第1話 「世界が“今”交わる」
「―――きろっ! おい! ヴィル!」
「起きろ!」
段々と大きくなる耳元の声に、意識を無理やり覚醒させられた僕は、急いで目を開く。次いで目覚めたばかりの意識を隔絶された勇気で効率化し、一気に正常状態まで引き上げて辺りを見回すと、そこは何もない荒野。荒れた地―――不毛の台地が広がっていた。
僕の記憶が覚えている限りでは、さっきまで僕達がいたのは自然溢れる平野だったはずで、このような茶色の景色ではなく、ごつごつとした岩山や乾ききった土が辺り一面に広がっている訳がない。
肌に刺すような痛みを覚えた僕は飛び上がるように立ちあがる。どうやら僕は裸で、ぎらぎらの太陽に温められた地面に焼かれていたようだ。
背中や太ももが文字通り焼けるように痛い。
―――ん?太陽?
これもおかしいじゃないか。さっきまで確かに空にはキラキラの星がいっぱいあった。
しかし、今はもうあの忌々しい太陽が出ている。それほどまでの時間、僕は寝ていたということか?
状況が一切つかめない僕は、僕を起こしてくれたタシウム・フォトに視線を向ける。
この暑い暑い気候にやられたのか、汗を滝のように流している彼は、僕が困惑した表情をしているのを見るや否いや深刻そうな表情で「ついてこい」とだけ言った。
どうやら、状況はあまりよくないらしい。
タッシーに言われるがままに、ついていくと、そこには僕と同じように衣服を身にまとっていない、生徒会のメンバーがいた。大きめの布だけを被せてあるだけの状態だった。
そして、この照り付ける太陽から身を隠すように岩山の陰に身を置いているようだ。
「……現状は?」
きっと、タッシ―だってあまり深くは理解できていないだろうけれど、それでも今現在分かっていることについて尋ねる。
「現状は見ての通りだ、俺たちは何もない荒野に、何もない状態でいる」
「それとこれを着ておけ、裸はいろいろまずいからな。」
タッシ―は見たままの最低限の説明をすると、僕に大きめの、言い換えるなら身を包むにはちょうどいい具合のタオルを手渡してくる。
「俺とラーとお前以外はまだ起きていない」
「ラーは辺りを偵察に行っている。俺は全員の安否確認と回収、かなり散らばってたから、回収は手間だったがな」
「運んだ時に起こしてみたが、起きたのはヴィル、お前だけだ」
そう言ってタッシ―は疲れたように、それでいてどこか安心したように座り込んだ。
僕達の隣では他6名がまだ寝ている。
それは、どうやら睡眠というより気絶に近い物のようなので、無理やり起こすのでのではなく自発的に起きるのを待つことにした。
何をするべきなのか、何ができるのか、その2つを重点的に頭を回転させて考えていた、そんな折。死んだ土を踏みしめる足音がしたのでそちらの方を見てみると、偵察から帰ってきたラーの姿が見えた。
こんなに暑いのにもかかわらず、体にタオルを巻いて相変わらず頭には段ボールを被っている。
「よかったヴィル!起きたんだね!」
「他のみんなは……まだなようだね……でも、それでも先に作戦会議だ」
「今僕達はかなりのピンチだからね」
タッシーと同じで深刻そうな声音で話すラーには若干ながら焦りがあった。そしてその雰囲気を唯一感じ取れる僕は、重複するように暑さではない汗を流す。
あのラーが対応に遅れているいうのと、何より僕に勘づかれるほど焦っているというのがどうにも僕の不安を掻き立てたのだ。
目覚めないメンバーは一旦置いておいて、緊急の作戦会議が始まった。
。。。
「まず第一に、ここは【ゼノンテルア】じゃない」
ラーから出た第一声に僕の口から驚きの声が思わず出る。
「え!?まじで!?」
「うん、ゼノンテルアという大陸内に、このような荒野はないんだ。間違いない」
「それじゃあここはゼノンテルア外の他大陸か」
「いや、そうとも限らないんだ」
ここで僕はさらに、疑問が深まる。ゼノンテルア外なのに他大陸ではないというラーの意見。かなりの矛盾ではないだろうか。
これには普段気取った態度を崩さないでいるタッシ―さえも、考え込むようにしている。
そしてすぐにラーは、僕達の謎を解くように説明を続ける。
「どうしてかを説明するとね」
「まず僕の俯瞰的戦争が現在位置、座標を把握できないこと、これは僕がこの場所に来たことがないか、今いる場所の地図を見たことがないか、このどちらかによって起きることなんだ」
「僕は能力と家の都合上、現存する全ての地図や場所には一通り目を通している」
「それこそ、未開の地である他大陸でさえも、その区域やその地域の仮称なんかはすべて教えられてきた」
「だからこそ断言できる、ここは―――異 世 界だ」
とうとうここで僕の脳は処理限界を迎える。
いや、頭ではわかっている。ここは僕達がいたゼノンテルアがあって神がいる世界―――ではないということ。
しかし、脳で理解するのと現状を心で理解すること、これは似ているようで全く違うらしい。今この瞬間を以てしてそれが分かった。
「それに思い出してくれ、最後の記憶を。そう、ここに来る直前だ」
「僕達が何をしたのか……」
ここに来る……直前?やばい……思い出せないぞ。
何があったんだっけ……。
全く思い出せないことに頭を抱えた僕を見て、ラーは少しずつヒントを出してくれる。
「みんなで走り回った後のことだ」
走った?……そうだ。みんながワイワイしていて楽しそうだったんだ。
それで僕も……入って。その後、後……あと。
―――後!?
「そうだ!思い出したぞ!」
「オムが変な本を持ってきたんだ」
「そうだそうだ!なんか特別な旅に行けるって言ってたぞ!」
「よかった、思い出したんだね」
「そう、僕達はあの時、本に書いてあるように―――」
―――円を組み、輪を作る。
儀式は最低5人必要。
この本は特別な旅のための一往復分のみ
全員が隣の人間と手をつないでいき、真円を作る。
本を持った人物が参加者に問いかけをする。
準備はできたか?と。
参加者はそれに真の心を持って頷く。
最後に、本を持った人物が、【世界に愛された髪】【涙の結晶】【思い出】を円の中に置き、「全てを求める」と口にする。
されば特別な旅の扉は開かれん。
「―――儀式の内容を行ったんだ。そう、あの本に書いていたことをね」
「僕達はあの夜、いやつい先ほどこの儀式を執り行った」
「それがこの結果だと、僕は思っている……」
その言葉を聞いた時、ただでさえパンク寸前な僕の思考はかつてないほどに困惑した。
いくら何でも、それは。と。
しかし、そう考えてしまえばいくらでも説明がつく。ラーがこの場所を知らないのも道理だし。服がないのも世界を飛ぶことによる弊害だと思えば、まぁまだ風で飛ばされたとかよりは納得できる。
この状況では、ここをラーが知らないのも勉強不足や未開の土地、さらには能力で作られた空間などと思う方が発想の飛躍だ。
今現状の揃っている情報で推測される一番真実味が高いのはラーの異世界という言葉なのだ。
さっきも言ったが、他大陸であると考える方が状況証拠的にはやや信憑性に欠けるからだ。
よし、まだ真に理解したとは言えないが、さっきと同じように頭では理解できた。
そんな折、タッシ―が考え込むようにしたまま口を開いた。
「くそ、俺の中の全ての記憶を探ったが、ここに来るまでの視覚、聴覚その他諸々全ての機関の情報がない」
「俺は寝ているときの自分自身の記憶だってあるはずなんだが、こんなことは初めてだ」
タッシ―はいついかなる時でも、全ての現象が、記録または思い出として記憶に、勝手に保存される。これはタッシ―の思い出の編集者によるいわば副次効果のようなものだ。
そして、その勝手に記憶されるものは寝ているときでも気絶している時でも逐一蓄積される。
しかし、今回だけはなぜか、その記憶が無くなってしまっているのだ。タッシ―の口ぶりからタッシ―は記憶を消した覚えはないんだろう。
つまりは、儀式による弊害、または何者かによる干渉によってタッシ―の記録は消されたわけだ。
いつどんな時でも、自分に起こったことを把握できるタッシ―からすればかなり恐ろしいことなんだろう。普段記憶という曖昧なものを扱っているからこそ、より恐怖に感じるのかもしれない。
しかし、悪いことばかりではない。
それは―――
「―――うん、ヴィルももうわかっていることだろうけど、能力は使えるよ、今タッシーが使えているようにね、ヴィルももう発動しているんじゃない?」
「ただし、若干体力消費が多いように僕は感じるかな。いつもより、気怠さを感じやすい」
これは僕達にとって僥倖。丸腰の僕達が今怪物のような凶暴な生物に出くわせば、かなりの確率で死人が出る。
すると、そうこうしている内に、目覚めないという最悪の事態には陥らずに無事にみんなが起き始める。全員が揃うころには、大体の目標は定まった。
「第一に、僕達の目標はゼノンテルアに帰ること」
ラーは全てにおいて優先されるであろうことを、始めに掲げる。
「この目標を叶えるには、目下はオムの本が重要であると考えられる」
「幸いにも本だけは、僕達の服と一緒に取り残されることなく、オムの倒れていた近くにあった」
「だから、最優先として、この本の内容を揃える。つまりはここに来た時と同じことをするんだ」
全員が真剣な面持ちで言葉は発さずに、それでいて意思が伝わるように頷く。
「はいはーい!アシミーちゃんに質問がありまーす!あ、こんな格好だけどみんな発情しないでね?」
「「「―――誰がするか!?」」」
「いやーんヴィルのエッチ~。―――で、そんなことはどうでもよくて、さっきの意味不明な儀式の揃えるやつって今無いの?こっちに来れたんだから帰りの分もすぐ用意できるんじゃない?」
明るく取り繕いながらも、こんな場所に無理やり連れてこられたことにアシミーは怒髪冠を衝く一歩手前だった。
早く帰らせろ、と雰囲気で主張する。
しかし―――
「―――……アシミーの言うことは至極真っ当なんだけど……」
ラーが言葉尻を濁して答える。ラーであろうとも容赦しないアシミーは、威圧するように存在感を放ちすぐに答えないのでプレッシャーを与えていく。
それに間を割って入ったのはオムだった。
「あ、あの……アシミーさん?あのですね……その……あの……」
「どしたのオム? 早く言いなよ」
「ひっ……! は、はいそのですね……儀式のアイテムなんですけど……元々本に往復分入ってたんですけど……両方とも“行き”で使っちゃって……な、ないんです」
普段の頭の悪そうな喋り方はどこに身を潜めたのか、どこまでも丁寧な口ぶりで事実を語るオム。足は生まれたての小鹿に完勝できるほどに震えている。
「ちっ……」と短い舌打ちをしてアシミーは黙る。使ってしまったものはしょうがない。どうにかしてこの世界で集めるしかない。と理解したからだ。
「……とまぁ、そういう事で用具は揃っていないんだ。この世界でそれらを集めて行こう」
「次に、この場所の調査」
「ゼノンテルア外の他大陸であるならよし、異世界であるならより一層の調査が必要だ。人の有無とかね」
「今現在は、この2つを目標にして動いていこうと思う」
「でも、最後に。もちろん優先目標は帰ることだけど、一番大事なのは仲間の安全だ。ま、これは言わなくとも大丈夫かな?」
そう言ってラーは肩をすくめる。そうだ、そんなことは言われなくとも、みんながそれぞれ一番理解している。僕らがそれを違うことはない。
「そうと決まれば!まずは着替えやな!」
そういって、まだ起きたばかりのはずのスぺラは元気に立ち上がって宣言した。
「ほらほらータッシ―だーして!」
今回のことを幸福と取るか、不幸と取るかはわからないが、僕達は一応キャンプに来ていたのだ。
着替えや、その他の食料はタッシ―がすべて持って来ているし、能力を発動できる以上それも出し入れ可能だ。
さっきの体を最低限隠す用のタオルだって、タッシ―が記憶に入れて持ってきていたものだ。
あの時点ですぐに服が出てこなかったのは、きっと記憶の中がごちゃごちゃで整理がなされていなかったからだろう。それに女子に勝手に服を着せるのは……。
取り敢えず、スペラの言う通り、このどこに目を向けていいかもわからない姿から脱却するのだ。
男子は岩山の陰で、女子は家の中で。
ん?家?あぁ、ここに家があるのはおかしいって?
考えてもみよう、あのタッシ―やチェビが、外に虫がウジャウジャいて、壁の薄いというか、ほとんどないテントなんかで、寝るわけがないだろう。
だから、タッシ―はラーが保有する別荘の一つを家ごと持ってきていたのだ。
恐るべし、そして便利すぎ、Sランク能力。
何事もなく全員の着替えが終わるころ、岩山の陰でオムが怯えるようにうずくまっているのを見かけた。
何かあったのかと思い、声をかけようとするが,,,
「……べぇよ……」
「どうしt―――」
「―――やべぇよ!やべぇよ!」
「やっと何十話もかけて、物語の基礎を少しづつ出してきたのに……ようやく把握できてきたころに舞台変化ってどういうことだよ!」
「怒られるよ……怒られる……」
おーかなり重症に悩んでるな。
「どうせ舞台変えるなら、学園の細かい情報とかいらねぇやん……」
「どうすんだよ……また新しい世界の歴史から説明するのか……?」
「おい、オム。」
「悩むなよ、こういうもんだと思って思考放棄してこうぜ」
「無理や……ただでさえ説明が足りてない作者の妄想全開ワールドやのに……」
「これ以上は……うっ……」
「でも、こうなった犯人って、今のところオムだぜ」
「……いや、そうやねんけどもなぁ……」
「なんか罪を擦り付けられた感じがするのは俺だけ?」
「……まぁ、強く生きろよ」
「ほら、ガウガウの頭でも撫でるか?」
「ん?こっち来とったんか?てっきり取り残されたと思っててんけど」
「あぁ、うん、こんなことになるとは思っていなかったけど、一応タッシ―の中に入れておいてもらってたんだ」
「ほぉーん、良かったやん」
「まさに不幸中の幸いってね」
「まぁガウガウからすれば、地獄に道連れにあったようなものだろうけど」
「……はぁ、しっかしまぁ、俺が言うのもなんやけど、大変なことになったよなー」
「ふふっほんとに、お前が言うなよ」
そう言って僕達は本当に軽くではあるが笑い合う。きっと異常事態に心がびっくりしていて安らぎを求めていたんだろう。
そしてオムとの、何気ない会話は僕のいつの間にか凝り固まっていた気分を少しだけほぐしてゆく。
それにより、パンク寸前だった思考回路は正常に仕事を始めてゆく。
。。。
今僕達がいるのは人がいるかもわからない、異世界。または誰にも知られていない他大陸。
能力は健在、しかし人によっては体力消費が変わっているかも。さっき僕も試したけれど少しだけ鈍いような気はした。
ここに来た時の直前の行動、つまり本の儀式を行うことが今のところの帰る手立てであると推測される。
それには【世界に愛された髪】【涙の結晶】【思い出】とかいう若干意味不明な物が必要。物品を扱っていたオム曰く、それぞれは物体としてちゃんと存在していた物らしいので、概念的な物でなくて助かった。取り敢えずは帰るためにも、この3つを集めることが優先度として高いだろう。
しかし、この条件が現状よくわからない。ついさっきタッシ―が思い出の編集者の力を使い編集したりして揃えてみたのだが全く以て効果をなさなかった。
本が悪いのか、それとも自然的に発生したものではないといけないのか……疑問は生まれるばかりだが、今のところの帰る手段の手掛かりはこれしかないので、能力に頼らずに生まれたこの三つ、を手探り状態で地道に探っていくしかない。
―――ん?
僕が儀式のアイテムが無事に揃うように神にお祈りしていたところ、向こうの岩山の陰でタッシ―がいら立っているのが見える。
その近くではチェビやスペラが大きく息を吐いて疲れこんだように倒れた。
どうやら、本を介さずに自力で帰る方法を試しているようだった。
でも、結果を聞くより、その光景を見るほうが早かった。失敗したことが窺い知れた。
今いるここの場所も、ゼノンテルアの位置さえも分からないのだ。試したくなる気持ちも分かるが、結果は最初から知れている。
いや、だからこそか。
最初から、能力を使えば帰れるという甘ったれた考えを捨て去るべく実験しているのかもしれない。
もしそうだったとしても、やはり簡単には帰られないという事実は、すんなりとは受け入れられないものでもある。
それを指示したであろうラーでさえ、その雰囲気から悲しんでいるように見えた。
それから少ししてみんなの体力が回復してきたころに、向こうの岩影から帰ってきたみんなを入れて、僕達はこの場所から出発する。
少なくとも、ここは人間が好んで住む場所ではない。
だから、あるかはまだ分からないが、人里があるような自然がある場所へと向かう。
見回したみんなの顔色はあまり良くない。




