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異形の賜物  作者: 藤沢凪
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異形の賜物6

 彼から、メールの返信が来なくなった。


 二年生になって、別のクラスになり、ただでさえ、学校の中で会う機会が減っていたのに、更に連絡さえ取れなくなるなんて、と言っても、原因はあの日のデートだった。


 彼は弱かった。


 自分の弱さを晒け出した事が恥ずかしくて、周りと関わる事が嫌になって、そして、私はそんな周りにいる人の、一部でしかない事に気付いた。


 それでも私は、彼の事を分かってあげたいと、支えて行きたいとそう思っていた。このまま、何も無かった様に別れを迎えるなんて嫌だった。


 以前、連絡先を交換したまま、開く事さえ無かった彼の友達のアドレスに、彼と一緒に居ない時間を考えて、午後九時にメールを送った。


 内容は、話したい事があるので、都合の良い時に会えませんか? というものだった。


 彼の友達からの返事はすぐにきて、翌日の学校終わりに、いつもの喫茶店で会う事になった。


 その日、私が喫茶店の中に入ると、奥の席に座り、コーヒーを飲む彼の友達を見つけた。私も、いつもと同じコーヒーを頼み、そのテーブルに向かうまでの間、どんな話しの仕方をするのかを、頭の中でもう一度、整理しながら歩いた。


 席に着いて、まず呼び出してしまった事と、待たせてしまった事を謝り、今の彼の近況を聞いてみる事にした。


「最近さ、ゆうき君と会ったりしてる?」


「休み時間には会ったりするよ」


「ゆうき君、何か変わった事とかない?」


「変わった所? いつも通りに見えるけど、何かあったの?」


 彼の友達は、何も聞いていない様だった。


「いや、この間二人でデートに行ったんだけど、その時に色々あって」


「そうなんだ。よく話しはするけど、そんな話しは聞いて無かったな。喧嘩したの?」


「喧嘩はしてないんだけど、ゆうき君、今メール返してくれなくて、それでなお君に相談しようと思って」


「そっか」


 私はとりあえず、今の彼と会う事が出来ず、話しをする事も出来ない状況を変えたくて、彼の友達を利用して、まずは三人で遊ぶ関係にでも戻れる様にと考えていた。


 出来るだけ、そのデートで何があったのかは伏せたかった。もしかしたら彼は、その友達に、前の彼女の話しをしていない可能性もあったから。


 その話しを避けて、前の様に、三人で遊びに行くにはどうすればいいかと、彼の友達に相談してみた。


「そういえば、五日誕生日だったよね? 遅くなったけど、おめでとう」


 予想もしていなかった言葉に、お礼を言うのも忘れて質問していた。


「どうして、私の誕生日知ってるの?」


 彼の友達は、目を丸くして応えた。


「覚えてるよ、三回目くらいに遊びに行った時に、そういう話しになったよ。僕は、誕生日が丁度一ヵ月前だから覚えやすかったんだ」


 彼は、私の誕生日の二日前に二人で会ったのに、私の誕生日を覚えている素振りは無かった。


 もしかすると、そのデートで何かあるかもしれないと思ってしまった自分は、いつの間にか姿を消していて、記憶にさえ残っていなかった。


「そっか、ありがとう」


 私は、忘れていたお礼を、特に感情も込めずに告げていた。


「それでさ、言い方は良くないけど、それを利用出来たりしないかな?」


「利用? どう利用するの?」


「僕が、少し前に君の誕生日だったから、三人でお祝いしようって言うんだよ。いつもは僕から誘う事は無いけど、それだったら自然に誘えるし」


 確かに、良い案だと思った。ただ、普段のデートは、やっぱり彼から三人になる様にしていたのだと思うと、何となく分かってはいたのに、悲しくなった。


「いいと思う、協力してもらってもいいの?」


 どうでもいい私の誕生日なんかで、また彼と会う機会が出来るのならと、この時期に、私を産んでくれた母に、少し感謝さえした。


「僕は、全然大丈夫だよ。三人で遊ぶのは楽しいし」


「ありがとう。ってかごめんね。先月誕生日だったのに、何もしてあげられなくて、来年は何かお祝いしようね」


 私は、来年も、この彼の友達との関係が続いているのかとか、そこまで深くは考えずに言った。


「別にいいよ、それにゆうきは、僕の誕生日の時期は、ちょっと良くない事を思い出すから、そっとしておいてあげたいし」


 私は気付いてしまった。その彼の友達の言葉で、その良くない事というのが、彼の前の彼女の事だと分かった。


「なお君、もしかして、ゆうき君の前の彼女の事聞いたりしてる?」


 確信があった訳では無いので、はっきりとした事は言わずに聞いてみた。


「そっか。君も聞いたんだね。知ってるよ、僕も彼とよく病院に通ったからね。他の人には言わないけど、僕にはよく、なみさんの話しをするよ」


 彼の中には多分、その子の事が色濃く残っていた。


 彼と二人で話した時にも、その事は明らかだった。


 私は、彼の中で、とても小さな存在だった。それを改めて突き付けられた様で、私の心は波を打った。


 でも、彼との関係を深めていきたいのなら、強い絆を持ちたいのなら、その彼の告白は、必要なものだったのだと思う。


「辛いよね、どう受け止めていいのか分からないよね。初恋の彼女が、病気で死んでしまうなんて」


「病気で?」


 彼の友達は、その言葉を発した後に、さっきよりも辛そうな顔を浮かべて、下唇を噛んだ。


「ちょっと待って、その子は重い病気で死んでしまったんじゃないの?」


「違うよ。その子は自殺したんだ」

 


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