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バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話  作者: 紅赤
第4章・魔剣争奪戦編
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第62話 タマコvsラン(2)

一方その頃!

 ランは自分の敗北を悟った。

 決してランは弱くない。

 仮にアキラと戦ったとしても、実力は五分五分。魔王たちとも対等以上にやりあえる実力はあった。

 しかし、今回は相性が悪かった。

 ランはスキルにより様々なモンスターの力を使うことができるが、あくまでも変身できるのは『見たことのあるモンスター』のみ。

 ランは音に耐性のあるモンスターにほとんど出会ったことが無く、タマコに対応できるのは皆無と言ってもいいほどだ。


 敗因を言うのであれば、この戦いはランの"経験の浅さ"にあるだろう。


(ごめんジー君……)


 ランがサレンダーを宣言する――その直前、突如として天を裂くような雄叫びが周囲の空気を激しく叩いた。

 ランが顔を上げると、そこに居たのは"青い龍"


 地上を見下ろすその眼に、タマコは一瞬だけ委縮した。


「なんじゃ、あれは……」


 目を見張り息を呑む。

 感じるのは背筋が凍るような殺気。

 常人なら人睨みで失神するか、心臓の弱い者なら死ぬだろう。

 そんな状況だというのに、ランは酷く冷静だった。


「そっか……使ったんスね……」


 思い出されるのは魔剣争奪戦が始まる前にジードが言っていた嫉妬の魔剣(レヴィアタン)の暴走状態。

 実際に目の当たりにするのは初めてだ。

 天に佇む龍から放たれた凄まじき威圧に木々が枯れていく。

 その様子からもジードが自我を保っているとは思えなかった。


「ジー君――」


 自分が止めなければ、と一歩ずつジードへと近づく――が、しかし!


「コロシテヤル……コロシテヤルゾォオ゛オ゛!!!」


 暴走しているジードは口に超特大の雷撃をチャージし始めた。

 その威力が想像を絶することは、一目見ただけで明らかだ。


「――逃げろ!」


 危険を察知したタマコはランへ避難を促す。

 だが、ランはそれでもジードを止めようと叫んだ。


「ジー君、落ち着いて! 力に飲み込まれないでッッ!」


 恋人の必死の呼びかけ。

 しかしジードが止まることはなかった。

 大出力の雷撃は無情にも放たれる。

 その攻撃範囲は戦っているタローだけでなく、タマコやランも巻き込むものであった。


「――くっ!」


 タマコはランを助けるために駆け出そうとする。

 だが、頭に突然よぎってしまった。


(間に合わんか――?)


 音速移動(ソニック)で移動しても、ランを抱えて逃げるには時間が短すぎた。

 タローのような馬鹿であれば、何も考えず助けに行っただろう。

 なまじ頭がいいばかりに、助けられないことが理解できてしまった。


(ダメ、か――)


 タマコが諦めかけた――その瞬間、黒い何かが上空を覆う。

 よく見ればそれは、巨大な傘の形に変形した怠惰の魔剣(ベルフェゴール)だった。


「――っ! 主殿か!?」


 雷撃は怠惰の魔剣(ベルフェゴール)とぶつかり合ったことで、タマコらの直撃は免れた。

 だが衝突した際に起こった激しい突風がタマコとランを襲う。


「――うわっ!?」


 戦いのダメージが残っていたランは踏ん張りが効かず吹き飛ばされる。

 タマコは黒弦刀を地面に突き刺して何とか耐える。


「――主殿っ! 無事か!?」


 突風が止みタローの安否を確認しようと辺りを見回す。

 そして目に入ったのは、タローがいると思われる場所を囲む炎の壁だった。


「これは……」


 怪訝に見つめていると、後ろからランが戻ってきた。


「……"闘龍門(とうりゅうもん)"――龍に勝たぬ限りその炎は消えることが無く、勝者のみが出ることを許される、いわば闘技場……」


 ランはその炎を悲しそうに見つめるだけだ。


 ジードは自分を殺すように言った。

 自分はジードを止めると約束した。


 なのに蓋を開けてみれば、止めると言って止められず、殺すにも実力の差がありすぎて殺せもしない。

 何もできない自分の無力さが恨めしかった。


 だが、同時に決意もしていた。

 闘龍門(とうりゅうもん)はどちらかが勝たぬ限り消えない。

 そして、ジードはタローに勝てないことも悟っていた。

 つまりジードは――


「――戦いましょう……」


 気付けば自然と口を開いていた。


「ジー君が、()()()で戦うんなら自分も死ぬつもりで戦うッッ!」


 愛する者とどこまでも一緒にいると決めたのだ。

 最後まで――最期まで一緒に、だ。


「戦え! 魔王タイラントッッ!」


 先ほどまで敗北を受け入れようとしていたラン・イーシンは、もうそこには居なかった。

 新たな決意を抱き、ランはもう一度魔王へと立ちはだかる。


「……いいだろう」


 タマコはランの覚悟を聞き届け、その願いに応えた。


「来い、冒険者よ!」


「……ありがとう」


 ランは微笑を浮かべると、目を閉じて体の前で両腕をクロスした。

 息を整えていくと、だんだんと気が高まっていくのを感じた。

 そしてそれが最大にまで高まったとき、意を決して発動したのだった。



「最大解放――完全変化(チョウ・ヘンシン)!」

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