二十一話:別の国の転生者 その2
「また来た」
すると、ミスティアはさっきまで俺の動向でも見ていたのか素早く詰め寄って来た。
「さっきはよくも投げましたね!」
怒ってはいるが、怪我はしていなさそうだ。
「すまんな。次の転生者の場所は?」
「・・・次は、レイクンド公国の東の海を渡った先の大きな島にある村の外れの丘に住んでいます」
「そうか。これ、お土産」
食べ歩きが可能な、チュロスに似た棒状のお菓子を彼女に手渡す。実際に食べたから味は保証できる。くどくない甘さの蜂蜜味の揚げパンだ。
「あ、ありがとう」
「じゃ、また」
ゲートから帰る。
時間は進んでいないようなので、周辺を探索して適当に魔物を退治して安全を確保する。そのまま野営を堪能して夜は買って来た帝国産の酒を飲む。レイクンド公国の酒と違い、程よい苦みとキレがある。エールというよりはラガーに近い感じだ。摘みとして肉系の物を齧りつつ、酒を魔法でしっかりと冷やして喉を鳴らして飲む。
「美味い。もう一杯! ってね」
「私にもくださいな」
声がして振り向けば、そこには俺と同じように手ごろな岩に座るアジテーターがいた。
「嘘だろお前、結界どうやってすり抜けた!?」
「ウフフ、秘密」
彼女の不敵な笑みにゾッとして寒気がした。薪に火を加えて火力を上げる。
いつからいたんだこいつは・・・。
最早警戒しても意味が無いと判断し、俺は諦めた。アジテーターにも摘みと冷えたラガーを渡して乾杯する。
同時に、ステータスで正体を確認する。
名前:不明(転生者)、アジテーター(自称)
性別:女性
性格:壊れてる
能力:不明
スキル:不明
・・・どうしたものか。
彼女を仲間として数えるべきかどうかで悩んだ。頼みごとを聞いてくれるとも思えない。かといってこのまま野放しにするのも脅威だ。いっそのこと殺してしまうのも考えたが、殺しきれる自信が無かった。
「・・・なぁ、アジテーターだったか。お前は何なんだ?」
「私は旅人だよ。魂が一度壊れて、何もかもを失った」
嘘か本当かはともかく、思ったより重たい。
「・・・で、何がやりたいんだ?」
「やりたいことなんてない。だからこそ面白いことを探して旅をしている」
「俺に付き纏うのも?」
「君に付いて行けば、面白いことに出会う可能性が高いと思った。そして予想は当たった」
お互いにラガーを飲み干したので、再び用意する。
「余計なことをしてないだろうな」
「はて、余計なこととは何のことだろうか」
頭を抱えたくなったが、離れた場所で事が起こるよりも傍に居させて事態の収拾に努めた方がいいんじゃないかと考えた。
「・・・ところで、お前の面白い基準ってなんだ?」
考えたことも無かったのか、アジテーターは笑顔を止めて真面目な顔をして考え始めた。
考えが終わると、何かはっきりとしたのか顔を上げた。いつもの笑顔に戻っている。
「変化だ。変わらない日常ではなく、非日常。隠者のユウは隠居ができない。だから私は付いて行こうと思った」
「他の転生者でも良さそうだが?」
「見て来た。そして君が一番いいと判断した」
これはもう否定できないと判断した俺は、彼女に摘みの串焼きを渡しながら言った。
「・・・一緒に来るか?」
「お供しよう。気が向いたら離れるが」
「ハハ、普通は逆だろう」
俺は笑い、酒をあおる。彼女も一気に飲み干して二人揃って新しい酒を用意して乾杯した。
二人で飲み食いして、一日が過ぎる。
翌日の早朝、アジテーターはいなくなっており、昨日のやり取りは夢であったかのように感じられた。野営を片付けて地図を開いて現在地と目的地を確認し、一度レイクンド公国に戻って直角的に進路を取った方が分かりやすいだろうと判断して、認識阻害の魔法を掛けてから飛んで戻る。
もう慣れてしまった飛行によりものの数分でレイクンド公国湖上に到着。進路を確認して東に突き進む。公国の東部は農業地帯のようで、大量の畑が景色を埋めていた。山を越え、海が見えると手前に港町が見えてくる。朝の漁を終えた船が戻って来ている。海の魚は暫く食べていないから降りて買い物でもと考えたが、寄り道は目的の人物に出会ってからでも遅くは無いだろうということで後回しにして海を渡る。
十分ほどだだっ広い海を真っすぐ進むと地平線に地表を発見し、近づいて来るにつれ地表面は大きくなり、断崖絶壁の丘の上の一軒家が目に入った。
・・・いきなり当たりか?
とにかく、周辺の確認だな。
丘の上の一軒家を目印として負担の掛からない限界まで高度を上げて外周を回るように飛ぶが、集落や港町が時々見えて続くだけで、島の大きさが把握できず断念して一軒家の上空に戻った。
地図で確認すると、推定だがこの島がイースコッチ国という島国のようだ。
一軒家から少し離れたところに降り立って認識阻害を消して旅人を装って一軒家の扉をノックした。
「すいませーん、誰かいませんかー?」
「・・・はいはーい、誰ですか?」
ガチャリと扉が開けられると、十代後半くらいの美少女がいた。だが直感的に、彼女は俺と同類の、長い月日を過ごした人間だと確信した。
同時に、ステータスを確認する。
名前:ソフィア=マーリン(転生者)
性別:女性
性格:お人好し
能力:自分と同等
スキル:不老不死
いきなり本質を見せると頷かせる流れを作り辛いと判断し、演技する。
「ああ、どうも。私、旅の者で・・・ここに凄い人間が住んでいると聞いて来たのですよ」
「凄い人間ですか・・・多分、私のことですけど、それほど凄くは無いですよ。それで、何の用です?」
「そうですね・・・不躾ながら、あなたに直接依頼したことがあるのですよ」
敢えて一拍置き、重大さを強調する。
「・・・魔王の、討伐です」
「魔王?」
彼女は不審な表情をするが、別段驚きはしなかった。
「ええ、魔王です。復活するという情報が入り、私はその対策の為に、強い人間を尋ねて回っているのですよ」
「そうですか。大変ですね。私は強くもないのでどうぞお引き取りを――っ!」
彼女が扉を閉めようとしたので、すかさず足を挟み込んで阻止した。
「いえいえ、せめてお話だけでも」
「今話しましたよね!」
「なに、もう少し詳しい話をしたいのですよ」
「結構です」
「魔王が復活すれば、あなたの生活だっていつまで維持できるか分からないんですよ?」
「それまでは平和に過ごしますから」
扉を挟んでお互い意地になっていると、背後に何かが来た気配を感じて振り返る。
そこには少女が一人腰に両手を当てる仁王立ちで立っていた。自身に満ち溢れた表情をしており、手脚はドラゴンのように鋭い爪があり、翼があり尻尾もある。ドラゴン娘のミホのようだ。
「そこの貴様、我が宿敵である丘の魔女に何用だ!」
「話し合いに来た」
「ちょっと失礼」
閉めようとしていた扉を開いて、ソフィアは仁王立ちする彼女を見る。
「やっぱりレヴィアタンか。今日はやる気ないからまた今度にしてね」
シッシッ、と手で追い返すようにするが、レヴィアタンと呼ばれた彼女は引き下がる様子を見せなかった。
「そうやって我を毎度追い返そうとしおって。我は魔王の後継者であるぞ! 勝負せよ」
指さして勝負を求めるが、ソフィア自体は凄く面倒臭そうな顔をしている。俺としても彼女の言葉には疑念しか感じず、ステータスを確認する。
名前:レヴィアタン(ドラゴン)
性別:女性
性格:お子様
能力:ドラゴン
スキル:なし
普通だ。ドラゴンということ以外に特に目を見張るものが無い。魔王の後継者も自称だろう。
「この人と戦って勝ったら、相手にしてあげてもいいよ」
えっ。
「そやつは強いのか?」
「うん、ツヨイツヨイ」
棒読みのソフィアの言葉にレヴィアタンは目を輝かせて俺を見る。
「いや、彼女の方が強いと思うよ?」
「戦ってもいないのに、判断出来んぞ」
正論を返された俺は諦めて戦ってやることに決めたが、ここで一ついいことを思いついた。
「なぁ君、戦って勝ったら俺に協力してくれないか?」
「む? 内容にもよるが、勝てたら聞いてやらなくもない」
「そうか」
片刃剣を引き抜きテレポートで彼女の隣に転移して魔法でコーティングした片刃剣で彼女の首筋の皮を斬ってみせた。血が滲み出し一筋の涙のように血が流れる。
「・・・・・・ぴえっ」
レヴィアタンは状況を理解して、泣いた。
片刃剣を仕舞ってソフィアの方を見ると、失敗だったとでも言いたげな表情でレヴィアタンに近づき、今にもわんわん泣きそうな彼女の首の傷を回復魔法で直してから大きくもない胸で抱いた。
「よしよし、怖かったわね」
優しい声で頭を撫でて慰めながら、ジトッとした、まるで女子を泣かせた男子を見るような視線で俺を睨む。
「・・・あなた、やり過ぎ」
「けしかけたあんたが悪い」
「相手は子供だよ?」
「ドラゴンに大人も子供もあるか。それとも、今度はあんたが相手になるか?」
「・・・同じ転生者が戦えばどちらもただじゃすまない。そうでしょ、隠者のユウさん」
「相性にもよるがな。話し合いには応じるか?」
「応じるわ。だから私の知り合いに手は出さないでね」
ようやく彼女の家に上がることが出来た。ソファーの向かい側にはソフィアと泣き止んだレヴィアタンが座っている。ソフィアが淹れた可もなく不可もない紅茶と茶菓子を味わってから話を持ち掛ける。
「さっきも話したが、魔王の復活が近い。名前はデスダイナ、種族は神様でドラゴン、それ以外は分かっていない」
「それだけじゃ対策のしようがないね。レヴィアタンは何か知ってる?」
「我も魔王が自分の祖父だったということくらいしか知らん。隠居しているジークフリートならば何か知っておるだろう」
「ジークフリート? それって、灰のドラゴンか?」
「知っておるのか?」
「知っているも何も、今回の魔王の話も彼が発端だ。ちょっと聞いてくる」
どうやら俺は、致命的な情報を見過ごしていたようだ。
立ち上がって広い場所でゲートを開いて、ジークフリートのいる山の中腹部に移動する。ゲートからソフィアとレヴィアタンも付いて来た。
目の前には大きな灰のドラゴンが体を休めており、突然の来訪者に視線をこちらに向け、俺だと判断すると面倒くさそうに首を持ち上げた。
「・・・ユウか。それに、レヴィアタン。久々だな」
「ジークフリート、久しぶりだな!」
レヴィアタンは人間形態からドラゴンに戻って、ジークフリートの傍に寄って触れ合う。ジークフリートも優しく撫でる。
ドラゴン同士の再開をずっと眺めるわけにはいかないので、声を掛ける。
「久しぶり。元気?」
「ああ、元気だ。貴様の方は見合うだけの伴侶を手に入れた報告か?」
「いや、私は伴侶じゃないですから」
即座にソフィアが否定すると、ジークフリートは軽く笑い、冗談だと察したソフィアは引き攣った笑いをした。
俺は一歩前に出て言う。
「聞きたいことがあって来た。魔王の件について詳しく聞きたい」
「手紙に詳しく書き記したのだが・・・そうか、貴様は直接読んでいないのだな。いいだろう。話そうじゃないか」
人間の形態になると、レヴィアタンも倣って人間の姿になった。
「・・・そういえば、ミホは何処に?」
「ああ、ミホなら変身魔法が使えるようになったから人の町に行かせている。常に見守っているから安心しろ」
「そうか。では、話を頼む」
以前設置され、少し整備された焚火を囲んで、軽く摘まめるものと酒を出して、みんなで飲み食いしながらジークフリートが話し始めた。
「昔話をしよう・・・およそ五百年前になる。死神と契約して凄まじい力を手に入れたドラゴンが魔王を名乗って世界の侵略を始めた。魔王の力で死者はアンデットとして蘇り、魔物は暴れ回り、人間どもは逃げ惑い、捕まればアンデットか奴隷か食料にされた。我々他のドラゴンは、従属するか戦うか逃げるかをそれぞれ選んだ。俺は逃げて暫し平穏に過ごした。
そしてある日、神が勇者をこの世界に派遣し、勇者の派遣を見越して魔王討伐の使命を帯びた強力な力を持つ人間が次々と生まれた。俺は勇者一行と出会い、力づくで従わされて魔王討伐に参加した。勇者一行は凄まじい戦いを何度も経験した。時には死者が出た。
そして魔王が巣くう場所に到着し、各地の人間たちの勢力が陽動で戦いを始め、勇者一行は手薄になった魔王と直接対峙した。
ああ、その時は我も活躍したぞ。死に掛けたがな。
それで、魔王は勇者一行との死闘の末に、倒しきれないと判断した勇者が賢者に封印することを指示した。封印は成功し、勇者は今も魔王と共に封印された地で眠っておる。
封印がドラゴンによって維持された経緯だが、当時、戦いを終えた我は傷を癒すことと平穏に暮らしたく、人間とドラゴンはお互い不干渉になろうという約束を条件に、封印の維持を引き受けたのだ。最初は封印を施した賢者のエイリーンと仲間の一人が様子を見に来ることもあったが、百年もすれば見に来なくなり、いつの間にか散らばった同胞が集まって巣となったのだ。以上が我の知る過去で、今に繋がる話だ」
話は終わり、ジークフリートが酒を飲み干したので注いでやる。
・・・アンデットの使役。封印状態の魔王と勇者。賢者のエイリーン。どれも重要な情報だ。最悪を想定して動かなければ。
聞いていたソフィアも摘みを食べながら深刻な顔をしていた。
「・・・ご馳走様。戦力を集める理由が分かったよ。それじゃあ、ちょっと帰って荷物を纏めて来るわね」
「ソフィア、引っ越すのか?」
「ええまあ、一時的にだけどね。レヴィアタン、手伝ってくれる?」
「うむ、任せろ」
ソフィアは俺とは少し見た目の異なるゲートを作り出して移動した。数分のんびりと待っていると、ミホが飛んで戻って来た。変身魔法を習得したと聞いたが、ドラゴン娘の姿だ。
「ユウやん。久しぶり!」
「ああ、久しぶり。食べるか?」
インベントリから追加で料理を出して進めてみると、ミホは手に取った。
「是非貰うわ。町に行って空から潜り込んだんやけど、お金を持ってへんかったから、何も買えんでな」
「そうか。変身魔法の維持が苦でなく、人間としての暮らしがしたいなら、ある程度手伝うが?」
「そうしたいのは山々やが・・・ジークはどうなんや?」
「人間の中で暮らしがしたいなら好きにするがいい」
「ジークも一緒なんは、あかんか?」
「問題ない。人間の作る料理や酒、飯は美味い。会話も、嫌いではない」
「なら決まりや。頼むで」
ミホはその場で変身魔法を使って変身した。手足が普通の人間となり、翼は消え、尻尾も尻に収納された。耳や目も人間に戻っており、どこからどう見てもドラゴンには見えなくなった。変身によって作られた服装は小綺麗にしたこの国のワンピースといった感じだ。
「その服は?」
「服に見えるやろうけど、これは鱗でな。防御力もある優れもんや」
「触っても?」
「ええで」
触ってみるが、肌触りからきめの細かい高級な布にしか感じない。随分と精巧だ。
それから十数分、お互いの最近の近況でも話しながら酒を飲み摘みを食べながら待っていると、ソフィアが大きなトンガリ帽子にマントを羽織り、大きめのバッグを下げて戻って来た。レヴィアタンも大きなリュックを背負っている。
「お待たせ。あら、あなたは?」
「ミホや。一応人間やで」
変身を解いてドラゴン娘状態を見せる。ソフィアは特に気にしなかったが、レヴィアタンが思いの外驚いた様子でまじまじと見つめた。
「・・・ううむ、見た目も魔力も匂いも、ドラゴンそのものだ」
「強さもドラゴン並みやで」
「むっ・・・なら、あとで我と勝負するのだ」
「ええで」
殴り合いの友情になるか気になりつつも、俺はゲートを開く。先の場所は湖のさざなみ亭直通だ。
「準備も整ったようなので、我が家にご案内ってね。向こうは俺が世話になっている湖のさざなみ亭。冒険者用の宿屋だ」
一番に顔を入れて覗き込み、冒険者の宿に繋がっていることを確認し、驚いて手を止めてこちらを見ている一同に挨拶する。
「ただいま」
「お、おかえり・・・」
店主であるルナさんが代表して挨拶したので、待っている人たちに入ってくるように促しながら入る。全員が移動を終えたのを確認してゲートを閉じて紹介する。
「えー・・・こっちのご老人は灰のドラゴン、ジークフリート。で、こっちはミホ。人間でありドラゴン。で、この子はレヴィアタン。この子はジークフリートと同じ純粋なドラゴン。それで彼女はソフィア=マーリン。魔法使いだ」
「年長者として、代表して挨拶させてもらおう。ユウの紹介で世話になる。至らぬ点もあるがよろしく頼む」
「店主のルナだ。ユウの紹介なら歓迎するよ」
挨拶が終わるとエリーとメリーがミホとレヴィアタンの所へ駆けより、好奇心から話し掛ける。フロアで寛いでいたミハイル一行はジークフリートやソフィアに寄ってそれぞれ挨拶を始めた。俺は店主のルナさんの前のカウンターに座る。
「ジークフリートとミホ、レヴィアタンは、恐らく身分証もお金も持っていない。俺から食費と宿泊費のお金を幾らか先に出しておくから、ルナさん、身分証の作成と仕事の紹介を頼みます。余ったお金は、彼らの支度金ってことで」
「あいよ」
大金貨十数枚を渡すとすんなりと受け取ってくれた。
「ああ、あと、これお土産にどうぞ。ヘクトル帝国のお酒です」
カウンターに幾つも酒瓶を置いて行く。それを見ただけでルナさんは目を輝かせ高潮した。
「こいつはラガーじゃないか! キンキンに冷やすと美味いんだよな」
「俺はエールの方が好きですけど。では、あとはお好きにどうぞ。俺は部屋で休む」
レオンが歓迎会を提案して騒がしくなりそうだったので、俺はそそくさと部屋に退避した。




