、奥に学校が出現した。一階部分の大部分が血まみれで真っ赤な手形が幾つも付き、ガラスが全て割れ、所々でバリケードが見られる。

 そんな学校の、割れて意味をなさない玄関を開けて出て来たのは、コスプレに近い膝丈のスカートのメイド服を着た女性で、髪は黒く瞳は茶色い。見た目は違うが、ミスティアだと直感的に理解した。

 錆び付いた門が悲鳴に似た軋みを上げながら開いたので入ると、メイド服を着た女性も近づいて来た。

 お互いに手を伸ばしても届かない距離で立ち止まると、彼女から声を掛けてきた。

「驚かないんですね」

「驚いてほしかったのか?」

 そう返された彼女は、朗らかに笑った。

「・・・いいえ」

 彼女は首を振り、懐かしそうに、そして悲しそうに惨劇があったような荒れた学校を一度見て、俺の方に向き直って言った。

「ここは私の力で作られた空間。今この場では、私は神様と同等の力があります。魔王となった勇者を倒す為の特訓、付き合いましょう」

 彼女は恭しくスカートの裾を両手で掴み、片足を下げてお辞儀をした。瞬間、大量の多種類の爆弾がスカートの中から落ちて来て転がった。

 インベントリから即座にナイフを投げるが、彼女は指で挟んで止めてみせた。バリアを展開すると転がった爆弾が爆発し、彼女はまともに吹き飛んだように見えた。だが、その場に巻き戻るように瞬時に体が再生し、一冊の本を取り出してそれを体の中にぬるりと入れ込んだ。

 それから剣を一本作って俺に向かって円を描くように放り投げ、地面に突き刺さる。

「折れた剣では戦えないでしょう?」

 剣を手に取ると、彼女は同じ剣を取り出して構えた。

「・・・改めて自己紹介を。私はチエリ。臨時で神様の仕事をしている夢人の一人であり、無限図書館の司書です」

 一気に距離を詰めて両手の剣を振るってくる。連撃を足や剣を動かして素早く捌くが、まるであの魔王勇者のように速く鋭く、油断ならない。

 チエリが敢えて突っ込んで鍔迫り合いに持ち込んだ時に言う。

「私の個人的な力はラーニング。さっきの本は勇者図鑑。今までの有名な勇者の能力や技能を一時的に身に付けています。あと、この姿の時はチエリと呼んでいいですが、普段はミスティアと呼んで下さいね」

 剣に魔力が瞬時に込められるのを見た俺は、同様に剣を魔力に込めて真横へ移動しつつ受け流す。だがすぐに返すように剣が振るわれて隙が無い。何回か剣で弾いていると、剣が折れた。

 死角の離れた位置に転移して風の刃の弾丸を撃つが、完璧に反応して剣で防がれる。

「その程度で終わりですか? それでは魔王には勝てませんよ」

 剣を作り出して放り投げ、俺の目の前に突き刺さる。折れた剣を投げ捨てて刺さっている剣を握る。

「・・・暫く続けてくれるか? 試したいことがある」

 そう言って剣を構える。自分の内面に意識を集中し、改めて魂から過去の武術の経験を詳細に抽出する。

 ブランクが消えたところで、こちらから斬り掛かって色々な技を駆使していく。風の刃を纏わせて斬撃を飛ばしたり、ゲートの応用で斬撃を転移させたり、魔力で具現化した飛翔する剣による舞のような猛撃を繰り広げたり、触れたものを瞬時に焼き切るほどの高温高周波を発しつつ斬ったり。どれもしっかりと対応されたが、反撃されるには至らない。



 休憩なしで戦い続け、息も上がり汗を流し、バクバク動く鼓動にある種の快感を覚える。戦いの楽しみが出て自然と笑みを浮かべてしまう。頭と心に対し、体もようやくついていけるようになったことで、俺は加速した。

 足を動かし剣を振るい、魔法を駆使し転移を繰り返して縦横無尽に戦う。速さも火力も段々と上がり、気付けば学校が崩壊し、学校の枠を超えて荒廃した無人の町を破壊しつつ戦う。チエリも対応するように動くが、徐々に動きに追いつけなくなって生傷を作り始める。

 だが、疲労からこちらも動きが鈍くなってきて再び拮抗状態になる。チエリの方は息一つ上がっておらず、いつの間にか生傷も癒えていた。

 さらに戦い続けて逆に押され始めたところで、チエリは動きを止めた。

「一旦休憩しましょうか」

 確かに、このまま戦い続けても仕方がない。しかし、魔王がこれだけで終わるとは到底思えない。

「まだいい」

 気合で再び動き出し、戦い続ける。最早町は荒廃を通り越して瓦礫の平原だ。息も上がり切って体も重い。無理をしてでも体を動かし、自身の限界を超えるべく戦い続けた。

 立っているのがやっとになって、ようやく俺は戦いを止めた。チエリも長い戦いでうんざりしているようだったが、辺りを見渡して見えている範囲の町が全て壊れてしまっていることに少しスッキリした顔をした。

「少しは魔王と戦えそう?」

「ああ。これなら何とかなる。奥の手も二三思いついた」

「気になることを言うね。聞いてもいい?」

 少し考え、首を横に振る。

「・・・いや、駄目だな。これは言えない」

「むう。なら質問を変えましょう。勝てるの?」

「ああ。準備はほぼ整った。あとは時期を見て戦力を分断させるだけだ」

 チエリはそれを聞いて安心したのか、いつもの目に優しくない髪も瞳も服も虹色のミスティアに戻り、指パッチンで元のスポットライトに照らされる花畑に戻した。

「じゃあ、今日はお休みなさい」




 起きていて、意識もはっきりしていた筈なのだが、瞬きする間もなく気付けば部屋のベッドに横になっていて、部屋は明るい。

「・・・寝ていた? いや、夢人の力か?」

 起き上がると体が軽い。夢かと思ったが特訓のことは細部まで覚えている。体の感覚もブランクを解消して戦える力を完全にモノにした状態だ。

 部屋を出てフロアに降りると、店主のルナさんがいつもの依頼書の確認をしていて、ジークフリートが水のグラスに手を付けずに座って腕を組んで目を閉じており、ソフィアが色々な道具をテーブルにぶちまけて作業をしていた。

 挨拶をすれば返してくれるが、それぞれやりたいことに戻った。

 今は関わることもなく、俺は店を出て鍛冶屋店武器屋のミョルナベに向かった。鍛冶屋の朝は早いのか、煙突からは煙が出ていて、外からでも微かに鉄を叩く音が聞こえる。

 扉を開けて中に入れば、棚の武器を磨いているナベッタに会った。

「おや、ユウじゃないか。いらっしゃい」

「朝早くすいません。とりあえず、これを見てくれますか」

 折れた片刃剣を抜いて見せる。途端にナベッタの顔色は変わった。

「・・・それ、どうしたんだい?」

「ちょっと魔王と戦ってね。折られた」

「魔王だって? とにかく、旦那を呼ぶよ」

 奥の工房にナベッタが行くと、すぐに鉄を叩く音が止んで慌てた様子でミョールが出て来た。

「俺の傑作が戦いで折られたって聞いた! 今すぐ見せろ!」

 有無を言わせない大声で言って来たので、気圧されて素直に渡すと引っ手繰るように手に取って片刃剣を観察し、俺の顔を見た。

「・・・ユウだったな。いつどこで何があってこうなったのか教えてくれ」

 教えない理由もないので誇張なく剣に関することを教えた。強敵との戦いの時、魔力による強化、魔力強化された剣と打ち合い、折られたこと。それを真剣に聞き、メモまでしたミョールは興奮しながら言った。

「相手にした奴がどれだけの奴か分からないが、魔力を込めた剣をぶつけあって折れるということは、あんたの魔力の出力が弱かったか、或いは相手の剣が俺の剣より強かったか、だ。俺としては両方だが、あんたはどう感じた?」

「同じです。瞬間的に魔力を挙げられているのは分かっていた。同時に、剣の質も劣っているのは感じていた」

「なら決まりだ。うちにとっておきの鉱石、オリハルコンがある。あんたの手持ち次第だが、作ってやってもいい。どうだい?」

「お願いする。金額は言い値で構わない」

「大金貨百枚以上、あんたの心持ち次第だ。出せるか?」

「出そう」

 カウンターにじゃらじゃらと手から大金貨を出す。明らかに数百枚以上出してしまって零れ落ちるが、細かいことは気にしない。

 それを見たミョールは口を開けて大笑いし、ナベッタは唖然とした。

「おっしゃあ! 久々にやるぞ。ユウ、三日後にまたここに来てくれ。ナベッタ、すまねぇが店じまいだ」

「仕方ないわね。ほら、あんたも出てった」

 背中を押されて店を追い出されると、ナベッタは早速扉の掛札を閉店に変えた。

 これで一時的に武器は無くなったが、決戦時の武器の心配は無くなった。唯一の心配は、武器が出来上がるまでに相手が攻めてくることだ。

 考えても仕方がないことなので頭から振り払い、魔王がいる場所までの地形把握を行うべく空を飛ぶ。現在地を特定し、地図を手に西に飛ぶ。


 山を越えた先の森の中にはエルフの里を見かけた。

 大きな川の傍には川を挟んで発展している街があった。

 荒野にそびえる山にはドワーフたちが暮らす鉱山所と工房があった。

 さらに西に進むと砂漠が広がり、巨大なオアシスを中心として一風変わった町並みと城があった。

 もっと西に進むと、緑豊かな森と平原が見えた。だが様子がおかしく、黒い煙が各地で発生し、戦火となっていた。近づくと、数十のドラゴンが飛び交っており、認識阻害の魔法を掛けて念を押して草木で隠れられそうな丘に着地してインベントリから望遠鏡を取り出して観察する。

 周辺の集落全てでドラゴンが人々を襲い、生きている者も死んでいる者も区別なく捕らえて別の所に運んでいるのが分かった。ドラゴンはここからでは見えない方向へ死体と人々を運んで、また戻って来ているのでその方向へ気配を殺しつつ向かう。



 集落を避けつつ森と平野を駆け抜けて到着した先は、海に面した大きな町と城だった。しっかりとした門があり、ポートローカルを大きくして真ん中に城を置いた感じだ。

 街道を避けて近づけば、門の周辺で見回りや出入りしているのは人間ではなく武具を身に付けたアンデッドと、魔物ばかりだった。

 これ以上近づくのは危険か。だが、一度町の様子を確認しないことには・・・。

 空は駄目、地上も駄目。なら地下だ。

 魔法で地面をすり抜けるように潜り込み、地上を透過して覗ける状態にする。土を磁石の反発のように開きながら突き進んで町の門の傍に到達。念の為に慎重に進んで何かしらの結界や防衛装置が無いかを探る。地下を掘り進むという発想が無いのか、それとも防衛にそこまで気が回っていないのか分からないが、それらしいものはないのでそのまま突き進み、町の様子を下から観察する。

 町に人はおらず、いるのはやはりアンデットと魔物だけ。空にはドラゴンが飛んでいて、捕らえて来た人間や死体が城へ運ばれているのが見えた。

 城門に近づいた時にも同様に結界の類を警戒して慎重に通り、ドラゴンが人間を下ろした地点へ向かう。騎士たちが訓練している広場だった場所で、魔王と血の気の無い死者の顔色をしたエイリーンが立っていた。その視線の先には禍々しい魔法陣の上に死体の山があり、魔王が魔力を注ぎ込めればすぐさま数十のアンデットとして動き出した。

 魔王が高らかに指示する。

「新たに生まれし僕よ、外の人間どもを駆逐せよ!」

 アンデットたちがキビキビとした動作で動き出し、広場から出て行った。

 それを見届けた魔王は、生きて捕らわれている人間たちの方を向いた。

「さぁ人間たちよ、生きて俺に隷属するか、この場で死ぬか、好きな方を選べ!」

 選択を迫ると、一部の者はその場で膝を着いて頭を垂れ、一部の戦えそうな者は魔王を睨んだ。

「や、やれよ・・・お前なんて怖くねぇ!」

 魔王がゆっくりと近づくと、声を出した者の前に立って易々と首を撥ねて見せた。

 悲鳴が広がり、母親と思われる女性が子供の視界を塞ぐように抱きしめた。

 俺は出ない。彼らを助ける道理もないし、今出ても武器が無いしエイリーンが邪魔で魔王を確実に殺せない。

 ・・・勇者なら、この場面で出て行くんだろうな。

 自嘲的な笑みが出つつも、観察を続ける。

 悲鳴を歓声のように心地よく聞いた魔王は下がった。

「エイリーン。彼らは隷属することを選んだ。歓迎の証に相応しい姿をプレゼントしたまえ」

「はい、魔王様」

 エイリーンが魔力を込めると、生きた人間たちの足元に仕掛けられていた魔法陣が発動し、人間たちが苦しみ始めるとみるみるうちに姿を変えた。多種多様な魔物の姿だ。

 理性ある元人間たちは互いの姿を見て、自覚し、さらなる悲鳴を上げた。

 ステータスで確認すれば、その魔物の姿は変身魔法であり、同時に途轍もない強力な能力の上昇と固定化の呪いも含まれていた。

 流石の俺も精神的にくるものがあった。

 理性があるということは、つまり・・・。

「さぁ、魔物たちよ! 俺を見て崇めるがいい!」

 魔王がそう言って注目させると、目が淡く光っていた。強烈な魅了魔法で精神的なショックを受けている元人間たちは容易に掛かり、膝を着いて一礼してからすぐさま傅き始めた。

 見るものを見た俺は、細心の注意を払って痕跡を残さないようにすぐさまその場を離れた。町から出て遠く離れた場所で周囲の安全を確認してから地上に戻り、大きく息を吐いた。

「どうしたものかな・・・知らせるか、知らせないか」

 悩んだ。これから一緒に戦う仲間にこのことを知らせた場合は、今後の魔王との戦いで魔物を人間と感じて攻撃を躊躇ってしまうのではないかと思った。同時に、知らせなかった場合は知ってしまった時のショックで戦いに支障が出るとも思った。

 どちらがマシかと考えた結果、俺は知らせるべきだと判断した。



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