第39話 「お姉様が望む自由とは」―――②
大量の汗水を垂らして、死した兵のように歩く二人。目的は厳重注意こと。
これまで多くの未知の存在にぼっこぼこにされた二人は、もはや怒りの執念だけでここまで来ていた。
そしてようやく「ガチャリ」。グネグネと無駄の多い迷路の作りになった第六技能室を抜けてたどり着いたのはその奥。本来であれば教官室であった場所はまるで一軒家の玄関扉のようにおちゃめな飾りつけをされており、まさにここに住んでいますよと言わんばかりのものだった。
「ごくり」とつばを飲み込んで、扉を開けた。
玄関らしきその景色のど真ん中には……
『排除、排除、排―――』
「「―――もういいわぼけぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」」
そんな事だろうと読んでいたのか、それとも期待していたのか。寸分の狂いもなく、ヴィル、タッシ―の二人は今まで苦労させられてきた相手の歓迎にツッコミを機体めがけてダイレクトアタック。
役目を全うすることなく沈黙する物体。
今日この日、勝ったのだ彼らは。26戦1勝25敗。勝利をかみしめた瞬間である。
お互いに何も言わず。ただ、喜びを沸騰させるかの如く、お互いの繋いだ手を強く、激しく揺らす。
――――残り9体の機体に囲まれているとは気づかずに……
「「アアアアアアアッァァァァァァーーーーーーー!!!!」」
潰れたカナブンのように倒れる二人。
ここまでの消耗で意識をつないでおく気力ももう残ってはいない。よって爆風と一緒に飛んでいった二人の意識。
そんなカナブンを見下ろす人影が一人。
(……ぐえっ。こ、ここは……?確か、扉を開けた時にまた変なやつがいて、それから……思い出せないぞ、自分が虫のようにくたばっていたことだけしか思い出せない。
はっ!タッシ―はどこだ?それに誰が助けて―――)
「―――……のくらいでいいならやってやる、あぁいつでもだ」
「やったー!ありがとうダーリン!」
どうしよう。
気絶から目覚めたら、親友が見知らぬ人と結婚していたんですが……これは帰るべきなのか、いやはやしかし……。
「貴様、俺をそんな風に呼ぶな、成人しているくせに見苦しいぞ」
タッシーの心を抉るような言葉に、パッと明るそうな女性はそのニコニコの笑顔を「すっ」と真顔にフォームチェンジ。
「タシウム・フォト君、それ以上何か言うようであれば許しません」
「年上の女性を扱うときには以後気を付けるように」
「は?なぜ俺がそんなこと―――」
<「ジョコンッ」「ガシャン」「ガキンッ」
「―――ふぅー……わかった」
「よろしい」
(これは奥さんというより恐妻に近いぞ)
この光景を遠目に見ていた僕はそんな感想を抱く。いやしかし、変な状況ではあるがわかったぞ。タッシ―が今喋っている女性。彼女こそが今回の目的であるテラメア・インベーションさんだ。あの、僕達を散々苦しめたあいつらを動かしているようだったし間違いない。
それなら、「よっこいせ」と寝ていたソファーから立ち上がる。ちょうどその時に、分が悪そうに視線を泳がしていたタッシ―と僕との目があう。
おっとどうやら僕が目覚めてうれしいようだ。あのツンデレめ。僕はまだ少しだけふらつく足を引きずって二人の所に向かった。
「―――あの、あれありがとうございました」
「やぁやぁ、起きたのね」
「それじゃ揃ったし、要件を聞こうとしよーじゃないか」
僕が起きたことで本題にすぐさま入れるのはうれしいことだが……一つ気になる。
「あの、なんで服を着てないんですか……,?」
「その、タオル巻いただけで……」
そう、彼女は服を着ておらず、ただタオルを体の重要部分を隠すように巻いているだけ。それにバスタオルも小さい。つまり、そこまで隠せていないかった。
「あぁこれかい?」
「いや、二か月くらい入ってないからねー、さすがに客人がいるのに臭いのはどうかと思って、ついさっき入ったばかりなんだよ」
「そ、そうなんですかー」
そうなんですかと言っておいて納得できないぞ。客が来たから風呂に入る、千歩譲ってまだ分かる。二か月入っていない?なぜだ。ついさっき入ったばかりだからほぼ裸?なぜだ。
いや分からない。
「……んー?あ、そうか」
「君も男の子だなー、そうかいそうかいお姉さんの体は少年には少々刺激が強いかー」
「あぁーあたしも罪な女だなー、それにダーリンもあたしがお風呂に入ってるところ覗きに来る変態さんだしなー」
「あーほんっとに罪だわ~」
テラメアさんが火照った体を手のひらで扇ぎながらとんでもないことを言う。それに慌てるのはタッシーだ。
「待て!誤解を生むような言い方をするな!」
「あれは目が覚めた時に誰もいないから辺りを見回っていただけで,,,」
「えーでも見られちゃったしなーあたしの は だ か」
「初めてなのになー責任取ってほしいなー」
「こ、断る!」
タッシ―君、テラメアさんの裸。後で詳しく教えてくれたまえ。いや冗談抜きでマジでその話詳しく……。
「ま、べっつに良いけど~」
「それより、話、あるんじゃない?そこ座ったら? まぁあたしが買ったもんじゃなくてここに元からある備品だけど」
「あ、あぁ」
僕達はテラメアさんのに言われるがままに客人用の椅子だろうか?に座らされる。お茶や茶菓子なんかも出してくれた。まだ裸のままだけど。
「それで、どうしてここに来たの?」
「結構めんどくさい罠、しかけといたんだけどなー、みーんな途中であきらめて帰ってくの」
「僕達、いや私達は生徒会のものです」
「ほぉ、あのちょっと前に出来たっていう……」
「いえ、あの……もう二年は、経っていますが」
彼女の言うちょっとに軽く驚きながら軽く指摘する。ここに籠り切りなことの弊害なのか、どうも時間間隔がくるっているらしかった。
「あれそんな昔?ここにずっといるから覚えてないねー」
「こほん、続けさせていただきます」
「我々が今回来た理由はテラメアさん、あなたの活動を控えていただきたくお願いしに来ました」
「ふんふん」
特に驚いた様子も怒るでもなく僕の言葉の続きを待つ彼女。第一印象はかなり個性的だったけれど、彼女の功績からも分かる通り、彼女は聡明で落ち着きのある人物なのだった。
「もちろん、あなたの功績や実績は存じています」
「しかし騒音や振動が、階下、さらには別校舎まで届いている現状です」
「こちらとしても他の生徒のため、あなただけのことを優先せるわけにはいかないのです」
「どうか、ご理解を」
(―――よし言えたぁぁぁ!!!
徹夜で覚えたラーのカンペ。昨日、どっちが言うのかでじゃんけんした時、負けたのは本当に焦った。しかしラーのおかげでなんとか乗り切れた!
さぁどう来る!?どんなことが来ても答えられるように全部で192通りの返しを覚えてきてるんだ!
相手が突然泣き出した時、あいてが突然ポケ〇ン並みに理不尽な理由で勝負を挑んで来た時、相手が突然禿げた時、相手が突然吐いた時。
そのパターンは多岐にわたる。もう最後の方は全然いらない気がするけど。
だがしかーし!ここまでやったのだ!死角はなし!
さぁどうする!?)
「うーわかった」
「やる時間とペースを考えるから、それでいい?」
「全部やめるのは……許してくんない?」
……へ?あれ、あっさりあきらめてくれた。
僕らもその条件で交渉しに来たのだ。異論はない。こういう時の展開として、必ずめんどくさいことが起こるのが世の常のはずなのだが。まぁ簡単に終わるのだからそれでいいか。
さてあっさり解決した時は……ん?どうするんだっけ。
……ま……ま、まずい。不測の事態に備えすぎて、こういう時の対処が抜け落ちている……。
そうだ!思い出した!相手が心よく快諾してくれた時は……時は……時……
『お礼を言って、適当な具合でその場を治めましょう』
おーまぃ……適当、適当?てきとう?テキトウ?テキトゥ?敵塔?鉄器等?
適当ってなんだ。適切にちょうど合うことだ。
……いや、無理だ。こういう対人経験がいる行為は無理だ。不可能。絶対。ダメ。
でも、タッシ―は横でふんぞり返っているだけだしなぁ。やだなぁ。でもなぁ。はぁー。
「わ、わかりま、ひた↑」
「そ、その↓条件で↑だだだだだいじょじょじょじょじょじょうぶぶぶぶぶぶdしゅ」
「そ↑れ↓で↑は↓、しし失礼ししししししししままままままままちゅ」
そんな壊れた強面を見て、目の前の女性は憐れむような、引くような、気持ち悪がるような。とっても悲しい目で僕を見る。
―――……いいさ、こうなることはわかってたさ。
もう、笑えよ。もう、慣れっこだよ……ぐすん……。
「……あ、あぁわかった。」
「それじゃあ!ここに来た人第一号ということで、今後ともよろしく!」
「それにダーリンは毎日来てもいいんだよ?」
「はんっ」と鼻をあざけるように鳴らし、視線を出口に向かわせるタッシ―。
その眼中にはテラメアさんのことなどなかった。
目頭を押さえ下を俯くヴィルと不機嫌そうなタッシ―は二人して第六技能室を後にする。
一人残ったテラメアは先ほどのことに思いを起こすのだった。
・・・
ちょっと展開が遅いのかな?
もうすこしサクサク進むべきかな




