第23話 「異世界冒険者仲間? ができる」―――②
「勝負でもしますか?」
いたって冷静な声音ではあるが、その言葉には挑発の意図が見え隠れしている。
冒険者に三度もめんどくさい絡まれ方をした経験があるヴィルは、四回目でようやく解決の糸口を探ったのだ。
今までのように受け身になって耐えるのではなくて、自分から一歩前進することを選択した。
「……どうなっても知らないわよ。覚悟しなさい」
スティフュゆずりのキリっとした目元を更に尖らせて、まるで視線で射殺すかのように、鋭利な目でヴィルを見詰め宣言するシャルカ。
「一応言っておくが僕はクラウン―――」
一歩踏み出したとはいえ根が小心者なことは変わらず、いや敢えてここでいうならばチョロいのは変わらず、ご丁寧にも相手に自分の強さを教え、公平であろうとするヴィル。
しかし。
「―――御託は結構、聞く気もない。何があったかは聞いてないし、どんな経緯でママとの約束をこじつけたのかも知らないけれど、私はプラチナ級で、そしてあなたは私が知らない無名の冒険者、大方調子に乗った金級、もしくは実力の差も分からない銀級」
「それでこの場合、特に冒険者において、真に強者である私が道理なのよ」
(もう絶対一人っ子、わがまま自己中なんでもありの一人っ子だ。兄弟がいたならば意思疎通を図らねばどんな悲惨なことが起こるのか日常生活で身に付く。だから一人っ子に違いない)
ヴィルは「ポカン」と馬鹿のように口を開き呆れて、彼女の言い分に対して心の中で自分自身の理論に頷いて確信を持った。
しかしまぁ、ヴィルの偏見全開の論理はさておき、彼女―――シャルカが甘やかされて育ったのは事実。
そして優秀な親の遺伝子と教育により、冒険者としての実力はすでに上位クラス。
助長するのも無理はなかった。
だがしかし、そんな子どものわがままに真剣につきやってやるほどヴィルも暇ではない。
ひいては魔法の習得のため、依頼を受けるため、合理的に邪魔者を排除するまでである。
「ついてきなさい」
ギルドにはこういう冒険者間のいざこざ用に試合場があるといい、シャルカは指を振ってぞんざいにヴィルを手招いた。
「―――武器は何を使ってもいいわ」
どうせ当たらないもの、という傲慢が彼女の言葉には続きそうだった。
「じゃあこれ」
そう言ってヴィルは―――
……先ほどシャルカが子どもだなんだと言いはしたし、ヴィルが大人になったかのような言葉も発した。だがしかし、別にヴィルは今回、たったこの場所だけで、この状況のみで、ストレスの飲み込み方を思いついただけで、大して進歩はしていないのである。
よって結論を言おう。
―――その辺に転がっていたただの石ころを見せつけた。
こいつ、腹が立っている時の挑発の仕方は一級レベルで高いのだ。
舌打ちとも歯ぎしりともとれないどっちつかずの音をシャルカは発す。
「……ッ。 ママ! 審判を!」
僕たち二人が丁度視覚に収まる位置で待機しているスティフュさん。
勝負の勝敗は彼女の判断に委ねられる。
「はいはい、それでは私の権利を賭けた……自分で言っていて少し恥ずかしいですね。こほんっ、模擬試合を行います。ルールは冒険者ルールで行います。簡単ですね、要は何でもありです」
「勝敗は私の独断で判断します、それと意図的に殺意のある攻撃は私の全力をもってして止めにかかりますのでご注意を」
ヴィルはこの世界に来て何度目かの「いや、そんな適当でいいのかよ」ツッコミを心の中で叫んだ。
(殺意のある攻撃は止めてもらえるけど、それって裏を返せば殺意が無かったらどうとでも……)
あわあわ……と衝撃の事実に気づいたヴィルは顔を震わせて、どういうことですか!? という視線をスティフュに投げかけた。
すると、
『がんばってください』
とだけ目線でスティフュは返事をしてきた。
いやいや! おかしいよ!? 万が一ってことがあるじゃない!? なんだよもう! やっぱり冒険者は物騒じゃないか!
ヴィルの泣き言は止まらない。
『娘さんを止めて! 優しくするように言って!』
『娘は止まりません、お手上げです。ヴィルトス様がどうにか娘を躾けてやってください』
それでも親か!? 育児放棄をするなよ! いや……児って年齢でもないからスティフュさんのせいでもないのか……? いやでもそもそもの育て方が……。
「それでは両者準備が整ったようなので、はじめ!」
―――なんかいつの間にか始まったんですけど。
スティフュとアイコンタクトで意思疎通を図り、その返答に対して「なんでだよ」と心の中で一人ツッコみをしていたヴィルにとってはまさに藪から棒。
いやしかし、藪から棒というよりは“急に剣”みたいな状況だ。
「あぶねっ!」
開始の合図とともに一直線に首を飛ばしに来たシャルカは、躊躇なく、無駄なく且つ迅速に剣を振るった。
風を切るというよりは風に泳ぐという形容が一番似合う音を纏っての攻撃は変に豪快な剣筋よりも何十倍も恐ろしかった。
唐突な直線機動に停止から攻撃までの段取りの良さ、さらには正確無比な軌道。
どれをとっても感嘆の声が漏れる、一級の技が光る動きであった。
「ちょっと! 急に切りかかるとかおたくどんな教育を―――」
さっきまでのわがままぶりとを掛け合わせたヴィル渾身の皮肉は、振りかぶった状態からすぐに攻撃態勢に移ったシャルカの剣音にかき消された。
一挙一動、若干オーバーな動きをするシャルカ。
“無駄”と言われても仕方のないほどに、薙ぎであれば百八十度以上振るうのが彼女の型だ。
彼女の伸長を概算で測ったならば、ヴィルの伸長と対比しておよそ165㎝程だろうか、その彼女のもつ得物、いわゆる武器は“細剣”というにはしなやかさに欠けていて、“長剣”というにはやや重量感が足りない。
武器の形状による呼び名などそこまで詳しくのないヴィルが判断するとして、“中剣”と呼称するのが想像し易さで言えばダントツだろう。
それで、彼女はその中剣を振るう―――いや振りまわすように扱う。
しかし、けっして隙だらけの型ではなかった。
でも、確かに隙はありそうなのだ。なぜなら彼女はその独特な動きの性質上、剣の勢いによって、どうしても対面する敵に背を向けるまで体が回ってしまう。
けれど、恐ろしいのはその後の第二撃目への移行が早すぎることだ。
並の人間が初撃を上手くかわして隙ありと飛び込んだならば、まず間違いなく死角―――彼女が背面を見せたことによって見えなくなった面―――から剣が恐ろしい勢いで刺し殺さんと飛んでくることだろう。
もちろん飛び込んでいる以上回避は難しい。
隙だらけのようにも見えて、敵との心理戦において優位に立つ、緩急の鬼のような戦闘スタイル。
「―――まぁ僕には当たらないんですけどねぇ」
迫りくる幾重にも連なった剣光。
外の明るさを反射する煌びやかな中剣が目を見張る速度で動いていることによって、それらは一層恐ろしさを増していた。
だがしかし、ヴィルには当たらない。
いや、なにも大人げなく【隔絶された勇気】を使っているわけでない。
ただ単純に身体能力と勘だけで光り輝く線から逃れ続けている。
「なんで……」
能力を発動していないので、彼女の顔色をじっくり見ることなんて出来やしないが、生身の動体視力で捉えられる限りの情報によると、どうやら彼女は困惑しているようだった。
「なぜ……当たらないの」
「なぜって、そりゃあ分かりやすいからだよ」
“分かりやすい”その言葉にシャルカは過剰反応を示し、行動の移行は加速度的に増加する。
「その一、あなたのその攻撃はそうだな……目が良い、から出来るのかな? まぁ推測だけどたぶん目が良いんだろう」
「相手の姿勢や体重の乗せ方で、大方の相手の次来るであろう行動を予測して、非力さを補うための敢えての大振り攻撃を予測した場所に当てる、という型。瞬間的な把握能力がなければ不可能な技だけど、残念ながら僕にもできる。相手の筋肉の収縮膨張による行動の先読みだなんてずっと前からやっていることなんですよね。そしてそれが分かっていて同じようなことができるなら、当たらないのは必然」
初撃目から今の今までずっと誘導されていたことに気が付いたシャルカは驚愕を隠せない。
しかし、ヴィルはそんな彼女のことなど気にもせず、スティフュから頼まれた“躾け”というものについての思考に頭を巡らせていた。
「その二、目が良いのが災いしてか、それとも【スキル】とやらの効果か、僕のステータス?だっけ、あの身体能力を数値化するやつ、あれが見えているんだろうね。だから僕のポテンシャルを把握できていない。僕から言わせればあれは“指標”であって“絶対”ではない、過信するものではないというわけだ」
ヴィルの指摘通り、シャルカにはスキルによってヴィルの大まかなステータスが見えている。
だからこその出会いからの高慢な態度だ。
圧倒的力の差が視えているからこそ、そして自身の性格に後押しされるから、本物のヴィルを捉えられない。
「僕から言わせれば、筋トレもしてないのに能力発動だけで変わる数値なんて、占い程度のアテにしかならないよ」
順当に自身の戦術および戦闘能力を否定されていくシャルカ、先ほどのヴィルではないが苛立ちは相当なものである。
「……まぁ僕は相手の力量を判断するときは筋肉量だったり体格だったりで判断するから、逆にこの世界ではやり辛いんだけども……」
初対面の敵との交戦において、見た目を過剰なまでに気にするヴィルはセプテンブス大陸にやってきて以来、見掛け倒しの敵に何度となく苦戦してきたのを思い出し、苦笑して言った。
だがしかし、シャルカとの戦闘において初撃でだいたいの力量を把握したヴィルは“これなら大丈夫”と判断を下し、冷静になっていた。
だからこその“躾け”へと思考を回すことができていたのだ。
使うと言っていた石ころさえ使わずに、余裕綽々でシャルカの剣撃を回避するヴィルトス。
振るった刃は百を超え、それでも当たる気配は微塵もなし。この状況に困惑し憤慨するのは当然シャルカである。
舌打ち一回、刃を収めて後転しヴィルとの距離を取った。
「ちょこまかと鬱陶しい! 逃げるだけが取り柄なら、それすら上回って小間切れにしてやる!」
物騒な彼女の発言に身を震わせるヴィル。
臆病のきらいがあるヴィルは本当に気圧されたからこそ震えから肩を揺すったのだろうが、キレ気味であるシャルカには挑発のようにしか映らなかったよう。
目元をぴくぴくと引きつらせた。
「『吠えろ』―『騙らせ硬らせ』―『準能爛花』」
「【パーフェクトムーブ】」
歯を食いしばるかのような音と共にシャルカが唱えたのは“行動補正”の魔法。
有り体に言えば動きがより洗練される魔法である。
さらには、
「『吠えろ』―『落つる火花のごとく』」
「【蝶之速度】」
「『吠えろ』―『騙らせ硬らせ』―『落つる火花のごとく』」
「【慧之速度】」
自身の行動速度を引き上げる、この世界―――セプテンブス大陸流に言い換えるならば“素早さのステータス”を引き上げる魔法、そしてさらに限界を超えて引き上げる魔法を唱えた。
ヴィルの勘が微かな“死”を警鐘を鳴して知らせてきた―――その瞬間。
「ッ!」
あぶね、などという呑気な言葉すら発すことを許されず、今回は身体能力の全てを使った迎撃を余儀なくされた。
第一撃とほとんど変わらず、超高速の突進からやや停止、逆手に持った中剣を股下の部分から頭上目がげて一気に振り上げる。
頭を真っ二つに切り裂く初動は、回避力の高いヴィルに対しての誘導。
さっきまでのお返しと言わんばかりのあからさまな攻撃、中剣独特の距離感の掴めなさを活かした絶対に届かない切り下げは、次に続く逆手持ちに切り替えての切り上げにつながる布石。
誘導に引っかかっていればまず間違いなく斬られている。
当たれば即死必死の攻撃であった。
けれど、ヴィルはその死至の攻撃に対して、身を僅かな時間に可能なだけ前に折りたたんで防御の構えを取り、渾身に腕を振って来るであろう予測した位置に“石を運び”、当たると知覚する前には腕を自らの筋肉で弾く。
すると、その辺に転がっているような粗末な石を使って敵の即死級の一撃を防げるのだ。
原理としては、振るわれた剣に対して、剣の先端部分に垂直に石をぶつけ、衝撃が伝わるのと同じくらいのタイミングで腕を離し衝撃を逃がして、剣の軌道を大幅に変えることによって攻撃からも衝撃からも逃れるというものだ。
ここまでの離れ業をやってのけるのは、やはり普段から【隔絶された勇気】を使って動いているから、その時の感覚が身に染みているのだろう。
けれど、そんな離れ業をやってのけられてシャルカは平然ではいられないだろう。
困惑の感情は驚愕へと、怒りの感情は恐怖へと転換していく。
「な……!?」
自身が討伐依頼を受ける際は今の三つの魔法で身体能力を底上げした状態で挑んでいる。
つまり、他の魔法を使っていないとはいえ肉弾戦においては全力を出していると言わざるを得ない。
悔しいし悲しいことに、それが通用しないというのは恐怖なのだ。
『なぜ』という恐怖である。
ステータスを覗き見る希少なスキルを使っても、変わらずヴィルの能力値は底辺の冒険者レベルだ。
初期でさえ人と羽虫ほどの実力差であったのに、魔法を重ねがけた今は蟻と人ほどの絶対的差が有る。
にもかかわらず当たらなかった。いや当たらないならまだいい。
弾かれたとはどういう訳だ? 意味が解らない。
能力は格段に上昇している。
弾かれたところで先ほどの何倍もの速度で二撃目を放てる。
だが、弾かれて攻撃の段取りが崩されたのもまた事実。
そして、生徒会の切り込み隊長であるヴィルがその隙―――とも言えない普通の身体能力であればごく僅かな時間―――を無駄にはしない。
衝撃を全て吸収しないために無理やり離した石を持った腕を、その離した時の勢いに乗せて回す。
当然肩の可動域の限界が来るがステップを踏んで体ごと回転させていたのでギリギリ届く。
ヴィルから見て後ろ向きに回転し裏拳を叩きこむ場所は瞬間に態勢を崩したシャルカの足元。
―――しかし、人間の化け物さを存分に詰め込んだヴィルの一撃は、惜しくも当たる前に、シャルカの魔法という超次元に敗北を喫し、回避された。
回避、これだけを見れば互角のようなものにも聞こえるが、当の本人、とりわけシャルカからすれば、屈辱と恐怖いがいの何物でもない。
やはりだ。ステータスの差は絶対的に開いている。
なのに今の一瞬に足元をすくわれそうになった?
蟻に?
恐ろしいことだ。
対して、ヴィルは思わず笑みがこぼれた。
思えば自分が肉弾戦において危ないと思ったことはそれほどない。
特にこのような対人の試合形式においては。
戦闘狂という崇高なものでもないが、スポーツ感覚として体を動かす快感として、この死が僅かにでも迫る緊迫した試合が面白かった。
「ハァゥ……」
笑いと緊張が入り混じった吐息をして、ヴィル本人も気づかぬうちに【隔絶された勇気】を発動していた。
自分の動きに彼女がどれほどついて来られるのか試してみたい、そんな風にも考えていたかもしれない。
「なにを…笑っているッッッ!!」
すぐに態勢を立て直したシャルカは憎いヴィルの顔面へと容赦なく剣を振りかぶる。
やはりそれも間違いなく即死級の一撃だ。
泥団子を砕くのに爆薬を使うくらいに大げさな一撃だ。
「楽しい……? からですかね!」
能力を発動したことによって完全にシャルカの行動を捉えられるようになったヴィルは、さっきまでの必死で動きの多いものではない、効率的でスマートな回避を披露する。
実際、今の一瞬でシャルカの得物を叩き落とすことも、奪うことも、隠すことも、全てできた。
だが、今の彼はこの試合に酔いしれている。
楽しいのだ。快感なのだ。自分より弱者を虐めたいのでない、純粋にこの勝負に情熱を傾けている。
“学園祭”のときのように観衆が見ているわけでもない、自分を非難する人間が大量にいるわけでない。
そういった環境の変化も、今ヴィルが興奮して戦闘に打ち込んでいる所以なのかもしれない。
(ちっ……また早くなった……!?)
計算、経験、諸々の“違い”を生み出す敵を前にシャルカは何度も驚愕した。
すでに自分の実力の九割は出している。
残りの一割を出さないのは己のプライドゆえに、格下と思っている奴に全身全霊で挑むことが悔しいのだ。
だがその決断を覆す時が近いのも薄々勘づいている。
なぜなら、先ほどから敵の回避が迎撃に変化し、さらには反撃に転じてきているからだ。
大振りで豪快かつ丁寧な攻撃を敵にぶつけても、いつの間にか超至近距離にまで踏み込まれていて、剣の振りが遅い根元の部分を弾かれて軌道を強制的に修正される。
それらは明らかにこちらの速度が相手より劣っていることを示す。
それに、なぜわざわざ詰め寄っての“修正”なのか。
攻撃を『行う』と意識して次に『行動する』を行う、それによって人は現実的に何かしらのアクションを起こせるし、体現できる。
しかし、『行う』と『行動する』の極寸舜の間に、外敵アクションを取られれば、反応なんて出来やしない。例え反応できてもそれは意識だけの反応である。
この原理は全ての物に適用される理であり、どんなに卓越した技術を持つ者もこの心理には逆らえない。
シャルカも例外ではなく、当たり前に適用される。
けれど、この現象において唯一例外に極めて近い行動をとれる人物がいる。
それが【ヴィルトス】という男だ。
ヴィルは効率化により、意識と行動の瞬間を誰よりも早くすることができた。
ゆえに、意識と行動の狭間に、敵の意識の死角と呼べる間に、踏み込んで“修正”ができる。
では、やはりなぜ修正なのか。
シャルカには腹立たしいことに理解ができた。
この男。
ヴィルトス・ジェントジェミニスは遊んでいる。
「『低迷』―『惑い』」
「【深緑の森】」
ヴィルの本心に迫ったシャルカは、焦り苛立ち驚愕の感情をなだめて、冷静さを優遇する。
勝利を目標に設定したのち、【第二詩律】の低級魔法【深緑の森】―――その場の景色に合った色の霧を生み出し辺り一帯において視覚を鈍らせる魔法―――を発動して、攻撃の型を撹乱と奇襲に切り替えた。
続いて、シャルカの攻撃への準備は止まらない。
「『純心』―『がんじがらめ』―『敵を縛れ』」
「【底無沼】」
「んん!?」
突如現れた霧に警戒し迎撃の判断を執ったヴィルに、突如として足元が崩れ液状化する現象が襲う。
近くに立体物は無い。
手に取る範囲全ては液状化し、蟻地獄や底なし沼のようにヴィルを地下へと引きずりこんでいく。
それにより体の軸がブレた。
そして、それはシャルカにとって計算内であり、想定された事象。
シャルカらしく傲慢にこうなると確信をもって行動していたため、次の攻撃はすでに発動圏内。
連続で使用したために、魔力は穴の開いたポンプのように勢いよく中身を減らしているが、この最後の一撃だけは十分に放てるだけの容量がある。
「『選定せよ』―『無秩序の中で甲乙つかないこの蛮象に』―『愚鈍なるものには解し得ない』―『究極の不定理をもって』―『吾望』」
ヴィルは視界が遮られた世界で、自分の髪の毛が逆立つのを感じた。
後方、右斜めの方向から“嫌な”感じがする。
ヴィルの感覚で、霧が発生して足場が不安定になってから数秒、この気配はまずい。
ヴィルが警戒心を高め振り向―――瞬間。
轟音けたたましく波打つ―――いや波裂くように宙を引き裂く“大轟雷”がヴィルに迫る。
「くたばれぇぇぇぇ!!!」
「【神と神の競争はたまた競合】!!!!」
今までのシャルカの速度など子供のお遊び程度だったように、途轍もない速さでこちらに迫る雷の魔法。
第六詩律の大魔法である。
さらには、右斜め後方―――だけだと思っていた、油断がヴィルを窮地に立たせる。
飛来する雷はヴィルに直撃するほんの一瞬前に分散し、振り向いた状態のヴィルの前方、直上、左右、計四か所に同時に当たるように分かれたのだ。
たとえ能力を使っていなかったとしても決断したであろう『逃げ』の一択は行動阻害の魔法によって阻まれる。
さらにはどの方向からかは轟雷によって判断できないが、シャルカが中剣を携えてこちらに迫っているのも感じ取れる。
仮にその場しのぎの手段で躱せたとしてもシャルカの攻撃にはどう対処すればいいのか。
人の何十倍回るヴィルの思考が次々と情報処理をしていく―――が、彼が手に入れた情報は眼前に迫る巨大な雷。
強大且つ恐ろしい“魔法”という未知が生み出す、雷だけだった。
久しぶりにまともな戦闘描写を描いてみた……
むずかしいぃ~




