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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
冒険の躍動《ディオ》
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第25話 「異世界ってやっぱり面白い」


「だーかーらー!!! そのやり方じゃ違うって何度も言ってんじゃない!」


 激怒数秒前の女性の声が街道に響く。

 その言葉に「あぁぁぁぁ!!!」と頭を掻きむしるのはヴィルである。


「何が違うっていうんだよ!?」


「ただでさえ()()()()()あんたの魔力じゃ、魔法を発動させるのもギリギリなんだから全て余さず使い切らなくちゃいけないのに、全然魔力移動が出来ていないって言ってるのよ!!!」


「くそぉぉぉっぉぉぉ!!!!」


 激怒に近い女性―――シャルカは呆れも混じったような口ぶりでヴィルに怒声を浴びせる。

 さっきからずっとこの調子である。


 本日、ヴィルトス達生徒会“王都班”の冒険者パーティーにいろいろあってシャルカが加わり、友好を深めるためにも、元々ヴィル達が受ける予定だった【戒律と規律のアルリタィラルドトナーニア】の調査に一緒に(おもむ)いていた。

 調査場所への移動中、早速“魔法”についての授業を受けていたのだが……。


「―――なんであんたあんな出鱈目(デタラメ)な動きが出来るのに、こんな簡単な魔力操作も出来ないわけ!? 信じらんない!!」


「魔力の概念がこれっぽっちも理解できてないんだよ! なんだよ!『体の中にある()()()ものを手に集中させるイメージで』とか『体中の()を操作する気持ちで』って意味わかんないよ!?」

「魔力の概念が全く分からない人間にする説明ではないよ!」


「うるさいわね! だいたいの人間はこうやって教わるし、こうやって習得できる物なのよ!」


 と、まぁこのような感じでヴィルが永遠と初期段階でさえ習得できず悪戦苦闘中なのである。

 

「なんだよ気の集中って! こうか!? これか!?」


「きゃぁぁ!! あんたいったい()()()魔力集中させてるのよ()()!!!」


「知らないよ!? 頑張った結果だよ!?」


「だから、ナニを、どう頑張ったらそんなところに魔力を集中させるのよ!」


 この世界での“異能力”に変わった力『スキル』。

 シャルカの持つスキル【看破の瞳】は、相手の大概のステータスだけでなく魔力の流れも察知できるため、そのスキルまで使用してヴィルの指南をしてくれているのだが、不慣れなヴィルはあらぬ方向に魔力を集めてしまう。


 一時は争い合った仲であるが、こうやってお互いが認め合えばこうもすぐに打ち解け合うことができている。

 実は、生徒会以外で初めて()()()()会話ができる仲間が出来たことを、ヴィルはまだ気づいていないよう。

 自然な会話、怯えのない普通の問答、相手の顔を見ての会話。

 学園に居た時のヴィルでは考えられない事である。

 

 以外にめんどくさがりやなヴィルが一歩踏み出した結果がこれなのだろう。

 これもまた成長であった。


「―――そう! それよ! その状態で“詩”を唱えて!」


 集中するあまり奇怪な踊りを踊り始めたヴィルであったが、数打ちゃ当たるの原理で、苦闘の末なんとかシャルカの指示する状態までもっていけたようだ。


「詩……詩……『灯せ』」

「……()かないんだけど」


「はぁ~~~……集中が途切れてる、魔力が分散しちゃったじゃない」


「ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!!」


 ……ヴィルが魔法を習得するのはまだまだ先の事のようだ。


「あ、そうだ。アシミーおまえはどうだった―――」


「―――ん?」


 落胆して落ち込むこと一秒、すぐに気を取り直したヴィルはアシミーの方を向いて、彼女の進捗(しんちょく)を見た。

 そして見たことを後悔する。


「『地の果て高く』―『燦燦(さんさん)』―『灯せ』」

「【昇り陽(クルーソーラー)】」

「簡単だね~」


 ヴィルは拗ねた。

 これ以上ないくらい拗ねた。


「ほらアシミー(アーちゃん)はもう出来てるじゃない、私の教え方は間違ってないのよ」


 旅を始めて約四時間ほど、もう少しで夕日が綺麗な時間帯だという頃。

 この移動中でかなり心理的距離を縮めたアシミーとシャルカは、お互いがかなり前からの親友かのように接していた。

 アシミーは元々外面だけは良い性格をしているから、初めて知り合った人なんかにはすぐに距離を詰めていくタイプだ。

 今回も手が早いこった。


 そして、アシミーがどんな原理を使ったかは分からないけれど、第三詩律(トリア)の魔法を軽々と披露したことで、未だ第一詩律(エナ―)の魔法さえ唱えられないヴィルがより浮き彫りとなってしまった。



「シャルちゃん、あそこに居る変なのって何?」


 アシミーに嫉妬し舌打ちするヴィルの視線など全く意に関せず、整備された街道―――その先の岩山の陰にもたれ掛かり睡眠をとっているであろう()()を指して問うアシミー。

 ヴィルもつられて視線を向けてみる。

 すると確かに明らか不思議な、人間でないことはすぐ分かるけれど、いったい何なのかは全く分からない物が見えた。

 

武闘小鬼(リベンジジャム)ね……小邪人(コブリ)の派生形って言われてるやつ」


「それも称号戴冠者(クラウン)なのか?」


「そんなわけないじゃない!! こんな町にもそう遠くないところにクラウンなんて出たら、大騒動どころじゃすまないわよ!」

「それにあんたがどれだけ強かろうとクラウンには勝てないわ。あんたは“称号”を舐めてる」


 ……何か思いつめた表情で語るシャルカを前にして『クラウンモンスター一応僕らだけで倒せたんだけどな』なんてことは流石に無粋すぎて言えないヴィルだった。


武闘小鬼(リベンジジャム)はそうね……大概は低ランク帯の“遺跡”や“迷宮”にいるはずだから、おおかた逃げた新米冒険者を追って外に出てきたけど帰れなくなって野良になった個体ね」

()()するわよ」


 シャルカの物騒な物言いにヴィルは仰天して、前に出て、シャルカの進路を塞いで問うた。


「え、ちょ、ちょっと待ってよ。あれが怪物(モンスター)なのか?」


「そうよ、ていうかなんで冒険者なのに魔物の区別もつかないわけ?」


「い、いや……人型のモンスターなんて初めて見たからさ」


 ヴィルの()()から考えると、モンスターというのは総じて化け物らしい奇怪な見た目で、現存する生物とは大きく離れた生物っぽい“何か”である。

 その点、武闘小鬼(リベンジジャム)というモンスターは人間らしくもないが化け物といって忌避するほどの形相をしていなかった。

 そして何より、


亜人(あじん)……いや亜人(シグル)とかじゃないのかなって」


 そこだ。

 ヴィルが何より気がかりだったのはそこだ。

 ゼノンテルアの住人であるヴィルは、いやこの場に居るゼノンテルア人三人は、亜人(シグル)と人型モンスターの区別がつかないのだ。

 もちろん、知性的な顔をしているかどうかなど表層的なものでの判断も可能だし、シャルカやスティフュのような『エルフ』など分かりやすいものもある。

 しかし、怪物(ビテイツ)などに多く見られ、ガウガウもこの種別に別けられる、獣系。この存在をヴィル達は知っているので、獣と人間とをミックスした“獣人”―――亜人の種類の一つ―――の存在がどうもモンスター寄りに見えて仕方がないのだ。

 そうすると、獣人は人間で、目の前のただただ小さい人に見えなくもない武闘小鬼(リベンジジャム)魔物(モンスター)でというのが、すんなり納得できないのだ。


 とどのつまり、ヴィル達はこの世界においての【人】と【魔物】との差異の認識を見失ってしまったのだ。

 両種の違いが顕著(けんちょ)であったゼノンテルアでは全く感じるはずもない違和感である。


「……確か、あんた辺境のド田舎出身だって言ってたわよね……」


 冷えた、いや、()(たぎ)るような、いや―――どこか落ち着いた様子でシャルカは尋ねた。

 

「え……うん」


 律儀に最初の設定を忘れていないヴィルはあらかじめ決めておいた自分の背景を肯定する。


「そこに亜人(シグル)は?」


「い、いなかった」


「そう……なら教えておいてあげる」

「魔物って言うのは【悪の神】が作り出した存在で、それ以外の生物は【善の神】が作り出した存在。だから私たちはお互いを嫌い合って会うたびに生存を賭けた勝負を行う。負ければ死、勝てば生きる」

「亜人は魔物と戦うために生まれた人に近くて人ではないもの、でも魔物を倒し尽くせばこの世には【善の神】が作った存在しかいなくなるから、私たちは平等と自由を勝ち取る」

「昔から言い伝えられているおとぎ話よ。今じゃあこんなもの本気で信じてる人なんていないけど、その代わり、この昔話の感覚は現代においても根強く人々の思想に反映されているわ」

「あんたたちはド田舎出身だから魔物に対する嫌悪感があんまりないのだろうけど、あたしたちからすれば―――いや、冒険者であればこそ魔物と亜人の区別もつかないのはまずいわ」

「大体の人は生まれてからの感覚で分かるけれど、あんたたちには無理だろうから種類を覚えた方が早いと思うわ」

「それと、間違っても亜人と魔物の区別がつかなくて両方を混ぜて考えないように、怒る人は本気で怒って来るわよ」


「分かった……」


 シャルカの事を短気で横暴な人間だと認識していたヴィルはその考えを修正した。

 あくまで世間知らずで無知なヴィルのことを怒りはせず、諭し、助言までくれたのだ。

 この世界での差別の在り方、そしてその情報をアップデートしてヴィルは心に刻んだ。


「そう、分かったならそれでいいわ―――そしたら駆除の方を」


「シャルちゃん、魔物ならとっくに逃げて行ったよ」


 討伐失敗。


「まぁ……いいわ、武闘小鬼(リベンジジャム)くらいなら冒険者じゃなくてもギリギリ倒せるレベルだし、放っておいて問題になるようなことではないわ」

「それよりも【アルリタィラルドトナーニア】の方が危険ね、称号持ちではないけど範囲(テリトリー)に入りこんだ外敵への容赦の無さは称号戴冠者(クラウン)に匹敵するものがある」

「たしか……今回は調査? あんたくらいの強さなら討伐だって出来るんだから倒しちゃいなさいよ」


「えぇ……調査が金級だろ? 討伐は?」


「プラチナ」


「普通に格上じゃないか!」


「調査してたら~襲われて~反撃したら~なんとか倒せましたって、それこそママのところで受付してもらったらいいじゃない」


「ええ……そんな無茶苦茶な」


 シャルカの言葉を聞いて、あの豪快なギルド長の姿が目に浮かぶようであった。

 あぁ親子だなと。


「それが()()()よ」


 ヴィルの呆れの混じった無茶苦茶という言葉に対して、とても誇らしげな顔を浮かべるシャルカであった。


。。。


 

 ヴィルの魔法練習を続けながらの移動が五時間を超えたころ、辺りは段々と暗くなり始めていた。

 眼力(めぢから)だけはいっちょ前のヴィルが「う˝ぅぅぅ!!」と獣の威嚇のように唸りながら、魔力を移動させていたためか、敵との交戦は今一度もなかった。

 

 けれど、大魔法でも唱えるかのごとく迫力を出してはいるが、その実まだ初期段階から抜け出せてすらいない。

 あの不器用なサブでさえ“第一詩律(エナ―)”の魔法を唱えることができたのにだ。

 

 魔法に対しての興味が人一倍強かったヴィルがこの様で、そうでなかった者だけが先に進んでいる状況にヴィルは若干のいら立ちを覚えていた。

 

「なんでなんだよぉぉぉぉぉ!!!!」


 数百回目の挑戦の失敗にとうとうヴィルは情けない声を挙げて地面に伏した。


―――すると。


『グルァラァァァァァァァァ』


 犬と狼の丁度間くらいの体躯(たいく)をもった魔物が襲い掛かってくる。

 おおかた五体投地で無警戒に寝転がるヴィルを食らおうとしたのだろう。


 がしかし。


「うるせぇぇぇぇぇぇえぇ!!!!!!」

「集中が途切れちゃうでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 魔力移動の練習を邪魔されたとして、若干テンションのおかしいヴィルは【隔絶された勇気(ラナム)】まで発動して手のひらに溜めていた魔力ごと全身全霊で手を振るう。

 途轍(とてつ)もない速度で振るわれた腕によって、一瞬でミンチ―――いやその前に発生した放電(スパーク)によって黒焦げにされた後ぐちゃぐちゃに分解させられて、絶命したようだ。


 その光景に、ヴィル。


「え、え、え……!? 魔法使えちゃった? もしかして雷魔法いけちゃう? 僕ってもしかして()()()()()()?」


 やはりまだテンションのおかしいヴィルは都合のいいように解釈しようとするが―――


「―――ただの物理のゴリ押しだね~能力(ラナム)があってこそのって感じ」


 まぁ現実はあくまでも現実かな、無情にもヴィルにとって望ましい展開は訪れないようだ。

 

「あんたそれが出来るなら、魔法なんていらないんじゃ……」


 その光景をこの世界での常識人枠として見ていたシャルカは一人そう呟く。


「―――と、それより。今の魔物は【アルリタィラルドトナーニア】の手下ね」

「たぶんこの辺りがそいつの縄張りで、もしくはもう()()()()()か……」


 今までより警戒色を強めたシャルカの表情。

 この場には魔法に対して深い知識を持った人物は彼女しかいないため、誰にも気づかれていないが、シャルカは今、ヴィルが不得意とする魔力の移動を熟練冒険者らしく卓越した速度で行い、どんな敵が目の前に現れてもすぐに対処できるように準備を整えていた。

 しかし、生徒会メンバーはと言えば―――


「ヴィル……もう少し優しく運んで~」


 実は五時間前からずっとベッドに寝ころびながら運ばれていたアシミーが、やや運びが雑いヴィルに文句を言い。


「あぁ……怖いなぁ……」


 たぶん役に立たないサブは、びびって漏らす少し手前くらいまで怯え。


「どうして出来ないんだぁぁぁぁぁ!!!」


 魔力がどうしても扱えないヴィルは、「自分たちはここに居ますよ」と言わんばかりに大音声で悔しさを叫び続けていた。


―――という風にいっそ面白いほどにいつも通りである。

 

 ……どうやってこのメンバーで、この死と隣り合わせの世界で今まで生き残ってこれたのだろう、と本気で悩むシャルカであった。


「あ、()()()、来てる」


 「ばっきゃろー!」と悔し涙を流しながら地面をひたすら叩いていたヴィルが“敵”の接近に感づいた。

 その段階でようやく、戦闘態勢に入ったヴィルトスはアシミーのベッドを自分の背後に降ろし、腰からナイフを抜いた。

―――が。


「あ、やべ、ナイフ()()()()


 この間の【称号戴冠者(バラストーキー)】との戦闘時投擲(とうてき)した際、あっさりと弾かれて砕かれたため、修復不可能な状態のままだったのだ。

 使いものにならないナイフは納める。


「素手かな」


 単純に戦闘能力の高いヴィルは即決で素手を選択した。

 正直言って能力を発動した際に武器を使うか使わないかで勝敗が決まることはそうない。

 それほどまでに“効率化”の恩恵というのは高いのだ。

 

 侵入者たちへの歓迎会でも開いてくれるのか、ヴィルの研ぎ澄まされた感覚には無数の魔物の気配が感ぜられた。

 すると、第一団は間もなく登場する。


「サブ! アシミーのこと見てやってくれよな!」

 

 お気に入りの抱き枕を抱いて、このおどろおどろしい雰囲気漂う戦場で、すやすやと眠るアシミーを指定して、サブに託した。

 

「―――ん? なんか臭いな」


 敏感になったヴィルの鼻をくすぐるのは不快な香り。

 ザラザラとした感覚が鼻の粘膜辺りを微妙に刺激するのだ。


「あんた、この臭いちゃんと分かるんだ。これは魔物の一団の―――ほら、奥にいかにもジジイみたいなヨボヨボの奴がいるでしょ? あいつの睡眠魔法ね」

「低位の奴だから効くはずもなくて、不快なだけでしょうけど」


「え!? 魔物も魔法使うのか!?」


「当り前じゃない……あんたホントにどこで育ってきたのよ」

「この世は魔力とスキルで回ってるのよ? 魔物だって生きてる以上は魔法とスキルを使うに決まってるじゃない」


 知性の感じられない魔物にさえ魔法が使えるという事実にヴィルは軽い衝撃を受け、八つ当たりという名の暴力を開始した。


「ふざけんじゃないよぉぉぉぉぉ!!!!」

「なんでなんだよぉっぉぉぉぉぉ!!!!」


 この辺りに居る【アルリタィラルドトナーニア】の配下の魔物はいくら弱いと言っても、数を成せばそれなりの脅威だ。

 にもかかわらず、「バカやろぉぉぉぉぉ!」と初期設定である“クール”のことなど置き去って、熱血教師もびっくりな制裁のビンタで、一撃必殺を決めていく。

 

「あ! サブ! そっちに一匹いった気がする! 僕はこのまま進むからそいつをよろしく!」


 暴走気味なヴィルはさらに殺戮(さつりく)の速度を上げていくが……


「……ふ、あぁ、あひゃぁ……も、もうだめだぁ~。いつもなら一杯寝ているからだいじょぶだけど……きょ、今日は、はやおきぃだったから~ね、眠いぃ~~~」

「……おやすみ」


「サァァァァァァァァァブ!!!」


 ここに来てようやく今朝の能力発動が意味を成した、いや成してしまったサブ。

 低級の睡眠魔法によっていともたやすく寝落ちさせられた。


「『純心』―『がんじがらめ』―『敵を縛れ』」

「【底無沼(くちなし)】!!!」


 冒険者として戦闘の心構えが一番できていたシャルカは、ヴィルが討ち漏らした雑兵(ぞうひょう)を得意の魔法で行動不能に追い込み、突進の一突きで敵を絶命に至らしめる。

 さらに、彼女の魔法の範囲は意外に広く、次々と襲い来る敵団体の大部分を拘束した。

 そんな好機を逃さないヴィルは【隔絶された勇気(ラナム)】を使用して、敵の死体を増産していった。

 ここに生じる感情は快感である。


 思えば、ヴィルトスがこの世界にやってきてから戦闘行為全般をヴィルだけが担うことが多かった。

 大概のメンバーはめんどくさがり、能力を発動することすらせずにやりたい放題だった。

 思えば、森林での称号戴冠者(バラストーキー)戦においてもヴィルを救ったのは生徒会メンバーではなくて、シャルカの母(スティフュ)であった。

 この親子にはつくづく心理的な面で助けてもらうなぁとしみじみ感じるヴィルであった。


()()()()! ありがとう!」


「パーティープレイ……悪くないわね! ()()()


 互いの思考が重なっていく。

 味方同士の「やりたい」と思う感情が徐々に一本の線へと(つむ)がれていく。

 交じり混ざった互いの意志がこの戦場を支配していった。

 ヴィルが走ればシャルカが補助し、シャルカが戦えばヴィルが敵を翻弄する。

 たかだか数時間前に出会った人間とは思えない―――いや、だからこそなのかもしれない。

 彼、彼女は今日この日に出会ったばかりではあったが、ヴィルが手を抜いたとはいえ“死闘”を繰り広げ、お互いの感情を生身の肉体でぶつけ合い、そして知識の共有によって会話を重ね、心を再三触れ合わせ“自分”という存在を強く相手に見せたわけだ。

 その一連の行為が、今、この戦闘において素晴らしい形で(こう)を奏しているのだ。


 ヴィルは生まれて十七年、もう少しで十八となる今この瞬間。

 熱い情熱を感じた。

 熱く、燃え、煮え、沸騰するような情熱である。

 この世界に来て良かったと思うのはこれで何度目か、しかしそんな思いも幼稚に思えるほど、この“殺戮”が楽しかった。

 もし魔物に意識があったなら、もし魔物に他者を(おもんぱか)れる知性があったなら、泣いて詫びよう。

 でも、それでも、この蹂躙が楽しくて仕方がなかった。

 別に“殺し”が楽しいのでない。“血”が綺麗なのでない。“悲鳴”が美しいのでない。

 今のヴィルにとってこの戦闘はあくまで『スポーツ』だ。

 汗を流し、ただひたすらにシャルカと心を触れさせ、お互いを意識しながら行動するスポーツだ。

 戦闘という独特の“ゾクゾク”感が体全体を奔り、大粒の唾を飲み込むような“ハラハラ”の展開がヴィルの鼓動を格段と早くさせる。

 そんなスポーツなのだ。

 楽しかった。嬉しかった。

 

 人生で一番ヴィルが綺麗に笑っている瞬間は今この場所でのことだと思わせるほど、彼は活き活きと“死”を遊ぶ。


 あぁ命を(たっと)ぶ素直な人よ、あぁ生命を(たっと)ぶ素晴らしき人よ。

 どうか彼の行いを責めないで上げてほしい。

 彼の行いはどこをどう切り抜いても殺戮でしかないが、どうか非難しないであげてくれ。

 

 確かに彼は魔物と呼ばれる未知の生命を根絶させるかのような勢いで殺戮している。

 でも許してあげてくれ―――いや、()()()()()()くれ。

 これは彼らの“当たり前”なのだ。そして部外者であるヴィルにとっては“仕事”なのだ。

 彼は自分が今身を置く“冒険者”という立場においての最大の行動を成そうとしている。

 彼はその点において生徒会で活動していた時から何も変わってなどいない。他者のために奔走するのがヴィルトスなのだ。

 今この瞬間も、冒険者としての責務を果たしつつ、シャルカとの()()をただひたすらに楽しんでいるだけなのだ。

 どうか邪魔しないであげてほしい。

 その理解だけは忘れないでほしい。




「―――ッ」


 若干の疲労を感じたヴィルは攻撃の手を止めて、魔物たちの死骸が並んだ()()をただ眺めた。

 たがだか数十分の【隔絶された勇気(ラナム)】の連続使用でここまで疲れるとは露とも思わず、ゼノンテルアにおいての体力消費とは差異があるのだと実感した。

 久々に感じた息切れ、前を辿るならば【山羊の狂脚(インペラム)】侵攻の時以来の疲労感だ。

 

「ふぅ……」


 大きく呼吸をして少し崩れた呼吸を整えれば、静観していた魔物たちの死体をもう一度しっかり見つめた。

 そこで、ヴィルは安心とそして少しの悲しさを覚えた。

 一つは自分が行った惨事に対して【山羊の狂脚(インペラム)】の時のような苦しみを全く覚えていないという事。

 そしてもう一つは、自分が人でないものに対して人と同じ感覚で憐れむことができない、という悲しさ。

 悩むことが少なくてヴィルにとっては自分の事ながらありがたい事だったが、どうにもこうにも『これでいいんだろうか』という気持ちが芽生えて仕方がなかった。

 いや―――それももしかしたら自分に対しての欺瞞(ぎまん)なのかもしれない。そういう思考を()()()ということで自分がさも聖人のように自分自身で美化したいだけなのかもしれない。

 ……思考の袋小路に詰まってしまったヴィルは、この先を考えるを止めた。



「シャルカさん、【アルリタィラルドトナーニア】ってこいつですか? この先にある建物の最奥に居たんですけど」


 (むくろ)が増産されていく過程で、最後の最後に少し置いて行かれてしまったシャルカが合流した時、ヴィルは開口一番そう尋ねた。

 本来は、鬼のような顔と全てを嚙み砕く強靭(きょうじん)且つ巨大な牙が口からはみ出した【アルリタィラルドトナーニア】の形相は恐ろしい物のはずであるが、魔物ですら驚異的と言わざるをえない恐怖を感じさせられたのか、今にも泣き出しそうな辛そうな顔面を浮かべた状態の“生首”がシャルカに見せられた。

 顔だけでヴィルの体躯ほどある図体、一度討伐したことのあるシャルカなら分かる。正真正銘、今回の依頼の魔物であった。


「……どんどん先走っていくからまさかとは思ったけど、なんだかんだ言って結局()()()()じゃない」


 『いったいどんな殺し方をしたの?』『“討伐”にはプラチナ級―――それも三人()()が必要の敵をどうやって一人で殺したの? さっきの本当は冗談だったのよ?』『建物って……この先にあるのは()()()()()()()、その廃墟の奥までこの短時間で潜り込んだの?』

 聞いてみたいこと言ってみたいことは山ほどあったが、シャルカはその選択肢を心の内に仕舞い込み、敢えて聞かないことにした。

 シャルカも馬鹿ではないのでヴィル達が平々凡々な常人でないことなど薄々分かる。

 けれど、自分の足を引っ張るのではなくて逆に先導してくれる新たな存在―――()()を前にして、その質問をすることは何よりもシャルカが許さなかった。

 なのであえて腹を探るような踏み込んだ話はせず、茶化したような質問をしたのだ。


「あ、あぁぁぁぁぁ!!! 忘れてた!」


 今回の依頼が調査であったことを今さらながら思い出したヴィルは絶叫した。

 いくら仕事中が楽しかったからとはいえ、依頼内容を(たが)えるなど言語道断。

 『わざわざ等級以上の仕事やっておいて、それでランクだけは上げないでくれって何の冗談ですか?』とスティフュに言われそうな気がして、慌てふためくヴィルトス。

 【アルリタィラルドトナーニア】の巨大な生首を持ちながら慌てる滑稽なヴィルトスを、シャルカは口から漏れ出してしまったように笑った。

 

「―――あと、()()()。私は()()()()よ“さん”は要らないわ」

「改めて、これからよろしくね」


「あ、あ、あ……」

 

 彼女の。

 シャルカの嘘偽りのない真正面からの言葉に。

 シャルカの濁りの無い澄んだ瞳に。

 生徒会以外でヴィルにここまでの距離歩み寄った人間は彼女が初だ。ゆえに、彼は経験した事の無い、勘違いする余地もない、“本物”の『友好』を手にし。


 今この瞬間に受け取った様々な情報により、ヴィルは恍惚をした笑みを浮かべながら地に倒れいった。


今回はシャルカを入れて軽く冒険をしてみたかったの回。


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