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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
僕達の居場所 僕達の意味《プールスイット》
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第3話 「異世界を知る」―――②


 辺りを包み込んだ炎は、燃やすものなどないはずなのに、いまだに轟轟と燃え続けている。その光景を遠目に眺めながら、冷や汗を流す。


 もちろん、先ほどの竜種(ワイバーン)の炎のブレスは僕には当たっていない。

 一瞬死ぬかと思ったが、ブレスが案外()()()遠く離れるまでには十分な時間があったので助かった。

 

 今は離れているからこのまま逃げるべき、か。そんな考えも頭をよぎったが、このまま逃げても何も問題は解決しないと逃亡の選択を保留にする。

 第一に、必ずとも逃げられるとは限らないことだ。あの竜種(ワイバーン)に対して、僕は真上に現れるまで気付くことができなかった。ラー程ではないが僕もかなりの索敵能力は持っている。

 しかし、その僕でさえあの距離まで気づくことができなかったのだ。最強じみた能力を持つタッシ―やチェビだって、いつの間にか追いつかれて集中する暇がない速さで命を狙われたら対処はできない。これは危険だ。


 第二に、あの竜種(ワイバーン)()()()()()という言葉に激怒していた。

 つまりは『ワイバーン』という種ではなく、また違った存在である可能性が出てきたのだ。それで僕の知識の中でワイバーンと酷似しそして別の種となると―――


―――龍種(ドラーク)であるという可能性が自ずと導き出される。

 もし、こっちならやばい。龍種(ドラーク)怪物(ビテイツ)の中でも頂点に君臨する存在の称号。

 こちらは竜種(ワイバーン)よりさらに()()()だが、また逆により()()()でもあるのだ。


 それは、何百年か前の史実に(さかのぼ)る。当時の唯一のSランク保持者といわれている青年の話だ。

 その時代の書物や伝記はほとんど後世の今の世には残っていないが、その青年の話だけは事細かに事実として残されている。

 曰く、最強であり最高であったはずの青年の力は、龍種(ドラーク)の足元に掠ることさえなく。

 曰く、龍種(ドラーク)の降り立った地は、どんな国土の違いがあろうとも、みな平等に灰になる。

 曰く、龍種(ドラーク)は神の使途。最強の使途。

 曰く、逆らうことは死へと直結する。



 僕は、早口でせっかちな歴史のイケメン教師が、この時ばかりは言葉を重くして、語り掛けるように授業を行っていたのを思い出す。ふとよぎった龍種(ドラーク)の可能性。

 もしそうならば逃げられるはずがない。


 炎の熱と相まって嫌な汗がとめどなく出てきた。


 僕は一人だけでも考える。

 ここでみんなを石の中から出すわけにはいかない。

 さっきの会話の感じで、龍種(ドラーク)が僕以外を認識していないようなのが伝わった。ならば、僕が殺されるという最悪の事態を想定した場合、被害は僕だけで抑えるべきだ。

 だから、石の中にいるラーからの助言を求めることもできない。

 

 ……考えろ……考えるんだ……。


 熟考すること一秒。僕は焼け野原ならぬ焼け荒野になった、さっきまでの場所にここに逃げてきたときと同じように一瞬で戻る。

 


『……ン?キサマ、マダ生キテイタノカ』

『マァイイ、ドンナコトガ起コロウト、キサマノタドル結末ハ同ジ』

『セイゼイ後悔シテ死ネ!』


 振り下ろされる巨大な前足。

 一般人なら、まるで煎餅のようにぺちゃんこにつぶされてしまう威力を持った一撃。

 それに対して僕は体全体をしならせ、ぶつかった勢いを殺しながら、曲芸師のように回避する。

 

「先ほどの発言に無礼があったなら、訂正いたします!」

「どうか、お鎮まりください!!」


 僕が執れる唯一の行動は話し合うことだ。そう結論付けての謝罪だった。

 次々と繰り出される攻撃に一つ一つ丁寧に対処しながら、和解の1手を模索する。

 炎のブレス、切れ味抜群の爪、翼での吹き飛ばし、巨体による押しつぶし等々。全てを、避け、捌き、いなし、防ぎ、逃げる。そして攻撃を避けながらも、どうにか和解するためのきっかけを探す。

 

怪物(ビテイツ)の王よ!」

「どうか、慈悲を!」


『……ッ!?キサマァァァ!!』

『ドコマデワレヲ愚弄スルカァ!?』

龍種(りゅうしゅ)ノワレヲ怪物(モンスター)ダト!?』

『サッキカラ挑発スルヨウニ逃ゲオッテ!』

『ヒトオモイニ死ネ!』


 けれど、相手を褒めるどころか余計に怒らせてしまうこの体たらく。ラーなら結果は変わったんだろうか。

 いやいや、考えていても仕方ない。僕にはみんなの身を預かる者としての義務がある。それは安全にみんなを守るということ。

 僕……僕がこの状況をどうにかしないといけないんだ。


「では、あなた様は怪物(ビテイツ)ではないのでしょうか!?」

「もしそうであったなら、先ほどからの無礼、重ねて謝罪いたします!」


『クドイ!』

『イクラコウベヲタレヨウト結果ハカワラン!』

『死!アルノミダ!』


 くそ!頭の中がややこしくなってきた。

 竜種(ワイバーン)でもなく怪物(ビテイツ)でもない?だったらなんだっていうんだ。やはりここは異世界ではこちらの常識は全く通じないのか?

 だとして何を言えばいい?何を言えばこの場を収められる?


 意図せずして歯がゆさから唇を噛む。


(くそ……わからない……どうすれば……!!??)


・・・


「……はぁ、情けないぞ―――」


「―――っ!?」


「お前にフローズンシャーベットを渡すために出てきてみれば、なんだこの有様は……」


 その声を聴いて一瞬、涙が出そうになって後ろを見ると―――


<くいっ


「頭が固すぎだ、ヴィル」


 ふんっと鼻を鳴らし、いつものように偉そうな顔がこれまた憎たらしい。タッシ―の姿がそこにはあった。

 

 僕は涙が出そうなほどの安心感を得て、それからすぐに正気に戻ると、


「お、おい!今は出てきちゃまずい!早く中に戻るんだ!終わったら、僕の方から出すから」


「終わったら?、その意味のない会話がか?」

「そこだ、そこがお前の頭がこのシャーベットのようにカチンコチンな理由だ」


「いいから早く!戻ってくれ!」

「相手は龍種(ドラーク)かもしれないんだぞ!?」


「いいや、戻らないな」

「いいかヴィル、何か勘違いしているようだが、相手は一言も龍種(ドラーク)だとは言ってないんだぞ?」

「ならばこの場合、お前はその容姿から相手が恐ろしい存在であるという仮説の方にしがみついた。ヴィル、お前は少し緊張しすぎているところがある。肩の力を抜け、生徒会はそんなに軟弱な組織ではない」

「いいか、よく考えろ」

「お前何回()()()()()()?」


「……え」


「ほら、行ってこい」


 そう言ってタッシ―は、僕の愛用武器――愛用といってもそんなに使ってない――を投げてくる。突然の展開にいくら効率化しても凝り固まってしょうがない僕の固定概念は簡単には溶けなかった。

 そんな、僕を見かねたのか、タッシ―は背中を押してくる。


「ほら、早くいけ」

「シスが作ったシャーベット溶けるぞ」


 ふふっ、となぜか僕の口から笑いがこぼれる。さっきからずっと変な汗をかき続けていたからかもしれない。


「……それは、早く食べないとな」


 タッシ―の手にあるシャーベットは原型であろうシロップの上に、みんなの思い思いのものがぶっかけられていた。

 シスなら何の躊躇いもなく入れるだろう滋養強壮用の()()()()

 オムがニヤニヤした笑いを浮かべながら入れたであろう、イチゴシロップに見せかけた()()()()()

 スペラの、サクランボに偽装してある(へた)のついた()()()

 ラーのみんなのおふざけに抵抗して入れたであろう、角砂糖。フィルムに包んであって他の劇物と混ざらないようにさえなっている


 一目見ただけで悪意と悪ふざけの塊であることがわかるシャーベットを見て、笑いが込み上げてくる。しかし、そんな代物でもなんだか今は無性に食べたいのだ。


 僕は恐れをに圧迫された勇気を解凍する。

 

 そして僕はタッシ―に押されるがまま、地面を蹴り上げた。



『キサマ、仲間ヲ隠シテイタノカ!』

『卑劣キワマリナイ!』

『マァヨイ!ドチラトモ消シ炭ニシテクレルワ!』


 僕は空中で、相手の言葉を聞き取る。


 まるで暇な時の授業中のように時が遅いと感じながらも、相手の言葉に耳を傾ける。そして最後まで相手が言い終わるのを待った。もし重要なことを言っていたらそれを聞き逃すのはよくないから。まぁでもよかった。まったく重要じゃなかった。


(―――なんだ……落ち着いて聞いてみれば、相手の方が死亡フラグ多めじゃん。ふふっ、もうちょっと、短絡的なオムを見習ってもいいのかもしれない。

 急に異世界へ訪れたことで、皆が不安そうな顔を浮かべているのを見て、自分だけは強くあろうとしたのが僕の反省点だ。あの時、皆の顔を見た時に、きっと僕も不安そうな顔をしていたはずなんだ。知らず知らずの内にそれに気づかないふりをしていたんだろう。

 やれやれ……僕もまだまだ子どもみたいだ。無理に強がったって意味無いのにな。

 そこを理解できていなかったから、変に臆病になりすぎて解決できる問題も蔑ろにしてしまっていた。

 うん、反省しよう)


 未知が多いこの世界で、自分の弱さにまた一つ気が付いたヴィルは隔絶された勇気(ラナム)を発動する。

 すると、突如として相手の視界から消えるヴィル。暗闇に小麦粉を()くように少しの痕跡も残さず、パタリとヴィルと言う存在が視覚的に消え失せたのだ。

 その行動の軌跡(きせき)は、何人(なんぴと)たりとも追えやしない。


―――次の瞬間。


 まるで景色を絵具で彩るように、空という360度のキャンパスに赤のペンキをぶちまけるように、世界は“血”によって染められた。

 それは、赤。

 真っ赤な赤。


 全8()6()2()()()の刺し傷。


 

 ヴィルが消えた刹那さえも軽く通り越す時間軸の後に、世界に鳴り響いたのは、敵が地に倒れる音。

―――ただそれのみだった。

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