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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
僕達の居場所 僕達の意味《プールスイット》
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第5話 「異世界を知る」―――④


 最初の異文化交流を図ろうと、移動すること一時間ほど。


 最も早くゼノンテルアに帰るためにも、やはり色々な人との交流は不可欠とのラーの言葉で、()を目当てに、もっと言うなら()を目当てに目的地に向かっている。

 まぁそれもそうだろう。本のアイテムを集めるのだって僕達が今現在持っていない以上、誰かから貰うしかないのだ。

 それには、必ず交渉やコネ、それに国が成り立っているならば貨幣もあるはずだ、ならばお金だっている。

 そう言った諸々は絶対に僕達だけでは解決できない。だから村に行くのだ。


 そして、わざわざ物が溢れているであろう王都や帝都などの都会には行かず、過疎という言葉がついてしまう『辺境の村』に行く理由は2つ。

 一つは、この世界について僕達がまだまだ無知であるということ。

 アイナールからの情報で、この世界独特の異能力『()()()』や他のことも多少は聞きはしたが、もちろんそれが全てではないだろう。

 いきなり無知なまま、都会に行くのはいくら世渡り上手のラーがいると言っても、常識や価値観が違えば問題を起こしてしまう可能性がある。そうなれば、ゼノンテルアに帰るという目標も遠ざかってしまうのではないだろうか。

 都会に行けば、当たり前として僕達は田舎出身を装わなければならない。

 これは先述の、無知っぷりを田舎という言葉で隠すためだ。

 しかし、その作戦を決行するにあたっても、やはりこの世界の田舎人としての知識が欠如している。

 だから、それを補うためにあえての辺境の村。

 そして二つ目、これは一つ目と多少重なるが、物や人が大勢集まるのがもちろん都会なわけだが、そこで何か失敗をしようものなら、それは情報となってすぐに伝播してしまう可能性がある。

 そのような事態に陥ってしまった場合、やはり目標から遠ざかってしまう。

 でも、辺境という都市から離れた場所であるなら、その心配も少しは軽減される。何か問題が起きても致命的なミスになる可能性が低いからだ。

 ということで、僕たちにとって都合のいい場所こそが【フィーネスの村】なのだ。期待と緊張を半々くらい持って、未だ見えぬ村を見続けた。


 空を飛んでいると下の景色はよく見えやすい。さっきまでの死んだ世界とは違う、生命に溢れた景色が広がっていた。見たこともない鳥や、変な形の生物が僕のまるで望遠鏡のような目には映る。

 

 本当に異世界に来たんだという、現実感。それと共に来る未知への期待、喜び、驚き。

 学園では決して味わえない、()()()というものが与えてくれる脳へのドキドキのスパイス。


 僕は触れる。いつもとは違う景色。

 僕は感じる。いつもとは違う空気。

 僕は味わう。ドキドキの高揚感。


 なんだか夢を見ているみたいだった。

 夢の中で、決して出来ない事をするみたいに。そう、それは虹を空の架け橋のように見立てて渡ったり、おいしそうなフワフワの雲を口いっぱいに頬張ったり、現実味のない、けれど夢想的と言うまでには離れていない、非現実的な現実。

 

 ここに飛ばされたときの悲壮感や、アイナールと対峙した時の不安感はもうどこ吹く風。

 アイナールが羽ばたく空に、僕の傍を吹き抜ける風と共に、負の感情は流されていった。


 まだまだ、分からないことだらけで、油断も一切できない状況だけど―――



―――僕は今! 間違いなく、この世界を楽しんでいる!!


 

。。。



 その後、少し進むと人の集団を確認できたので僕達は村の正確な位置の把握と、異文化交流第一弾、のために地上へと降りたった。

 アイナールの姿はとてもじゃないが良い印象を与えるとは思えず、もし見つかって怖がられて逃げられてしまっては元も子もないので、少し遠くの方に着陸をする。

 持っていた“石”に合図を送り、中のみんなを外に出してやる。


「あぁぁぁもぉぉぉーつっかれたもぉぉぉー」


 石から出てくるや否や、オムは肩を伸ばし大声をあげた。

 

「疲れたって…お前寝ていただけだろ」

「なんなら変わってやったってよかったんだぞ?」


 僕がオムに鋭い視線を一瞬だけ向けると、オムはちろっと舌を出して「めんごめんご」と謝る。

 

「やぁアイナール、ご苦労様」


 そうやって、ラーはいつものように他人を労っただけなのだろうが、アイナールには逆効果。

 さっきの件でアイナールにとってラーは完璧に畏怖の存在へとなっているもんだから、びくりと肩を震わせ、一気にその巨体を縮こまらせた。


『ウ…ウゥ…モウオ主ハナンダカ、遺伝子レベルデ恐怖ヲ感ジルノダ…』


 巨大な翼さえも最小限に畳んで、子犬のように小さくなる。

 しかし、顔が龍という威圧的なだけにちっとも可愛げはない。なんならガウガウの方がまだ愛嬌がある。

 

 そして、肝心の異文化交流だが、大勢で詰め寄っても駄目だろうと、代表してオム一人で行くこととなった。

 なぜ、ラーではないのかというと、本人が行きたいと駄々をこねたからである。

 なんでも、異世界という言葉に興奮が冷めやらぬらしい。草が生えているとはいえ土の地面に転がって「行きたい行きたい行きたい!!!」と叫ばれては誰も拒否できなかった。いや、拒否するのも“めんどくさい”が正しいのかもしれない。


 そんなこともあって、やはりオムが行くことになったのだが、もちろん警戒は怠らない。

 全員が能力を発動させ、オムと異世界人の集団を囲むように配置につく。

 全員が本気の本気で能力を発動させているから、これでオムは()()()()で死ななければ助けられる。

 つまりは、世界が止まりでもしない限り絶対に死なない。しかし、もし異世界に能力を同時に打ち消す能力や道具なんかがあったりしたら、やばい。

 でも、そんなことばかり考えていても無限後退するだけなので、悪い考えは一蹴し、今できる最善の動きをするのみだ。

 そもそもの話、オムが死ぬような場面を想定するという、かなりマイナスなポジションから物事を考えているのだ。あの集団が良い人の集まりであるという考え方をしよう。


 僕達は物陰に身を隠し、オムを見送る。異世界人の団体は何やら旅の途中のようで今は小休止を取っているようだった。木陰に荷物を下ろして、食事などを摂っていた。


 オムはまだ興奮が冷めないのか、「るんるん」と鼻歌交じりにスキップして、一団の方へと向かっていく。

 当然、向こうもオムの存在に気付き、まるで奇妙な生き物を見るように(いぶか)しげにオムを見ている。

 護身用なのかはわからないが、大きめのナイフを取り出している人物さえいる。

 まぁここまでは許容範囲、いきなりいかにもアホっぽさそうなやつが近づいてくるんだ、警戒して当たり前だ。僕なら石を投げてる。

 

 オムは集団にたどり着くと会話を始めた。

 会話相手の異世界人は、僕達ゼノンテルアの住民と姿形は変わらず、同じ人間のように見える。

 服はゼノンテルアの方が技術が進んでいるのか、僕達の着ている物の方が上等に思える。

 しかし、あくまでも遠目からの、しかも表面的な見た目からの判断なのであまりあてにはならない。 応急的な相手の技術力の測りだ。


 僕は改めて衣服や持ち物でなくて異世界人とオムの方を見る。

 うーん…表情や感情が僕達と同じと考えるなら、異世界人たちは―――めちゃくちゃ笑ってる……?

 え、なに、そんなに面白いの? そんなに面白い話をしているの?


 オム自身も身振り手振りを付けながら、楽しそうに会話している。終いには、さっきまでナイフを持っていた人物と肩まで組んで楽しそうにしている。


 え、なに、オムにそんな才能あったの? コミュ力抜群なの? そして締めには、ハイタッチからのグータッチ。


 え、めっちゃ、手慣れてますやん、すげぇですやん。そんなに陽キャだったので?


 僕は今、みんなの能力発動を()()()しているから、単純に能力の使用限界でオムの会話を直接盗み聞きできない。

 まぁもちろんこの状態からでも耳を効率化することはできるのだが、疲れるしそれならば普通に帰ってきてからオムから直接聞ばいい話だ。


 すると、「バ~イ♪」といった感じで異世界人と別れを告げてきたオムが、これまた楽しそうに「るんるん」とこちらに帰ってくる。

 帰ってきて開口一番に僕が問う。


「おかえり、でどうだった?」


「いや~何言っているか全然わからんかった!」


「分からなかったのかよ!?」


 初めての異世界人との交流から帰ってきたオムは、そのツンツン頭を傾げて(かしげて)とても不思議そうな顔をしている。


―――いや、不思議なのはこっちの方だよ。よくも言葉がわからないのにあんなに楽しそうにできたな。一周周ってむしろ才能だよ。天才だよ。


オムは頭を傾げたまま「いや~」と―――


「アイナールと喋れたからなーいけると思ってんけどなー」


―――なんて言う。

 オムにしてはなかなかに理知的な感想だ。存外、的外れな根拠に基づいて無謀にあの集団へと、突っ込んでいったかと思っていたがそうではなかったようだ。


「それもそうだな……確かにおかしい。アイナール、何かわからないか?」


 アイナールとは意思の疎通が取れるのに、現地人とは言葉が通じない事に引っ掛かりを感じた僕はアイナール尋ねた。

 すると、アイナールは尖った爪で頭をポリポリと掻きながら、考え込んでしまう。そして何か思い当たる節があったのか、

 

『アァー、【言霊】ノスキルガ効イトルノダナ…』と確信は持っていなさそうだが答えた。


「【言霊】?」


「ウム、本来ハ虫ヤ動物ナドノ、比較的自己ノ薄イ生物ニ対シテ、アル程度ノ意思疎通ヲトレルヨウニナル、トイウ効果成ス【スキル】ナンジャガ…』

『サッキノ話ニヨルト、オ主等ハ異世界人』

『スキルガ誤作動ヲ起コシテイルノヤモシレンナ』


 相変わらず自信はなさそうだが、アイナールはそう結論づけた。

 

『ソウカ、全く気ニシテオラナンダガ、オ主等【セプンテンブス語】喋ッテオランノカ』

『コノ大陸デ言語トイウノハ、ソウ多クハナイカラ、最初カラ何モ考エテオランカッタワ』


 そういうと、アイナールは合点が行ったとばかりに手を打った。

 それにこちらとしても、納得のいったものがある。僕達がアイナールと会話で来ていたのはアイナールのスキルによるもの。そのスキルの誤作動によるもので僕達は会話ができている。僕の言葉がアイナールに対して、少々のズレを伴って違うように伝わってしまったのは、このスキルのせいなのであろう。

 怪物(ビテイツ)魔物(モンスター)と聞き取っている当たりが根拠だ。


 謎が一つ解けた。最初からある程度の会話ができてしまっていたために見逃していた事。言語が違う。「根本的なことを失念していた……」と驚いたようにラーは言った。確かにラーにしては珍しいミスだなと思った。


「ラー、どうする?」


 タッシーが眼鏡をくいっとあげながら、言語の問題についてどう解決するかと聞く。


「うーん、言語が違うなら、当たり前だけど学ばなくちゃいけないかなー」

「やっぱり、ここの世界の住人の助けがなければ僕達は打開の1手は生まれない。避けては通れないだろうね」


「うへーめんどくさー」


 スペラが口をダラーっとさせて不満を吐露する。まぁこれには、僕もスペラに賛成だ。新言語を覚えるなんて非常にめんどくさい。


 あ!


「そういえば、アイナールはセプテンブス語喋れるんじゃないの?」

「それをタッシ―で共有してさ――――」


『―――イヤ、ワレハ喋レンゾ』

『ソモソモ龍種ガ同種意外ヲ喋ルコトハ滅多ニナイノデナ』


「…え、でも盟約の地にいた時に僕に警告してきたじゃん」


『アァーアレハ龍語ダ』


(―――まじかよ、なんでそれで人間に通じると思ったんだよ。

 言霊の加護が無かったら一方的にやられてたところだったよ)


『言葉ヲ介スナド久々デ忘レトッタワ』


 ガハハハッと豪快に笑うトカゲやろう。いや女郎。

 一瞬、イラっと来るものがあったが、すぐに我慢して押し殺す。

 空の旅でアイナールと会話していて分かったのだが、やはりこの世界常識や価値観は全然違ったりする。さらに言うなら龍種と人。感情や道徳心が異なるのは当たり前。そんなことにいちいちイライラしたりする僕ではない。


 大笑いをやめたアイナールは「ダガ」と前置きをして。


『マァ少シクライナラ解ルヤモシレヌ』

『流石ニ長ク生キテキタノデナ、知識ハ豊富ヨ』


 そう言ってアイナールは自身が同行することを提案した。

 

 「それなら」とラーが、


「さっきの感じでは、あの人たちも良い人そうだったし、多少会話に難があったとしても行くべきだね」

「せっかく初めての交流なんだ、どうせならコソコソしてないで次はみんなで行ってみようか」


 と提案する。


 まぁ異論は出ない。

 得体のしれないオムにさえ肩を組んで楽しそうにしていたのだ。少なくとも悪い人ではないだろう。


 アイナールによると、現地人は僕達と同じような感情を持っていてそして同じような感覚を有しているのだそう。

 だから、常識や法が違うだけでその他の人間的なところでの差はあまりないと言っていた。

 つまりは、僕達にとってはあまりなじみのない言葉だが、異世界というより()()として考える方が無駄に気負わなくて済む、ということ。


 僕達が生まれたのはもちろん【終戦後】だから、色々な国があったなんてゼノンテルアにいたら実感は湧かないけれど、大戦中やその前はいろんな国があっていろんな文化があって、いろんな人種がいたそうだから、その感覚でいいのだろう。


「……それで、みんなで行くとして」

()()()()()()()()


 タッシ―はインテリ眼鏡を「くいっ」とさせながら、アイナールを見た。

 当の本人はタッシ―が、何をまずいと言っているのか気付いていないようで、おそらく不思議そうな顔で「誰に言っているんだ?」ときょろきょろしている。


「体だ、体、そのバカみたいに大きい体だ」


 アイナールはようやく自分に対して言われているのだと気付き、バカみたいと言う言葉にショックを受けたのか、口をあんぐりと開けている。

 そしてすぐにその開いた口をキッと尖らせて、


『バカミタイトハ失礼ナ! 威厳溢レル素晴ラシイ巨躯(きょく)、トデモ形容センカ!』


「あ?」


『………ハイ、バカデス』


 タッシ―の短気は偉大なる龍種様でさえビビらせてしまうようだ。


「―――で、どうするんだ?」

()()()なしで、コミュニケーションを試してみるか?身振り手振りのジェスチャーとかでな」


 “こいつ”という言葉がアイナールのプライドをゴリゴリ削る。勝てないと分かっているからこそ歯がゆさもまた倍だ。


『…気ニナラナイヨウニ通訳ダケデモシマスノデ…』


 終いには口調までもが変わってしまう。アイナールのライフはとうとう0になってしまったようだ。


「それで、お前をビビッてあいつらが逃げたら」

「どう責任を取るんだ? あ? 言ってみろ?」


(―――タッシ―怖い怖い! アイナール泣きそうだよ! “責任”とかもうめちゃくちゃ怖いじゃん!!)

 


 もちろん、タッシ―が本気で言っていないのは分かっている。でもそれは僕達が長年一緒にいるからこそ解ることであって、新参のアイナールからしてみれば、タッシ―の言わばブラックジョークは脅しや圧迫でしかない。

 当のタッシ―は、僕達生徒会がこんなことではもう怯まないから、新しいおもちゃを見つけたとばかりに楽しそうにメガネをくいくいしているが。


 生徒会内のヒエラルキー最下位がオムからアイナールに変わった瞬間である。


 さて、泣きそうになっていたアイナールだが妙案を思いついたのか、何やら一気に明るくなる。


『コノ図体ガダメナラ、良イモノガアル!』


 そう言うとアイナールは、僕達から少しだけ距離を取って何やらぶつぶつといい始めた。

 僕の耳にはそのぶつぶつ音は聞き取れるのだが、とても変だ。言葉ではないし、言語というほどに規則性のある発音はない。何よりなぜ今になって意味が伝わらなくなった?

 いや、これこそがこの世界の言語?さっき話に出た龍語というものだろうか?それとも別の…


 僕が色々と考えを巡らせていると、突然アイナールの周りが爆発したかのように一瞬で煙が立ち込める。その煙はあっという間に拡散していき、すぐにアイナールの巨体全てを飲み込む。


 何も見えない。辺り一帯に煙が出ているせいで、近くにいるはずの生徒会のみんなでさえ全く見えやしない。


 その時、僕の足元に伝わる特殊な感覚。

 これは…


―――アイナールの質量が…消えた!?


 あり得るはずがない。

 だってあの巨体だ、相当の質量を持っている。それがものの一瞬で消えたなんて……まさか!? 飛び上がったのか!?



「―――ヴィル! 奴の気配が消えた! みんなは気にしないでいい! 逃がすな!」


 タッシ―の怒鳴り声が聞こえる。

 でも、その声が僕の耳に届くころには僕はもう地面を蹴りだしている。アイナールがいた場所は僕が一番近い、あの距離なら到達に1秒もかかりはしない。

 

―――とっても残念だ、仲間になれたと思ったのに。

 

 僕はアイナールのいた場所に向かって猛突進。

 

 手伝うと約束をしたはずなのに、逃げた、ということは何かやましいことがあるということ。何も言わずに逃げた、ということは僕達が信用できないということ。

 後々になって、僕達が異世界の住人であること唯一知っているアイナールが厄介になる可能性があるということ。

 最初は殺すはずだったこと。


 以上のことを踏まえて、僕は全力で拳を握る。

 盟約の地での攻撃が致命傷になるならば、これは即死級。仲良くなれると思っていた僕の純情を乗せている。

 

 下から上にかけての長ロングアッパーカット、いくら飛び上がっていたとしても、僕の脚力を加味すれば20m(ミーター)飛んでいようとも届く。


 そしてこの質量が消えた、たった一瞬でそこまでの距離を飛び上がれないのはもう知っている。

 あと、コンマ00001以下でアイナールがいた場所だ。

 そこから上に【昇竜拳】


 さらば、アイナール。少しだけだったけど、楽しかった。


 。。。



「って!!!!ちょまぁぁぁ!!!!!!」


 声が聞こえたことにより、僕は全神経を使って攻撃を中断する

 それにより、寸でのところで―――止まった。

 

「ストップ!ストップ!待って!殺さないでぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 泣き叫ぶ、()()()()


 ヴィルの高速移動を無理やりに止めたことによる余波が、途轍もない風となって煙を吹き飛ばして辺り一帯に吹き荒れる。

 その風を真正面に受けた女は、美しい赤髪を風に(なび)かせて、泣いていた。

 その女はたいそう綺麗で、それはもう美しかった。

 僕の生み出した風が、彼女の頬に伝う涙を吹き飛ばし、彼女の美しい顔をより鮮明にさせる。

 彼女は服を()()()()()()()

 その誰が見ても、美しいと形容するだろう顔に負けず劣らずな、ある種神秘的なまでの裸体が僕の目に飛び込んでくる。

 まるで、チェビの相対的存在のように、美しくダイナマイトなボディは、より一層の興奮と脳神経への快楽剤を与えてくれる。


 シス(5歳)と一緒にお風呂に入った時に見た裸体が、完全な女の裸を見た最後であるヴィルにとって、それは、その光景は―――


―――刺激が少々強すぎた。


 興奮し過ぎて沸騰した血液を、体内に留めておくわけにはいかないと、体外に出すべく、脳は命令を出す。


 そうしてヴィルはその日、初めて飛んだ。夢にまで見た飛行能力だ。


 鼻血噴射式(はなぢジェットタイプ)ではあるが……。

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