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隠者のユウは隠居ができない  作者: 宮之内誠治
第一章:伝説の始まり
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二話:初めて魔法を駆使する

微妙に修正。

 「・・・・・・マジかぁ」

 不安は的中した。確かに海のど真ん中や洞窟ではない。

 だが、安全な場所ではない。空には大きな満月が辺りを薄く照らし、傍には川が流れ、虫や動物の鳴き声が聞こえる暗い森の中だ。


 ばかやろおおおおぉぉぉ! って叫びたい。


 実際には叫ばないし叫べない。そんなことをしたら何が起こるか分からない。

 行動に移すべく、まず月を見る。月の位置から凡そ真夜中だと推定し、どう動こうかと考えて、まずは光源の確保が重要だと魔法を使うことを決意。ガイドの通りイメージと気合で手の平に火を灯す。

「っ、熱い!」

 手の保護を考えていなかったせいで熱さに耐えられず火を消し、近くの川に手を付けて冷やす。元の状態をイメージして回復魔法を使いつつ、魔法が使用上の注意が必要であることを文字通り痛感した。川から出した手は回復魔法によって火傷は治り、動かしても痛くない。

 火が駄目ならば科学的光源にするまでと、今度はLEDライトのような光の球体をイメージし、バスケットボールほどの大きさの硬くて光る球体の作製に成功した。それをあと三つ複製して四方に浮かばせて探索準備は完了するが、大きな問題に気づく。

 しまった、場所も方角も分からない。これは不味い・・・。

 来て早々迷子で死ぬのかと思いながらも森からの脱出手段を考え、閃いたのは川沿いに進むことだった。最悪海か湖に出れば、岸沿いの港町の一つにでも辿り着くだろうと考えて移動を開始した。

 途中、手ごろな大きさと形の、先が尖っている頑丈そうな木の棒を入手して装備した。

 暗い森の中での恐怖を紛らわせる為に無心で目的地に進むこと何分かが経過した。

 ガサガサ。

 と、横の茂みの間から物音がして素早く構えて立ち止まると、木の棒を持つ二足歩行の魔物が現れた。

 その数、三。

「おおう・・・」

 思わず声が漏れ、背水の状況で木の棒を構える。恐怖と緊張に手が、足が、ガタガタと震える。相手は醜い顔に尖った耳、緑の皮膚に細い手足、膨れた腹のまるで餓鬼のような姿をしていた。木の棒を持っており、俺を見るなり嬉しそうにはしゃぎ出した。

二足歩行の人型でも、言葉が通じるとは思えず、怖くて嫌で今すぐにでも川を渡って逃げ出したい。だが、逃げるよりも立ち向かった方が幾分生存確率は高いだろうと直感的に判断して、戦う覚悟を決めた。

 ステータス!


 名前:ゴブリン

 性別:オス

 能力:ヤバイと思うならヤバイ


 ゴブリン? ヤらなきゃ・・・。


 ――・・・来る!


 体の力を抜いて相手の動きに合わせて突撃。

 間合いを崩す為に一気に詰め寄って素早く木の棒を突いて一番に動いた一体の首を突き刺し、素早く抜いて防御の構えを取る。

 一手遅れて来たゴブリンの振り下ろしを斜めにした木の棒で受け流しつつ背後に回って心臓目掛けて一突きし、最後のゴブリンは躊躇った瞬間を見逃さず引き抜いた木の棒を投げつけて怯ませ、顔面に蹴りを入れ、倒れたところで光の球体を手元に一つ手繰り寄せ、顔面に何度も振り下ろした。

 鈍い音から次第にグチャッグチャッ、と血肉がこびりつく音に変わり、ピクリとも動かなくなる頃には服が返り血で汚れ、ゴブリンの頭部は完全に潰れてしまっていた。

 興奮によって手は震え、心臓の速い鼓動に、ある種の快感と疲れを抱き、自分がした行いに嫌悪感を抱いて俺は川に入って火照った体を冷やしつつ血を洗い流した。同時に、込み上げて来た気持ち悪さから盛大に嘔吐した。


出す物を出しきり、口をすすいでスッキリしたところで川から出る。

「・・・あー、怖かった」

 終わったことを確認するように誰もいない森の中で呟き、濡れた服を絞ってインベントリに仕舞い、この世界の旅装束を取り出して着替える。

 そして、すぐにその場を離れた。血の匂いに惹かれて他の魔物や獣の類が寄ってくることは明らかだからだ。

 それにしてもこの旅装束は中々快適だ。動きを阻害せず、かといって薄すぎない。外套も薄いのに寒くも暑くもない。

 もしやと思ってステータスで確認してみる。


 名前:神の土産の旅装束

 性能:快適かつ丈夫


 どうやら質がいいだけの服のようだ。それはそれで気兼ねなく使えるのでありがたく普段着にさせて貰う。

 まだまだ夜明けには遠い暗い森を川に沿って進むこと数分。今度は大きな猪が急に突っ込んで来た。

 咄嗟に真横に避ける。

 全長一メートルほどの大きな猪だ。あの図体と鋭い牙の突進を今度は避けられないだろうと身震いし、どうやって生き延びようかと考える。

 武器は無し。魔法で武器を創り出すのはちょっと集中する時間が足りない。石を投げつけたいが拾うタイミングが無い・・・球体があった。

 振り返って再び突っ込んでくる猪に対し、二個の光る球体に意識を集中し、手で球体を操って足元へ向けて飛ばして跳び上がらせ、浮いている所を球体で側面からぶつける。鈍い音がして猪はバランスを崩して地面に倒れるが、流石は生命力の強い獣、興奮した状態ですぐに起き上がろうとするが、俺はその隙を逃さずに再び足元を狙って攻撃し、今度は足を折ることに成功。そのまま攻勢に出て完全に沈黙したと確信するまで球体をぶつけ続けた。

 猪の全身の骨が砕けて形が変わって全く動かないと判断した俺はようやく一息つき、操作していた光る球体二つを川で軽く洗い、所定の位置に戻してその場を離れた。

 あの不審者女神、今度会ったら文句の一つでも・・・言えたらいいなぁ。


 川の傍を歩いてまたまた数分。ようやく森を抜けて川の終点に到着した。

月明かりがあるとはいえ、暗すぎて視界に広がる水面が湖か海かは判別がつかない。だが、小さな波と共にくる水草と魚の生臭さが鼻を突き、潮の香りがしないので推定、湖とした。

 周囲を警戒しつつぼけーっと月を眺めたあと、軽くトイレを済ませて川で手を洗い、ごつごつした浜辺を探索して枝や枯草を集め、火の魔法を撃ち出して焚火を完成させた。

 今日はここで野宿だ。暗い夜の間に町に到着しても、店はやっていないし不審者にしか思われないだろうと判断したからだ。幸い光源の確保は出来ているし、やりたいこともあった。

 石を一つ拾い、それが光るようにイメージして魔法を付与する。イメージ通りに石が光った。投げつければ離れた場所を照らす光玉の完成だ。この石の魔法を工夫し、ゆっくりと落下して光るのを数秒遅らせるようにすれば、疑似的な照明弾となるだろう。

 試作一号の石は勿体無いので何かが潜みそうな場所に投げ込んでおく。そしてすぐに試作二号の作成に取り掛かった。



 ――どれだけの時間が過ぎただろうか。



 焚火は消え、周辺は試作として作られた数十の光る石で明るく、空は夜が明けつつある。

 浮遊と時間制御と発動時間の長さの調整に、悪戦苦闘してようやく満足のいく結果に近づいた俺は、試作約五十号をまだ暗い場所の真上に向かって投げた。試作五十号は落下し始めるタイミングで弱い浮遊を作動し、ゆっくりと落ち始めながら強烈な光を放ち出した。落下するまで二十秒、落下してからも十秒ほど光り続けて消えた。

手に持てるサイズの石でこれだけ出来て満足した俺は、照明玉として正式採用し、幾つか石を拾って照明玉の魔法を掛けてインベントリに仕舞った。

「さて・・・どうしよう」

 呟いて、自分が作った周辺の変な状況に困惑する。消えた焚火を中心に光る石が転がっており、川や湖に投げ捨てた光る石もある。発動時間の調整は終盤までやっていなかったから、適当に魔力を込めた数十の石がどれだけの時間光り続けるかも分からない。

 結論は、放っておくだった。害のあるものでもないし、拾ったところで魔力が切れれば付与した魔法も消えてただの石ころに戻る。もしこの現場を目撃する人間がいたとしても、謎の現象か誰かの悪戯や実験として酒の席で話されるのがせいぜいだろう。

 ただ、この現場で見つかっても面倒だと思った俺は足早にこの場を後にした。なんやかんやで公権力に捕まるのは嫌だからだ。来た方向から特定されるのも嫌った俺は、わざわざ明るくなり始めた森の中に戻り、光る球体も消して、湖と並行して進める方向を数分歩いて、もう一度浜辺に出た。これで最初から最後まで目撃している人間以外は、森から出て来た旅人と言う認識しかしないだろう。

 もう一度浜辺に出たところで、遠く離れた対岸の山から日が昇り始めた。日の出の美しさに暫しその場で見惚れてから周辺に目を向けると、浜辺の傍まで塀で囲んでいる町が見えた。

 木造の船が幾つか漁に出始めているようで、人の暮らしがあるだろうと判断して俺は森と浜辺の間を進んで近づいた。


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