一話:転生なんてしたくない
溜め込んだ作品の投稿。
まだシステム的に不慣れなので何度も修正するかもしれません。
一話、微妙に修正。
20**年、世界は伝染病、蝗害、大地震、大津波、大噴火、巨大隕石、世界大戦、その他諸々によって大量の死人が出た。祖父母はこんな黙示録な世の中になる前に死に、父母は大地震による家の倒壊によって死に、兄は伝染病で病死、弟は職場の病院で患者に殺され、妹は大混乱の最中、事故で死んだ。親戚も似たり寄ったりでみんな居なくなった。
いよいよもって生きる理由も無くなった俺は、一年ほど死んだように生きて、生きることに飽きて魔が差して自殺した。
日本人の感覚であれば、自殺した瞬間を繰り返したり地獄へ行ったりなどが通常であろう。俺自身もある程度覚悟をしていたのだが、気が付けば色とりどりに咲き乱れる背の低い花畑に立っていた。周辺は暗く、真上からは舞台のスポットライトのように光が射している。
病気で一度死に掛けて見た悪夢と類似した光景に、俺は身震いする。心臓の強い鼓動を感じつつも、これからどうすればいいかと悩む前に光に影が写り、上を見れば空から少女がゆっくりと降りて来ていた。
なんか来てる!?
驚きながらも、とりあえず邪魔にならないように下がって地に足を降ろした少女を観察する。色白の肌に虹色の瞳、原色に近い虹色の長髪に、パステル調の虹色のワンピースを着ていて、全体的に目に優しくない容姿だ。
少女の目がこちらを捉え、声を掛けてきた。
「初めまして。私は夢の女神ミスティア。臨時で地球の魂の案内をしています」
「・・・・・・」
警戒して彼女を注視しつつ周辺に気を配って身構える。神を名乗る奴は悪魔とか低級霊だと、宗教関連で聞いたことがあり、もしそうなら何かしら不意打ち的なことをしてくるのではと勘繰った。
数秒の沈黙が流れた後、彼女が仕切り直すように言った。
「私は夢の女神ミスティア。臨時で地球の魂の案内をしています。あなたは死んで、ここは生と死の狭間の世界。それはいいですか?」
「・・・・・・」
それでも俺は口を利かない。何か言えば面倒なことになるのではと思ったからだ。
ミスティアと名乗った不審人物は困惑した表情に変わった。
「・・・あの、せめて返事をしてくれないと反応に困るんですけど」
はあ、と内心で生返事を返しつつ黙って見つめるが、緊張から我慢できず、素早く左右や後ろを向いて何か潜んでいないか確認する。周りは暗がりで見えないが、気配もない。本当に何もいないのだろうと思いつつも、万が一が有り得るとして警戒は続ける。
「周りには誰も居ませんよ。返事はもういいですので、話を聞いてくださいね」
呆れた表情の不審人物は何処からともなく一枚の紙を取り出し、声に出して読みだした。
「えーっと、内見優。あなたは魂の課題を見事クリアし生きる目的を全うしたが、本来生きるべき寿命を投げ出した為、常世への住居は延期とする。生きた年数と寿命を差し引き、余生は幻想世界『ミステルミス』へ転生して過ごすものとする。あなたの神様より・・・だって」
読み終わった彼女は近づいてきて、読み上げた紙を渡して来た。俺は慎重に受け取り、数歩下がって彼女を常に視界に入れつつ紙を見る。
上に謎の文字・・・いや、読める。下に日本語。この脳内に直接翻訳する機能があれば、世界に争いは・・・・・・無くならないな。それにしても、あなたの神様よりって?
最後の一文に疑問を抱きつつ、不審人物が読み上げたことと全く同じ内容であることが確認できた俺は、その紙を彼女に片手で警戒しつつ返した。彼女は乾いた笑みを浮かべて受け取り、別の紙を取り出して読み上げる。
「ええー・・・ミステルミスで生きるにあたり、文字と言語の自動翻訳、肉体及び魂の制限解除、魔法の使用を可能とし、おまけで、当世界で余生を過ごせる金額の貨幣と、旅装束、インベントリを与える。念じれば出て来るので試すこと。また、中に転生者用のガイドを入れたので目を通すように。あなたの神様より・・・だって。あなたのその性格も考慮されてるようですね」
渡された紙を受け取って確認する。さっきの紙と同様に謎の文字と日本語が併記されていた。書いてある通りにインベントリと念じてみれば、ゲーム風のユーザーインターフェースのようなものが目の前の空中に出現し、その中に余生を過ごせる分だと思われるやけに桁の多いゴールドと、旅装束一式、ガイドと書かれたものがあった。それを指で押すと空中に浮いた状態で出現した。
手に取って読んでみる。
転生者用操作ガイド
その1、インベントリは念じて操作ができる。アイテムの出し入れも念じればできる。ある程度の範囲なら調整可能なので、手品の代わりにもなる。
その2、ステータスと念じれば自身の能力や相手の能力、アイテムなどを大まかに把握できる。詳細は集中したり気合を入れれば分かる。
その3、UIは、転生先の住人には見えない。だが逆を言えば、住人以外には見えるので注意されたし。
その4、他の転生者が同一世界にいる場合があるので、出会った場合は穏便に。神様の介入も有り得るのでくれぐれも注意を。
その5、魔法はイメージと気合。
その6、楽しめ。以上。
・・・ナニコレ?
とりあえず必要な情報は得られたような気がするのでガイドを閉じて、念じて片付ける。
次に、ステータス、と念じてみる。
UIが変わって自分のステータスが出る。
名前:内見 優
性別:男性
性格:内向的
能力:色んな意味でヤバイ
スキル:無し
・・・誰が編集しているんだろう。まさか自分自身?
他のサンプルが欲しくて目の前の推定女神と思われる彼女を調べてみる。
名前:夢の女神? ミスティア?
性別:女性
性格:真面目?
能力:測定不能
スキル:不明
どうやら自分自身の主観と観察力に依存しているようだ。
「準備は整ったみたいですね。それでは、幻想世界ミステルミスへ旅立ってください」
「待った」
横にゲートらしきものを作り出した彼女に、俺はようやく一言声を掛けることによってこのまま強制的に行かされる事態を止めた。
「拒否権は?」
「ありません」
「転生しないという選択肢は?」
「ありません」
「この場に留まって用意周到に準備する時間は?」
「ありません」
「行くの怖いんだけど」
「知りませんよそんなこと」
既に彼女の見る目が、残念な人を見る目に変わっている。
「・・・行きたくないんだけどなぁ」
嫌々ながらゲートの前に立ち、やっぱり怖くて一歩を踏み出せない。
「・・・この先って、どうなってるの?」
「この先は何処かの町の近くに繋がっています。海のど真ん中とか洞窟に出ることは無いので安心して行ってください」
「・・・ミステルミスに魔物とかはいる?」
「いますが、町の周辺に凶悪な魔物は出現しませんし、転生者は基本的に一騎当千の力を持っています。ほら、魂の制限を解除って書いてあったでしょ? アレは地球で過ごす為にしていた枷のようなものだから、ミステルミスでのあなたは最強の勇者並みの実力を持っているから、大丈夫。私が保証するから」
「じゃあ、ミステルミスで死んだらどうなる?」
「あなたは死なないから! だからもう早く行って。お願い!」
背中を押されてしまう。もう踏み止まれないと判断した俺は諦めてゲートを潜った。
いざ、幻想世界ミステルミスへ・・・。
・・・不安だ。