第14話 「異世界冒険者爆誕」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!?????」
猛り吠え、僕は走って走って走りまくる。やつに追いつかれないために。
今にも笑い死にしそうなアシミ―と、今にも心臓を口からひねり出して死にそうなサブを、両肩に背負って走るわ走る。
二人を担いでいるから壁蹴りだってできないし、速度もあまり出せてはいない。
やつの速度は異常だ。確実に、少しづつ少しづつ距離を詰められてきている感じがする。後ろを見れば絶望だ。
このようなものに耐性のない僕は涙をこらえてえんえん吠える。
心はえんえん。言葉は「ひぃひぃ」と、僕の泣く声がこの暗い暗い先の見えない天空に亡霊のうめき声のようにどこまでもどこまでも響いていく。
その不気味さが恐怖と不安を一瞬にしてデリバリーしてくれる。
「なんでこうなったぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
ことのいきさつは、つい3時間ほど前のこと………………
。。。
「ご飯美味しいね~」
朗らかな笑みを顔いっぱいに広げて、小動物の~~~あ、リスだ。そう、リスみたいな感じで「もきゅもきゅ」と焼き立てのパンを頬張る。
これだけ見ればもう惚れるよね。ただ残念、アシミーなんだよなー。
「これ美味しいか?」
焼き立てだというのになんかぼそぼそしてるし、甘みもないから小麦っぽいし、総じて美味しいという評価はどうしたってできない。
「うん、全然」
「…ならなんで美味しいなんて言うんだよ...」
「ん? いや店主がさっきまでこっちの方見てたから媚び売っとこうかなって」
―――ですよね~、何だかそんな気はしてました。
もうここまできたら逆に尊敬するよね。こんなに普通に不味いものをそんなに美味しそうに食べられるならそれもう演技の範疇を超えて味覚障害か何かを疑ってしまうくらい…
店主もこの普通に不味いパンに自信があるのか、めっちゃ嬉しがってる声が効率化された僕の耳に届いてくるし。
こういうのは、変に不味いものを美味しいと言ってしまったなら、逆に「あいつ頭おかしいじゃないか?」と言われるのがオチ。
でもその罠さえ感知し相手の自信や言われてうれしい言葉、その微細な境界線をアシミ―は感じ取って相手が喜ぶ言動を平然ととる。
まさにアッパレ、ってね。
「さて、そろそろ腹ごしらえもしたしギルドに行くか」
僕の言葉を聞いたサブが「ぶふっ」と慌てたように次々とパクパク残りのパンとサラダを口に詰め込んでいく。
「ひょ、ひょっほはっへ!」
「…行くか」
「おけー」
「ふぃふほふふーん!!!!」
「ははっ、冗談冗談」
「待ってるって、ゆっくり食べな」
「ふぃふほふふん…」
そして、その後喉に3回パンを詰まらせて死にかけたサブが朝ごはんを食べ終わるのを待ち、それでも10時ごろにはギルドについた。
ギルドでは英雄展開が付きものなのか例に沿って「あ、カウントが減った」との報告がサブから伝わる。若干、ギルドの扉を開けている僕の手の動きが止まったけど、しゃあなしと腹をくくって『バンッ』と勢いよく扉を開く。
入って一目瞭然、昨日とはうって変わってギルド内は閑散とした雰囲気だった。きっと昨日のあの時間帯が冒険者の出勤時刻なのだろう。
まぁ職員さんから聞いておいた話によると冒険者は別にギルドに属している存在じゃないから、出勤という言葉は厳密にはおかしい。あくまでギルドは仲介役。なのでここに来るのだって毎日じゃなくともいい。冒険者の仕事を探しているときだけに来ればいいのだ。
昨日よりさらに上達した読解で冒険者への依頼用紙などが張られた大きなボードを見る。
依頼内容は様々。でも冒険者的な専門用語が多すぎてほとんど読めない、たぶん討伐系の仕事なのだろうけれどゼノンテルア語検定10級以下の僕では、討伐対象の名前とその他の区別がつかない。
とどのつまり読解できない。
そして、もう一つ厄介なことが。
いや、それを説明するにはまず段階を踏んで話をしなければならないな。
自由的で何物にも縛られず、且つ大金持ちにもなれる冒険者、そんな夢のような職業にもやはり規則がある。
その一つが等級による依頼の制限。
つまり自分自身の等級に会わない依頼は受けられなということ。
―――まぁ自由にもほどほどの制約があるからこその自由ってね。
等級というのはなんか金属でランク付けがうんたらかんたら…
その冒険者自体のすごさみたいなかっこよさみたいな、なんかそんなんをギルド側が採点してランク付けして~こんな感じに説明されたと思う。
僕達からすれば特殊金属以外の金属てのはほとんど硬い石ころと同じような認識だから、等級分けが覚えにくかったのだけは覚えている。
それでその等級と言うのがある問題を発生させるのだ。
まず冒険者の常識では、まず地方のギルド支部から冒険者になってそこで経験を積んでから、ここ王都に来る。
つまりはここにいる冒険者は全員が中堅以上の実力を持っているということ、それにより自動的に王都には冒険者のニーズに合った仕事が集まってくる。
つ ま り。
初心者用の仕事なんかないってこと…………。
「【地獄の煉王何たらある何たらたらたら】…の討伐、必要等級金以上」
「えぇ―とこっちは【雪花の婀娜花なんたらかんたらたらかんたら】…の捕縛」
「うーっとこっちの依頼は…【戒律と規律のあるりたなりるらーるなにあ】? かな」
「サブ、それの読み方は【あるりたらっるとなにあ】だろ? …等級銀?」
「あれアシミ―、銀と金ってどっちが価値高いんだっけ」
「うーん銀じゃない? プラチナの方が金より高かったはずだし、プラチナと銀は見た目なんとなく似てるじゃない?」
「あぁーそんな気がしてきた」
「というか、依頼書の内容オムが喜びそうなコッテコテの名前ばかりだな…」
「あたしこのボード見てたら何だか久しぶりに恥ずかしいって気持ちを思い出したよ……」
どこの誰がこの依頼書を作成しているのかは知らないが、ちと厨二臭すぎないか。
「ないねー等級“青銅”の依頼」
アシミ―がこの僕達には激重でしかない依頼探しに飽き飽きしてきた頃、吐き出すように愚痴った。
大きな大きなボードにはそれこそ何百枚近くの依頼書が張られているが、1枚1枚翻訳しながら見ているとかーなりめんどくさい。
アシミ―はもう流し目でしか探していない。
「ないなー青銅―――…というかなんで青銅と銅だったら青銅の方が二段も等級低いんだよ」
「銅の方が柔らかいじゃん、というか銅って青銅を包含してるじゃん、絶対ゼノンテルア人を殺しに来てるよこのシステム」
「サブはなんか良い依頼見つか―――」
「―――あったー!!!」
「「まじか」」
恐るべし英雄。
「えーと、依頼内容は遺跡の…お掃除?」
「んーなになに、冒険者たちが素材狩りをする遺跡が廃棄物とゴミで溢れています、どなたでもいいので掃除してください」
「なんかすごい依頼だな」
「…まぁーでもとりあえずは掃除依頼でもなんでも受けてみるか」
「アシミ―も手伝えよな」
「えぇー付いてくだけじゃダメ?」
「…そんなに可愛く上目遣いしても僕には流石にもう効かないぞ」
「………………ちっ」
「ねぇ聞こえてますけど!? 聞こえてますけどおぉぉぉぉ!!!!」
僕の叫び声だけが虚しくギルドに響いたのだった。
。。。
職員さんに依頼書を渡して遺跡へと向かうことを伝えた。日帰りじゃ無理だから準備して行けと言われた。
大丈夫な気がしたので忠告としてちゃんと聞きつつ、そのままの足で向かった。
五分で着いた。
。。。
「モップは持ったかぁぁぁ!!!!」
「「いえっさー!!!」」
「バケツは持ったかーーー!!!!」
「「いえっさー!!!!」」
「持ち運び暗黒物質は持ったかぁぁぁぁ!!!!」
「「いえっさー!!」」
「発明王創造、『てっぺんの所にあるちょぼってところをポチってするだけで辺り一帯地平線の果てまでどっかーんってなる持ち運び式小型爆弾~』は持ったか!!!!」
「「いえっさー!!!!!」」
「お菓子は!?」
「「300プレア!!!」」
「バナナはおやつに!?」
「「入りませーん!!」」
「よしいくぞぉぉおっぉぉ!!!」
「「おおぉぉぉ!!!」」
コンビニに行くより気軽に冒険者御用達の遺跡とやらに来た僕ら。しかーし、前準備はあらかたしてあるのだ! ここは怪物と呼ばれる異形の生物が出てくる場所。そんな怪物の部位というのはそれなりの値段で売り買いされるそうな、まぁそれこそピンからキリではあるが…
そして冒険者は納品依頼やお金稼ぎのために怪物を狩る、それでそのあまりや冒険者たちの生活跡が遺跡の汚れとなる。
お金のために狩られると聞くとなんだか同情してしまうが、怪物は発生場所から溢れてしまうと農村などに住む人間を襲ってくる。だからどっちにしろ駆除はしないといけないそうだ。ほら、フィーネスの村にも大きな壁があっただろう? だからこれも利害の一致というやつなんだろう。
こうして世界は周っていくのだ。
ま、今から僕達がやるのは討伐じゃなくて掃除なんですけどねぇ。
掃除道具を背負ってえっさらほいさと陽気に遺跡の中に入った。
少しだけうろついてみて分かったのが、遺跡の構造は建造者に文句を言ってやりたい設計ということだ。統一性が無いしぐちゃぐちゃ、まぁ迷路という意味では大成功なんだろうけど。
しっかし何と言っても特筆すべきなのは…臭い。
「ヴィル~くさーい」
「や、やめろよ、僕が臭いみたいじゃないか」
鼻が曲がるような―――とまではいかないが、顔をしかめる程度には強烈な臭いの空間でも仕事は仕事だと、生徒会で培ってきた社畜精神を使って掃除を開始した。
適度に私語も交えつつ、この途轍もない異臭の中しっかり掃除をする僕達。
サブはモップで必死にこすって、僕がトングで何だかよくわからないパーツを集めていく。
そして仕上げにアシミ―が暗黒物質で全てを無に帰す。
―――え? 暗黒物質、全てを無に帰す。
―――え? 暗黒物質、全てを無に帰す。
ヴィるとすくんのだれでもわかるあんこくぶっしつ
一 全てを飲み込む
二 全てを吸い込む
三 全てを無に帰す
四 全てを無に帰す
おわり
僕が集めた何かのパーツも、サブの非力さによりただ撫でただけでそれほど落ちていない床の汚れも全て吸い込まれていく。
ちなみにこのゴミたちがどこに辿りつくのかは知らない。
暗黒物質っていうくらいなんだから暗黒に行くんだろう。あれでも物質自体が暗黒だから暗黒なのか? それとも暗黒への物質だから暗黒物質? ………………わからん。
まぁいいや、と考えるのをさっさと止めてせっせと掃除に戻る。俊敏さと精密さをかけ合わせた動きで落ちている物体A B Cを集めて集めて集めて…
ちなみに、今僕のやっていることは無駄だ。うん、無駄。だって、どうせ暗黒物質が全部吸うもん。集めようが集めまいが関係ない。
でも、なんか掃除してますよー、サボってないですよー感を出したいがためにやる。
暗黒物質をどこから持って来たのかは敢えて言わない事にする。世の中全てに答えが有る訳じゃないということだ。
そしてそんな作業を続けてかれこれ2時間近くは経っただろうか。
遺跡の1階から5階までの清掃を終え、小休止をとる。
ここまで僕達の初の冒険者仕事は何不自由なく、滞りなく進んでいる。怪我をしたり何かをしくじったりなんか一度もない。初仕事だがそれなりにやってこれている。
もちろん途中でコブリンだかモブリンだかヘモグロビンだか知らないが、小さい怪物が出てきたけれど、アイナール登場の時ほどの緊張感を味わう前に不平等なく平等に暗黒物質に吸い込まれていった。
ほんの一瞬過ぎて全く見ていなかった。
「うー…ずっと屈んだままの状態だったから腰が痛いや…」
小休止中、サブが「とんとん」と自分の腰に手を当てて愚痴をこぼした。
言えない、ほんとは別にモップを持って掃除をする必要なんてないんだよって、言えない…
「ヴィル―そろそろご飯の時間じゃない? 何か持ってきてないの?」
アシミ―はアシミ―で、たまらなく眠たそうな顔でお腹を押さえながら飯をよこせという。
僕はあらかじめ買ってきておいたパンで野菜を挟んだもの、をカバンの中から取り出し3人で均等になるように配った。
これでもゼノンテルアでラーに付いてとってもお高くて美味しいご飯をいっぱい食べてきた僕、こんなものを料理だなんて、ましてやサンドウィッチだなんて呼べない。
これは野菜をかすかすのパンで挟んで潰した、おなかに詰める物だ。異論は認めない。
「むしゃむしゃ」「もぎゅもぎゅ」となんとも感想の言えない固形物を、臭い臭い遺跡内で、3人で無言で食べる。
本当にシュールでなんというか…いたたまれない、と言うんだろうか。早く食べ終わってここを出たい。
「もさもさ」と3人から発せられる固いパンを食いちぎるような噛み切るような、そんな音だけが遺跡内に反響していた時。今まで何のリアクションも取っていなかったサブが唐突に、
「ヴィルトス君」
と僕を呼ぶ。
「どした?」
「固いね、このパン」
「あ、うん…」
「…」
―――何この雰囲気!?
僕たち仮にも幼馴染だぞ!? ここまで話が弾まないなんてことあるか!?
…いいや、この遺跡内という特殊な環境と、朝から続いている不味い飯がこの独特の負の雰囲気を生み出しているのだ。
やっぱりいたたまれない。
「ヴィル」
「なに?アシミ―」
サブがご飯を食べるのを再開したと思ったら、今度はアシミ―が声を掛けてくる。
「…晩御飯は、美味しいの食べたい」
「ヴィル、作ってよ」
「あぁー、うん考えておく」
僕はこう見えても料理はできる。効率的に美味しくて栄養をたくさん摂取できることを考えながら作ったらなんとなく出来るんだ。
まぁそんなことはどうでもいいけど。
アシミ―も2連続のまず飯に、流石に取り繕うことがめんどくさくなったようだ。もしかしたら王都の飯はそれほど美味しくはないのかもしれない。決めつけるにはまだまだ早いだろうけど、それにしても2連続はなかなかにきつい。
「―――おいおい、こんなところで仲良くピクニックなんてしてるバカがいるぜ」
その瞬間。唐突にかけられた声に僕は過剰に反応する。声をかけてきた人を先頭に他3人の4人メンバーをすぐさま補足した。伏兵の存在は今のところなし。。
遺跡内に何人か同業者、といってもあちらは掃除なんかではなくて狩りをしている人たちだけど、そんな同業者がいるのは感じていた。
会うことも無かったし近づいてくることも無かったから無視していたけれど、僕がアシミ―達とのこの不気味な雰囲気に悩まされていた、そんな僕の心の隙ができた瞬間にこちらに近づいてきていたようだ。
まったく気付かなかった。いや、脅威でないからと警戒をおろそかにしていた。
咄嗟に、あの偉大なる龍種様らしいアイナールでさえビビらせた、僕の特技“殺気”みたいなのを出してみる。
学園にいた時は殺気というより『あっち行けオーラ』みたいな感じで出してた技だ。
「てめぇら、どこの派閥のやつだ? 誰に許可取ってここにいるんだ? あぁ?」
―――全く聞いていないご様子。
それに、いっぺんにいっぱい聞くな答えられなくなるだろ。
「いや、私たちはギルドで依頼を受けてきた冒険者です、遺跡内の掃除をしています」
当たり障りのない普通の返し。相手が男性であるから特に問題なく会話は可能と見た。
対面する冒険者は冒険者特有のつんつんした性格ではあるようだが…
「掃除だぁ? お前、階級は?」
「青銅ですが」
「ぶはっ!! アハハハハハ!!! せ い ど う って!」
「ピクニックはピクニックでも遠足かよっ!! あはははははは!!」
そろそろ本気でイライラして来たな。なんでこんなに冒険者には感じが悪いのが多いんだ?
僕達が何をしたっていうんだ。後ろの他のメンバーさん方も笑ってるし。
僕の『どっか行けオーラ」も全然効かないし。すごい存在らしいアイナールでもビビったのに効かないなんてもしかして、凄腕の冒険者?
年齢的にはそんなに僕達と差があるようには見えないけれど…
「は~笑った笑った」
「ほらお前ら、危ないから怪我しないうちに帰れ帰れ」
「あの、いや、僕達も依頼を受けてきてるので、まだお仕事が終わってないのに帰れないんです」
「は? せっかくこっちが気を使って言ってやってるんだから、素直に聞いとけよな」
「いや、だから―――」
「―――ちっ、お前も分かんねぇやつだな」
「史上でも稀に見る、19歳での銀級昇格を果たしたこの俺がわざわざまだまだ駆け出しのお前を気遣って言ってやってんだから、「はい」で済ませりゃいいんだよ!」
なるほど、銀級か。うん分からん。
偉いのか強いのか。 まぁ一つ確かなのは青銅よりは高いってことだ。
でも出たよー。この優しさの押し付け。俺はお前を思って言ってるんだってやつ。家族とか恋人とか近しい存在ぐらいからしか言われても全然ありがたみを感じられないのに、さもありがとうを待っているかのような態度。
お節介ってやつだ。
それに気遣いってのも自分から主張してしまったらもうありがたみもくそも無いんだよな。
はーやだやだ。
昨日からこれでウザがらみされるのも3回目。不意に愚痴が溢れちゃったよ。
僕だって本当はこんな裏で愚痴を言うような男じゃないんだぞ?
ここは気持ちをつぶして、後輩の僕らが折れるか…
「………すみません、せっかくのご厚意なのですがやはりこちらも仕事で来ている身、すぐに終わらせて速攻で帰りますのでここは見逃してください」
「だーかーらー!!!」
「俺が―――」
<パンッ
軽快な破裂音一つ。それは彼女の手と手が合わさる音。
こんな、遺跡という閉鎖された空間ではその音はよく響いた。
ピリピりとしたこの場の雰囲気にはよく似合わない陽気な効果音であったが、その音は気持ちの良いほどよく響いた。
―――さて、ここで異常を僕は感じ取る。いや、見たというべきかな。
すぐだ、それはすぐに起こったんだ。でもすぐじゃないかもしれない。いったい何か?
それとは僕が認識できる速度を超えた次元で彼らは吹っ飛んでいったのだ。
破裂音を聞いてからどれほどの時が経ってからだったのかは分からない。
僕が感じ取れない。その音速さえ超えた、むしろ同時の次元で、彼らはどこかかなたに吹き飛ばされたのだ。暗黒物質で一瞬で吸い込まれたわけじゃない。吹き飛んだんだ。
つくづくあきれるほどの能力を前に、僕は呆れと恐怖感、それと胸がすくような高揚感を同時に覚えた。
前者は純粋に彼女への改めた畏怖。もう一つは、流しきれなかった思いをあいつらと一緒に吹き飛ばしてもらったから。
鼻でため息をするように、「ふんぅ」みたいな間抜けな音をだしながら、眉をあげて、手を両肩横の物を持つように広げて、彼女の顔を窺った。
この薄暗さに灯る一つの光源のように、
「ほら、ごちそうさまでした! さぁいっぱい頑張って早く終わらして帰ろ!!」
「あたしヴィルの手料理楽しみだな~」
全ての元凶である彼女は何事もなかったように嗤っていた。




