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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
学園という理想郷《ブルメール》
9/75

第5話 「生徒会という日常」

青春パート



それは、テストやクラス替えも終わり事件の事後処理も全て済み、やっと心に余裕ができた放課後のこと。

 生徒たちの大半は青春という名の人生の一ページに着々と記していくように、友と、親友と、学友との満喫した学園ライフや部活動、サークルを大いに楽しむ。

 それは生徒会の面々であっても変わりない。

彼らが生徒会として在籍する約五年ほどの期間でも、類を見ないほどの汚らわしく、そして誰も幸せにならない、まさに不幸の事件がようやく片付いたのだ。

 緊張の紐を切り、慢心(まんしん)堕落(だらく)の感情を()え太らせるのも悪くない。

 

 

「お茶が、入り、ました、どうぞ…」

 

 ここ生徒会には普段から大量の仕事が舞い込んでくる。それは学園の設備関係のものだったり金銭、人員、生徒のプライベートの監視だったりで本当に多岐にわたる。


 本来、生徒が関わるべきでないものばかりだが、こと生徒会長のラーにおいてはその“本来”という概念も通用しない。

 金銭、資源面で学園に大量の寄付を行っているラーの実家「アウラム家」その跡取りのラーは学園での大量の実権を握っている。

 下衆な話、ラーが金銭を横領したり果ては生徒に無理やり手を出すなどの不正行為も、何のリスクも背負わずに実行できるほどの権利がラーにはある。言わずもがなラーがそのような不貞をするわけはないのだが……。


 そして、その大量の実権を持つラーというのは力を持つ代わりに様々な責務が付きまとった。

 今現在進行形で処理している、合わせればラーの身長をゆうに超えるであろう膨大な数の書類がそれだ。 

 僕達一般人からすればなんのこっちゃな理解不能の書類作業。

 つまり、この膨大な数の依頼もとい仕事は実質的にラー()()の仕事と言える。

 毎日の恒例行事のようにラーだけが必死に筆を動かす音だけが生徒会室に響き、それ以外は呑気な雰囲気の生徒会室は各々が好き勝手に行動する音で溢れていた。


 そこに、お茶くみは自分の仕事と言わんばかりにシスがニコニコとカップにお茶を入れて持ってきたのだ。


「うん、ありがとうシス」


 大量の書類に目を向けながらも、シスの方をちらりと見てお礼を言うラー。

 

「おーいシスーお兄ちゃんにも淹れてくれよ~」


 僕は、長い時間雑誌を読んでいたことによって他人が言う怖い顔面が固まってしまったのをほぐしながら妹のシスに頼んだ。

 表紙の絵がちょっとだけエッチだったからと期待して読んでみたはいいものの、あまりにも退屈すぎて雑誌を閉じると同時に、誰も見やしない生徒会室に一つある棚に隠すように戻した。

 

「それと…そろそろやめてやれよ~ラーのカップを持つ手が震えてるぞ、いったい何杯飲まさせたんだよ」


 ラーの机には書類の他に、机を埋め尽くすほどの大量の空のカップがあった。

 シスが善意で淹れてくれているお茶を、突き返すことができなかったのだろう、ラーはわんこそば式に追加されるお茶を、体が出す拒否反応で震えながらも全て飲み干していた。


「お兄ちゃんは、自分で、淹れて、ラーなら、まだ、飲めるっ、ね?」


「あはは……ハハ、飲みます……」


 僕からの救済に心を喜ばせ弾ませたのも束の間、無慈悲で優しい己の彼女の善意に叩き伏せられたラーだった。


 ドンマイ、ラー、強く生きるんだ。


 ラーへの心配を適当に思考のの片隅に投げ捨てて僕はメンバー全員が集まる生徒会室を見回した。

 生徒会は何か仕事がない限り、別に生徒会室に来なくていい。それに、この学園ほどの規模になると際限なく流れ込んでくる書類の大方はラーが片付けるから、滅多に僕らには仕事は回ってこない。

 それでも、僕らはなんだかんだでこのメンツでいる時が一番落ち着くので、こうして何もなくても生徒会室の会議室や、その隣の部屋、談話室に自然に集まってくる。

 

 

 女子勢はそんなに毎日やっているのになぜ飽きないのか分からないけれど、毎日のように女子会を開いているし、タッシ―は趣味の読書中、そしてもちろんラーは書類作業、シスはニコニコとただラーの隣で作業を眺めているし、サブは忘れものを取りに行ってから一時間は帰ってきていない。

 心配になったラーがさっき確認したところ、学園の敷地内に流れている川の中にいるらしい。


―――なんでそんなとこいるんだよ

 なにか?伝説のドンブラーコ桃でも忘れてきたのか……。


 そして残るオムは……


「―――オム、何いじっているんだ?」


 先ほどから何かをガチャガチャと作業しているオムに僕は声を掛けた。


「ん? あぁヴィルか、ふっふーん聞いて驚くなよ、これは! ()()()と呼ばれる『神学』の最先端技術が詰まった箱なのだぁ!」


 どうやら多量に頭の足りないオムがゼロを振り絞ってどうにかしようと頑張って試行錯誤している物体は“らじお”という物らしい。

 例え凄い物だったとしてもオム自身が誇ることではないのだが、自慢げに言ってきた。

 その“らじお”というのは一見して四角く黒い金属製の箱で、能力性映像受信機(テレビ)と類似するボタンのような突起が、本体の黒い箱にいくつかついている。


「それ、何ができるんだよ」


「よくはわからんけど、能力なしでなんか声が聞こえるらしい、すごいよなぁ中に能力込められてないんやで」


 ただ声が聞こえることにいったい何の意味があるのか分からない、と一瞬だけ考えたが、能力を使っていないのに独りでに動く、という文言に釣られた僕はらじおに興味を示す。


「それで、出来たのか? 何も聞こえないけど」


 オムが言う説明では声が聞こえるらしいが聞こえないところをみるに、上手くいっていないようだ。


「説明書はちゃんと読んだのか」


 小学生の頃の図工でカッターを使用する際、説明をちゃんと聞いていなかったオムが用務員室から“チェーンソー”を持ってきた事件があってから、僕はオムが説明書きなどを読解するということに関して全面的に信用していない。


「うーん読んでんけど、この最後の“でんぱ”を受信するっていうのがよう分らんくってな」

「なんか“しゅうはすう”とかいうのを合わせたらええらしいねんけど、いまいち上手くいかんのよなぁ」


 ここで僕は一安心。 大丈夫だ一応は説明書通りの手順を踏んでいるようだ。

 それで、


「受信するってくらいなんだから、どこかが発信してるんだろ? それが遠いんじゃないのか」


「いやこれが実は、世界中ゼノンテルアのいろんなとこから受信できるらしくって学園でもイケるはずやねんけどなぁ」

 

 オムにしては珍しく道理をついた発言で、本人も合っているという確信があるのかこっち(らじお)の方に不備があるのではないかと言いながら、そのツンツンに尖った髪の毛がボウボウに生える頭を掻いた。


 興味がどんどん湧いてくる僕はその箱を手に取りくるくると手元で回してみる。

 持ってみてもこんなものが能力の仕込みなしで動くとはとてもじゃないが思えない。

 昨今の能力性商品の技術向上に伴って軽量化が進んだ能力性映像受信機(テレビ)の一般的サイズで重さが1(キーグー)あるかないか。

 それに比べてこのらじおは手提げサイズなのに、力を入れなければ持ち上げられないほどに重い。


 このゴツゴツとした鈍重な物体を手にして僕は、ただなんとなく、そう、なんとなくだけど叩いてみようと気になった。 

 この硬さが僕を引き付けたのかもしれない。

 もうその情が一度出てしまっては、あぁ止まらない。あっという間にすぐに沸くY-ファール♪よりあっという間に湧いた気持ちを拳に込めて―――


―――<<ガゴンッ!!!


「なっ!? おぉい! ヴィル! 何しとんねんっ! それめっちゃ高かってn……!!」


 僕の奇行に慌てるのはオムだ。

 顔をびっくり仰天させて僕からラジオを取り上げる―――その時。


『~ザザッー今日n~ザー……プツン』


「「おぉー!!」」


「今なんか言いおったで!」


「あぁ!あぁ!言った言った!」


 一瞬ではあったが“らじお”はようやく設計通りの仕事を垣間見せた。


「「“神学”ってすげぇ!!!」」


「うるさいぞ! お前ら! 読書の邪魔だ!」


 僕達の興奮気味の声に、落ち着いた雰囲気を好むタッシ―は怒鳴ってくる。


「ぶぅーすっごいんだぞ! 神学! タッシ―もこっち来いよ! 一緒にやろうぜ!」


「そんな雑音まみれの何がいいんだ……」


「「ぶぅーぶぅー」」


「お、俺はやらないからな」

 …くいっ


 本人も仲間に入りたがっているようだし、このままにしておけばいつかは勝手に入ってくるだろう。

 それよりも……


「…叩いたら今鳴ったよな?」 


「鳴った鳴った」


「でもすぐ止まったよな」


「止まった止まった」


「何がいけなかったんだ? 気合か?気合なのか?やっぱりしなくとも気合なのか? 本気で“らじお”を聞きたいという情熱が足りなかったのか?」


「……いけ…行くんだ―――ヴィル」


「っ!? お、オム、お前……」


「……やってくれ、俺らの本気全部込めてやれ!」


「……わかった―――いくぞぉぉぉぉ!!!!!」


「いけっぇぇぇえ!!!ヴィルぅぅぅぅ!!!」


「本気の本気、じゅうべえだぁぁぁ!!!!」


<バコンっ!!!!


<パキリパキリ!!!


・・・・・


「「タシウム君直してください」」


 orz……こんなはずじゃなかったんだ。


 先ほどまで、立派に箱と呼べたものが今では、ただの凹凸(おうとつ)のあるスクラップと化していた。

 思い込めすぎちゃった、てへっ///


「はぁ……貸してみろ」


 本を閉じ、ただどこまでも面倒くさそうにするタッシ―はオムから手渡されたラジオを手に取る。すると、現実的な一瞬、まさに(まばた)きをする暇もなく、一瞬で『らじお』が消え、そしてまた次の瞬間には数十秒前にはあったあの立派な『らじお』が帰ってきていた。

 ハイスピードのコマ送りのようにタッシ―の記憶に保存された『らじお』は、“壊れた”という性質を持つ『らじお』から“正常な”性質を持つ『らじお』へと編集されたのだ。

 

―――いやぁタシウム君まじ様様(さまさま)っすわぁ


「はぁ…次からはもう見てやらないからな」


「「ありがたや~ありがたや~」」


 僕達からの薄い感謝に呆れたタッシ―は「馬鹿馬鹿しい」と読書に戻っていった。


「気を取り直して、よし次こそは成功させるぞ!」


「……はっ!? こ、これは、ヴィル! 見てみぃこれ」


 重大な発見をしたように大仰な手ぶりでオムは僕に指さした。


「ん? 説明書の注意書き? こ、これは!」


「“発信源は比較的高いところに設置されている場合が多いので高めの場所に設置するとより正確に受信することができます”やって!」


 説明書の、受信できない場合の注意、という欄から重要そうな情報を見つけ出したオム。

 すぐさま談話室をキョロキョロを見渡し()()()()を探す。


「それなら……あの棚の上とかがいいんじゃないか?」


「お、良さげやな、わかった、あっでもこれちょっと落ちそうやな、おーいみんなドア開けるとき気をつけてな~」


 この生徒会談話室で一番高い場所となれば食器やその他の食品などいろいろのものが収納されている棚だ。ちょうど良い具合にオムが置いてみようとするが、高級家具特有の芸術性に富んだ設計ゆえに、ややその天板は歪な形で上手く置けない。

 なので棚の近くにある扉を雑に開けようものなら振動が伝わり、らじおはすぐにバランスを崩してしまうと考えられた。

 


「まぁ、これでええやろ、よし! 設置完了! いつでもいけるで!!」


「了解! スイッチおーん!」


 意気揚々とらじおの電源を入れるが、


 <ガラガラバッコ―ンッ!!!!


「ぼくが帰ってきたぞぉぉぉ!!! ワハハ!!!」


 ()()()()()サブが大音声を響かせて帰ってきた。


「「あ」」



。。。。



 ある日の管理人


「はぁ、ゴミ出しの仕事も楽じゃないよなぁ、この学園広いから集めるだけでもほんとに大変だよ」

「ん、これはなかなか重いなぁ、どこからのだ……えぇと生徒会か」

「ん~? こんな黒くて重い箱何に使うんだ? まぁいいか、しっかし重たいなぁ」



 その後、ラーが最新の能力式映像受信機(TV)を買ってくれた。


 

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