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異形の賜物  作者: 藤沢凪
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異形の賜物7

 彼の友達と別れて、家に着くと、母が居間のテーブルの前に腰掛けていた。


 母は、一ヶ月に一度程、そこに居て、私との対話を望んでいる。


 母と会話する気など起こらず、「今日は、ご飯も食べてきて、話し疲れて眠いから、着替えて寝るね」と言うと、いつもの不自然な笑顔を作って、何も言わず部屋に入っていった。


 私は、本当は、朝から何も食べていなかったのだけれど、食欲など湧くはずもなく、歯を磨いて、部屋着に着替えて、自分の部屋に閉じこもった。


 彼の前の彼女は、入院中に、三階の窓から身を投げ出した。


 硬い地面に肩から落ちて、一命を取り留めたものの、その夜明けには、手術室で息を引き取ったという話しだった。


 それ以上の、詳しい事なんか、聞く事など出来無かった。彼の友達の顔色が、恐ろしい程青白くなってしまったから。


 その子は、何故自殺を選んだのか、闘病生活はとても辛いものだと分かる。


 いや、大きな病気に罹った事の無い私には、想像などつかない事なのだろう。


 私は、向き合った事が無かった。身近な人が死んでしまう事。そして、もしも私に同じ事が起こったらという意味で、自分の死とも。


 もしも、その子と同じ状況になったら、私は、どんな行動を取るのだろう? 愛される事を一度は拒否して、でもその子は、彼からの愛を受け入れた。嬉しかったんじゃないかな?


 その子の中では、もう死を受け入れていた。誰とも、恋をするつもりは無かった。


 でも、幾度も彼からの告白を受けて、自分の生きる意味を、自分の存在の意味を知ってしまって、繕えなくなったんだ。


 人を愛する事って、今まで生きてきた、その価値観さえ変える、当たり前の様に見てきた物の、捉え方さえ変えるくらいの、大きな力があるって、私は、彼の事を好きになって気付いたから。


 その事に気付いてしまったその子は、病気と闘いながら、抑えきれない想いを抱えながら、自分の想いを整理する事が、制御する事が出来なくなって、その命を、断とうと思ってしまったのかもしれない。


 その子の本当の想いは、誰にも分からない。でも、その子の本当の想いを知りたかった。


 分かってあげたかったと思い、ずっと悩み続けてる人が、私が知っているだけでも、二人いた。


 彼と、彼の友達だった。


 彼の友達も、その子の話しをしている時に、途中で話せなくなったり、急に俯いたりして、その子の事を、精一杯考えようとしているのが分かった。


 その子が、どんな気持ちだったのかとか、全く思ってもいない事を、騙られるのは嫌だろうなとか、みんな、そんな事を考えながら、その子の事を話すんだ。


 私達三人だけじゃない。少なくても話しに出てきた、そのお母さんなんかは、いつまでも、その子の事を悼みながら、生きていくんだろう。


 私には、家族はお母さんしかいないから、お母さんの事しか思い付かないけれど、その子には、父親や、兄弟や、姉妹も居たのかもしれない。


 そして友達も、みんなの心の中に、深い痛みを残した筈のその子の死は、いつまでも、失われる事は無いのだろう。


 私は、病気を患っている訳ではないし、誰かから、愛された経験もないから、その子の気持ちが分かる筈ない。


 その子だって、私なんかに、勝手に憶測を並べられたくないに決まっている。


 でも、それでも、残された人達は、その死を、どう受け入れて生きていけばいいのか?


 いつまでも、その死を悔やみ続けて生きて欲しいと、その子は願ったのだろうか?

 

 


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