十四話:襲撃、少し本気を出す
公王に手紙を届けるという仕事も終わり、落ち着かないこの場所からおさらばして城下町に戻る。今は昼時なので洒落た料理店のテラスで昼食を食べている。ナナさんは緊張しっぱなしだったせいか若干放心状態で、時間もありこのまま帰るのも勿体無いので観光の提案でもしようかと考えていると、道から妙なざわつきがあった。
耳を傾ければ、魔物が大量発生したとか、こっちに向かって来ているとか、どうもキナ臭い。その証拠に、武装した兵士の集団や騎士の何人かが何回か同じ方向へ走って行ったからだ。
さてどうしたものか・・・。
さっさと帰るか。それがいいだろう。でもここなら美味しいもの売ってそうだしなぁ。
ナナさんを置いて様子だけ見て来る・・・合流が面倒だ。
ナナさんと一緒に行く・・・論外だな。
「見に行かないのか?」
「うーん、いや、悩んでいてな。お前のせいで」
受け答えをしてから、いつの間にか席に着いているアジテーターを睨む。
彼女が接触してきた瞬間に、今の騒動の原因がこいつであると直感的に思った。
「あなたは?」
気付いたナナさんが呑気に問うと、アジテーターはまだ誰も手を付けていない料理を食べながら答えた。
「私はアジテーター・・・楽しいこと、面白いことをするのを・・・生きがいにしている旅人だ。今の騒ぎは・・・森から大量の魔物が出現して・・・こちらに向かって来ているそうだ」
「何故それを俺に話す? あと金を出せ」
「君の戦いを見たいからだよ・・・まぁ、戦わなくても・・・外で騒ぎが起きて・・・内でも騒ぎが起これば・・・楽しいだろう?」
至る所で何かの騒動を伝える鐘が鳴り響き始め、悲鳴が一斉に聞こえ出し、人々が気付いて逃げ始める。影が一瞬通過していき、そのシルエットが気になって空を見上げれば、数十の翼竜が飛び交い、人々を足で掴んだり直接口で咥えて食べたり、火を吐いて焼いていた。
騒ぎの中で平然としているアジテーターはグラスの水を飲み干すと、席を立った。
「ごちそうさま」
出会った時のように、歩きながら視界と気配の両方で溶けるように消えていった。
思わず舌打ちしてしまう。
「あいつ、金出さなかった」
「怒る所はそこですか! とにかく、避難しましょう!」
「ああ、先に避難するとしよう」
ナナさんの肩に手を置き、ポートローカルへ送る。
町中は既に阿鼻叫喚だ。人々は逃げ惑い建物に避難する者は多いが、パニックになっているせいで締め出されている人が多数いる。迎撃に来た兵士たちが弓矢で戦うが、素早いうえに数発当たっても強靭で動きが鈍くなることもない。騎士も剣や魔法で対抗しているが、二三人で一体を相手取るのがやっとの状況だ。
城を見れば、魔法的な結界が発動して翼竜を寄せ付けないようにしているが、急な出来事のせいか動きが無い。
大きなため息が出る。
・・・ステータス。
名前:ワイバーン
能力:腐っても竜種
「・・・やるかぁ」
人為的に引き起こされた事態に全く気乗りせず、指を銃の形にして風の刃の弾丸の強化版をイメージしつつ建物の上に飛び移る。ワイバーンが俺を標的にしてきたので構えて狙いを定め、撃つ。
圧縮された風の刃の弾丸はワイバーンの頭からぶち抜き、貫通して背後の城を掠めた。結界もぶち抜いてしまったが、すぐに修復された。
やっべ・・・バレないよな。
もしものことを考慮し、功績との相殺を狙ってワイバーンを片っ端から撃ち落としていく。被害を最小限に抑える為に射線と落下場所を気にしつつ撃つせいで、少し時間が掛かったが、最後のワイバーンを撃ち落とした時には兵士や騎士たちから歓声が上がっていた。
俺の傍ではニヤついた笑みで拍手をするアジテーターがおり、拍手が終わると無言である方向を指さした。
飛んで高度を上げて指さされた方向を見ると、今度は森の方角から大量の魔物が押し寄せ始めているのが見えた。
少し手前に転移して待ち受ける。大型の狼や猪、人型の魔物、よく分からないヤバそうな奴が雪崩込んできている。
片刃剣を引き抜き、魔力をありったけ込めて風の巨大な刃を形成。
「・・・うおらぁ!」
歯を食いしばって気合を込めながら横薙ぎに剣を振るって特大の風の刃を飛ばす。
魔物が次々と真っ二つになり、一撃で全滅させることに成功した。
大きく息を吐いて、剣を仕舞う。
「よし」
「お見事」
アジテーターの誉め言葉が煽っているように感じて、イラついたので風の刃の弾丸を素早く眉間目掛けて撃ってみるが、最小限の動作で表情一つ変えず避けられた。
「なんなんだ、お前は」
「さて、何だろうな」
言い終わるとさっさと溶けるように消えた。と思ったら逆再生するように再び現れた。
「そうそう、今回の騒動を引き起こした張本人を思い出したから話をしよう。この国の過激派の魔術師が解雇された腹いせに多くの魔物を魔法で操っていた。何か別のことをするつもりでいたのだろうが、面白そうなので一歩を踏み出せるように声を掛けたのだ。結果は私の望む通りになった。因みにだが、その男は森に潜ませていた魔物を解き放った時に、移動先にいたせいで踏み潰されたよ」
思い出して楽しそうに笑っている彼女は、今度こそ溶けるように消えた。気配も視線も、何も感じない。
・・・また、ステータスを覗くのを忘れてた。
騒動はこれで治まるだろうと切り替え、俺は魔物が大移動してきた足跡を辿って森の奥深くに入っていく。木々が薙ぎ倒され道となっているのですぐに場所を特定することができ、移動が始まった場所に血と泥に塗れ臓物を撒き散らしたローブの男を発見し、近くで小さな小屋を発見した。中を探索すれば、少量の食料と、動物を操る魔法が書かれた書物が何冊も見つかり、さらにヤバそうな計画書と、大事にケースに飾られた腕輪を発見した。
そのペンダントからは魔力的な気配と、変な力を感じてステータスで確認する。
名前:テイマーの腕輪(複製)
作成者:ジュン(転生者)
能力:ある程度の動物を魅了し、意のままに操ることが出来る。
ピクリと眉が動く。
いかん、今すぐこれを叩き壊してやりたい。
手を拳に変えて我慢し、とりあえず書物と計画書と腕輪をインベントリに仕舞い、外に出て死体となった男を足で転がして動かすと、既に壊れた腕輪があった。
怒りを飲み込み騒動の原因の証拠が揃ったので、俺は公王の部屋へ転移した。
「何者!」
騎士たちに一斉に剣を向けられ囲まれる。
「冒険者のユウだ。公王様に話がある」
「ユウか。みな、剣を下ろせ」
騎士たちが渋々と剣を下ろし、公王への道を開けてくれる。
ふと足元を見る。泥と血で汚れていて、綺麗な絨毯を汚してしまった。
「すいません、ちょっと足元汚いみたいで」
「事の次第によっては、クリーニング代を請求するさ。で、急に上がり込んで来たということは、俺に話したいことがあるんだろう?」
「ええまぁ。今回のワイバーンの襲撃と、森からの魔物の大量襲撃は始末しときました。それで、原因を調査した結果、魔術師がマジックアイテムを使って魔物を大量に従えていたことが分かりました。魔術師は死んでいて、これがその品と、その他です」
インベントリに仕舞っていたテイマーの腕輪と、魔法が書かれた書物と計画書を取り出してテーブルに置く。
レイクンド公王が計画書を手に取って確認すると、すぐに顔を上げた。
「・・・誰か、ミシェルを呼んできてくれ」
騎士の一人が素早く動いて出て行った。
丁度良いタイミングなので、俺もお暇することにする。
「では、俺はこれで」
公王様が何か言い掛けていたが、さっさと転移してポートローカルに戻った。




