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隠者のユウは隠居ができない  作者: 宮之内誠治(覇気草)
第一章:伝説の始まり
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十九話:王立騎士魔術学園訪問

 特訓も終わり部屋でのんびりしながら夕食はどうしようかと考えていると、扉がノックされた。

「どうぞ」

「失礼します」

 入って来たのはメイドのマノンだった。

「ユウ様、旦那様が夕餉に招待しています。来られますか?」

「家族水入らずで食事をすると思ってたけど・・・行った方がいい?」

「旦那様以外にも、奥様、クリス様、シエラ様もあなたが来ることを希望しています」

「全員に呼ばれちゃ、断るのも失礼ですね。行きましょう」

 マノンに案内されて昼に来た食堂に到着。光る結晶で照らされた食堂には既に着替えたクリスとシエラ、クラインとミシェルが座っていた。テーブルの上には既に来ることを前提にして食事が置かれていた。

 俺が座るとメイドが赤ワインをグラスに注いでいく。

「では、今日も豊かな食事が出来ることに、乾杯」

 注ぎ終わったのを確認すると、クラインがグラスを持って言い、それぞれ乾杯をして食事が始まる。

 具沢山のスープはサッパリしていて赤ワインの味を仕切り直すのによい。メインのステーキは程よい脂が乗ったもので、濃いめのデミグラスソースが美味い。添え物の蒸し野菜に付けて食べてもいい感じだ。パンはサクサクしたクロワッサンとモチモチのロールパン。サラダには木の実を砕いて酸味のあるドレッシングがかけられている。

 どれもこれも美味く、味わうようにゆっくりと食べながらアルバレスト家の会話を聞く。クリスやシエラの今日の学校の出来事や、ミシェルの他愛ない仕事の愚痴、クラインのポートローカルや領内の近況、などなど。

 話が一通り終わった所で、さらっとクラインが口にして視線が俺に移る。

「ユウは、明日はどうしたい?」

「というと?」

「明日は貴族会議で、関係者以外は出入り禁止の上に俺もミシェルも夜まで城に箱詰めになる。クリスもシエラも学校でいない。家にいるのなら構わないし食事も用意するが、どうだ?」

「そうですね・・・町の観光でもしようと思っているので、陽が沈むまでは外にいますよ」

「そうか。なら――」

「あの、お父様、少しいいですか?」

 遮ってシエラが声を上げた。クラインは俺から視線を娘に向け、優しく問う。

「どうした?」

「ユウさんを、学校に連れて行きたいです」

「それは――」

「俺も連れて行きたい」

 クリスが便乗して言い、また遮られたクラインは子供の我が儘を見て困ったような表情をした。ミシェルは状況を楽しんでいるのか静観を決め込むようだ。

「クリス、シエラ、部外者を学校に入れるには許可が必要だろう。どうやって当日に取るというのだ?」

「お父様の権力を使います!」

 シエラの大胆な発言に、俺は飲んでいたワインを噴き出しかけた。クラインも苦笑せずにはいられなかったようで、同じく連れて行きたいという意思を持つクリスに問う。

「クリスは、どうやって許可を取るつもりだ?」

「生徒会長として、先生たちに剣術の外部顧問として許可を出させます」

 クラインは溜息を吐いて眉間を手で押さえ、ミシェルはくすくすと笑った。当事者の俺はどちらでもいいので、メイドにワインのおかわりを貰った。

 立ち直ったクラインは、まるで諭すように二人に言う。

「・・・お前たちには地位や権力に驕らず、公明正大であって欲しいと思っている。だが意志も尊重してやりたい。折衷案として学園長宛てにお願いの手紙を書く。それで向こうの判断に任せようと思うが、それでいいか?」

「はい、お父様ありがとうございます!」

「ありがとう親父」

 二人が嬉しそうにするのを見たクラインは、俺に向き直る。

「すまんな、勝手に決めてしまって」

「大丈夫ですよ。観光ならいつでも出来ますし」

「そう言ってくれると有難い」

 食事はそのあとも少し続き、食べ終わって筋トレをしたり武器の手入れをしていると、部屋の扉がノックされた。

「どうぞ」

「失礼します」

 入って来たのはマノンだ。他にも何人かメイドを見かけているが、今のところ彼女以外に世話になっていない。そういう対応なのか、それとも当番制なのだろうか。

 そんなことを思いつつも彼女の言葉に耳を貸す。

「浴場の準備が終わりましたので、お声を掛けました」

 彼女の言葉に耳を疑う。

「浴場?」

「はい。別の言い方をすればお風呂です」

 驚いた。古代の欧州や中国、日本に入浴文化はあるが、この世界にあるとは・・・。

「是非、案内してほしい」

「ではご案内します」

 案内された先は、少し狭いが日本の銭湯に似た脱衣場だ。

「ごゆっくりどうぞ」

 メイドのマノンが扉を閉めていったので、服を脱いで棚に置き、盗難防止に軽い結界を作ってインベントリから布を一枚取り出して浴室へ移動する。

 湯が籠ったその部屋は石造りで小さな窓があり、大きな四角い桶が設置されている。傍には鏡と小さな桶と椅子があり、そこで一旦体を洗えるスペースがある。細部を見れば、桶に向かってお湯が垂れ流されるパイプが繋がっており、部屋の隅を覆うように水が流れる溝が作られていた。作りから推測するに、しっかりと排水する導線が作られていると確信した。

 体を軽く濡らしてから布で汚れていそうな箇所をふき取り、湯船に浸かる。

 ・・・これはいい。もしかしたら、ずっと前にいた転生者の誰かが、風呂に入りたいから流行らせたのかもな。

 そんなことを思いながらじっくりと風呂を堪能する。何の効能もない水を温めただけの風呂であったが、心機一転するには丁度いい機会だった。



 翌日、いつもよりも気分よく朝を迎えた俺は・・・食堂の椅子に座って手持無沙汰にしている。早起きして邸宅内を散歩していたら忙しそうに動くメイドに見つかり、食堂に通されて待機している。調理中のメイドに手伝おうかと声を掛けたが、丁重にお断りされた。

 それから十数分すると、ミシェルとクラインが髪も顔も服装も完璧な状態で食堂にやって来て座り、挨拶してくる。

「おはよう。昨日はよく眠れたか?」

「ええ。よく眠れました」

「それは良かった。ミシェル、君の今日の予定は?」

「朝から城で陛下用の資料作成です。クライン、会議には少し時間がある筈。手伝ってもらってもいい?」

「ああ。手伝おう。いつ出発する?」

「食事を終えてすぐ」

「分かった。なら、こいつはあんた預かってもらおう」

 懐から出したのは簡素だがしっかりと封蝋された手紙だ。

「それには王立騎士魔術学園の学園長宛てに、ユウの出入り許可願いが書いてある。お寝坊さんのクリスかシエラに渡してくれ」

「はい。渡しておきますね」

 話は終わり、朝の食事が運ばれてくる。昨日は家族全員と客人だから豪華にしたようで、忙しい朝ともなると、庶民と何ら変わらないお手軽料理だった。一種類のパンと一口大に切って焼いた肉と野菜。それと紅茶と切った果物。それだけ。

 味わいつつも素早く食べ終えた二人は、資料の内容はどうこう、どこを細かく作成するかどうこうと仕事の話をしながら食堂を去って行った。

 俺が食事を食べ終えるくらいになって、シエラとクリスの二人が学生服姿で食堂に来た。

「おはようございます」

「おはよう」

「おはようさん。昨日言ってた手紙を預かってるから、どっちに渡せばいい?」

「俺が預かる。親父は他に何か言ってなかったか?」

「いや、忙しそうにしていた」

「そうか」

 二人は用意された食事を食べ始める。学校の朝は早い方なのか少し急ぎ気味だ。

 食べ終わった二人は再度身支度を整え、勉強道具が入っているであろう鞄を持って玄関を出る。正門には家紋入りの馬車が待機していて、俺も同乗する。

 カタコト揺られて何分か。馬車が止まって御者が扉を開ける。降りて周りを見れば、クリスやシエラと同じ服を着た学生たちが門戸の奥の記念物になりそうな立派な建物へ向かっている。一部の生徒はこの場では目立つ旅装束の俺に気付いて不思議そうな顔をし、近くの友人と話をし始め、門の傍で学生たちを出迎えて挨拶している先生らしき壮年男性が一人、俺に気付いて近づいて来た。

「そこの旅人の君、この学園に何用かね?」

「ガブリエル教頭、おはようございます」

 クリスが俺の前に出ると、先生と思われる壮年男性は一瞬驚いた顔をした。

「ああ、おはようクリス。私は彼に用があるのだが」

「彼はユウ、冒険者で俺とシエラの師匠です。学校を案内したくて、父上から学園長宛てに手紙を預かりました」

 懐から出した手紙を受け取ると、彼は溜息を吐いた。

「その行動力は評価するが、せめて前もって先生の誰かに相談してくれると嬉しいんだがな」

「善処します」

「冒険者のユウさん、でしたね。申し訳ないが門の外で少し待っていてくださいね。クリス、付いてきなさい」

「はい教頭」

 クリスト教頭が奥の建物へ入っていくのを見届けたところで、シエラが俺の前に立った。

「私も友達を見かけたので行きますね」

「行ってらっしゃい」

 シエラが軽く走って手を振っている学生に近づき、合流してそのまま行ってしまう。残された俺は次に来る馬車の邪魔にならないように門の傍に移動して待った。学生たちの物珍し気な視線に何分耐えたか。クリスが走って戻って来た。

「許可が貰えた。これ、出入りを許可するカード」

 渡されたのは偽造が難しそうな模様と番号が書かれたカードだ。紐が取り付けられていてネックホルダーのようになっている。

 変な魔法が掛かっていないか調べるが、何の変哲もないものだと判明して首からぶら下げる。

「じゃあ、案内するから付いて来てくれ」

 特に行く当てもないので付いて行く。

 門を潜って学生たちと同じ建物に入る。その際に敷かれているマットで軽く靴裏の汚れを落としていく。

 最初に案内されたのは、各学年の教室。学生たちの視線が気になるし、ヒソヒソと話し合う声が聞こえる。

 そんな中、好奇心旺盛そうな快活な雰囲気を持つ癖毛気味の女子が尋ねて来た。

「ねぇ、クリス。その人誰?」

「Aランク冒険者のユウ。俺の剣の師匠だ」

「へー。その剣、珍しい見た目だね。見せて欲しいんだけど」

 クリスも気になったのか、俺に視線を向ける。

「いいよ」

 答えて片刃剣を引き抜き、くるりと回して持ち手を彼女に差し出す。

 手に取った彼女は不思議そうに剣を見つめながら軽く振るう。

「はー、騎士が使う剣と全然違う。片刃だし、反りがあるし・・・技で斬ることに特化してるって感じ。返すよ、ありがとう」

 見る目があるなと思いつつ、返された片刃剣を仕舞う。

「クリス、彼女は何者?」

「レイチェル・マーチ。代々騎士を輩出している名家だ」

「まぁ、私は騎士になるつもりはないけどね」

「そうは言うが、剣の腕は学園一だ」

「家業で鍛えられてるだけ。お父様が認めるくらいの強くていい男がいたらさっさと結婚したいわ」

「難儀だな」

「ほんと。行き遅れるか不安よ」

「じゃあ、俺は案内を続けるから」

 レイチェルと別れて次に案内されたのは食堂だ。汚れることを前提にした作りなのか、壁やテーブルに幾つか装飾がされているだけで質素だ。

「ここは食堂。普段はみんな同じものを食べてるけど、前もってリクエストを出しておけば作ってくれる。元王宮料理人が料理長をしているから、美味いんだ」

「いいね」

 その次に案内されたのは図書室。天井付近まで本棚になっている場所もあり、専用の梯子がある。居心地の良さそうな談話スペースも用意されていて、学校という施設だけあって力の入った場所のようだ。

「ここが図書館。奥には魔法書もあるが、危険な書もあるから先生が同行しないと閲覧できない」

 他にも魔法実験室や舞台場、休憩用の華々しい中庭や特訓用のグラウンドを見て回る。

 大体見て回った気がした時、建物の上に設置されている二つの鐘のうちの一つが揺れて鳴った。

「あの鐘は?」

「今鳴っているのは授業が始まることを知らせる鐘だな。その隣の鐘は授業の終わりを知らせる」

「クリス、授業は出なくていいのか」

「ああ、俺は今日案内を理由に授業を免除された」

「それで、大体回った気はするけど、これからどうする?」

「そうだな・・・」

 クリスが何か思いついて嫌らしい笑みを浮かべる。

 そのまま黙って歩き始めたので、付いて行く。

 扉を開けて入った先は授業中の教室で、シエラが二度見をして頭を抱えている。授業中の先生は俺たちを一瞥した後、特に何も言わずに授業を再開した。

 ・・・授業参観か。これは、シエラが恥ずかしいだろうな。

 授業の内容は魔法理論のようだ。火の魔法は、火風水土の基本四属性で扱いやすく、また発展させやすい。呪文は先人が残した最適化されたもの。読み解いて魔法を行使すれば、しっかりとその通りに発動させることが出来る。これはどの魔法でも変わらないが、属性が抽象的なもの、形状が複雑であればあるほど、詩的な呪文となり、難しい。

 なるほど。平時で、基礎として学ぶなら良い理論だ。残念なのはこれでは個人の持つ感性が腐る。呪文にマッチした感性を持つ人間なら伸びるだろうが、合わない人間は伸び悩む。



 授業が終わりを告げる鐘が鳴るとすぐにシエラがこちらにやって来た。

「兄様、なんで来たんですか!」

「案内だ」

「恥ずかしいからやめてよ!」

「そう言うな。それより次の授業はなんだ?」

「えっと・・・魔法実技だけど」

「なら、早く準備した方がいいんじゃないか?」

「ううう・・・」

 言いたいことはあるが、自分も行かなければと葛藤したシエラは、クリスを睨んでから教室から出て行った。

「では、グラウンドに行こうか」

 移動してグラウンドに到着。魔法使いらしいローブに帽子、本と杖を持った学生が続々とグラウンドに集まって来た。シエラもいる。

 魔法使いらしい恰好をしている先生も到着し、授業開始の鐘が鳴る。先生が軽い注意と講義をしてから実際にやってみせ、学生たちが本を開いて呪文を唱え、杖に魔力を込めて木の的に向かって行使する。シエラもそれに倣っているが、一通りやった後に呪文を唱えず魔法を行使してみせた。

 一部の学生たちがシエラに群がる。

「シエラちゃん凄いよ。なんで出来るようになったの?」

「やり方を教えて欲しいわ」

「俺も」

 その中に先生が割って入る。

「シエラさん、自分の魔法以外は無詠唱なんて出来なかったのに。どうして急にできるようになったの?」

「昨日、私に指導してくれた人がいたんです」

 そう言って俺の方を向くと、先生も他の学生も俺に注目する。

 えっ、ナニコレ名乗る流れ?

 困惑していると先生の方から声を掛けて来た。

「どういった指導方法か、聞いてもよろしいですか?」

「あー・・・言わなきゃ駄目ですか?」

「出来れば。生徒もそうですし、私自身も後学の為に聞いてみたいです」

 そこまで言われては答えないわけにもいかず、頭の中で何を話すべきか考えたが、自論を論理的に述べる難解さと緊張で吹っ飛び、思うままを口にした。

「・・・魔法を使う過程から結果まで、即座にイメージできるように体に覚え込ませた」

 何言ってんだか。これじゃあ分からん。

 俺の思いと同じく、先生もこれには困惑した。

「・・・具体的には?」

 口で説明するには埒が明かないと判断した俺は、シエラに声を掛けた。

「シエラ、昨日やったアレをみんなに見せてくれるか?」

「はい!」

 指名されたシエラは、的に向かって昨日覚えた火の蛇腹剣で的を斬ってみせた。おおっ、という歓声と拍手が起こる。

「今のは彼女の魔法だが、それを覚えるまでに似た魔法を見せて、実物を作って振らせて、見て聴いて感じて覚えさせた。ちょっと杖借りるよ」

 学生の一人から杖を借り、昨日シエラに教えていた火の鞭を作り出して的に振るって溶断してみせる。歓声が起こるどころか表情から引いているのが分かった。

「まぁ、こんな感じで実際に何回も振らせて体に覚えて、彼女のイメージからああなった」

「よく分かりました。ありがとうございます」

 先生は感謝を述べ授業が再開した。早速、先生は無詠唱で魔法を行使してみることを指導し、練習させ、学生たちも無詠唱の魔法を使いたいのか俄然やる気を出して練習した。シエラも教える側に回り、何人かが無詠唱で魔法の行使に成功した。



 時間が経過し昼頃。案内も完全に終わった俺はクリスに言って学園から出ることにした。先の魔法実技で無詠唱魔法を成功させた学生たちの噂が広がり、注目されるのが嫌だったからもある。

 城下町を歩き、出店で料理や食材を色々と買い込み、食べ歩きながらステータスで道行く人を観察する。だが、転生者や興味を引くような人間は見当たらない。

 それから数時間、必要そうな日用雑貨を買い込みつつお土産探しをしながら人間観察を行い続け、日が暮れ始める。

 いい時間なのでサーシェス家に帰宅すると、門の前で馬車が待機しており、クラインとミシェルが丁度玄関から出て来た所だった。

「ただいま」

「おかえり。すまないがこれから晩餐会だ。失礼する」

「おもてなしできなくて悪いけど、ゆっくりしてね」

 クラインとミシェルは馬車に乗り込み、さっさと出発した。部屋で寛ごうとしたが、帰っていたクリスとシエラに特訓をせがまれ、夕食まで付き合った。シエラは新たに魔法を習得し、クリスも剣の動きと魔法のキレが昨日よりも良くなった。

 特訓も終わって夕食を摂り、風呂に入って一日が終わった。



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