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異形の賜物  作者: 藤沢凪
3/42

異形の賜物3


 物心がついた時には、家族と呼べる人は、母しか居なかった。二人きりで、同じアパートの、狭くも広くも無い部屋で過ごしてきた。


 いつも、遅くまで働いている母と、一緒に食事をとる機会は少なく、いつもは、スーパーでお弁当を買って食べたり、カップラーメンや、簡単に作れるものは作って、一人で食べていた。


 その日、家に着いたのは七時を超えていた。母には、少し遅くなるかもしれないけれど、ご飯は食べて来ないと伝えていた。


 玄関を開けると、細い通路の先に扉がある。扉を開けると、八畳程の居間があり、ここ数年は、その居間の中でしか母と会っていない。


 毎年、私の誕生日には、デパートの地下で買って来てくれた、少し値の張るお惣菜を小さなテーブルに並べ、甘いものが苦手な二人だから、ケーキはホールではなく、切り分けられたものを二つだけ買って、私の方にロウソクを一本だけ立てて、火を灯しお祝いをした。


 料理を作れない母にとっては、それが最大限の、私への誠意だと感じとる事が出来た。その日、予期せぬ幸運が訪れた私は浮かれていて、いつもより饒舌だった様に思う。


 そんな私を、久しぶりに話しをする母は、嬉しそうに見せた、下手くそな笑顔で受け入れてくれた。


 もちろん母には、彼との経緯は話していない。一時間半程の食事を終えて、両隣に分かれた、お互いの部屋に入った。右手側にある自分の部屋に入ると、ようやく何にも気を使わなくて済む、心の落ち着ける空間に安らぎを感じた。


 私は、母が苦手だった。別に嫌いな訳じゃない。決して食べれないという訳ではない、甘いケーキと同じ様に、苦手なだけだ。理由があるとすれば、何だろう? 全て、幼い頃の話しになるけれど。


 例えば、行きたいテーマパークにも、面倒くさがって行ってくれない事。


 例えば、嫌いな人参を、冷凍食品を並べたお弁当に、わざわざ入れてくる事。


 例えば、二人しか家族が居ないのに、別々の部屋で、私が寂しい時も、その部屋に閉じこもってしまう事。


 例えば、私が隣の居間で泣いていても、起きてきてくれない事。


 例えば、ドアまでバンバン叩いているのに、気付かない振りする事。


 例えば、そのドアには鍵が掛かっていて、開けられない事。


 例えば、私が駄々をこねて泣いていた時、部屋から出て来なくて、また私の事見ない様にしているのが嫌になって、家を出て、結構な時間が経ったんだと思う。その時私は、確か六歳で、無茶苦茶な道を通って、どうやったって辿り着けない場所に居たと思う。


 それなのに、私の事見つけてくれて、ぶたれた。けど何か痛くなくて、嬉しかったんだと思う。探してくれたのが嬉しくて、本当に嬉しくて。


 だからこそ、印象に残っているのかな? 車で家に帰ってきて、玄関に入り、泥だらけの私を見下げた後、あの時産むんじゃなかったって、言った様に思うんだよね。


 小さい声だったからさ、はっきりと聞こえなかったんだよね、全然違う事言ってたのかもしれないし、だって、普通そんな事言っちゃったらさ、二人暮らしなのに、言った方だって変な感じになるの分かるじゃん? 嘘でも何でも、無かった事にする方が良いんだよ。


 だからさ、もうさ、あの日からずっと続けてる、愛想笑いやめて。

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