異形の賜物 21
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穏やかに過ごす筈だった冬休みは、彼の事を思い出す事で、またいつもの日常に戻った。
周りの人達が大学受験をする中で、僕は僕に何の関心も無いこの家を出るために、働く場所を探す事にした。
正直高校ですら行くつもりは無かったけど、彼が行く気になった学校に、僕も寄り添う様に受験をした。
しばらく声を掛けられずにいた彼女に、卒業した後どうするのかという話題が出来たため、声を掛けれる機会だと思い行動に移した。
放課後二人で話しをした日から、僕と二人きりになるのを避ける様に、早めに帰る彼女を引き留めて聞いてみた。
「ゆかさん、ゆかさんは卒業したらどうするつもりなの?」
とてもじゃないけど、自然とは言えないたどたどしい口調だった。
「もう、話し掛けて来ないと思ってた」
彼女は素直に思いを告げた。
「気持ち悪いかもしれないけど、気になったんだ」
僕の言葉は嫌味に聞こえたかもしれない、でも、僕はありのままに話す方が良いのだろうと思っていた。
「卒業か、何しようか? まだ何も決めてないんだ」
彼女は僕の質問に答えてくれた。それだけでありがたいとさえ思った。
「進学するつもりはないの?」
僕は、何も知らないクラスメイトが当たり前にする様な質問をしてしまった。
「何の為に?」
彼女の言葉の意味が分かった気がした。だから、それ以上聞かなかった。
「僕は、進学はしないで働こうと思うんだ。もし良かったら一緒に働こうよ」
それは頭を通らず、勝手に声帯が鳴って出た音の様に思えた。そのせいで、言葉に出した後で、胸が熱くなっていく感覚がした。
「なにそれ? 私となお君が一緒に働くの?」
彼女は笑っていた。僕はそれが嬉しかった。それに乗じて僕は真面目に言った。
「働こうよ。一緒に働く所を探そう。いや、僕が見つけておくよ」
彼女の言葉は待たなかった。
卒業してすぐに、僕は料亭に勤める事になった。その料亭に勤める事になったのには、いくつかの理由があった。
ひとつめは、彼女の家から近い事。卒業までの間に、彼女がどの辺に住んでいるのかを聞いていて、その地域に的を絞って探していた。
ふたつめは、従業員が多い事、そうじゃないと、二人で働く事が出来なくなってしまうかもしれないから。それとチェーン店では無い事、お店の都合で離れてしまうのは、本末転倒だと思った。
最後に学歴に左右されない事、求人を出している訳でもないその料亭は、高校を出たばかりで、何の社会経験も積んでいない僕を受け入れてくれて、始めは給料もあまり出ないという条件で雇用してくれた。
彼女と一緒に働き出す事は出来なかったけれど、僕がこの場所で、周りに認められる様な働きをして、そして僕が彼女を招き入れる形が出来ればいいと思っていた。
その料亭での日々は、覚悟していたものと同等のものだった。でも、その忙しさと厳しさは、僕の中の痛みを忘れさせてくれるものだった。
五つも歳の離れた新人の先輩と仲良くなり、僕はその人の家に一緒に住む事になった。その先輩は家賃が半分になるからありがたいと言って、僕の布団まで買ってくれた。
僕は今まで、周りにいるほとんどの人と関わり合う事を避けて過ごしてきたけど、僕がどれだけ不器用でも、優しくて心地の良い言葉を掛けてくれる人がいるんだと思い、暖かい気持ちになった。
そして、そんな時に頭に過るのは、彼女の事だった。彼女は僕と同じじゃない。多分そんな人の優しさも知っているのだろう。
でも、彼女はその、人の優しささえも拒んでしまう。それはもう、施しようのない事なのだろうか?
僕はその先輩と、自殺した彼を重ねた。でも、同じようには思えなかった。
たとえ先輩が同じ様に命を断っても、同じ様な喪失が僕に訪れるかというと違うと思った。僕はもう、気が付かないうちに、人と壁を隔ててしまう癖がついていた。頭の片隅で決め付けていた。
心を通わせたとしても、この人は何らかの形で僕を苦しめるのだろう。
僕の心も、以前とは別の物に変わっている事に気付いた。彼の死が、自分を苦しめている事に気付いた。だから考える事をやめた、僕にとって彼は、唯一の友達だったから。




