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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
冒険の始まり《オーネス》
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第19話 「異世界英雄に真剣さと真面目さを求めるのは間違っている」

※この回はあの人が出てきます。

 なのでふざけまくってます。 どうか後半温かい目でご覧ください。


 前人未到の遺跡の最奥に隠されし秘宝。その秘宝たちに込められた強大な魔力は強力無比な爆発によって宿主を失い、空中を漂い、結果死にぞこないの怪物にへばりついた。

 知能の欠片もない怪物はその事実を知る由もなかったが、結論から言ってその奇跡は怪物を知らず知らずのうちに救ったのだった。

 元来、怪物のいた遺跡は最上階のみが価値のある金庫としての意味があった。それより下は囮という名の餌だったのだ。

 まんまとそれに騙されていた冒険者は最上階を真剣に探すことはなく、派閥を作り、ルールを取り決め、階ごとの旨みを独占し始めたのだ。

 元々そこにあった価値のある資産たちは誰にの手にも渡ることなく、魔力となって本来の形を逸脱した形で怪物の力となった。


 持ち主の身を守る魔力は怪物―――守護者の貧弱な外皮を強化し、竜を穿った槍は守護者の攻撃力となった。

 他にも様々な力が恐ろしい守護者に合流し融合していく。

 冒険者から見て、もともと厄介な存在である称号戴冠者(クラウン)モンスターはさらに上位の存在へと上ったのだ。


 あの時、ギルドマスターからの信頼も厚い優秀なギルド職員スティフュの放った攻撃は確かに狂った怪物の全身を打ち砕き、穿ち、消し飛ばした……はずだった。

 怪物の生命の(ともしび)が切れるその瞬間。怪物の体表に纏わりついた魔力たちは、まるで意志を持ったかのように新たな宿主を守ろうとした。

 それは自己治癒型の秘宝の名残かもしれないし、回復の魔力の恩恵かもしれない。しかし、今となってはそれが何であったかなどという些細なことを気に掛けるのは馬鹿馬鹿しい。 

 怪物―――奴は、その棚ぼた的な幸運に助けられ、さらには膨大な魔力、力と言い換えてもいいかもしれない、それを手に入れたのだ。


 ここだけの話、奴に再開したあの瞬間に、有無を言わさずヴィルが攻撃をしていたならここまでの展開はなかった。

 魔力の定着すら追いつかないほど早く奴は絶命していたはずだからだ。

 それにさっきの逃走劇の間だってヴィルが立ち止まって本気で殴れば一秒もかからず元の仕事に、薬草採取の仕事に戻れたはずだ。

 スティフュが魔法を放った後でだってまだまだ挽回できた。

 あの時魔法について聞くことばかりに夢中になってさえいなければヴィルの第六感はもう少し早くに奴の復活を察知でき、対処する時間だってあくびが出るほどあったはず。

 全てはイフの可能性の話だが、どれもこれも想像の物ではなくやっていたら必ずあった未来だ。

 そう言ってしまえばこのヴィルが重傷を負った“今”は分岐する未来の可能性の中でも悪い未来だと言えるだろう。


 この事実に、ただ一人だけ、最初から気付いていたアシミ―は落胆をため息交じりに覚える。

 もしかしたら、彼女の他人を卑下するようなねじ曲がった最悪の性格は、彼女の目敏さにあるのかもしれない。

 

 そんなこんなの細かい情報を知る由もないヴィルは、化け物に対しての警戒度を一つ上げた。

 この警戒度は学園でのペリター戦以来である。


『――ラー聞こえるか?』


 敵が動かないの見て、一瞬のうちに司令塔(ラー)との連絡を試みる。が。


―――応答なし……まずいな。


 ヴィルはその怖武恐帝(バラストーキー)に勝るとも劣らない存在感ある顔をより一層しかめた。


―――誰だ接続を切ったやつ……?!


 ヴィルが憂いているのは、なにも連絡が繋がらない事ではない。そうではなくて連絡が繋がらない()()の方が腹立たしかった。

 ラーとの会話が繋がらないことはそれこそ異世界に行かない限り起こらない。しかし、例外の一つとして妨害が入ればそれも変わってくる。

 ラーにも何かあったのか? と一瞬だけ考えたヴィルだったが、いや、と考えを改めなおしてそうではない事に気が付いた。

 今の時間、そうだ。今現在の時間だ。

 十二時を少し過ぎたころ、つまりはお昼時。

 この時間とラーが結びつくもの……そう―――完全究極俺之妹超可愛(シス)とのイチャイチャタイムだ。

 間違いない、断言できる。そうヴィルは考えた。

 そしてその予想は的中していて、流石変態シスコンといったところか、ヴィルの考えた通りラーとの時間を有意義に使いたいシスは能力をフル活用して誰の声もラーに届かないように細工していたのだった。


 ヴィルは憤慨した。

 

(くそぉぉぉぉぉ!!!!お兄ちゃんもシスとイチャイチャしたいぃぃぃぃぃ!!!!)


 ラーへの連絡が出来ないことへなどではなく、ただ単純に羨ましかったからだ。

 そも、ラーへの報告は定期連絡程度の気持ちだった。今この状況においてヴィルはなんら焦ってなどいなかったのだ。

 警戒心が上がって片足は無かったとしても、心の内ではいたって冷静になったヴィルは相手の強さを上手く推し量ることができたのだ。

 いや、警戒が増したからこそ恐ろしいという感情が減衰して、その代わりに排除しようという殺意が湧き出てきたのかもしれない。

 どちらにせよ、これらの情報量をたった一瞬で思考できる程度には【隔絶された勇気(ラナム)】によって効率化されている現状、ヴィルはそれなりに本気だった。


「あぁーいてぇ~」


 傷に対して泣きわめくわけでもなく、変に苛立ったりすることもないヴィルだったが、感情は億劫だった。

 本音を言えばそこまで戦いたくなかった。まぁ右足がないのだからそれもそうだろう。

 一般人ならばとっくに痛みで発狂している。


「アシミ~へるぷ~」


 情けない声を出して手伝ってくれと懇願する。

 

―――次の瞬間。


 重すぎる爪を地に擦り付けながら急接近してきた化け物がいた。間違える訳もなく奴だ。


「ぁぶねっ!?」


 間一髪、というほど劇的ではないが危うげな一撃を回避するヴィル。

 左足だけで跳躍し敵の刃を避けたなら、右手を振るいそれに追随する形で回る体を上手く御し、カウンターの一撃を敵の表皮に刻んだ。

 

「うわ~小賢しいなぁ……」


 回転した体を後ろ向きに倒して相手との距離を取ったヴィルは地面を見て少し驚いた。

 化け物由来の恐怖的突進と切り裂きが主流だった化け物が、そのワンパターンの攻撃を囮に使い、地面から這い出させた伸ばした爪によってヴィルを串刺しにしようとしていたのだった。

 一番結果的に良い攻撃が理解できるヴィルは、稲妻のような反射速度でその攻撃を察知し、あえて片足しかない状況で跳躍していたのだった。 


 その瞬間の景色を見ていたのはアシミーだけだったが。

 スティフュは未だ数舜前に敵がいた居場所を眺めていた。軌跡を辿れてなどいない。

 サブは戦いの風圧で森の奥の方に転がっていってしまった。


 成長を見せた敵ににやりと笑ったヴィルは、お返しとばかりに腕を振るう。ヴィルにしては無駄の多い腕の振りを行って、敢えて残像が見える程度に動かした。

 素人目にはその光景は、赤ちゃんに「ばぁ~」とやる時のような手振りに見えただろうが、ヴィルはその瞬間にも“五回”()()を行っている。

 ダミー二回、挑発二回、本命一回の攻撃であった。


「だよね~」


 もちろん敵に効くはずもないが……。


 豪速であったはずの石ころとナイフはすべて一律に、小石程に砕かれて地に落ちて行った。敵の後ろに飛んでいかないところを見るに、これまた恐ろしい速度で叩き伏せるように切り刻まれて落ちたのだろう。


 ヴィルは次の行動を開始した。


 森という地形を存分に生かしての戦闘方法に切り替えたのだ。

 足が無い分、手を使って木々を移り、ヴィルが得意とする狭所での壁を使っての戦闘スタイルに寄せていく。

 武器のナイフがなくなったので近くにあった石ころを削りながらである。


「刺さるのかな」


 なんて事を考えながらも直で殴るのがどうしても嫌だったので一応磨いた。

 立ち止まる敵を見据えて縦横無尽に錯乱させるべく飛び回る。

 あと数回の移動で攻撃に移ろうと―――奴の首が百八十度回転しギラギラの目がヴィルの視線と交差した。


「―――ッ!?」


 予期しなかった対応に、慌てたヴィルは地面へと緊急着陸した。


「やべぇ! やべぇよ!? アシミー! 今の見てた!? 完全に目が合ってたよね?ね!?やばくない!?」


「やばくなーい」


「……いや、それはそうと手伝えよ」

「そろそろ手伝ってくれよ……たのむよ」


「えぇ~やだよー」


 駄々っ子じみた顔に頬を膨らまして、抗議の目を向けるアシミー。

 ヴィルはその会話を遮るように割って入ってきた怪物を圧倒的センスで抑え込みながら、説得を続けた。


「ほら見てよこれ! 早いよ! 僕まぁまぁ力出してるのについて来られてるよ? ゼノンテルアだったら総合格闘技世界チャンピョンとタイマン張れちゃうよ?」

「あ、知ってた? アシミー僕怪我人なんだ? ねぇ知ってる? 足無くなってるんだよ、すげぇ痛いの」


「うーん知ってる~」


 にこやかな笑みで返してくるアシミー。そこに同情は無い。


「えぇーそうなんだー」

「なら手伝おうかー」


「うーんやだー」


「うーん残念」


 全く中身のない会話を繰り返す二人、さながらそれは計画性のない長期休暇中の友達とのお喋りのように意味のない物だった。


「ほらさぁ~弾くのもしんどいんだよ~ナイフ無くなっちゃったからさ」


 次に、ヴィルの攻撃を捌く技術と無理やりな化け物の攻撃が衝突し、結果的に芸術的な組み手を行っているかのような状況を指してヴィルは説得をしてみた。

 

「がんばれー」


「うーん先にアシミーをぶっ殺そうかな?」


「きゃー怖い」


 あくまでまともに執り合うことはしないアシミー。

 

「そんなに人手が欲しいなら“スティーちゃん”に助けてもらえばいいじゃない」


 すると、性格の悪いアシミーは()()()()に気づきながらも、素知らぬふりをして発言する。

 その言葉を聞いたヴィルはどういったもんかと、戦闘中ながら言うべき言葉を探した。


「あ、あぁー、そうだな……あいや、でも……その……うーん、あ、ほらさ! 魔法を使って疲れてるだろうから、アシミーと一緒に休んでてほしいなーって、もしもっとヤバくなったらその時に手助けしてほしいなっ、て……」


 下手糞である。

 フォローの仕方が、である。

 ある事実とはそこまで難しい内容でなくて、ただ単純に先ほどからの戦いにおいてスティフュが一歩も動けていないことを指していただけだ。

 戦闘中のヴィルから見ても、静観するアシミーから見ても、そしてスティフュ自身から見ても、その場にスティフュという人物の必要性は全く感じられなかった。

 ヴィルと怖武恐帝(バラストーキー)の超高速戦闘に目でさえも追いついていない。


 先だってネタ晴らしをするならば、彼女だってそれなりに名の通った冒険者だった過去がある。

 その実力と職員としての柔軟さを買われて、ギルド長直々に命令を与えられて今この場にいるのだ。

 魔力道具吸収前の怖武恐帝(バラストーキー)ならば、スティフュだけでも対処できた、しかしヴィルがそれなりの力で戦っても勝てていない今の奴には―――まぁそういう事だ。

 

 スティフュの背景など知らないヴィルであったが、ヴィルにとっては魔法の事を優しく教えてくれた人であるスティフュを傷つけたくはなかった。

 だからヴィルは慣れない気を使ってフォローしようとしたのだが……。まぁ、そういうことだ。


「あ、あはは……そうさせていただきますね、ありがとうございますヴィルトス様」


 素直にはまったく喜べないスティフュは顔を若干引きつらせながら愛想笑いを浮かべて座った。

 そんな彼女のことなどは大概見透かしているアシミーは、人知れず、嘲るように鼻を鳴らすのだった。



―――戦闘が始まって十分ごろ。状況に変化は訪れなかった。


「はぁ、ん……」


 流石のヴィルも少しずつ息が荒れてきた。

 呼吸の回数が増えてきたし、何より何百回に一回程度無駄な動きが入るようになってきた。

 何度へし折っても再生する敵の爪及び凶器、敵はヴィル達を殺せば役目の終わるというだけあって無茶苦茶な体力消費で全力を振るうこと、この二つが主にヴィルの体力を削っていった。

 

「うージリ貧か……」

「上げるか……えぇ、でもな~」


 怪物の形相にも慣れてきたヴィルは時折隙を見て、相手の首をへし折ってみたり、胴体を叩き潰してみたりはしている。

 しかし、怖武恐帝(バラストーキー)の再生能力によって数舜の内に再生してしまうのだ。ぐちゃぐちゃにしては元に戻り、また攻撃を重ね、機を狙って殺しにかかる。が、やはり絶命までに至らない。

 先ほどからの戦闘の内容である。


「生半可な攻撃は効かない、石ころは研いでもやっぱダメだった……武器無いのが辛いな」


 激しい戦闘をしているにしては綺麗な手指を見て、ヴィルは手ごたえの無さを実感する。どうにも倒し切れない歯がゆさと言い換えてもいいかもしれない。


 一方で守護者の方も平然とはしていられなかった。でたらめな再生能力があるとはいえ限界の入り口はもう見え始めている。それにこちらの攻撃はやはり最初の一刀目しか当たっていないからだ。

 歯がゆいという悔しさが守護者にあるかは甚だ疑問ではあるが、任務の遂行を行えない点ではエラーを起こして「なぜ?」と言っているに違いない。

 

 両者ともに決定打に欠ける状況。

 この状況を打破できるとするならば、この場においてはそれこそアシミーくらいなものだ。

 スティフュはいたとしてもいなかったとしてもあまり差異は無いし、サブは戦闘力に関していえば十個年下の子供より弱い。


 何度目か、敵の14頭身の図体が潰れ、地に飛び散った時、ヴィルは頭を搔いてどうしようかと悩んだ。

 こうやっていればいつかは勝てるだろうが、勝てないかもしれない、決着を急ぎたい。そう思ったからだ。

 どうしようどうしようと悩んだ末導き出された答えは―――



「―――アシミ~、僕もう無理だ、戦えない」

「へるぷ」


 腹を下した子供がまるで母親に甘えるかのような、微妙に神妙な表情で助けを乞うヴィル。再三頼んではいるが、もうアシミーに頼りたいと思考が逃げ始めたので、もう一度すがってみることにしたのだ。

 それを見たアシミ―。ここまでくれば良心が傾きヴィルを可哀そうだと思ったのか、重たい腰を上げ、加勢してやろうと―――思ったところで、()()()()()()()()()手を下ろす。

 彼女はようやく、ようやく、上げた重い腰を「すとん」と下ろし、そしてまた近くの丁度いい岩に座って戦いを放棄した。


「……ヴィ~ル、頑張れ~」


「え! おまっ!? ふざけんなよ!? 今完全に手伝ってくれる流れだったじゃん!? あとちょっと手を動かしてれば終わってたよね!? ねぇほら見てよ!?『あぁーやっと終わるー』って安心しちゃって手抜いたから攻撃当たったじゃん!? 見てこの擦りむけ! きっとお風呂の時とか沁みるんだろうなー! 痛いよな!」


 可哀そうなヴィル。こんな状態になってもまだ助けてくれないと知ったのだから。

 この時ばかりはヒステリックに叫んだ。


「おい! この状況をどうにかできるのなんて今はアシミーしか―――――」



―――刹那、轟音響かせ、大地を鳴らして、空より飛来する一人の()



「―――…はーっはっはっは! ワーハッハッハッハ!! ワーッハッハッハッハッハッハッハ!!!」



 響くは愉快な笑い声。轟は痛快な笑い声。腹の底から飛び出した突き抜ける笑い声。 

 【彼】は再びやって来た。


「ワッハッハッハッハッハ!!! 待たせたなっ! ぼくが来てやったぞ!」


 久々に登場サブ裏人格。 

 最近のサブの「なってたまるか」という執念により、長らくその身に、いやその頭に何かを被るということを良しとしなかった。

 しかぁし!!! 不意な怪物の襲来により地面を転がったサブは、今までの努力虚しく、薬草採取用の布袋を偶然にも、偶然にも、偶然にも!!! 被ってしまった。

 ちなみに袋の形状は胴長でギリギリサブの頭が「スポン」と入るくらいだ。なぜにそれが転がった拍子に頭に被ることになるのかは分からない。

 だが、過程はどうにしろサブは頭に何かを被ると別人格が出てきてしまう。

 ()()の英雄の到来だ。


「さ、サブ!? くそ、よりにもよってこんな時にお前が出てくるのか」


「はっはー! ずいぶん辛辣だな、まぁいいヴィルトース! その怪我を負った状態では満足に戦えないだろう、しかとその目でぼくの勇士を見るために座ってみてればいいさ!!」


 いつもの弱気は遠い所へお引越し。どこからそんな無謀な勇気が噴水のように湧いて出てくるのか。


「で、でもサブ。お前じゃこいつの攻撃は…」


「ちっちっち。まだまだだねヴィルトス。まぁ見てな―――」


 サブの女の子らしい可愛い声はそのままに、人格が変わったことで同じ声のはずなのに受ける印象が全く違うやや低めの声でカッコいいことを言い放ったサブ。


―――身を低く軽快なステップを踏みながら、敵に急接近。

 そこにいつものサブのドジっぷりは垣間見えない。もしいつものサブならば、今のスリーステップのうちに4回は転んでいる、3分の4を生み出してしまう天才なのだ。

 そして何より、


「は、はやい!?」


 サブが被っている袋にはもちろん穴など開いていない。それはつまりサブの視界は今完全に遮断されているということ。にもかかわらず英雄は身軽な身のこなしで確実に怪物との距離を詰める。


 それに焦るは怪物の野生の勘。ヴィルの方に構え、振りかざしていた爪を停止させ、()を見た。急いで刈り取る命の種類を変え、サブへと攻撃を切り替える。


「―――ふっ」


 だがしかし、そんな攻撃サブには当たりもしない。

 一発で仕留められないのなら二発、三発…それでも当たらない攻撃に怪物はもっともっと振り回す速度を上げる。

 バタバタと振りまわすように振るう刃が作り出す残像が辺り一帯の景色を黒く濁し、爪が発生させる風切り音はまるで巨大な昆虫が何万匹と飛び立つようなぶんぶんぶん。


 やっぱりそれでも―――当たらない。


「す、すごい、これがサブの本気なのか…?」


 そのとき、左足だけで何とか立ち、事の次第を心配そうに見守るヴィルは見た。


「―――違う、違うぞ! サブは避けてなんかいない! 風にあおられているんだ!!」


 サブは高速で避けてなんかいなかった。

 ただ怪物が発生させる強大な風圧に押し出されて体が(なび)いているだけだった。


「そうか、そうか…! サブは体が貧弱すぎるから、一般人なら体が裂けるような風圧―――その一瞬前にやってくる風の先端、その微かな! 本当に微量な風圧に押されて敵の攻撃を避けているんだ!!」

「普通なら少しばかりの抵抗があるばかりに風で裂かれているはずだ!!」

「でもサブはその貧弱を超えた超弱な体だからまさに「暖簾(のれん)に腕押し」状態!!」

「意味が無いんだ!!」


 事実、攻撃を避けるサブは、台風のさなか店内に入れ忘れられた道端の広告の(はた)のよう。ぺらぺらと靡く。


「で、でも! これじゃあサブは奴に攻撃ができないぞ! いったいどうやってこのピンチを脱出するんだぁぁぁ!?」


―――またしてもヴィルは見た!!


「うわぁぁぁぁ! サブの顔が切られてしまったぁぁぁぁ!!! もう終わりだァァぁ!!!」


 怪物の爪の振り回しがようやく意味を成し、サブの顔を掠ったのだ。

 頭に袋を被った状態のサブの顔はもちろん視認できないが、今サブが浮かべているのは、焦りの表情か、それとも―――


「ん!? 顔を掠ったはずなのにサブはまだ避けている!! 重症ではないのか!!!?」


―――心配が余計に増し、固唾を飲み込んで、手に汗握って、それでも視線は逸らさずサブを見た!!


「ん!!!?? あ、あれはぁぁぁぁぁ!!! よくよく見てみれば怪物の髪の毛のところに()()()()()()本の紙切れのようなものがくっついているぞぉぉぉ?!」

「あれはいったい何なんだァァ!!」


「『~~~~』『~~~~』『~~~~」


「あ、あ、あ!!! あれは魔法だぁぁぁぁ!!!」

「魔法が書かれた魔法書だったんだぅわぁぁあぁぁっぁぁあ!!」

「そ、そうか!!! サブのさっきの顔を掠ったのはわざとだったんだ!!! 視界を確保するためにわざと掠らせたのかぁぁぁぁ!!!!」


「『~~~~』『~~~~』」



「あ、れを唱えて!!??」

「いったい…いったいどうする気なんだ!!!???」


「【~~~~~~~~~~】!!!」


「撃っちゃうの!? 撃っちゃう!!!?」

「うわ、放ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「至近距離からの攻撃!!!」

「連続攻撃当たる!!!」

「まだ当たる!!! 」

「右肩! あご全部当たる!!!」

「相手倒れる!!!」

『キメタァァッァァァァァァァァァァァァ!!!!!』


 英雄の放った、【勝利への確定申告(ラハメウ・バシュン)】。

 炎を纏った魔力が具現化し、強力無慈悲な強大且つ巨大な拳となって敵を連続で殴り倒す。

 肉体面において雑魚すぎるサブが放つ、ある意味矛盾した魔法。

 しかしその攻撃は確かに強力で、14頭身もあった相手の巨躯をボコボコに燃やし尽くし、吸収した魔力さえも紅蓮の炎によって灰燼と化した。

 

 勝利の場面に英雄はただ―――


「―――ワーハッハッハッハ、ぼくのかti――――ぶっ」


 カッコよく勝利宣言しようとしたところで、魔力の枯渇によってぶっ倒れた。

 何ともしまらない終わりだった。


 ストーカーもとい化け物との因縁、そして英雄の英雄道は進歩を見せた。

 笑顔の英雄に似つかわしい派手で明るい終幕。

 シリアスも戦闘も全てを破壊尽くす笑顔の英雄。

 彼の道はまだまだ始まったばかりである。



 

 その後、時間を取って休憩したのち、ぶっ倒れたサブとぶった切られたヴィルの安心と安全を大事にして薬草採集もほどほどにすぐに帰路につくことにした。


 

 ギルドにて奴が唯一残したあの鋭利な爪を買い取りに出し、薬草も無事納品。

 そしてヴィルたちの長い長い一日が終わったのであった。



 ……ちなみにヴィルの足は、瞬間移動して来てもらったタッシ―にくっつけてもらったのであった。

 一秒で完治した。


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