第38話 「お姉様が望む自由とは」―――①
蒸しあっつい天気の中、唯一冷房の効いていない廊下を歩く。
ここは“3組校舎”最上階にある『第六技能室』に向かうのに通らなければならない通路。行き着く先はもちろん第六技能室。
どうしてこんな場所に向かっているかというと―――
「―――なぁタッシー、“彼女”に会えてうれしいでちゅか~」
「うるさい黙れ」
「ギャー!!痛いいたいぃぃぃぃ!!」
「ギーブ!!!ギブギブ!!!たすけて!!!」
「ふん」といってようやく放してくれるタッシ―。なにもそんなに怒らなくていいじゃないか。アイアンクローの跡がずきずきと痛む。
まぁということで、僕とタッシ―の二人はとある目的のためにタッシ―の彼女に会いに来ている。これを本人に言うと次は半殺しにされるから絶対に言わない。
「うーわ、すげ」
目的地に着いた僕達が最初に見たものは、第六技能室の扉。ではなく、幾重にも張られたバリケード、罠、監視カメラ。いったいこの景色を見て誰が学校の施設内だと思うのか。
「これ作動するよな」
「あぁするだろうな」
「だが関係ない」
ふゅー、かっこいい。タッシ―を盾もとい先頭にして奥まで進む。人が文字通り吹っ飛ぶような兵器も意に関さずといった具合で、堂々と進むタッシ―。
目の前の自動照準型電磁衝撃銃が消えたと思うと次のコマではスクラップだ。
原理としては自動照準型電磁衝撃銃を視界に入れた瞬間にタッシーは、能力を発動し記憶に保存。そして正常状態の電磁衝撃銃を粗大ごみに編集。結果ゴミができる、といったかんじだ。
その後も、地雷や落とし穴、果ては自立型ロボットなんかも出てきたが全てが効果を発揮する前にゴミへと変えられた。まじ便利。マインスイーパ―タッシ―ってことよ。
「―――やぁやぁ久しぶり、今日は何月の何日だい?」
部屋の奥まで行きつくと、ようやく姿を現したこの部屋の主。いや不法占拠人。
「あんたが引きこもってから三か月ってところだ」
ぼさぼさの髪と油で汚れた特注の防御メガネ、何か月着替えてないかもわからないぎっとんぎっとんの作業服。
おおよそこの情報では女性とは見られないものばかりな目の前の女性。
「あーもうそんなに経つんだ。」
「あ、ならお風呂入らなくちゃ臭いかな、覗かないでよ~」
「「誰が覗くか!!」」
マイペースに僕達が着くや否やお風呂に向かった女性。彼女こそが今回の目的。【テラメア・インベーション】
この第六技能室に引きこもる人類の宝だ。彼女はこの学園の学生なのだが……もう二十歳を超えている。つまりは二回卒業を逃している。
しかしこれは彼女の能力不足ではなく、ただ単に彼女がテストをバックレたり、そもそも授業を受けないことに起因する。
彼女はこの第六技能室を自分の部屋のように占領し、日夜自分の能力を使って様々なものを作り出しているのだ。実験に没頭するあまり第六技能室からはほとんど出てこないし、授業も受けない、だから卒業できないという現状である。
そして今回僕達が来た理由は、あまりに騒音がうるさくて階下で授業を受けている生徒が授業に集中できないと生徒会に訴えたためである。つまり注意しに来たのだ。
道中でタッシ―がぶっ壊しまくった罠やらは先生除けの防犯のつもりなんだろうか。
そしてガラガラっと戸を開けて、元は第六技能室にあるはずもないのに勝手に作られているバスルームから、バスタオルを体に巻いただけの女性が裸足の脚をぺちぺちと鳴らしてこちらに来た。
「やぁやぁ待たせたね」
「で、何の用だい?」
女性のあられもない姿。本当なら興奮もの。しかし……はぁ。まったく魅力を感じない。こういったら悪いがテラメアという女性は見てくれはいいのだ。たぶん胸の大きさは学園トップだし。だがしかし!
もうさっきの恥もへったくれもない汚い姿を見ていては少し引ける。それにこのようなことは一度や二度ではない。これでこの部屋に来るのは5回目。毎回同じ。
騒音を注意しにきたらいっつもこんな感じで作業着きて作業してる。
もう色々慣れた。
「服を着ろ」
タッシ―が目線をそらしながら恥ずかしそうに言った。
「やーんダーリンのエッチ―」
「そんなに見たいならヴィルがどっか行ったあ、と、に❤」
タッシ―が僕の隣で大きく長くため息をついている。
「だから来たくなかったんだ……」なんて言っているのが聞こえるから、そうとう参ってるのだろう。
「何度も言うが俺はお前の彼氏じゃN―――」
「恥ずかしがらなくていいのにー」
否定しようとしたタッシ―に覆いかぶさるように言葉を返すテラメア。
これにはさすがのタッシ―も心が折れたようだ。どうでもいいと割り切ってそっぽを向いてしまう。
どうしてテラメアとタッシ―がこのように意見がすれ違っているのかというと。
~突然ヒストリー④~生徒会備忘録
二年前
ある晴れた日のこと。
僕とタッシ―は前々から問題になっていた三組校舎の騒音問題をどうにかするべく、問題の発生源である第六技能室に向かっていた。
ラーが言うには、その部屋の住人はあの有名な人間国宝。【テラメア・インベーション】だという。彼女が人間国宝と言われる所以はその圧倒的な発明力にある。
弱冠13歳にして神学を解読し、今まで使いどころが限られていたが莫大な力を持ち、且つ能力に頼らないエネルギー“電気”なるものの活用法を広げた。
それによりゼノンテルアにおいての新たな可能性を広げたのだ。その偉人の居場所に今から行くなんて考えただけでもワクワクした。
タッシ―も表面上は業務だと割り切っているようだが、僕ら昔馴染みからすればうきうきしているのがまる分かりだ。
二人共が期待を胸に第六技能室の扉を開ける。
「失礼します!テラメア・インベーションさんはいらっしゃるでしょうか!本日は他生徒からの苦情がありましてここにきま、し……た」
「―――ッ!?」
ドアを開ければ、あらびっくり。目の前には三射式爆裂弾砲があるじゃあーりませんか。
これにはさすがのタッシ―もびっくり、対応が如実に遅れている。かくいう僕もびっくらこいた。腰を抜かしてへたり込む。
『排除、排除、排除』
人でないものが喋るだなんて聞いたことがないが、目の前のこいつは確かに今言葉を発した。
そして物騒なやつはそのゴテゴテの体からボールほどの物体をこちらに飛ばしてくる。さっきの言葉から察するに絶対良いものじゃない。
しかし、この時の僕にはこんなコンマ以下の秒数で動き出すことなど不可能。目で何かを飛ばしたのを見るのと、その弾道を目で追うのが精いっぱい。
タッシ―?そんなの僕以上の体力と集中を使う能力なんだ。無理に決まっている。
まぁ結果仲良く……
<ドガンっドガンっドガンっ!!!
「……ゴホッゴホッ……生きてるか、タッシ―」
黒い煙が辺り一帯に舞う中、手で顔の前を掃い仲間を探す。お、いたいた。
「……大丈夫だ」
吹っ飛んだ先で煙を吸いながら立ち上がるタッシ―。その顔には怒りが満開に咲き誇っている。これはやばい。会った瞬間殺すとか言いいそうなぐらいキレてる。
「それよりヴィル、怪我は」
「ん?……んーないと思う」
自分の体を見るが痛みもないし目立った外傷もない。校舎の内壁などを見るがそこも大して壊れたりなんかはない。
まぁ致死性の物騒な兵器を置いているなら厳重注意どころでは済まないが、この程度の爆音と煙のものならそこまで重い処分はできない。
変なところで気遣いやがって……それならこんなもん置くなよ。
「……ヴィル行くぞ」
「あぁ!物騒なもん置きやがって……注意してやろうぜ!」
「おい、元々注意するために来たんだぞ」
「……よし行くか」
「おい、お前!忘れてただろ!おい、ヴィル!待てって!」
新たな決意を胸に僕達は第六技能室の扉をくぐった。さっきのやつはタッシ―が壊したのでセーフ。
曲がり角や後ろからの奇襲に備える。僕は感覚を研ぎ澄まし、音、気配、揺れ、全てに気を使う。その時、僕の耳に微かな物音が――ー
「タッシ―!右だ!」
ガシャン!と現れたさっきのとまったく同じ物体は、こちらにこれまたさっきのと同じ筒のようなものを向けている。この筒から攻撃してくるのだ。つまり。
「ふんッ!」
「先に壊してしまえばどうということはない!」
「ヴィル、なにをドヤっている、壊したのは俺だ」
「……よし行くか」
「おい!」
先を進む僕らやることはさっきと変わらない。奇襲に備えて感覚を研ぎ澄ます。
―――ッ!?
よし来た!
「左だタッシ―!」
またしても「ガシャコン」と現れる物体。
しかし大丈夫。何故ならタッシー、が……
『ザンネン、排除、排除』
現れたのは周囲を取り囲む無数のやつら。一斉に放たれる爆弾。
・・・
「……タッシ―生きてるか」
「あぁ……生きてる」
タッシ―の顔がさらに歪んで、屈辱の怒りで唇が裂けそうだ。しかし、僕も怒っている。多くを語ることはない。二人とも無言でもう一度進み始めるだけだ。
周囲を警戒。囲まれるのも警戒。全てに備える。
<ガシャコンっ!
やつらは現れた。しかし目線にはいない、だが現れたのだ。どこに?―――空中に。
<ボゴンっバゴンっドガンっ!!
……アフロになった髪を元に戻す。次こそは……次こそは。
その後も。
空中に気を付ければ地面から。
全体を集中していたら窓の外から。
死角をなくしても、今度は地雷で。
全部に気を付けても、ワイヤートラップに阻まれあられもない姿でつるされたり。
。。。
今。
僕たち二人の意見は一致した。
「「絶対ぶちこ〇してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」」




