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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
冒険の躍動《ディオ》
72/75

第22話 「異世界冒険者仲間? ができる」―――①


「ほら………ご飯食ったなら仕事行くぞ………」


 例に漏れず、山のような料理を作らせる割には、量は全然食べないアシミーの()()()でたくさんご飯が食べられたヴィル。

 今にも内臓が破裂して死にそうな彼は結構ギリギリな顔でそう言った。


「は~美味しかった~。そだね、行こか」


 アシミーの快活な笑みを見てヴィルはやるせないため息を吐く。

 怒りたい気持ち半分、嬉しい気持ち半分といったところだ。

 時たまに、彼女の笑みには何億ゼノ()の価値がある、と感じて何でも許してしまうのはヴィルがちょろいのか、それともアシミーの凄さなのか。どちらにせよ今日も今日とて彼女のわがままを戒めることが出来ないヴィルであった。


「大丈夫か? サブ」


 性別詐欺の超絶美少女顔面を極限まで歪めて、いっそヴィルより酷いのではないかと思わせるほどに最悪な顔を浮かべるサブは、飲み込んだ食物を吐き出すまいとその非力な手でしっかりと口元を押さえていた。

 サブは元より小食で普段食べる量だってアシミーとそれほど大差ない。

 しかし、アシミーから「そんなんじゃでっかくなれないぞ、さぶちー」と言われてしまえば、引くことなんぞできない。悲鳴を上げる満腹中枢を黙らせて無理やりにでもご飯を口の中にかきこんだ。

 その憐れな人物の成れの果てがこれである。

 生まれ持った最高の顔面が最低に歪んでいるため、どこか背徳的ないかがわしい雰囲気まであたりに漂っていた。


「飲み込めそうか? 水は?」


 差し出された水をサブにしては機敏な動きで受け取り、口の中に溜まった食べ物の隙間から無理やり喉に流し込む。


 そして、ゴクリ。と。


「し、死ぬかと思った………」


 サブの顔を見て、ヴィルは『肉食動物に追いかけられた草食小型動物を擬人化するとこうなるんだろうな」と思った。

 そんなサブとは対照的に、すでに能力の補助によって消化が終わったヴィルは、素晴らしいエネルギー吸収率により元気いっぱいである。

 おんぶしては可哀そうだと、一番楽な姿勢でいられるお姫様抱っこでサブを運んでやるのだった。


 王都に来てから気に入って泊っている宿の部屋を出て、階段を下る。

 そして、宿の玄関口にいる受付の人に軽く挨拶をする。


「おはようございます。今日は出掛けるので部屋は留守にします。あ、夜ごろに帰って来ると思うのでご飯用意しておいてもらっていいですか?」


 朝刊を読んでいた宿屋の店主はヴィルの存在に気づいた。


「あぁー分かりました。 ではいったん部屋の鍵を預かりますね」


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます。それではいってらっしゃいませ」


 近頃、ヴィルを悩ませていたことが解決したことによって、元気いっぱいな彼は「いってきます」と朗らかな声で言った。まぁもちろん悪人面なことは変わりないのだが。

 そして、それを見た店主。


(……今日も、あの小柄な方の子を抱いていたな……。少し先に出て行った明るい子ではダメなんだろうか……? どちらも美少女なのになぜあそこまで扱いに差が有るのか……うーん謎だ)


 今日も今日とて、不思議な彼らを身近で見ることができる店主の謎は深まっていく。

 


。。。



「―――ヴィル。やっとニート卒業できたね」


 ギルドまでの道中、先を行っていたアシミーに追いつくと開口一番そう言われた。


「いや誰がニートだ!」


「だって~ここ最近ずっと宿に引きこもってたじゃん。 冒険者続けてみようかなって言ってくれてお母さん嬉しいわよ」


「誰がお母さんだ。それにさっきの朝食の時にも行っただろう? 今まで隠れていたのはギルドがどういう組織なのか見定めるためだったって」


 もちろん嘘である。

 ヴィルなりにラーを真似しているつもりなだけである。

 ただ単にその場の感情で行動していただけだなんて恥ずかしくて言えないだけである。


「今日、あの人たちと会話してみて分かったよ。 ギルドは僕たちにとって有意義な組織さ。間違いない。そしてその有意義を見逃すほど僕は馬鹿じゃない」


 と、ラーの人差し指を立てる癖までも真似しながらそれっぽいことを、隔絶された勇気(ラナム)を使って加速した思考の中で考えて言うヴィル。


「うー。ほんとにー? 怪しいな~」


<ぎくり


「ほんとはスティフュ(スティちゃん)があんまりにも頼むから断り切れなくて~」


<ぎくぎくり


「魔法を教えてあげるとかなんとか言われてスケベ心満開で~」


<ぎっくりぎっくり


「ちょーと話してみただけで『この人たち良い人そう』ってチョロさ全開で決めたんじゃないの~?」


<ぎっくぎっくぎっくりぎくりぎくぎく


「いやいや!! さてはアシミー聞いてたな!? ふざけるなよ!? 最初から知ってたなら言わなくていいじゃん!?」


 深層意識まで見破られたヴィルは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、唾を飛ばしながら叫ぶ。


「―――ざんね~ん。アシミーちゃんはそんなことしなくてもチョロ弱のヴィルの考えなんて分かってしまうのです! えっへん」


 全て見透かされたことがたまらなく恥ずかしいヴィルは、両手で顔を隠して羞恥までもを見せないように努めるのであった。

 ちなみにヴィルにお姫様抱っこされていたサブは当然落ちた。


「くっそ……! いつか絶対仕返してやる」


「出来るもんならやってみな~。ま、アシミーちゃんは完璧美少女だからヴィルなんかじゃ到底勝てっこないけどね。それにその言葉も聞き飽きるくらい聞いてきたし~」


「ぐぬぬ……」


「あ、あの……ヴィルトス君……ぼく、おちてる……い、痛かった」


 とまぁ、冒険者を続けていくと決断した大事な日にしては、いつも通り子供っぽくて大変にぎやかな、賑やか過ぎるくらいの3人―――いや“生徒会”なのであった。


「よぉし! こうなったら!」

「―――あ! あんなところに美味棒らしき屋台が!?」


「え、どこどこ?」


「いまだぁぁぁぁぁ!!!!」


 能力を発動しての全力ダッシュ。

 周りへの被害などまったく考えず、軽い衝撃音(ソニックブーム)まで生み出して、本日2度目のギルドへの道を走った。

 まだ幸運なことに、壁を蹴るなどの事は流石にしなかったようで周りへの被害は道端の紳士淑女の服をズタボロに引き裂いたことだろうか。

 これで学園ほどの強度などあるわけない壁を蹴っていたら、それこそ一瞬で王都アレイグンが崩壊していたことだろう。

 ムキになったガキというのは本当に厄介なものである。


「―――これで一番乗りぃぃぃ!!!」


 大音声を挙げて高らかに宣言したはいい物の、……まぁ結末は予想通り。


「遅かったねぇ~ヴィル」


「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 小学生レベルの『あんなところに〇〇』作戦と馬鹿みたいな走りで生徒会の誰もが恐れるアシミーには到底敵うわけがなく、またしても黒星を付けられたヴィルであった。


「ほらほら~ニートをやめてお仕事するんでしょ~? いつまでもいじけてないで~」


 大げさな姿で項垂れるヴィルをアシミーが人差し指でツンツンする。

 ヴィルは彼女のツンツンしてくる指を払って立ち上がった。

 

「誰がニートだ、それにいじけてなんかいねぇしな」


 効率化によってクールさを取り戻したヴィルはある人物を目が合った。

 その人物にしてはかなり鋭い目つきだった。


「ひどいよ、ヴィルトス君……」


 急に地面に落とされて、かと思ったら瞬く間に置いて行かれそうになったサブ。

 ぱっちりお目々をジト目に変えてヴィルを凝視していた。


「うーん、すまん」


 軽い謝罪。

 アシミーにどうのこうのいう割にはヴィルもヴィルで性格はあまりよろしくないのでは? と固定化されていたヴィルへの認識を改めるサブであった。

 

「―――ほいじゃ、さっそく仕事探しに行くか」


 なかなか切れないサブとの視線の交差に耐えきれなくなったヴィルは、強面のくせにビビりな心を全開にして、キュッと目を瞑り、話を逸らす。


「さっき朝ご飯の時に言ってたけど、なんだっけな~そうそう。ランクが低くて足りなくても少し上くらいなら不正で依頼を受けられるんだっけ」


「不正っていうなし……温情と形容したまえ」


「ま、どっちでもあたしはいいんだけどさ。実際受けられる依頼ってどこまでなのかなって」


「えぇーー、僕たちが現状“銅”だろう?」

「“青銅”“鉄”“銅”“銀”“金”“プラチナ”“ミスリル”“オリハルコン”“()()()”っていう順番だったはずだ、療養中に覚えた」

「だからー受けられるのは銀と金かな」


「この前来た時の感じだと、金級の依頼ならまぁまぁあったし、今回は探すのに手間取ることはなさそうだね~」


 楽観的に思われがちだが、実は全く抜け目のない性格をしているアシミーは10日前に掲示板に張られていた依頼の内容をほとんど記憶していた。

 依頼探し時も飽きた様にしていたが、実はちゃんと見ている。

 ……まぁそんなアシミーの抜け目のなさをヴィルは十分に理解していないのだが。

 彼の心内を描写したならば『よぉーくそんなの覚えてるなぁ~ほぇー』程度だ。

 とどのつまり、こんな事にも頭が回っていないようではアシミーを出し抜いて勝者になることなんぞ終ぞ不可能というわけ。

 

「さぶちー能力発動しない? 発動してくれたらその依頼を迷わず受けるんだけどな~」


 楽観主義者ではないが快楽主義者な面は持っているアシミー、ギルドにいる他の冒険者には見られないように、けれどヴィルトス達にはまじまじと見せつけるかのように汚く笑う。

 きっと内心では【怖武恐帝(バラストーキー)】と戦った時のように死が間近ににじり寄ってくる()()()展開を待ち望んでいるんだろう。

 

「うーん今日はまだ一回しか出てきてないなー」


「あれ。もう出てたの?」


「うん、今日は朝早く起きられたから多分それに使われてたんじゃないかな」


 最悪な展開を巻き起こしたり、はたまた超絶ラッキーな摩訶不思議を起こしたかと思えば、ただ単に一回早起きが出来るようになるなんて馬鹿馬鹿しい効力を発揮する能力。

 なぜ神はこんなよく分からない異能力をお与えになったんだろう、と首をひねるヴィルであった。


「―――んじゃまぁ、サブの能力が出てないなら適当に選ぶか~」


 所狭しと壁に張られた依頼書を見渡し、分かりやすく金級依頼だと目印のある依頼書をピックアップした。


「あれ……これデジャブを感じる」


 どれどれとヴィルが差し出す依頼書を覗き込むサブとアシミー。

 するとその依頼書を見たサブが反応を示した。


「【戒律と規律のアルリタィラルドトナーニア】ってぼくが初めて読んだ依頼書のモンスターだよ」


「あぁ~このやたら特殊記号が多くて読みにくかったやつな、思い出した思い出した」


「で、その大層な名前のついてるやつをどうすればいい依頼なの? それとそいつ毒とか吐いたりしない? 麻痺毒でもいいよ?」


「依頼内容はこのモンスターの縄張り調査だな。あんまり詳しくは書いてないけどどうやら一定区間を自己の領域として認識して、その内部に入るやつを迎撃する危険なやつらしいんだけど、その領域がどの程度の広さでどの程度が危険なのかの調査」

「ちなみに毒とかは吐かないぞ? 吐かないからな? ちなみにその質問をしている時点で僕が戦わせられる気がしてくるんですが。気のせいじゃないよね? ね? ね?」


「さぶちーこの依頼でもいいよね? うちには優秀な盾もあるんだし討伐依頼じゃなきゃ楽だからいいよね~」


「あのアシミーさん? 聞いてます? 聞こえてますよね? 盾ってもしかしてしなくとも僕の事です? 『楽だからいいよね~』ってどうせやるの僕なんでしょう? あなた寝ますよね? ね?」


「ほらほら~ヴィル~置いてくよ、なんならこれカウンターに出してきてー」


「おうおうおう、おう。終いにゃパシリですかい……まぁ行ってくるけどもさ」


 チョロくて扱いやすいヴィルを先頭にギルド受付へと歩む3人。

 サブはまだ息苦しそうに、アシミーは可愛らしく鼻歌を口ずさんで、ヴィルは情けない自分にため息を、三者三様これでこそ生徒会。


 ふせ―――等級以上の依頼を受けるためにスティフュのいるカウンターへと並んだ僕たち。

 ちょうど前に一人だけいるため、他のレーンは空いているが不自然にもしぶしぶそこに並んだ。

 どうやら前に居る人物はスティフュさんと面識があるようだった。

 親密そうに穏やかな会話を―――


「―――ちょっと()()!? どういう事よっ!? ちょっと久しぶりに帰ってきたから、長い間出来なかった修行ができると思ったのに! 何が『教えてあげたいのはやまやまなんだけど、一人先約で教える約束をしちゃったからまた今度の機会にね』よ! 誰よその馬の骨!」


―――おっとぉ穏やかじゃないですね


「だ、だからね。こんなに早く帰って来るだなんて思ってもいなかったから、あなたが帰って来るまでの間に……」


「だーかーらー!!! 私はママとの修行をしたいがためにこんなにめんどくさい依頼を頑張って終わらせてきたのに! それなのにそんなどこの馬の骨かもわからない奴が急にしゃしゃり出てきて私からその権利を奪っていったのが許せないっていてるのよ!」

「あー!らちが明かない! ママ、どこのどいつよ!? 私しっかり()()()()()来る!」


 あの……話し合うっていう雰囲気にはとてもじゃないが見えないんですけれども、どちらかと言えば拳で解決しようぜみたいな脳筋思考が駄々洩れなんですが……。


 さて、どうしようか。ここで名乗り上げるのは自殺行為。

 逃げるか? いやこの不自然にここだけ並んでいる状態で中途半端に動けば見られかねない。

 幸いスティフュさんと話している方は僕たちの顔を知らないはずだ。つまりスティフュさんに見つからない限り大丈夫。

 効率化して誰にも見られないようにしながら一旦ここを去ろう。

 もう厄介ごとはご免なんだ。


「……にひっ」


 悪魔の笑い声。

 しまった、とヴィルが後悔することすらもう遅い。


「―――スティちゃーん! 来たよ~!」


―――きさまアシミィィィィィィ!!!!!


 心の中の絶叫などアシミーには届くはずもなく。


「……ん? あぁスぺクラム様! それにジェントジェミニス様とサブライデンズ様!」

「ちょうどいいところにお出でくださいました。少々問題が起きてしまいましてお手数をおかけしますがお時間よろしいでしょうか」


 スティフュの言葉を聞きながらヴィルは起死回生の一手を脳内で模索していた。

 そして効率化によって効率的に回った思考の中で導き出した逃亡法を行使する。


「いえ、僕たち忙しいので―――」


「―――うん、大丈夫だよ! それで何があったの? よければリーダーのヴィルが相談に乗るよ?」


―――きさまぁぁぁぁぁぁぁ!!!!アシミィィィィィィー!!!!


「ありがとうございます! それで問題というのが……」


「いいわママ。私が直々に話をするわ」


 やめてください。話をしないでください。もうだいたい聞こえてたからわかるんですけど。

 めんどくさいオーラがぷんぷん匂って来るんです。

 それはもうスペラと同じくらいめんどくさいオーラが。


「単刀直入に言うわ、あなたママとの約束である『魔法を教えてもらう』っていうのを辞退しなさい」


 なんとか、何とか穏便に……。


「も、もちろんわかりま―――」


「てやんでい! 兄貴が自分で勝ち取った褒美をどこの馬の骨ともわからない奴に譲るかってんだい!」


―――アシミィィィィィィ!!!ヤメテェェェェェ!!! これ以上話をややこしくしないで! それに何でエドマエ方言なんだよ!?


「う、馬の骨!? ……どうやら私が、誰か、分かっていないようね」


 バッと外套を翻して、フードから窺えるかの人物の容姿は、


「“英俊のスティフュ”その娘、プラチナ級冒険者、俊傑【シャルカ・タビュー】」

 

 高慢且つ自信が在り溢れる態度でこちらを圧倒する彼女は、スティフュの面影を感じさせ、間違いない血縁関係を示すのだった。

 ママ……親子かぁ。


「その私が頼むのだから、ね、もちろんいいわよね?」


 スティフュさん助けてぇ!

 あ、ダメだ。あの人完全に今目を逸らしやがった。

 あれだ。甘やかして育てすぎてしまったパターンだ。歯止めが利かないパターンだ。

 さては一人っ子だな? 僕の偏見によるとこういう輩はなにかと一人っ子のパターンが多い。タッシーとかチェビとかがいい例だ。

 くそうっ。何でこんなめんどくさい人に絡まれなきゃいけないんだ……。


「あ、あの、いや、その……」


「その先は別に言わなくていいわ。あなたと長々とお話ししたいわけじゃないんだから。ただ、“はい”って言えばいいだけなのよ」


 いや、何世代前のツンデレキャラの喋り方だよ。

 高慢キャラはもう足りてるんだよ。うちには絶対的エースのタッシーという高慢超えて帝王キャラがいるんだよ。

 もうお腹いっぱいだよ。

 めんどくさいことも大変なことも自分から進んではいないのに、勝手にやってきては僕の調子を壊していくんだ。

 今だってそうだ、僕は穏便に済まそうとしたのにアシミーが勝手なことをするからめんどくさいことに絡まれた。

 めんどくさいって事前にわかり切っていたのに突っ込ませるんだから本当に質が悪いよ。

 それに元を遡ればサブの能力が発動したことが原因だし、そう考えればこの状況は10日前の能力がまだつづいてるってことなのかな? まぁ別にどうでもいいけどさ。


「…あなた聞いてますの?」


 僕だって魔法を使いたいし、どうせ教えてもらうんだったら綺麗な人が良かったし、そうやっていいことが重なってスティフュさんが教えてくれるっていうのにまたこうやって邪魔がはいるしさ。

 この世界に来てイライラすることもあったから、そんな僕にようやくおいしいところが回ってきたのか、なんて思っていたらこの様だ。

 全く、もしこの世界にも神がいたならぶん殴ってやりたい気分だ。


「あらあら怖気づいてしまったの? 大丈夫よ、私格下には優しくできる性格だもの」


 うるさいなぁ。聞こえてるし感じてるし分かってんだよなぁ。

 そしてそれを飲み込もうとぎゅっと力を入れてるところなんだよなぁ。

 邪魔しないで欲しいなぁ。あぁー。

 なんだろうなぁ。なんだろうなぁこの不快感。

 飲み込みたいのに全然喉を通らない。

 

「で、私急いでいるから早く返事を聞きたいんだけど―――」


 ……それは、“子供の癇癪”に似た何か。


「―――【()()()()()()!!!()()()()()()()()()!!!】―――」


 王都の中でも比較的大きい建物であるギルド本部が横に揺れた。

 それほどまでの大音声。

 心の均衡をほんの僅か崩された瞬間に無意識に発動した能力と相成ってその効果は絶大である。

 ギルド内全ての生命が、たった一瞬だけ生きていることを()()()ほどだった。

 それはやはり一瞬であったため死ぬことなどは無く、ただの気絶で留まってくれたのが不幸中の幸いであった。


「……ごめんね」


 誰とは言わない。

 ただ一人、この場でこの程度では絶対に気絶しないであろう人物がヴィルにそう謝った。

 悪ふざけが過ぎた、とこの二人以外誰も起きていない世界でなら謝れた。

 ヴィルは一回だけ息を吸って、幼稚な自分を戒める。

 初めてギルドに来た時で二回、遺跡で一回、飲み込んだと勘違いしていたストレスが放出されたのである。

 イライラで人に当たるようでは人間として成長できていない、と反省をした。

 異様な雰囲気のギルド内を見て、


「ありゃりゃ……やらかしちまったな」とおどけた口調で言えたヴィル。

 吐き出したおかげでストレスは効率化できた。もうない。

 

「手伝ってくれるか?」


「……いいよ」


 軽い返事。

 でも今は逆にそれがありがたかった。


<ぱちんっ


 軽い破裂音一つ。

 手と手を勢いよく合わせたなら出るあの音だ。

 まぁ簡単に言って拍手だ。

 その音が鳴り響いた瞬間―――



「―――それで、返事を聞かせてもらえる?」


 陽気な話声と大志を胸に冒険へと出かける人物たちの意気込みが背後から聞こえた。

 そのプラスな声とは裏腹に返事をするのも億劫な事案が目の前にいた。


「あぁー嫌ですね」


「そうよね、わかったわ……って、嫌、と?」


「うん、だいぶ嫌」

「早い者勝ちだよね~なんて」


 体と心が軽かった。


「挑発、と捉えてもいいのかしら」


「ご自由に。何なら、勝負でもします? スティフュさんを賭けて」


 ヴィルは学んだ。

 冒険者というものを自分の角度から考えるのではなくて、敵を知るには敵に成るのが手っ取り早いのだと。

 ヴィルは相手が自分の土俵に踏み入ってきて腹を立てることを辞めた。

 相手の土俵に入って相手の()()を知ることから始めた。

 ヴィルはまた一つ頭が良くなったのだった。












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