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異形の賜物  作者: 藤沢凪
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異形の賜物36

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『ゴメンなさい。本当に、今までの全ての事は、多分許されない事だと思っています。私は死のうと思います。勝手に死ねばいいと思うよね? でもこれは私のわがままです。最後になお君に電話したいです。迷惑な話しでしか無いけど、ゴメンね、もし迷惑だったら出なくていいよ。何回か電話掛けてみるつもりだけど。

 これから電話番号とアドレス変えるから、最後の時に電話するね。誰にも言わないでほしい。最後まで迷惑しかかけてないけど、ゴメンなさい』


『僕は何も迷惑なんか掛けられてないよ』


 僕は彼女のメールを見た後すぐに送ったのだけれど、僕のメールは彼女に届いてないというメールがすぐに僕の携帯に送られた。


 僕は彼女が死にたいと思っているのが分かっていた筈なのに、何も出来なくて、結局は彼女を死に追いやった当事者の様だった。


 僕は怖かった。彼女からの最後の電話が来るのが。僕は自分に今何が出来るのかを考えた。その時、僕は彼女と二人で歩いた仕事場からの帰り道を歩いていた。


 彼女が帰って行ったアパートの全ての部屋のチャイムを鳴らし探すつもりだった。


 でも、最初に訪れた一階の部屋から出てきた人の良さそうなおばさんに、清水さんの家は三階へ階段を登って一番手前の部屋だよと教えてもらい、僕は何をしに来たのかをもう一度頭の中で整理しながら階段をゆっくり登り、部屋の前で深呼吸をしてチャイムを鳴らした。


 彼女が言っていた様に、丸い覗き穴から顔を見られるのが嫌で、ドアの少し横に立って反応を待った。


 ドアが開かれ、チェーン越しに顔を覗かせたその人は、警戒しながら僕を見た。


「清水さんのお家でしょうか? お話ししたい事がありまして」


「どちら様でしょうか?」


「白石といいます。高校の時はゆかさんと同級生で、最近まで一緒の職場で働いていました」


「どういった後了見でしょうか?」


 僕の声は激しく上擦り始めた。 


「ゆかさんは、死のうとしています。僕は、彼女に生きて欲しいから、どうしても生きていて欲しいから」


 唐突に感情が溢れてきてしまった。


 その人の面影は彼女と重なって、一目見た時に彼女の母親だと思った。そして、僕は恐れていた。だから涙が出た。


 彼女の母親は僕の話しを聞いて何を思うのだろう? 何も思わないかもしれない。迷惑な話しだと思うのかもしれない。世の中にはそういう親がいっぱいいるから。


 僕や、彼の親はそういう類の人間だろう。僕の、彼女の親に全てを話すという選択は、間違っているのかもしれない。


 無意識に出た涙だったのだけれど、この涙にはいくつかの意味が込められていた。


 ひとつは、彼女の母親が、自分の子供が死のうとしているのに、何の関心も示さないかもしれない事が怖かった。


 ひとつは、今まで誰にも話せずに抱え込んでいた悩みを吐き出した事によって、ネジが外れてしまった事。気付いていなかったけれど、僕はそれほど大きなものを抱え込んでいた。


 ひとつは、僕が彼女の事で本気で話しに来ている事を分かって欲しかったから、だから涙が出たのだろう。


 涙を流していない相手と、涙を流して話す相手だったら、誰だって涙を流して話す相手に誠意を感じるだろう。


 僕はどうしても彼女の母親に、僕の話しを聞いてもらいたかった。だから本能で、もしかしたら狡い手なのかもしれないけれど、涙は流れ、彼女の母親の気を引こうとしていたのかもしれない。


 それでも、玄関先でいきなり泣き出す人間の話しを聞きたいと思うかは、僕には分からない事だった。


 そんな僕をどう受け止ったのかは分からないけれど、彼女の母親は一度ドアを閉めて、チェーンを外し大きくドアを開いた。


「上がって下さい」


 僕は、まともな返事は出来ず、鼻をすすりながら部屋の中へ入っていった。


 八畳ほどの和室の部屋の中央に、小さめのテーブルが置いてあり、そこに腰を下ろして、心を整理した。


 彼女の母親は、ティッシュの箱を僕の前に置いてくれたのだけれど、その手が震えている事に気付いた。


「ゆかに何かあったんですか?」


 彼女の母親は、恐れる様に聞いてきた。


「ゆかさんは、最近、家に帰ってきていますか?」


「四日前から、帰っていません」


 それは僕と、一夜を共にした時から帰っていないという事だった。


「ゆかさん、そして僕には、とても大切な人が居ました。その人は死んでしまいました。ゆうきって名前、ゆかさんから聞いてませんか?」


「聞いていません」


「あなたに、全てを話したいと思うのですが、僕はこの話しを誰かにした事がありません。たどたどしくて、途中で言葉に詰まったりするかもしれません。とても長い話しになってしまうかもしれませんけど、聞いてもらえますか?」


「聞かせて下さい」


 彼女の母親は、肩を振るわしながらも気丈に振る舞い、僕の言葉を待った。その姿を見て、僕は、落ち着きを取り戻し、羨ましささえ感じた。


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