第42話 「誰が素晴らしい」
あくる日。
太陽からの視線が熱く。空に燃え滾る彼の光が僕らを照らす季節。
今が絶好の時だと言わんばかりに、その熱気は力を増してゆき、人々に薄着を強要させる。
さぞかし、今頃北風は「ぐぬぬ」と歯を食いしばりながら陰で悔しがっていることだろう。
いや、そんな北風ももしかしたら、この暑さには焼かれてしまっているかもしれない。
そう、嫉妬だけに、妬かれてるってね。
……独特の熱気と夏を伝える虫の混声多合唱。
不協和音を超えたその演奏に心をげんなりさせられながらも、赤く照りつく夕日。海に反射する煌めきのブルー。ここ一番の水着の見時。
そういった、プラスとマイナスの性質を持つ不思議な季節。
全校生徒、教職員さえも待ちに待った長期休暇もある。俗にいう夏休みか。
そういったことに目を向けると、案外、この暑さも我慢できるというもの。さらに言うなら校舎に入ってしまえば空調の効いたこの学園。暑さなんかは気にならない。強いて言うなら、校舎移動の間くらいだ、困るのは。
いやはやしかし、いくらこんなにべらべらと言おうと僕達の青春にトキメキはいつだって輝いている。不満を言おうが何を言おうが僕らの青春は色褪せないし、何処かへ行ったりもしないということだ。
今日もまた、いつものように。始業のベルが鳴り響く。
僕達は学生。僕達は生徒会。
変わり映えのない日々。しかしそれが一番いいことを知っている。今日も今日とて嬉々として、自分の教室へと向かう。
・・・・
「……俺は……俺は……悪く、ない……!!」
「おかしいじゃないか、だって……こ、この……裏切り者」
翌日。
学園で『死体』が見つかった。
。。。
「―――どういうことだっ……!?」
今、ヴィルが感情任せに発した『なぜ?』は質問としての意味をなさない。なぜなら、質問というのはどんなものであってしても答えがあって初めて質問となりうるからだ。
そうでなくてはそれはただの言葉の暴力で、一方的なものでしかない。疑問を呈するにはこの状況はいささか場が悪かった。
ヴィルが放った「どういうことだ」という質問に、回答を出せる者はいない。強引に解を述べるとするなら「わからない」くらいだ。しかし、それが答えではないと誰でも理解できるだろう。
―――事件の概要はこうだ。
朝登校してきた生徒が教室移動のために別校舎へと向かっている道中、倒れている女子生徒を発見。すぐに、生徒会に連絡が入り、一番最初にラーが到着。
しかしそのころには、被害者はすでにこと切れていて、間に合わず。さらに言うと、発見した生徒は倒れている生徒を見つけて、すぐに連絡のためにその場を去ったので、発見時に生きていたかは不明。
そして、怪しい人物や、近くに居合わせた人物も無し。
外傷は腹部を何か太いもので貫かれており、その刺し傷による出血多量が直結の死因。それ以外の傷はなし。
ここまで調べてくれたタッシ―によると、被害者の子は4組生徒。貴族家の人間。
さてここで問題がいくつかある。
一つ、今すぐに専門の警察がここにきて、事件の捜査を行い解決ができないこと。これはこの学園自体が、この国でもかなりの重要な施設であるため、元々部外者の立ち入りが長い期間での申請と厳密な審査が必要であるためだ。
しかしそれだけならこれだけの緊急事態なのだ、無理を言って審査を速めることなどできる。
しかし先日あった山羊の狂脚の騒動により、どんな場合であっても厳重な審査を引かれることになってしまった。これにより少なくとも1日、長くて1週間は警察は入ることができない。
二つ、被害者の人間が死んでしまっていること。もしまだ息があったり、体の生命活動がなくなっていても、生きていればタッシ―やチェビの能力で助けられる。
しかし、二人は言ったのだ。死んでいる、と。
これによりどんな手を尽くそうと、今目の前で横たわっている彼女を助けることはできないと分かった。【Sランク】が無理だといったのだ。つまり絶対に無理なのだ。
そして三つ、彼女が貴族家の人間であること。これは詳しく言わなくともわかるだろう。偉い人物の娘が死んだのだ、その偉い人物が怒るのは当たり前だろう。貴族として親として。
最後に四つめ,,,
「……おい、ラー、どういうことだよ、なぁ……なぁ!?」
ラーの肩を激しく揺さぶって、無駄だと分かっていても問い詰めた。この見苦しい無駄な行為に意味などありはしないが、現実を受け入れたくない人間にとっては丁度いい無様な行為だった。
ここ一週間、この学園に出入りしたものは、いなかったのだ。
「……さっき、僕が言ったとおりだ……犯人はこの学園の中にいる」
「つまりは―――生徒もしくは教員の誰かだ」
ヴィルは膝から崩れ落ちる。信じたくないことを二度も突き出されたのだ。その痛みは大きい。
普通に考えて、同じ学園の生徒が亡くなったら“嬉しい”とはならずに、“悲しい”が先行するだろう。そしてヴィルの場合は心優しく、さらに嫌われている相手でも嫌うことがない質なため、思いやりや気遣い、感受性が発達している。だからこそ、人ひとりの死に悲しめるし、同時に仲間の行動だという事実を受け入れがたかった。
「……でも、前だって。そう、前の時だって、顔合わせの時だ。侵入者の反応がなかったけど、外部の犯行だったじゃないか……」
「今回だって……」
「調べたよ、何度もね」
合理的な思考力を兼ね備えているラーは感情的になるよりも、先に理性と合理を持ってきて、確実な方法でこの事件について調べ始めていた。
そして、その努力によってこの事実は生まれたのだ。そこに間違いはなかった。
ヴィルは淡々としたラーの声に、また感情的になって大きな声で反論しかけていた口を閉じる。しかし、ヴィルはラーのように理性で黙ったのではなく、ただ単にラーの発する圧に押し負けただけだった。
本当は「何か偽装をしてラーを欺いた」とか「それだけでこの学園の人間がやったなんて信じられない」と思いついた順から、ラーに再考させるための案を出したい。
でも、分かってしまった。一番知っていたはずなのに蔑ろにしていた。ラーだって本当は学園の中の人間が犯人だなんて言いたくはないのだ。でも、確認すればするほど、ラーの中で説が組みあがっていく。
僕のは所詮『学園の生徒が犯人じゃないと信じたいただの願望』、実際的なことに目を向ければ一目でわかる。この学園の生徒が犯人であるという確率の方が何倍も高いということが。
僕は「ごめん」とだけラーに伝え、タッシ―がまとめた報告書に目を通す。
生徒の安全を考えて三日間学園は閉鎖される。
野次馬の帰った事件現場で、堅い地面に何時間も寝かされて、美しかっただろうその姿を血に染めて、まるで見せびらかすように死んでいる彼女。
彼女とは面識はない。正直見たこともない。でも、とても悲しい。
僕は、生徒のみんなからは距離を置かれているけど、僕はこの学園が好きで、生徒みんなのことが好きだ。
それは、ラーが昔いつも言っていた言葉を今でも信じているから。人にやさしくすればいつか自分も優しくしてもらえる、と。
だから僕はこの学園を大好きだと思うし、生徒全員を大事に思っている。
【生徒の安全とか学園生活を守ろうの会】なんて僕達は名乗っているのだ。守らなければならなかった。
しかし、出来なかった。
勝手に守ると、宣言しているんだ。それ相応の働きが必要なのは当たり前だ。
誰に美味いとも言われたわけでもない店が、激ウマと自分の店を評するなら、それ相応のものが求められるのと同義。
しかし、今回僕達は事前に止めることができなかった。
歯を「ぎりっ」と食いしばる。
怒りでも、悲しみでも、悔しさでもない。決意。
確固たる意志の下の決意。
後で怒られるのは分かっていたが、僕は被害者の顔にハンカチをかける。
なんだかとても、不憫だと思ったから。
僕はプロじゃない。
頭もキレない。
頼みの綱のラーは被害者貴族家とのごたごたでその対応に追われている。
それでも僕は歩き出す。
彼女を知るために。なぜ彼女は死んだのかを知るために。
そこに真実があるのだと。
だから、僕は。
歩き出す。




