第43話 「君が素晴らしい」
学園で死者が出たことに、どうしようもない感情を募らせて、なぜ被害者は殺されなければならなかったのか、いったい誰が彼女を殺したのか、全ての疑問を解決するため、僕は学園中を歩き回っていた。
そして、集まった情報はこうだ。
どうやら彼女には親同士が決めた許嫁がいたそうで、その『彼』が生きている彼女を見たであろう最後の人物。
学園での彼女の立場はそれなりに高いものであって、恨まれたり妬まれたりする人物ではなかったそう。
しかし、彼女の友達によるとどうやら最近ストーカー被害にあっていたそうだ。なんでもその友達が言うには「もう会わないで」「私に近づかないで」と顔は見えなかったそうだが、男と口論しているところを見たことがあるそうだ。
そんなストーカー被害に合いながらも、許嫁の彼とは円満な関係で誰から見てもかなり相性の良いカップルだったらしい。
ここまでが僕が集めた情報。
みんな、僕が聞くと素直に教えてくれる。嬉しんだか悲しんだかわからないけれどおかげで色々と聞けた。
今のところの目標としては被害者の許嫁とやらに話を聞くこと。それとストーカーをしていたと思われる男に事情を聞くこと。
正直な話、人手が足りない。
今回での一番理想的な動きとして、ラーと被害者の親との話が終わるころには犯人の目星を付ける、それか捕まえておくこと。そうしないと生徒会の能力不足、ひいては生徒会の信用にかかわる。
それにどんな事情があったとしても、犯人が早く見つかることに悪いことはない。
しかし、そうは言っても僕単体での捜査力なんてたかが知れている。でも、他のみんなもそれぞれの仕事にかかりっきりでこちらを手伝う余裕はまだないだろう。別にラーからは解決しろとは言われていないが、やるからには徹底的に調べたい。
うーん、よし。まずは許嫁とやらの所に行こう。
・・・
「……どうぞ」
そういって、まさに意気消沈といった具合で、お茶を出してきてくれたのは今回の被害者の許嫁、つまりは未来の旦那様、だったはずの人物。名を【アルマ】という。
彼はほんのつい先ほど前に、最愛の人の死を知ったのだという。
傍目から見ても仲の良いカップルだったのだから、本人たちはそれよりも固い愛情で結ばれ、お互いを愛していたのだろう。その片割れが亡くなってしまったのだから、ショックは相当なものだ。
僕にお茶を出して向かいの椅子に腰かけた彼はずっと目を下にやって項垂れるようにしていた。
僕が何かを知らないか、と聞いても「知らない」とだけ答えてまた黙ってしまう。そして悲しみが詰まったため息を吐き出して、彼はまるで独り言のようにポツリと、語りだした。
「ジェントジェミニス君……俺はね、彼女が好きだ」
「もうたまらなく好きなんだ」
「最初はね小さいころ、親の開いたパーティーに嫌々連れていかされた時、彼女を見たんだ」
「子供心ながらも運命だと思ったよ、性格、容姿、そしてあふれ出る気品とオーラ」
「全てが僕の理想に当てはまっていたんだ……」
最愛の人との馴れ初めを語る彼は、昔を思い出したように嬉しそうにしたかと思えば、またすぐに悲しみの表情をして声のトーンが落ちてしまう。そうやって心の緩急を付けながらもゆっくりと彼は語る。
それは、初対面の僕であっても同情を誘い、また一緒に悲しみの感情を味わうには十分だった。
「それからは必死に努力したよ」
「好きでもない親に何度も頭を下げて、彼女の家と縁談を結ぶようにお願いしたさ」
「当時、能力による宝石産業で目覚ましい成長をしていた俺の家はより位の高い家と縁を結びたがっていた。でも彼女の家はそれほど大きくない家だったから『相手は幼女だろうと年増のババアであろうと気にしないから、下位の貴族家だけはやめろ」と何度も言われて、最後にはこっちが懇願されるように必死に止められたよ。まぁ俺は長男。親としては気が気でなかっただろうね」
「でも、諦めずに必死に、懸命に、自分でも誇れるくらい努力したのさ。周りから徐々に固めていってさ、彼女と結ばれることだけを考えてね」
「そして、僕はようやく彼女と結ばれることができたよ」
「彼女も最初の方は冗談だとでも思っていたのか全然相手にしてくれなかったけれど、言葉を交わすうちに、相手を見るのが増えるごとに、互いを意識していったんだ」
「本当の意味で結ばれたとき。あの時はうれしかったなー……」
そういうと、彼の瞳から「ポロリ」と数滴の雫が流れ落ちる。その雫は彼の感情の防波堤を完全に決壊させたようだ。次々に嗚咽交じりの涙がボロボロと床に落ちていく。
僕はただ、彼の泣き顔を、悲しそうな泣き顔を眺めることしかできなかった。僕には彼にかけられる言葉が分からなかった。僕には彼に言ってあげられる優しい言葉が思いつかなかった。
僕には彼を―――癒せない。
その後も、僕は呆然と彼を見続けることしかできず、せめてもの僕が彼に出来たことは、これ以上彼女のことを思い出させないように、出ていくことのみだった。確かに何も有益な情報は何も聞き出せてはいないが、それでも、彼の、アルマの愛情は確かなもので、それに伴う悲しみは確かなものだった。
そんなこと、恋愛をしたことのない僕にだって容易に感じ取れる。そんな僕に、アルマからこれ以上何かを聞くことなんてできなかった。
結局、「あ……」「その……」なんて言葉で会話を始めようとしても、終始、続く言葉は見当たらないし。
時として、悲しみの感情は時間が解決することを信じて、僕はその場を後にしたのだった。
暑い暑い外に出て空を見上げるともうすぐ、太陽が一番の見せ場と張り切る時間。
てらてらと容赦なく降り注ぐ輝きが、僕の背中をこれでもかと焼き付ける。
僕は、体温調整を効率化して、次の人物に話を聞きに行くことにする。




