十六話:隠者、冒険者の弟子を持つ その2
翌日、筋トレに熱中し過ぎてタイミングを逃し、少し遅めの朝食を摂りつつ程よい依頼が無いか探していると、玄関扉が開いて来店を知らせる呼び鈴が鳴った。
「いらっしゃい」
「おはようございます」
ルナさんの挨拶を返したのは、昨日特訓に付き合ったエミリアだった。だがその後ろには同じ年頃の少女と青年二人がいた。
「あっ、ユウさん。おはようございます」
子犬のように駆け寄って来たエミリアのあとを、パッと見で中性的なイケメンといえる青年が続いて口を開いた。
「あんたが、Aランク冒険者になった隠者のユウか?」
「ああ、君は?」
「俺はミハイル。魔法剣士だ」
その横に立ったのは、背中に盾を背負い鎧に身を包んでも身軽に動く青年だった。
「んで、俺がメイン盾のレオンだ。こっちはアマンダ。あんまり会話が得意じゃないけど、弓とナイフと斥候の実力は確かだ」
レオンに腕を引っ張られて横に立たされた少女は軽く会釈した。俺も軽く会釈を返し、とりあえずエミリアに尋ねた。
「エミリア、ここに来たということは、今日も特訓でいいんだな?」
「はい、よろしくお願いします」
気合や良し。人数が多いなら・・・。
「ちょっと待て。食事を終わらせる」
ささっと全て食べ終えて「ごちそうさま」といい、立ち上がってフロアの隅に森の傍まで続くゲートを開いた。試しに手を入れすぐに抜いて向こう側に変化がないことを確認し、次に顔を入れて覗いて安全性が一時的に確保されているのを確認してから移動し、周辺が完全に確保されていると確信してから向こうに顔だけ出して言った。
「いいぞ。こっちは安全だから来てくれ」
「はい!」
「ええ・・・」
「マジかぁ」
エミリア、ミハイル、レオンと三者三様の感想を述べてこちらに来てくれる。アマンダも無言で来る。森への移動が完了してゲートを閉じ、何をしようかと考えるが特に思い浮かばず、エミリア以外の三人に問い掛ける。
「エミリア以外の三人は、どれだけ戦いが出来る?」
それにはミハイルが答えた。
「全員、ゴブリンくらいなら五六体を一度に相手どれる」
「ふむ・・・じゃあ、とりあえず三人は相手してみようか」
俺はインベントリから訓練用の木剣を二本取り出して、一本を地面に突き刺し、もう一本は持ったまま少し離れて言う。
「はい、誰から来る?」
「俺から行く」
一番手はミハイルだ。地面に刺さった木剣を引き抜いて構えた。
「どうぞ、攻めて来て」
挑発するように手招きし、攻撃を促す。
ミハイルは真っ直ぐ動いて素早く剣を振るってくる。剣で弾いて捌きながら後ろに下がり、彼の剣を次々と防いでいく。剣の筋といい、下がっても合わせてくる足捌きに、ちょっと反撃して防ぐ反応から相応の才能が見受けられた。ちょっと彼の限界を見たくなった俺は、大きく離れてインベントリから直接手に木剣を取り出して握り、構える。
彼が構え直して仕切り直しとなり、今度は俺から攻めてやる。二本の剣による連撃を次々と防いでいくが、やはり手数が足りずに足で巧みに避けてようやくといった感じだ。
手を止めて距離を離して言う。
「確か魔法剣士って言ってたな。魔法を使ってもいいよ」
「そうか。なら・・・サンダーアクション」
彼が突きの構えを取った。
一瞬だった。雷の光が見えた時には間合いを詰められ、突きが繰り出されていた。咄嗟に剣を動かして防御の姿勢を取ったことで弾けたが、驚いたことにまた雷の光が見えて対処する。
二撃目が終わるとミハイルは飛び退き、満足気な笑みを見せつつ構えを解いた。
「・・・凄いですね。俺の必殺技、人間相手は初めてですけど、完全に防がれたのは初めてです」
「光るし直線的な動きだから対処しやすい。それに、俺も突きの方が得意だから。こんな風に」
両手の剣をその場に置き、インベントリから木槍を取り出して、ミハイルと同じように近くの木を瞬時に突いてみせた。
「・・・俺より速い」
「まぁ、単純に経験の差だ。これからも暇があれば相手をしよう」
「はい、お願いします」
「よし、じゃあ次は?」
「俺だ」
レオンがミハイルから木剣を受け取りながら位置に着く。背中に担いでいる盾を手に取って構えた。隙の無い防御寄りの構えで、崩すのは難しそうだ。
槍で何度か突いてみるが、彼自身の度胸で全く物怖じせず対処してくる。今度は少し狡い手を使ってみる。足元を狙ったり、頭を狙うと見せかけて手を狙ってみたりしたが、上手く反動を殺したり弾くように受け止めて対処された。
これは中々・・・硬い。
ちょっと離れて言葉を掛ける。
「凄いね。正面からのぶつかり合いで崩せる気がしない」
「Aランク冒険者にそう言われるなんて嬉しいね。お次はどんな手で来ます?」
「では、意地悪しよう」
地面に手を着いて土の魔法を行使し、レオンの足元を凸凹に崩して揺り動かし、仰向けに倒してその地点を一気に隆起させて持ち上げ、地面に落とした。
「ぐふっ」
重い鎧を着込み、盾を持ったまま地面に叩きつけられたのだ、相当な衝撃で外傷はなくともダメージはあるだろう。
宣言通り意地悪でそれを何度か繰り返すと、彼が叫んだ。
「降参! 参った。だからもう、やめてくれ!」
気が済んだので止め、手を差し伸べて起こした。
「防御は充分。だが、搦手に弱いのが課題だな」
「骨身に沁みましたよ」
彼はフラフラとミハイルの元へ戻って行き、立ち上がって俺の方へ来るアマンダとすれ違う時にハイタッチした。
「アマンダ・・・だな?」
名前を確認すれば頷いた。
「君は何が出来る?」
「弓とナイフ」
「じゃあ、ナイフの実力を確認したい」
インベントリから特訓用の木のナイフを出すより早く、アマンダが腰に提げている二本のナイフを手にして突っ込んで来た。思わず片刃剣を引き抜いて斬り掛かるが、ナイフの片方で弾いてもう片方で攻撃して来て、下がりながらこっちも空いている手でナイフを持つ手を弾いて避けた。間髪入れずに剣の間合いよりも近くに張り付き、休まず仕掛けて来て反撃する隙が無い。
仕方なく、風を圧縮した弾丸を素早く打ち込み吹き飛ばすが、彼女は反応して飛び退き衝撃を殺して着地、すぐさま左右に揺さぶり狙いを付けさせないように動きながら接近してきた。俺もほんの少し本気を出し、こっちから急接近して仕掛けるタイミングを外して彼女の首筋に剣を寸止めした。
俺もアマンダもピタリと動きを止める。勝負ありと見て、お互いに武器を仕舞う。
「強いよ。教えることが無い」
「・・・弓は?」
「・・・じゃあ、的を作るから、百歩離れた位置から当ててみ」
細めの木に切り込みを入れて簡易的な的を作成し、そこから百歩離れた位置に移動する。
アマンダは弓矢を構えると、狙い澄ます時間も殆どなしで的に当ててしまった。
俺も買った弓を試すついでに的当てをしてみるが、意外と当たるものだった。
彼女は続いて射ち、初めの矢の傍に当てた。
俺も同じように的に当て、何回か繰り返して的に当てる場所が狭くなって来たので、彼女の目標になりそうに、矢に魔力を込めて放った。高初速で真っすぐ飛んだ矢は的そのものの木を抉って倒した。
「・・・すごい。どうやったの?」
彼女の琴線に触れたのか分からないが、俺への眼差しが関心に満ちていた。
「魔力を込めて撃っただけだ。試したことは?」
「無い。魔力を物に込めるのはとても難しい」
初耳だ。普段からやっていたことは難しいことだったようだ。
「じゃあ、特訓だな」
「うん!」
三人のやるべき課題が出来たところで、エミリアに声を掛ける。
「さてエミリア、爆発の魔法を鍛えるか他の魔法を鍛えるか、どうする?」
「爆発魔法を鍛えます」
食い気味に即答したので、昨日と同じように土の壁を設置する。
「おし、まずは基準の爆発魔法を見せよう。全員離れてくれ」
声を掛けて一緒に離れて、爆発する火球を作り出して思いっきり放り投げる。土の壁に当たると大爆発を起こし、衝撃波がここまで届いた。
「んっ、イイ・・・」
エミリアは今見た光景を反芻しているのか目を閉じて気持ちよさそうにし、他の三人は呆然としていた。
最初に我に返ったミハイルがエミリアに詰め寄った。
「エミリア、こんなの教わってるなんて聞いてないぞ」
「あっ、ごめん。言ったら止められるかと思って」
「いや、止めないが・・・あんなの知らずにやられたら俺とレオンが危ないだろう」
「うん、ごめんなさい。撃つ時はちゃんと気を付けるから」
「それならいい」
「いや、よくねぇよ」
レオンがミハイルにツッコミを入れた。話が終わったようなので俺はインベントリからマナポーションを取り出して言った。
「エミリア、ポーションなら数十ある。好きに調整して好きなだけ撃つといい」
「いいんですか? ポーションって結構な値段がするものですけど」
「構わん。的は適当に見繕ってくれ」
「ではお言葉に甘えて・・・」
遠くの岩に向かって爆発。即座にポーションを飲んだので、傍に大量のマナポーションを置いておき、他三人の相手をした。
――特訓は腹が減り太陽が真上になるまで続き、休憩となる。インベントリから飯や酒を出して振舞いつつ、先の特訓を思い出す。
ミハイルには身体能力を一時的に向上させるポーションを飲ませて手合わせした。かなり強くて、つい、ポーションで底上げした動きを素で出来るようにと言い渡してしまった。
レオンには搦手に対応できるようにあらゆる戦い方をしてやった。盾とは相性が悪い遠距離魔法、盾が意味を成さない高速戦闘、盾が邪魔になり得る密着状態での戦闘など。ボコボコにしてしまったが、彼はタフで飯を美味しく食べつつ会話に花を咲かせている。
アマンダには武器に魔力を付与する練習をした。ナイフを体の一部として膜のように纏わせて、それから内に浸透させていけばいいと教え、その状態を維持して石ころを輪切りにするように言い渡した。まるで調理をするような姿だったが、石ころをナイフで切ることは出来ていた。持続はせず、二回ほどで切れなくなったが。
エミリアは爆発魔法の最適化が済んだのかかなりの数を撃てるようになり、さらに威力の調整や多少の応用的な爆発も出来るようになった。
「えへへ、ちょっと失礼しますね~」
エールを飲んでいたエミリアが杖を持ってフラフラしながら立ち上がった。完全に出来上がった笑顔をしていて、トイレに離れるのかと思ったら杖に魔力を込め始めた。
おおっと?
「エミリア、お前爆発魔法撃つ気じゃないだろうな!」
ミハイルが慌てて彼女を羽交い絞めにした。レオンも加勢して杖を取り上げる。
「以前なら余興程度で済ませたがもう駄目だな。アマンダ」
「任せて」
アマンダが杖を取り上げられたエミリアを連れて座らせ、水を飲ませたりして介抱し始めた。
ミハイルが申し訳なさそうに言う。
「驚かせてすまなかった。エミリアは、酔うと魔法を使いたがるんだ。酒好きで隙があれば飲んで・・・俺が見ていないと危なくてな」
レオンが付け足す。
「だからさっさとくっつけって俺は思ってる」
「レオン!」
「惚気を見せつけられてる俺の身にもなれ」
「立て、久々に勝負だ」
「いいぜ」
ミハイルとレオンは少し離れた場所で殴り合いを始めた。どうやら拳での戦いは互角のようだ。エミリアはそれを見て楽しそうにどちらにも声援を送り、アマンダは傍でその様子を見守る。
そのエミリアだが、男二人の殴り合いが終わりになるころには眠気でうつらうつらと口数も無くなり、とうとうアマンダにもたれ掛かって眠り始めた。アマンダは最初からそうなることを予測していたかのように受け入れ、膝枕をして愛おしく髪を撫でる。
男二人の戦いは終わり、肩を組んで戻って来た。俺が回復ポーションを渡すと、二人はすぐに飲み干して一息入れた。
「ふう・・・お前、前よりタフになり過ぎじゃないか?」
「そういうお前こそ、随分と速くなったじゃないか」
お互いに拳を合わせて認め、二人の視線が俺に向いた。
「こうやって気兼ねなく特訓が出来るのはユウさんのお陰だ。ありがとうございます」
「美味い飯と酒、ポーションまで奢ってくれるなんて、感謝してる。けど、時々何を狙ってるのか気になっちまうよ」
「レオン、失礼だぞ」
「こういう時は直接聞いた方がお互い疑わなくて済む。で、ユウさんどうなの?」
意見は尤もだ。俺は忌憚なく答えた。
「単純に暇だったから付き合った。それだけ」
二人は一瞬呆気にとられたが、すぐに笑みを作った。
「・・・はは、俺たちいい師に出会えたみたいだ」
「だな。俺たち強くなります。だからこれからもよろしくお願いします」
「・・・期待するとしよう」
その後、俺は陽が傾き二人が疲れ果てるまで特訓に付き合った。ミハイルが冒険者の宿に戻ると言い出したので今日の特訓を終えて町に戻り、宿に帰って体を濡れたタオルで拭う。風呂やシャワーが欲しいなと思いつつサッパリしたのでフロアに戻ってカウンターでエールを飲みつつ夕食を待っていると、湖のさざなみ亭の扉の呼び鈴が鳴った。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃっせー」
随分様になって来たエリーとメリーの挨拶に誰が来たのかと振り返ると、ミハイル御一考だった。
「こんばんは」
「邪魔するよ」
「お邪魔します」
「・・・・・・」
四人が入って来てエリーが応対する。
「テーブル席ですか?」
「いや、今回は店主と話がしたいからカウンターがいい」
「分かりました。では奥へどうぞ」
四人がカウンター席に座った。俺はエールを飲みながら見守る。
「店主のルナさんですね?」
「そうだよ。何か御用?」
「俺たち、宿の所属をここに変えようと決めました。いいですか?」
「逆に聞きたい。ここはまだAランク冒険者一人だけの貢献度が低い宿だよ?」
「構いません。俺たちはユウさんを目標に頑張って行こうと決めましたから」
「そう・・・それなら歓迎するよ。ユウ、しっかり面倒見てやりなよ」
面倒を見ろと言われてもな。
「・・・じゃあ、今日の飯と酒は俺の奢りってことで」
レオンがガッツポーズする。
「よっしゃ! ユウさん太っ腹! オススメ料理とエール、肉系の摘みを四人分。あと、適当に料理を幾つか下さい」
ルナさんは厨房に向かって声を掛けた。
「ロザリー、聞こえた?」
「ええ。聞こえたわ」
四人はエールを飲み、摘まみを食べ、遅れて運ばれてきた料理を食べ、上機嫌でルナさん相手にあれやこれや色々な話をした。出来上がったエミリアは早々にアマンダに介抱されて部屋に連れていかれた。レオンは追加で注文してバクバク食べまくり飲みまくり、ミハイルは酒をチビチビと飲むように切り替えた。
雰囲気を楽しんだ俺は、今日の歓迎会的な食事代を少し多めに支払って部屋に戻った。




