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隠者のユウは隠居ができない  作者: 宮之内誠治(覇気草)
第一章:伝説の始まり
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二十話:別の国の転生者 その1

 翌日、クラインは家族と別れを告げて馬車に乗り込み、俺も護衛として同情して港に移動する。到着すると旅客船に乗り換えてポートローカルへ向かう。船の上で軽い昼食を摂りつつ陽が傾き始めた頃にポートローカルの港に到着し、徒歩で領館に辿り着いた。

「今回の護衛、助かった。ありがとう」

「まぁ、仕事なので」

「報酬は後日宿に届ける。もし何かあったらまた頼む。では」

 依頼も完了し、俺は数日ぶりの湖のさざなみ亭に帰った。

 宿の扉を開けると扉の仕掛けの呼び鈴が鳴る。

「あっ、ユウさんおかえりなさい」

「おかえり!」

 ウェイトレスのエリーとメリーが出迎えてくれるが、エリーの手には練習用の木のナイフが両手にあり、メリーの手にはペンがある。

 客はおらずフロアのテーブルと椅子も少し移動されており、広い空間が出来上がっていて、その場にレオンとアマンダが立っている。隅に移動しているテーブルにはエミリアとミハイルと休憩中のロザリーさんがいて、ノートと本が一冊ある。目が合うと、それぞれ小さく手を上げたり会釈して挨拶してくれた。

「ただいま。何をしてたの?」

「私はアマンダさんにナイフの使い方を教わっていました。メリーは文字と魔法の勉強をエミリアさんとミハイルさんとお母さんに教わっていました。」

「そうか」

 冒険者による英才教育が行われていることは気にしないことにし、エリーとメリーの頭を撫でてから奥のカウンターに座って店主のルナさんに挨拶する。

「ただいま」

「おかえり。あとから領主様の使いが来て話を聞いたよ。護衛をしてきたんだって?」

「ええ、報酬は後日届けると」

「そいつは楽しみだね。依頼成功を祝して一杯やっとく?」

「んー・・・いや、夕食にとっておこう。代わりに皿を・・・三枚出して欲しい」

「皿? いいけど」

 不思議に思いながらも用意してくれたので、俺は城下町で買って来たお菓子をインベントリから出して皿に盛りつける。

「随分と高そうな菓子だね」

「護衛で行ったついでの、お土産だ」

 二枚の皿をアマンダ、エミリアに渡してカウンターに置いてある菓子をルナさんに勧めつつ自分も食べる。

 美味い。ワインが欲しくなる。

 みんなも菓子を食べて顔がほころんでいる。

 食べ終わって部屋で休憩し、夕食にエールで乾杯しながら俺がいない間のミハイルたちの話を聞いた。順調に成長し昇格の依頼をこなしてDランクになったようだ。


 夜、ベッドに横になって転生者と接触する方策を考え始めようとしたら、いつの間にか俺は生と死の狭間の空間の花畑で横になっていた。傍ではミスティアが椅子に座り、テーブルにティーセットを用意して優雅に紅茶を飲んでいた。

 起き上がるのも面倒なので、その体勢のまま問い掛ける。

「何か御用で?」

「今回の件に関して、個人的に憤りを感じているからフォローをすることに決めたの」

「フォローね。何をしてくれる?」

「他の転生者の大まかな位置を教える。それでいい?」

「それは助かる。具体的に範囲は?」

「町単位でどう?」

「充分だ」

「なら、まずはレイクンド公国の南にあるヘクトル帝国の首都に向かいなさい。そこにいる転生者は目立つ格好をしているからすぐに分かると思うわ。じゃあ、頑張って」


 景色が一瞬にして変わり、元の部屋に戻っていた。気付かずに寝ていたのか時間はかなり進んでいたようで、部屋は明るく窓からは綺麗な早朝の景色が映っていた。

 フロアに降りると、ロザリーさんが厨房で料理を作っており、ルナさんが依頼書の確認をしていた。他はまだ誰も起きていないようだ。

「おはよう」

「ああ、おはよう」

「ちょっと旅に出る」

 ルナさんの手が止まって顔を上げた。

「急だね。差し支えなければ、何処に行くか聞いてもいいかい?」

「ヘクトル帝国にいく。会いたい人間がいるのでね」

「会いたい人ねぇ・・・もしかして彼女?」

「ないない。とりあえず、会って話をしないといけない相手だ」

「そう。行ってらっしゃい」

「行って来ます」

 湖のさざなみ亭を出て、まだ人の往来が少ない町中を歩いて門を出る。そこから少し歩いて人目の付かない場所に到着したらテレポートでレイクンド城のある町の傍まで転移し、そこから認識阻害の魔法を掛けて空を飛んで現在地を確認する。太陽の位置、湖の位置、レイクンド城の位置から現在地を割り出し、インベントリから買っていた地図を取り出して南の方角に向いて飛んでいく。

 地図と地上を交互に見ながら街道沿いに飛んでいくと、何度か魔物の小さな群れを発見。無視して飛んで途中で山の間の狭い平野の手前に陣取る異常なまでに要塞化された都市と呼べるほどの町を過ぎた。兵士の数が多く、出入り口がかなり厳重になっている。地図を見れば国境線に沿った『ウェンズディ要塞』という名前の町だった。

 そこを通り過ぎると広大な平野が広がり、またも様々な魔物を発見した。魔王を何とか出来れば魔物の研究をしてみるのもいいなと思いながらも進み、次に大規模な農園と幾つもある集落に景色が変わり、やがてレイクンド城の二倍はあろうかという巨大な城と、大きな町が見えた。

 人目の付かない適当な場所に降り立って認識阻害の魔法を解除し、城が見える町の門に並ぶ。慣れたお陰でそれほど緊張もせず、何事もなく町に入れた。レイクンド城の町よりも大きいここは、人通りも多く活気があるが、多過ぎて酔いそうになった俺は自然とその場を離れるように人通りの少ない区画へと移動していった。

 門と門の間の外周部、不動産的に立地の安そうなここは、華々しい活気に満ちた大通りとは違い、質素な家や着飾らない店が立ち並んでいる。

 その中で一つの建物が異彩を放っていて、二度見して足を止めた。デフォルメされた兎の石像が置かれており、看板には『喫茶店:兎の休憩所』と書かれている。テラスで掃除をしているメイド風の衣装をしたウェイトレスも兎の付け耳と尻尾がある。

 目を疑って思わず擦ってしまう。

 ・・・ここ、幻想世界ミステルミスだよな?

 ・・・日本の秋葉原とか原宿じゃないよな?

 気になり過ぎて緊張なんて心の中から消え失せ、窓から少し店内を覗く。温もりのある木造りのなんてことはない普通の喫茶店のようだ。まだ朝が早いから客は少ないようだが、営業中の札が掛けられており、少し人酔いが残っている俺はここで休憩を兼ねて朝食を食べようと決めた。

「いらっしゃいませ」

 ウェイトレスたちが挨拶してくれる。誘導されるままに空いている席に案内されて座ると、水とおしぼりが置かれた。冒険者の宿でも見なかったサービスだ。手に取ってさらに驚く。水の入ったグラスはかなり冷たく、おしぼりの方は熱すぎずぬるくない。徹底的に管理されている絶妙な温度だ。

「メニューが決まりましたら、声を掛けてください」

 メニューを渡しながらそう言いつけてウェイトレスは離れる。

 メニューを開く。一般的な相場よりも若干、いや普通に高い。紅茶一杯が小銀貨二枚、フレーバーやオリジナルは大銀貨一枚だ。茶菓子も小銀貨二枚、高いのだと大銀貨二枚する。

 金額に目が移っていたが、紅茶も茶菓子も種類はあり、朝食セットや定番のセット、期間限定セットなどのメニューがあった。素晴らしいまでの現代的経営に転生者が背後で関わっている可能性を見出しつつ、それはそれとして注文する。

「すいません、注文をしたいんですけど」

「はい、ただいま」

「この朝食セットを一つ」

「はい、大銀貨一枚になります」

 懐から取り出すふりをしてインベントリから大銀貨を出して渡す。冒険者ギルドで見たやり取りでサインされた紙の半分が置かれ、ウェイトレスが奥の厨房に紙を渡した。

 暫くするとお盆に乗せた料理が運ばれてきた。焼いた小さなロールパンにトロリと溶けかけのバターが乗ったものと、食パンにハムと卵が乗ったものがメインだ。他にサラダと切られた果物が別々で皿に盛られている。

 セットの紅茶があとから用意され、目の前で淹れてくれる。その所作には見覚えがあり、クラインのメイドたちと同じ動きで、貴族が監修に関わっている可能性も浮上した。

 ・・・貴族の道楽という線も捨てがたいか。

 それはそれとして、とても美味しそうな朝食は食べる。

 ロールパンを齧れば外はサクサク、中はモチモチ、濃厚なバターの香りと旨味が口に広がり、それだけで口元が緩んでしまう。紅茶を啜れば、コクと渋みがあり、眠気を覚ますのにも良く、バターとパンの味に負けない美味さだ。品種としてはアッサムが近いか。

 次にハムエッグトーストを口にする。こちらは切った後にもう一度焼いているからかサクサク感が強い。だが厚く塩辛めのハムがパンの甘さを引き立て、そこに卵の味が加わって何とも言えない幸福感が広がった。

 サラダの野菜もデザートの果物も新鮮でとても美味い。満足感のある朝食を終えた俺は、ウェイトレスを呼ぶ。

「すいません、追加の注文を」

「はい、何でしょう?」

「紅茶を頼みたい。あと質問が一つ。このお店はどこの誰が出資しています?」

「あー・・・店長をお呼びしますね。紅茶は小銀貨二枚です」

「なら、店長の分も出そう」

 小銀貨四枚出してウェイトレスが離れると、すぐに店長と思しき、普通の格好をした女性が厨房から出て来て向かいの席に座った。

「私が店長のナタリアです。何か聞きたいことがあるとか」

 すぐさまステータスで確認するが、転生者ではない。

「紅茶の淹れ方が素晴らしくてね。貴族に監修を受けているか聞きたくなった」

「っ! 正解です。伝手で貴族に仕えているメイドに教わりました」

 その時、丁度良くウェイトレスが紅茶を淹れに来た。もう一度見てもその所作は優雅なもので、しっかりと教育されたものであることが見受けられた。

 飲んでみると、やはり美味くて心が豊かになる。

「もう一つ。この店の出資者、または発案者は誰です?」

「出資者は冒険者のイナハさんです。いつも兎の耳を着けてる可愛らしい人ですけど、物凄く強い冒険者なんですよ。このお店の発案というか、デザインは私ですね。そういうあなたは?」

「俺は冒険者で隠者のユウという者だ。はい、これが冒険者カード」

 冒険者カードを見せてみるが、彼女は少し感心しただけで、あまり驚きはしなかった。

「・・・Aランク冒険者ですか。もしかして、イナハさんの噂を聞きつけてやってきたのですか?」

「噂?」

 首を傾げると、彼女も見当違いだったのか首を傾げた。

「あれ? 違いましたか。イナハさんはこの国では有名なんですよ。目立つ格好していますし、凄い功績を幾つも残していますから」

「なら、是非とも会いたい。どこに、どうやったら会える?」

 彼女は腕を組んで考え、うーん、と唸ってから答えた。

「・・・多分、教会かな。ここから西側の通りで城に向かって進んだ所に、身寄りのない子供たちを保護している教会があって、そこでたまに子供たちの世話をしているよ。いなかったら戻って来て。別の場所を教えるから」

「分かった。ありがとう」

 紅茶を飲み干してから席を立って出て行った。

 忘れないうちにさっさと目的地に移動すると、またもや目を疑う光景を目撃して、俺は眉間を押さえた。

 ・・・マジか。俺、今からアレに話し掛けなきゃいけないのか。

 頭痛もしてきたが、見ないわけにもいかずにステータスで確認する。



 名前:イナハ(転生者)

 性別:女性

 性格:面倒くさがり

 装備:バニースーツ一式チート

 スキル:無し



 燕尾服を上着として来ている白いバニースーツを着た中学生くらいの、大人の色気もまだない華奢な少女が、教会の前で子供たちに囲まれて遊んでいる。その少女も子供たちも笑顔ではあるが、異様過ぎる光景に頭を押さえたくなる。

 深呼吸して話し掛ける気構えを整えていると、彼女が気付いて子供たちに言い聞かせてからこっちに来た。

「おじさん、何か用?」

 声は柔らかいが、目が明らかに威圧と警戒を示している。

 ・・・ああ、関わりたくない。

 溜息を吐いて、答える。

「・・・まぁ、用はある。近い未来の、重要な話だ」

「何それ」

 訝し気な目で見て来る。

「魔王が復活するらしい」

「はあ?」

 ・・・ああ、もう神様にぶん投げたい。

 面倒臭くなって自分のことを教えることにした。

「ステータス」

 見せた瞬間、彼女は飛び退いてインベントリから大鎌を取り出して、瞬時に黒いバニースーツに変身して身構えた。

 周りにいる人間が彼女と俺を見比べ、足早にその場から離れて行く。

「転生者・・・本当に何の用?」

「言った通りだ。近い未来に魔王が復活するらしい。だから、転生者に接触して協力を求めている」

「そんなの信じられる?」

「神様に確認は取っている」

「嘘だね。神様がこの世界に来る筈がない」

「こっちから行ったまでだ」

「そんなこと出来るわけない」

 彼女は俺の言葉を信じないと確信した俺は、夢の女神ミスティアの真横に生と死と狭間のゲートを開いて手を突っ込み、彼女の腕を掴んで引きずり出した。

「ちょ、ちょっとユウ!?」

 動揺するミスティアを無視して前に立たせる。

「神様だ。見覚えはあるだろう?」

「う、うん・・・」

 無理矢理だが納得したようなので、俺はミスティアをゲートに放り投げて返した。

「ということで、話をしたい」

「・・・分かった。付いて来て」

 大鎌をインベントリに仕舞った彼女は歩き出し、俺は少し離れた位置を歩く。正直、目立ち過ぎる格好の彼女の傍を歩きたくはない。それから俺が来た道を戻って着いた先は、さっき入ったお店、喫茶:兎の休憩所だった。

「いらっしゃいませ。あっ、イナハさん。と、さっきのお客さん?」

 ウェイトレスの反応に、彼女は振り返って俺を見た。

「なに、来たことあるの?」

「偶然だ。気にするな」

 席に案内されて水とおしぼりが出されるが、彼女はウェイトレスが渡して来るメニューを拒否する。俺もさっき食べたばかりなので丁重に断ると、ウェイトレスたちが遠巻きに見守る中で話し合いが始まった。

「で、魔王って具体的にどんな奴なの?」

「魔王の名前はデスダイナ、種族は神でありドラゴン。それ以外、神様は話せないと」

「名前と種族だけじゃ、対策の立てようも無いんだけど」

「だから戦力を集めている。幸い、この世界は転生者が何人もいる。協力すれば充分に戦える、と思う」

「うん、まぁ戦えるでしょうね。でもそれって転生者の役目じゃないよね。勇者っていないの?」

「勇者はいない。神様に聞いたが、派遣もされないらしい」

「何それ」

「神様曰く、勇者は世界で引っ張りだこで、この世界は重要度が低いんだと」

「・・・納得いかないなぁ」

 溜飲を下げるようにイナハは水を飲んだ。

「気持ちは分かるが、やらきゃやられる状況だ。手伝ってくれるか?」

「うーん、まぁ・・・私も守りたいものはあるしね。手伝うよ」

「ありがたい。魔王は近々復活するらしいが、いつ復活するかはわかっていない。何か起これば知らせる。連絡手段はどうすればいい?」

「ここか、教会か、冒険者ギルドか商業ギルドに言伝を頼んでくれれば私に連絡は行くよ。ただすぐには来られないからね」

「分かった。ではまた会おう」

 席を立って俺は店を出た。格好はアレだが、話せば知性を感じる少女だった。格好はアレだが。

 華奢な少女のバニースーツ姿という変な記憶を上書きする為に、観光で町を歩く。人通りの多い所は気を張って歩いて出店や露店でまだ食べていないものを買い漁り、お土産用にこっちの国の菓子と酒と茶葉を買う。ついでに冒険者用の店に入って野営用の装備を一通り買ってこの町から出る。人気が無く比較的安全そうな場所を見つけて野営を設置し、結界を張って俺はゲートを開いた。行き先は生と死の狭間の世界だ。


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