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隠者のユウは隠居ができない  作者: 宮之内誠治(覇気草)
第一章:伝説の始まり
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十三話:隠者、公王に会う

 


 ギルドに戻ったナナさんは着替えて旅装束となり、準備は万端となった。移動しようとしたところで止める。

「ナナさん、ちょっといいですか?」

「はい?」

「移動手段を確保したんですけど、人目に付かない場所ってあります?」

「それなら、ギルドの裏に回れば関係者以外は殆ど通りませんが」

「では、ちょっとそこに行ってもらっていいですか?」

「はあ・・・」

 信頼してくれるお陰で、少し不審に思われながらも移動してくれた。

 ギルドの裏は細い路地になっていて、確かに関係者以外は殆ど通らないような場所だ。

「それで、こんなところに連れ込んで何をしようというのです?」

 ナナさんは体を強張らせているが、襲うつもりなど毛頭無い。

「まぁ・・・ここなら大丈夫か。ナナさん、一瞬で目的地まで飛びたいんで、手を握ってもらっていいですか?」

「えっと、はい」

 とりあえずで従って手を握ってくれたので、俺は転移魔法を行使し、彼女ごとさっき行った城のある町の近くの森の傍まで移動した。

「はい、着きました」

「え? え、うそ・・・レイクンド城?!」

 驚いてくれて何より。

「では、行きましょうか。手続きは任せてもいいですか?」

「・・・信じられませんが、本当にそうならお任せを」

 二人して移動し門に到着。身分証を見せてすんなりと入って城を目指す。町の外からでも大きく感じたが、町中で見るとその大きさは結構なものだった。

 道中、商人や買い物客や旅人などで賑わう中、色々と目移りしながら声を掛けた。

「ナナさん、ここに来たことはありますか?」

「ギルドの職員研修で何度か。ユウさんはあるんですか?」

「いや、中に入ったことは無い」

「そうですか。てっきり、来たことがあるのかと」

 いい店を幾つか見つけたが、用事が先なので場所を覚えるだけにして歩き続け、観光客と用事があって出入りしている人以外は静かな、城への小さな門に到着した。領館と同じように門番が立っているが、正面に二人、見張り台に一人で、いずれも見栄えを意識して装飾された武具を纏っている。

 微動だにしない彼らの一人に、ナナさんが懐から領主より預かった封筒の両方を見せながら言った。

「お仕事中すいません。私、ポートローカルから来た冒険者ギルド職員のナナと言います。サーシェス領のクライン・アルバレスト・サーシェス侯爵様より、公王陛下への謁見願いの書状を戴いて参りました。こちらは入場許可の書状です」

 門番二人が顔を見合わせ、一人が答えた。

「確認します」

 両方の封筒を受け取って、装飾が描かれた封筒の蝋印を確認し、もう一つの簡素な封筒を開いて一通り読んで言った。

「了解しました。ご案内いたします」

 門番に付いて行き、城の中を歩いていく。緊張しつつも内部構造に興味があって色々見渡す。やはり攻め込まれることを想定した作りで、広かったり狭かったり、柱の出っ張りが多かったり天井が低かったりし、案内しているルートも分かりにくい。貴婦人や貴族、使用人や武装した騎士とすれ違いつつ、城の真ん中くらいの高さの一室の前に到着した。

 門番とは違う騎士が扉の横で立っており、装飾が描かれた封筒を見せつつ報告すると、騎士がノックをして中へ入っていき、数分して騎士と一緒に女性が出て来た。

 如何にも魔法使いという感じのローブに身を包む彼女は、封を開いた紙を手に言った。

「あなた達が、旦那が寄越したお客ね。私はミシェル・アルバレスト・サーシェス。クラインの妻で、この城で宮廷魔術師をしているの」

「は、初めまして。ポートローカルの冒険者ギルド職員のナナです」

「冒険者のユウです」

 ミシェルの視線が俺に向く。頭上から爪先まで、何かを見定めるかのように見つめた後に言った。

「・・・うん、伝説の隠者って感じはしないわね。冒険者カード、見せてもらえる?」

「どうぞ」

 冒険者カードを見せると一瞬驚いてすぐ、くすくすと笑ってカードを返してくれた。

「・・・書いてあることは全部本当みたいね。いいわよ、陛下への謁見を認めるわ。付いて来て」

 案内されて上へ上へ行き、騎士が両端で佇む他とは違う場所に到達し、ミシェルは騎士を無視してノックをしてすぐに扉を開け放った。

「陛下~、入るよ」

「おいおい、まだ返事すらしてないぞ」

 野太くもしっかりとしたイイ声が聞こえる。ミシェルが手招きするので恐る恐る入る。

 奥の大きなテーブルの椅子に座るのは、如何にも王様という感じの服装をしたナイスミドルなおじさんだった。整えられた口髭と太い眉が際立つ。

「それで、何の用だミシェル」

「謁見よ。ここの二人が」

「ええ・・・お前、人を入れるんなら事前に言ってくれよ。王冠置いてたよ」

 その場でテーブルに置いていた王冠を被り、咳払いして姿勢を整え、王様らしい表情と態度になって言った。

「・・・私がレイクンド公国公王、アルフレッド・ミシガン・ヘクトル・レイクンド三世だ。長いからアルフレッド・レイクンドでいい。して、君たちは?」

 ナナさんがハッとして跪いた。

「お初お目に掛かります。サーシェス領、ポートローカルの冒険者ギルド職員のナナといいます。この度、拝謁することが出来て光栄に思います」

 ・・・国民なら、そりゃその反応だわな。

 俺も緊張しつつ、でも跪くのもなんか違うと感じて軽くお辞儀した。

「・・・冒険者のユウです。よろしく」

「うむ。それで、君たちは何の用でわざわざ俺に会いに来た?」

 ミシェルが一歩前に踏み出して言った。

「クライン・サーシェスより手紙がありました。なんでも、ドラゴン調査をここの二人で行った際、当のドラゴンより手紙を預かったと」

「ドラゴンから! 見せてくれ」

「はっ、どうぞ!」

 ナナさんが腰を低くしながら恭しく手紙をレイクンド公王に渡した。

 公王が封を解いて読もうとしたところで、まだ跪くナナさんと立っている俺を見て言った。

「・・・君たち、そのままというのも疲れるだろう。そこに座って待っていてくれ」

「は、はい!」



 待つこと数分、大きな溜息を吐いた公王は顔を上げてミシェルに声を掛けた。

「・・・ミシェル、近いうちに各部の長と貴族たちを集めてくれ。会議を開きたい」

「急ですね。何人かの貴族は都合がつかないと思いますが」

「構わん。やってくれ」

「わかりました」

 公王が俺たちの方へ向いた。

「冒険者のユウだったか、このジークフリートというドラゴンと直接話がしたい。呼んで来てくれるか?」

「呼んだか?」

 急だった。この部屋の真ん中に灰色の髪の老人が姿を現した。

「何者! 近衛兵!」

 俺やナナさんが動くよりも速く、公王を守るように立ったミシェルが叫ぶと、廊下に立っていた騎士たちが急いで入り込んで来た。既に剣が引き抜かれていて、振り返った老人は冷めた目で騎士たちを見ていた。

 俺は立ち上がって叫ぶ。

「全員動くな!」

 公王もミシェルも、老人――ジークフリートも騎士たちも動きを止めて俺を見た。

 あわあわしているナナさんを無視し、大きく深呼吸してから改めて言った。

「・・・彼はドラゴンのジークフリート。敵じゃない」

「やるなら構わんが?」

 ジークフリートがわざとらしく威圧し、騎士たちが気圧されて一歩下がった。

 公王が咳払いする。

「・・・近衛兵、下がっていいぞ」

 騎士たちは公王の命令に従い、素直に下がって扉を閉じた。

 ミシェルも横へ移動し、公王は水を飲んでから訊ねた。

「急な来訪には驚いたよ。俺はレイクンド公国の公王、アルフレッド・レイクンドだ。あんたはドラゴンのジークフリートで相違ないな?」

「ああ、我はジークフリート。灰のドラゴンだ。王の一人よ、我に何用か?」

 流石は王、ドラゴンに詰め寄られても物怖じせずに言う。

「この手紙に書かれていることは本当か?」

「本当だ。西で多くの国が滅びた。我らドラゴンの故郷もな」

「・・・世界が転換期に入り、人間の中で英雄や悪雄が頭角を現すというが、その証拠はあるのか?」

「彼が、ユウがそうだ。隠者は導き手。彼は望むと望まざるとに関わらず人を導く。転換期において歴史に載らない重要人物だ」

 なんか過大評価されている気がする。

「我が国が今回の転換期の中心地になると言うが、具体的には何が起こる?」

「以前は天変地異が起こった。その前は頭角を現した人間たちによる戦争になった。それより前は世界での戦争の引き金になった。要するに、何が起こるかは分からない」

「ならば、対策は?」

「隠者の彼を頼るといい。隠者の言動は必ず良い方向へいく」

 やっぱり過大評価されている。

 流石に何かしら言っておいた方がいいと判断した俺は、口を挟んだ。

「あー・・・、俺はそんな凄い人間じゃないですよ。そんなに強くないですし」

 ジークフリートは鼻で笑った。

「強さだけでは隠者にはならない。ここで口を挟んだのだって、自分の力を誇示させない為だろう?」

 言うじゃないかこの野郎。

「だが事実だ」

「そういうことにしておこう。王の一人よ、隠者は思慮深い。大いに頼ればいいが、彼から助言を引き出すならばある程度の知恵がいるぞ」

 この食えないドラゴンには対応するだけ無駄だと判断し、俺は座った。

「分かった。他にも色々と聞きたいことはあるが、俺一人の頭でどうにか出来るものでもない。また会えるか?」

「そうだな・・・これを渡しておこう」

 ジークフリートが懐から出したのは綺麗な丸い水晶玉だった。それをテーブルに置いて転がし、公王が受け止める。

「これは?」

「魔法を施した水晶玉だ。我から声を掛けることができ、それに手をかざして念じてくれれば、受け答えくらいはしよう。だが忙しい時は出ないから、その時は諦めてくれ」

「了解した。ミシェル、これを預かってくれ」

「はい」

「では、俺は戻るぞ」

「今度は飲み食いしながら話そうじゃないか」

「・・・気が向けばそうしよう」


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