第6話 「異世界を知る」―――⑤
「ど、どうした!?ジェントジェミニス!?」
「ごふっごふっ……ごっふぁぁ!!」
滝のように流れだす血液。痙攣しだすヴィルの体。それは一種の拒絶反応のよう。
目の前のダイナマイトボディ、いや絶対的神聖爆裂双乳にヴィルの脳神経、果ては体中の細胞までもが、未知の存在に恐怖し興奮しているのだ。
その相反する心の衝動はヴィルの体をめちゃくちゃにする。
そして極めつけは―――
「―――しっかりしろジェントジェミニス! 何をしているのだ!?」
「誰だ!? 誰にやられたというのだ!?」
諸悪の根源である女はその豊満な体を惜しげもなく披露して、その柔らかな腕と胸でヴィルを抱擁する。
感じるは肉。いや、しかし、それは暖かみと、温かみと、愛しさと、気持ちよさと、ふわふわっと形容するしかない程の、肉。
ヴィルトス・ジェントジェミニス、生まれてこの方一度も女子との肉体的接触はない!!
ゆえに! これこそが日々リア充が触れ合い、堪能する肉! 夢にまで見た肉!
肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉………―――――――
「―――ぐはっゅぁぁぁぁぁぁ!!!!」
<ビクンビクン ―――― チーン。
―――彼の生涯に一片の悔いなし。
………ということにはギリギリならなかった。
「離れろ! これ以上繊細なヴィルの男心を沸騰させるな!」
煙が晴れ、辺り一面が澄み渡ってきたころ、ようやくタッシーが駆けつけてくる。すぐに女は離され、ヴィルの蘇生が始まる。
「戻って来い! ヴィル!」
タッシ―の編集により流れ出た血液は、新しく補充されていく。
次いで、駆けつけてきたのは生徒会の面々。あのヴィルが血を流している光景を見て誰しもが息をのんだ。
「そ、そんな…」
「おに…ちゃん………?」
ただ呆然と立ちつくす各々にラーが一喝。
「みんな!今は立ち止まるべきじゃない、タッシ―を手伝うんだ!」
「うん!」
誰が返事をしたかを確認する暇がないほど、その返事を皮切りに一斉にみんなが立ち止まるのをやめた。
「タッシ―状況は? 誰にやられた?」
「くそっ! 流れ出た血が多すぎる!」
「原因は多分ショックだ、こいつの姿がヴィルには刺激的過ぎたんだ!」
タッシ―は流れ出る血を違う物質で補いながら、さらには今まさに出ようとし続ける血を抑え込む。
相当な労力と集中力を必要とするのか、タッシ―の額にはわずかな時間にもかかわらず、大量の汗が流れ落ちていた。
そして、こいつ、と名指しで指名された女は自分が原因とは思ってもいなかったようで、とても驚いた表情で固まっている。
「それはまずいね………」
あのラーでさえ考え込むようにして、次の行動がすぐに出てこない。
しかし、そう思ったのも束の間、ラーはすぐさまその段ボールを被った顔をあげて全員に命令を出す。
「スペラとアシミ―はこの人に服を着させてあげてくれ、ヴィルがこれ以上見たら大変だ」
「はーい!」
「りょかーい!」
「それと、チェビはタッシ―を手伝ってくれ、足しても足しても血が出てくるそうなんだ」
「わかったわ」
「サブとシスは…ヴィルの傍にいてやってくれ、ヴィルは今性欲の森と修行僧のような現実を彷徨っているんだ」
「呼びかけてあげてくれ、こっちに戻って来いって」
「うん! ―――戻ってきて!ヴィルトスくーん!」
「わかった…おにいちゃん…―――」
「―――戻ってきて…」
「最後にオム!」
「なんや! 俺は何をすりゃええんや!」
「ヴィルに向かって変顔をしておいてくれ」
「よっしゃ! 任し、と……け?」
「……え?」
「変顔だ」
「え?」
「変顔」
「え、あの、そうじゃなくてですね…? ラー君?」
「やるんだ。オム」
「………え、あ、は…はい」
。。。。
(―――ん?……ここは?)
目が覚めたように感じる僕。覚めたと感じるということは寝ていたのか?
辺りを見回すと目の前に広がっているのは、女の子。そう、女の子。
美少女、美少女、美少女。見渡す限り、美少女。
(―――あれ、でもなんでこんな夢のようなところにいるんだっけ?全然思い出せない)
すると、事態の把握に付きっ切りのヴィルに柔らかい感触が。
なんと、目の前の美少女たちがヴィルを求めるようにして次々と、寄ってくるではないか。
そのうちの一人に腕を掴まれ、頭を胸に乗せられる。
まるで恋人との一息を味わうかのようなシチュエーション。そして、それだけでは事態は終わらない。
次々とやってくる美少女は所狭しとヴィルを囲んで、その美しい顔を覗かせる。
終いには、衣服を脱ぎ棄てそのすべすべの肌をヴィルの鍛え上げた筋肉に重ね始める者まで現れた。
そうだ、気が付くころには衣服も取り上げられてしまった。
その美しくも妖艶なこの場にヴィルは飲み込まれていく。夢にまで見た女の園。
ヴィルにとってここがどこであるかの確認など、もうどうでもよくなってきた。
今大事なのは、ここならば自分は美少女に囲まれてちやほやされて、誰にも怖がられることはないということ。
えっちぃことだってできるかもしれない。
ヴィルは飲まれる、不思議なほど現実的な快楽に。
僕は飲まれる、夢のような楽園へ――――ー
―――おい
飲まれかけていた意識が最後の瞬間に声を聞き取った。
(ん? 今誰か僕を呼んだような……)
―――おーい
(ん? やっぱり呼ばれてる? あぁーもう、後にしてくれ、今僕は絶賛モテキを味わっているところで……)
そう言うとヴィルはキョロキョロとさせていた目線をもう一度美少女たちの方へと向ける。そのとき、ちょうど一人の女の子と目が合った。
肌は程よく焼けていて、運動を普段からしているようで体も引き締まっている。胸は現在ヴィルの周りにいる子はみんなデカいけれど、この子はひと際大きかった。
頭はツンツン頭で、顔はまるで引き上げあられたばかりの―――『深海魚』
―――おい
ぎゃぁァァァァァァァァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
。。。
(―――はっ!?)
「……僕はいったい…?」
「おぉ起きた?」
また、目が覚めた僕の目の前には―――
「―――ぎゃー!!きもきも深海魚!?」
「誰が深海魚やねん!?」
「…まぁええわ、おーいみんなーヴィル起きたでー」
なぜか変顔をしていたオムが声をかけると、向こうのリビングの方にいた生徒会の面々が押し寄せてきた。
多分、何らかの状況で僕が眠ってしまったので、家を出してその中に運び入れ、僕が起きるのを待ってくれていたんだろう。
あら、でも皆さんなぜか泣きそうな顔で……。
「心配、した…おにいちゃん」
そう言うと、シスはその可愛らしい顔から数滴の涙をこぼして、僕に抱き着いてくる。いつぶりだろうか。こうしてシスの方から抱き着いてくるだなんて。
いやいやそれより、何でシスが泣いてるんだ? 何があった?
「……その様子だとあまり覚えていないようだね」
ラーは不思議そうな顔をしている僕を見て、若干呆れたようにため息交じりに言った。
「もう、心配かけさせて……一時はどうなることかと」
え、ほんとに何があったの!?
「覚えてなさそうだから説明すると―――」
―――ラーの説明を聞いてびっくり、もう少しで僕は死ぬところまで来ていたらしい。
なんでも、回復してもそれを追い越すレベルで出血をするから、全身にエネルギーがいきわたらなくて、呼吸も止まりかけていたらしい。
それを生徒会のみんなが協力してくれたおかげで、何とか食い止めることが出来たんだとか。
だから、当たり前のことだけどみんなには「ありがとう」と言う。
タッシ―やチェビなんかは能力を使い過ぎたのか、脱力するように椅子にもたれ掛けている。本当に感謝しかない。
あ、でもお礼を言ったに後タッシ―に「もう少しで死因が女の裸を見たことによる出血死だったな」なんて馬鹿にされるように言われたから、タッシ―への感謝は薄らいだけれど。
それで、あまりのショックの影響なのか前後の記憶は所々ない。夢現にも何か気持ち良い体験をしたような気がする、その程度だ。
「まぁでも、本当に感謝するんだよ? 妄想の世界に入って完璧に自己治癒を行うことを放棄した君を助けるために、現実的な感触とかずーと与えてたんだよ、誰が、とは言わないけど恥ずかしかったと思うなー」
「それで意識はほとんど妄想の世界に入っているはずなのに、ヴィルすっごいいやらしい手つきだったよ?」
「もう少し、女の子の扱いには注意しないとね? たとえそれが夢であっても女の子には優しくしないと」
ラーは僕を叱るように、「めっ」と注意する。
まぁ確かに、夢であろうとなんだろうと僕は自分の置かれている状況の把握や現実性の確認を怠ったり快楽に逃げてしまったのだ。それは注意されてしかるべきだろう。
だが、そんなことより…現実的感触?
え、あ、あれ、そ、その…あれは…夢の中の感触は………本物の感触?
僕は震える手を握りしめ、確かな感触の記憶にガッツポーズした。
・・・
久しぶりに死にそうな経験をしてからやや数時間が経った。僕が倒れる前にいた異世界人の集団は、とっくの昔に移動してしまっている。
今はタッシ―の中から出した家の中で、皆で休憩をとっているところ。
僕を起こすのに一役買ってくれたオムはずっと変顔をしていたそうで「いたた」と隣で頬をすりすりしている。
ちなみに夢の中のあの悪魔のような異形の姿はタッシーに頼んで記憶ごと消してもらった。
おかげで今では顔は全く思い出せない。
みんなのおかげですっかり回復した体を伸ばして、隅々までの感覚を確かめる。うん、大丈夫そうだ。
体の調子を確かめ、僕は向こうのリビングの方でずっと俯いているアイナールに声を掛けた。
「そう、落ち込むなって、悪気があったわけじゃないんだろ?この通りピンピンしてるからさ」
僕を文字通り悩殺してきた『女』、いや『アイナール』は僕が目覚めた時からそれはもう元気がない。
とても落ち込んだように顔をずっと伏せているのだ。
「俺も焦って暴力ふろうとしちゃってたしさ」
「な? だから落ち込むな―――」
「―――もう少しで我は宿敵を倒せていたのか……」
「っておい!」
「何物騒なこと言ってんだよ!? あれか!? 落ち込んでるんじゃなくて、もしかして悔しんでる!?」
「ヴィルトス君びっくりだよ!?」
「…ちっ」
「そうか、元気ならば良い。ヴィルトス本当にすまぬことをしたな」
「いや、舌打ち聞こえてますけど」
「聞こえてないとでも思ったの? ねぇ泣いちゃうよ? 泣いちゃうよ?」
僕がアイナールに泣きそうな顔で詰め寄ると、別の方向からスペラが出てきて、
「ほらほらヴィル? 女の子は優しくね~?」
くそう! さっきラーに言われたことを言ってきやがった!
女子の特権めぇぇぇぇ!!
これを言われてしまえば僕はもうどうすることも出来ないので、拳をぐっと握りしめ、精神を落ち着かせる。
そして気持ちの波が静まってきた頃、僕は椅子に座っているアイナールの対面の椅子にどかっと座りこんだ。
(うーん、やっぱり信じられない。アイナールがこんなに美女だったとは思いもしなかった)
あの時アイナールの体中を煙が覆ったのは【体を変化させる】スキルの影響だったらしい。
いきなり超ド級の質量が消えたのも、人間に変化したから、と聞いた。
言わずもがな、早とちりでアイナールが逃げたと思ってしまっていた。
それに、もちろん龍であるアイナールが服など着ているはずがなく、僕は変身したての生身のアイナールに突撃してしまって鼻血ぶぅー。
なんとも恥ずかしい話だ。
ちなみに、アイナールは龍の中でも有名な美龍さんで、スキルの影響で変化したとはいえ、人間になっても美的レベルはできるだけ統一されるんだとか。
「これで我がどれほど凄い者なのか、一片は分かっただろう」と声高々に言うもんだから、タッシ―に蹴られていた。
いくら人間基準で美しくなろうと、タッシ―にとっては龍も人もあまり変わりはないようだ。
。。。
その後、日が沈んで来たので家で一夜を過ごし、朝になったら出発した。
何やら女子勢はアイナールを入れて楽しく女子会を開いていたようで、夜遅くまで楽しそうな笑い声が聞こえた。
それのおかげもあるのか、朝になってみんなが集まるころにはアイナールもだいぶ打ち解けてきたような感じがした。
一方、男子勢は地獄でしかない。この、今回持ってきた家は豪邸と言っても差し支えないような、立派な家だ。
なので、僕ら生徒会やアイナールを入れても少し部屋の数には余裕がある。だから当たり前だけど、一人一部屋が割り当てられた。
でも、そうだ、寝る前のことだ。
女子の楽しそうな声が微かに僕の耳に聞こえて、「楽しそうだな~」なんて思いながらベッドで寝ていたんだ。
そしたら、ぼふんって僕の寝ているベッドに誰かが入ってきたんだよ。
え、え、え、なんて期待しながら見たら。
―――オムだったよ。
あいつ寝ぼけて、隣の部屋の僕のベッドに来やがった。
抱き枕みたいにしがみつかれるわ、垂れたよだれが僕に掛かるはで本当にひどい夜だった。
朝起きてきたオムが「あれ? 顔中痛いんだけど、なんか腫れてたりする?」と聞いてきたけど、転がしたら綺麗に転がっていきそうな程、丸く腫れた顔は見ないふりをして「何もないよ」と答えておいた。なぜ腫れているのかは僕は知らない。知らないったら知らない。断じて知らない。
まぁそんな事はさておき、一夜を過ごした僕達だが、朝食を食べ、準備をする。
フィーネスの村へ向かうための準備だ。
今日はもう、僕とアイナールだけで旅をしたりはしない。
全員が外に出て行動する。
全員でアイナールの背中に乗って空の旅っていうのも案としては出たけど、盟約の地を抜け、自然が存在する地帯に出て、一応の脅威は去ったのと。こんな機会なんて滅多にないんだから、色々な経験を積む、ということでこの決断に至った。
家を出て外の景色に目を向ければ、そこは自然的な風景の広がる風の気持ちいい世界。
空を飛んでいる時には目に入らなかった小さな動物と虫たちが見える。
どれも見たことのない生物ばかり。でも、時々ゼノンテルアの生物と似たようなものも。
僕達は未知の生命溢れる草原を進む。青々とした草木。不可思議な木の実。
僕達全員の幼心をくすぐるものばかりだ。
そんな中アイナールだけは、僕達が見るもの全てに驚いたり興味を示すのを見て、とっても不思議そうにする。
まぁアイナールにとっては普遍的なことばかりだから、仕方がないのかもしれないけど、僕達からすれば見るものすべてが、大発見だ。
まるで、何歳も時を遡ったように、心を開放してフィーネスの村への道を歩いた。
道中で特に問題なんかは起きなかった。
まぁオムが変な実を食ってお腹を下したり、イノシシみたいな生物に突進されていたり、アイナールが言っていた【魔物】とかいう変な生き物に囲まれてたりしていたけれど、特に問題はない。いつも通りだ。問題じゃない。
それにオムは頑丈だから、これくらいのことでくたばりはしない。
そして、フィーネスの村まで後ちょっとという所。僕達は森の中に入った。
この森を抜ければ、すぐにフィーネスの村が見えるという。アイナールが「多分この方角であってる」と先導してくれた。
別に森と言っても、道が整理されていて、人の手が施された言わば街道の直線状。
なのであまり森を通っているという感じはしない。草木のトンネルを歩いているみたい。
すると、ちょうど道を曲がった時、僕達の進行方向に人の集団が見えた。その集団は道いっぱいに広がっていて、まるで門番のように明らかに通行を阻害している。
そしてその全員が遠目からも分かるほど重厚な装備に身を包んでいて、一人2つ3つは何かしらの武器を携えていた。
その、ちょっと物騒な光景に若干気圧されたが、ラーは気にせずどんどん歩くので、みんなもそれに続く。
ラーは何かを思案するようにして頭の段ボールを触る。
「…アイナール」
「なんだ?」
「通訳頼めるかい? わかる範囲で訳してくれたらいいから」
「わかった」と言ってアイナールはラーの横に付く。
さっきまではなかなかに楽しい雰囲気であった一行も、武装集団を見てから誰も口を開かなくなった。
そして、対面の時。
これが異世界第一交流だと思うと、何か不満的だ。もう少しフレンドリーに開始したかった。
みんなも僕と同じような心境なのか、誰も彼もが真顔だ。
「アイナール、ここを通してくれるように言ってくれないかい?」
ラーのその言葉に僕はびっくり。だって異世界人とはできるだけ仲良くしていこうというスタンスを取るものだとばかり思っていたから。スルーするなんて思いもしなかった。
「~~~」
「~~~」
アイナールは言語素人の僕から見ても分かるくらい片言だが、それでも相手には伝わっているようで、怪しい目で見られながらも、何とか会話をしている。
すると、アイナールと話していた人物の後ろから、屈強そうな体つきの男が現れた。
僕だってかなりの身長だけれど、その僕ですら見上げるほど大きい。
そして今度、アイナールはその新しく表れた方の男と話し始める。
「~~~」
「~~~」
僕達全員は誰も理解できてはいないから、アイナールを待つ。
「…んーどうやら簡単には通せない、と言った感じのことを言っておるな、多分」
アイナールが通訳の結果を教えてくれる
「どうすれば、通してもらえる?」
「~~~」
「~~~」
「金を?」
「~~~」
「払う?」
「~~~」
「通さない」
ラーからの言葉を通訳したアイナールは、相手からの言葉を断片的に訳してゆく。
「お金か……アイナール、この世界での貴重品は金属なんだよね?」
ラーがアイナールに事前に聞いておいた情報を確認する。
「我の記憶では間違いない」
「そうか、よしタッシ―あれを出してくれるかい」
あれ、というのは、ただの“金塊”。どうってことのないただの金塊だ。
タッシ―が能力で作った金塊。
僕達の世界では金属は物によるけれど、大概がそこまで貴重ではない。
それこそ、こんなただ重たいだけの金属なんて子供のころから転がして遊んでた。もちろん、僕達の世界でも宝石や金属は高額に売買されている。
でもそれは物質的な金属の価値ではなく、『芸術的な価値』によるもの。だから、何の加工もされていない、ただの金塊だなんて二束三文だ。
それに、もしこんなものが高額に取引されるなら、タッシ―なんかの作れる側の人間は儲かりまくってしまう。
この世界では金は貴重なのだと聞いてそれは驚いたものだ。タッシ―だけで一大起業出来てしまう。
色々な異能力、いや『スキル』がありながら、こういった行為は出来ないだなんて部外者の僕達からすればなんとも不思議な感じがする。
それで、タッシ―が記憶から取り出した金塊をラーが受け取り、男に渡す。
男は何やらびっくりした様子で、金塊を舐めまわすように見ている。
「~~~」
「お前ら?」
「~~~」
「見ない服装?」
「~~~」
「どこ、国、来た?」
アイナールは自信がないからか疑問符を付けながら訳してくれる。
「部族の掟でそれは言えません」
「~~~」
ラーは顔色一つ変えずに言い、すぐにアイナールが訳す。
「~~~」
「まぁいい?」
「~~~」
「これでは足りない?」
「~~~」
「女が、美しい?」
美しいと言われたスペラが「きゃっ」なんて言いながら乙女に顔を隠す。いや、別にスペラだけに言われた言葉じゃないだろうけれど。
「~~~」
「金も払え…いやこれは出せ?」
「…アイナール、あの量の金はこちらでは、はした金かい?」
「いや、あの量ならかなりの金額だとは思うが……」
「そうか、ならもう払わないと伝えてくれ」
「~~~」
すぐさま、アイナールがラーの言葉を訳す。てっきり、門番か何かかと思っていたが、何だかきな臭いな。
男は「へへっ」と言ったように、にへらと口元をゆがめ、大仰な手ぶりで通行を促した。それに続くように後ろの集団も塞いでいた道を開く。
足りないと言っていたが、どうやら通してもらえるようだった。
ラーは特に気にした様子もなく、開けられた道を進む。それに僕達も続いた。
次の瞬間―――
―――男の手から、巨大な斧が振り下ろされた。




