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異形の賜物  作者: 藤沢凪
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異形の賜物4


 人生で初めてのデートに、心を踊らせない人は居るのだろうか?


 彼の到着を待つ間、私は、周辺にあるとても高校生には、いや、私にはとても似合いもしない、高級ブランドの窓に映る姿をいつまでも眺め、さほど変わりもしないのに、何度も、洋服やメイクのチェックをしていた。


 その日は晴天で、真っ白な雲がまるで、大きな口を開けて、ラブソングでも唄い出すのではないかと思う程浮かれていた。


 ただそれは、彼が素性の知れない、名前も分からない人を連れて来てくれたおかげで、私の、やたらと深まる空とのシンパシーを抑えてくれたのだった。


「ごめん、待たせたかな?」


 彼は、何も悪びれる事は無く、想像していたよりも、幾分高めのテンションで言って来た。


 というのも、この日にデートをしたいと言ったのは私からで、付き合う事になってから一カ月も経っているのに、何の関係の深まりも無く、会話も無く、始めの二週間は目が合う事もなく、あの告白は、無かった事になっているのか? 私の夢だったのか? 区別がつかなくなる程だった。


 こんな事、言いたくは無かったけれど、言いたくも無い事を、言わなければいけない程、関係は良いとは言えない状況だった。


「ねぇ、私達って付き合ってるんだよね?」


 ある日彼を捉まえて、勇気を振り絞って聞いてみた。


「うん、そうだね」


 彼のドライな返事に、嬉しいのか、悲しいのか、というより私は、恋というものの進め方を知らなかった。


 付き合った後の事なんか考えた事の無かった私は、愚かにも、恋人になった後の事は全て、その相手が、エスコートしてくれるものだと思っていた。


 多分この人は、私が積極的にならないと何も言って来ない、何もしない人だと思った。その時に、メールアドレスをやっと交換して、今日のデートの日取りを決めたのだけれど、私の予想では、いつものドライな彼をイメージしていたのだった。


 彼は、私の見た事の無い笑顔で、連れて来た友人に気を掛けながら、呆気に取られた私のもとに近づいて来た。


「おはよう、誰か連れて来るなら言ってくれれば良かったのに」


 私はその言葉に、ごく僅かな、気付くか気付かないか分からない程の、嫌味を混ぜて言った。


「昨日のメールが終わった後、なおが来る事になったから言えなかったんだよ」


 メールが終わった後でも、夜中でも、伝えていてくれれば、心の準備が出来たのにと思ったけれど、口には出さなかった。


「なおとです。ゴメンね、二人を邪魔するみたいで」


 彼の友達は、遠慮しながら言った。そして、私の嫌味にも気付いたのか、補足まで加えてきた。


「知らなかったんだ。ゆうきとはたまに日曜に遊びに行くから、昨日の夜誘って、いいよってなってそれで」


 それはそれで、聞きたくない情報だった。それだと彼は、二人きりは気まずくて、友達と三人の方がいいと思ったという事になってしまう。


「別に何でもいいじゃん。喫茶店でも行って、今日何するか話そう」


 何でも良くは無かったけど、彼が、今日は学校に居る時よりも生き生きしていて、そんな姿が嬉しくて、色々と抱えてしまった、私の些細な懸念は忘れる事にしたのだった。


 近くにあった喫茶店に入ると、示し合わせた訳でも無く、三人とも同じものを頼んだ。


「やっぱ、喫茶店行ったらブラックのコーヒーだよな? 俺それしか飲まないし」


 席に座ると、いつもは何も進行してくれない彼が、積極的に話題を作ってくれた。


「清水さんも、いつもコーヒーはブラックなの?」


 彼の友達が聞いてきた。


「ごめん。自己紹介して無かったよね、ゆうき君から名前聞いてたの?」


 そう彼の友達に問うと、彼が答えた。


「そうだよ。ってかさ、苗字で呼び合うのもなんだし、これからは下の名前で呼ぶ事にしない? 俺は二人ともゆうきって呼んでるけど、なおとはなおで、どう呼んでいいか迷ってたけど、清水さんはゆかでいいかな?」


 私は、これから頻繁に会う訳でも無い、彼の友達の呼び名をわざわざ決める必要は分からなかったけれど、彼にこれから、下の名前で呼んで貰える事が嬉しくて、他の事はどうでもよくなっていた。


「全然ゆかでいいよ、なお君って呼んでいいのかな?」


「うん。僕は何でもいいよ」


 彼の友達は、とてもおとなしい人だった。それは、とても意外な事だった。彼はいつも明るい方で、でもその友達と居る時の方が、彼は嬉しそうに笑った。これが、彼の本来の姿なんだと思う事が出来た。


 そうだとしたら、学校に居る時の彼は、一体何なのだろう。私は、まだ彼の事を何も知らなかった。


 何も知らないくせに、上辺だけを汲み取って、好きだと告白した。


 彼に何があったのか、その友達との間に何があったのかなんて、分かる筈無かった。


 だから、私は、その浮わついた告白で、何も知りもしない彼に、彼の心に、土足で踏み込んでしまった。


 その罪に対する罰は、重くて、耐えられる筈など無い。


 それでも、どんな結末を迎えるかを知っていたとしても、彼に惹かれて、恋をしたのだろうと思った。

  


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