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バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話  作者: 紅赤
第4章・魔剣争奪戦編
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第59話 タマコvsラン(1)

 時間を少しだけ戻し、タローとジードが激しい戦闘を始める前に遡る。

 ジードが戦闘場所をランから遠ざけ、この場にいるのはタマコとランのみである。

 すぐにこちらも戦闘を……とはならず、女同士向かい合っているのみ。

 タマコは武器を手に持ってはいるが攻撃を仕掛ける様子はない。

 ランは戦う気満々であったが、タマコからは一切の戦闘を行う気力が感じられず、とうとう痺れを切らした。


「……どうしたんスか? こっちも始めましょうよ?」


 ランは柄にもなく挑発を行う。

 しかし、タマコはどこ吹く風で受け流すのみ。

 そんなタマコから出た言葉は今の状況とは正反対のものだった。


「やめておけ。魔剣のダメージは回復薬でも完全には消えん。やせ我慢は体に響くぞ」


 それは明らかな気遣いであった。

 ランは完全回復薬を使い、その体は元通りだ。

 だが魔剣の攻撃は他の武器とは()()()()()()()を負うのである。

 完全回復薬と言えどそれは拭えなかった。

 そしてタマコの言う通り、ランは体は戻れど本調子までは戻っていない。


 ランは今、敵から心配されるという屈辱を受けていた。

 これは抗いがたき屈辱。

 全てはタローの力を甘く見た自分の責任だ。


 それでも、ランは戦わなければならなかった。


「心遣い感謝するッス……でも、彼氏が()()()()()()に身を投じたのに、彼女の自分が、我が身可愛さに何もしなかったら、それって……彼女失格ッスよ」


「……気付いていたのか?」


「……理解(わか)ってるッス。ジー君よりもタロー(あの人)のほうが強いことは……!」


 ランとて強者。

 タローの実力を見抜けぬほど馬鹿ではない。

 ジードの実力は十分に認識している。強いことは嫌というほど知っている。

 だからこそ理解(わか)っていた。



 魔王リッカ=ジード=エメラルドでは、冒険者タローには絶対に勝てない!



「――でも、それがわかっているからこそ、自分は引けない!

 愛してる人が体張ってんのに、自分がここで体張らないわけにはいかないんッスよ!」


 ランはジードが好きだった。

 そのジードが勝てぬ勝負に挑んだのだ。

 ランがここで無茶をする理由は、それだけで十分であった。


「さぁ戦えッッ! 魔王タイラント!」


「――そうか……ならばその思い、応えてやろう」


 タマコは黒弦刀の峰にある弦を弾いた。

 音の振動で刃が揺れる。


「ゆくぞ――斬音(スラッシュ)!」


 いきなりのトップギアで放った技は、横薙ぎに振るわれた刀から放たれる音の斬撃。

 目には見えず、音速で飛んでくる斬撃。それに対してランは――


部分変化(ヘンシン)!」


 スキルで左腕を変化させた。

 変化させたモンスターは――<スライム>だ。

 ランはスライムの左腕を正面に構えた。

 すると、音の斬撃はまるで吸い込まれるように消失。ランに傷を負わせることはなかった。


「……空気の振動を極限まで消した、か」


 音とは簡単に言えば空気の振動である。

 モンスターであるスライムの特性はその柔軟性にある。

 ランはその柔らかさを逆手に取り、空気の振動を極限まで無くすことでダメージを防いだのだ。


音撃演奏(サウザンド・サウンド)!」


 タマコは連続で音の弾丸を放つ。


「無駄ッスよ!」


 しかしランの左腕によって全て無効化されてしまった。


「ならば……!」


 音魔法は効かないと判断したタマコは、刃に純粋な魔力を纏わせた。

 高速移動でランに詰め寄ると、黒弦刀を上段から振り下ろした。

 ランはスライムの左腕で防御を試みるが、刃はスライムを斬り裂き、左腕が元の姿に解除された。


「――っぐ!」


 "音"ではなく"魔力"を刀身に纏っての攻撃。

 黒弦刀本来の威力ならばスライムを斬るのは容易いことだが、スキルによって変化しているのでランの防御力もプラスされ斬れないと判断。

 魔力を纏って攻撃力を上げることで、プラスの差を埋めたのだ。


(今じゃ!)


 左腕が戻ったことでランの意識が一瞬逸れた隙に、さらなる追撃を行う。

 ランはそれに気づき、右腕をBランクモンスター:<ファイアーマンティス>の鎌に変化させ受け止めた。


「ほぅ……多芸じゃのぉ♪」


 鍔迫り合いのまま拮抗状態が続く。

 攻撃力はタマコの方が上。このままではランの方が押し切られてしまう。


「ぐっ……ぬああああああ! 負けるわけにはいかないんッスよッッ!!」


 ランは右足を<ユニコーン>の頭部に部分変化(ヘンシン)

 そのままタマコの腹に蹴りを一撃放つ。

 貫通はしなかったものの、ユニコーンの角による衝撃が腹部を貫いた。

 タマコは一度後退すると、患部を手で押さえる。


(フフッ、いい蹴りじゃないか)


 そう思ったのも束の間、ランはさらに距離を詰めてきた。


「おん、りゃあああああッッ!!!」


 ファイアーマンティスは炎を纏った鎌で攻撃するモンスター。

 部分変化(ヘンシン)したことによりもちろんその能力も再現され、ランは炎の鎌でタマコへと斬りかかる。


「――音撃(サウンド)


 タマコはランを狙って音の弾丸を数発発射した。

 ランは咄嗟に右手の鎌でガードする。


「っ! こんの――」


 しかし防御姿勢を解き目を前に向けると、そこにタマコの姿は無くなっていた。


「ど、どこに!?」


 辺りを見回すラン。

 すると自身を照らしていた光が突如として消えて暗くなった。

 慌てて上を見ると、そこにはすでに黒弦刀を構えたタマコがいた。


「あっ!」


 右手の鎌を上段に構え防御を使用と試みる――しかし、それはタマコの作戦の内であった。


「甘いわ! ――音速移動(ソニック)!」


 タマコはランが防御姿勢をとった瞬間に音速移動(ソニック)を使用。

 一瞬で無防備な背後に移動すると、その勢いのまま後ろから黒弦刀を突き刺した。


「がふぁっ!」


 突然の出来事に追いつくことができず吐血するラン。

 部分変化(ヘンシン)が解除され元の身体に戻り、地面へと倒れた。


「ぐ、うぅ……」


「貴様の負けじゃ……大人しくギルドで治療を受けろ」


 もうこれ以上は無駄だと告げ、サレンダーを促す。

 しかし、ランは首を横に振り、立ち上がろうとする。


「ま、まだッス……自分は……負けるわけにはいかない……!」


 意地で手と足に力を入れるランだったが、再び血を吐くと、また倒れてしまう。

 そしてまた起き上がろうとして、倒れる。

 何度か繰り返していると、タマコが嘆息しながらランへと告げた。


「貴様のスキルは大体理解した。

 おそらく右腕、右足、左腕、左足……見ていないので断定はできぬがおそらく胴体。

 それぞれの各部位をモンスターに変化させる能力。

 そして同時に変化できるのは2か所のみ……違うか?」


「っ!?」


 タマコの推理はほぼ正解であった

 ランのスキル、部分変化(ヘンシン)は頭、胴体、左腕、右腕、左足、右足の6つに体を分け、各部分をモンスターの部位に変化できる、というもの。

 変化させるとモンスターの能力やステータスを自身のステータスに加算できるが、同時にできるのは2か所が限界であった。


「モンスターに変化できるのであれば、そうじゃなぁ……この状況であれば、私なら胴体を<ゾンビ>にでも変化させて無理やり動けるようにするが……そうすると1か所を戦闘に使うことができないから、結局劣勢には変わりないか……」


「~~~~っ!」


 ランはこのとき、まさに同じことを考えていた。

 動けるようになればひと先ず何とかなると考えていた。

 だが、タマコの言う通り2つある内の1か所を使わなければいけないため、不利なことには変わりがなかった。


(ダメだ……完全に終わった……)


 ランはこのとき自らの敗北を悟った。

 一応の奥の手はある。スキルの最大解放だ。

 だが――


(ダメッス。あれは……あれを使ったら自分は――)


 万事休す。

 ランはここまでかと諦めかけた――その瞬間(とき)



「ウォォォオオオオオ゛オ゛!!!!」



 突如として天空に雷鳴の如き雄叫びが轟いた。

 現れたのは、青い龍。


「なんじゃ……?」


 見たことのないモンスターにタマコは目を見張った。


「ジー君……」



 このときランは、ジードから言われた()()()()を思い出した。


(――分かったッスよ、ジー君!)


 その言葉を思い出したランは、密かに決意を固めた。

スライムが音の振動を止められなくね? と思ったあなたには、一応答えを言っておきましょう。


「この世界のスライム」はできるのです。

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