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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
社会が生んだ獣《ベスティア》
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第3話 「少女が発した殺気」

   

 薄暗い部屋に退屈そうな青年が、これまたつまらなさそうに映像受信機―――ここでは、喋りが流暢になる能力者や自分の見たものをそのまま映像として相手に伝える能力者、存在するものにある程度の編集を加える能力者など、様々な能力者によって成り立っている会社が発信する、ニュース、バラエティー等を受信する装置、ちなみに装置本体も能力の結晶である―――の電源を切る。


 青年といっても、とてもではないが好青年そうとは評価し難く、身なりを整えていないのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)で、髪はぼさぼさ、何日も体を洗っていないのか異臭が目に見えてしまうのではないか、と思われるほどに激臭を放っている。

 先ほどから青年と呼称してはいるが、一見ではほとんどの人がその出で立ちからして成人と認識するであろう、そんな青年だ。



 気に入った番組がやっていなかったのか、不機嫌な青年は振れ幅の大きい感情のままにリモコンを投げ出す。

 宙を放物線を描きながら落ちていくリモコンは壁に当たることはなく、そのまま転がりやがて―――止まった。

 彼の一人部屋は広かった。それはとても。

 就寝の時や趣味の時間、一人の時間ぐらいしか、自分の部屋にいない彼にとって十分な、いや過剰ともいえるほどに彼の部屋は広かった。

 物を乱雑に投げても壁にあたらない程度に、それはもう。


 しかしその部屋もお菓子の袋や乱雑に置かれた遊戯機(ゲーム)でいっそ窮屈であった。

 一般人たちがその光景、つまり高価なものをひどく乱暴に扱うさまを見れば発狂してしまうであろうほどに、それはもう汚かった。


 誰にとも知らない怒りを積もらせる青年は、下卑た笑顔をうかべながら一言。


「…デュフッ、そろそろ行こう、復讐へ………デュフっ、デュフフフゅ」


 

。。。



 壇上の会話の挨拶には「今日はお日柄も良く~~~」なんて言う、ありきたりな定型文が付いてきそうなほど、今日という日は清々しく天気良くそして1日を過ごし易い素晴らしい日だった。

 学園では新入生徒が集めれた議事堂室にて、教員たちの言ってしまえばくだらない長い長い

話がようやく終わり、生徒会長(ラーティン・アウラム)の順番が今まさに周ってきたところであった。


 能力式拡声器(マイク)を数回「こんこん」とたたき、ラーは口を開いた。


 まぁ口元は物理的(段ボール)に遮断されていて全く見えないからあくまで比喩表現なんだけど……。


「新しく入ってきたばかりの子も、この学園にも少しづつ慣れてきた学友たちも! 

 おはよう! 生徒会長のラーティン・アウラムだ」

「テストも終わり、そろそろクラス替えというこの時期に、また今回もこの機会をもらえてうれしいよ」


 顔は全く見えないが、多分朗らかな笑顔を浮かべているであろうラーは、元気よくそれでいてはっきりとした声で、数百人程度の生徒全員に呼び掛ける。


「この会は、さっきまでの先生方の事務的な話じゃなくて、言ってしまえば、ただの自己紹介だからそんなに気負わなくて大丈夫だよ」


 周りはほぼ全員知らない人で、辺りを見渡せばただ能力がBランク以上だからという理由だけで集められた、身分も生まれも違う様々な人間がいるこの議事堂室。

 このようなことに慣れている貴族のお坊ちゃんや大企業の令息、令嬢なんかは堂々たる態度で、生徒会長であり学園外でも『アウラム家』という絶対的権力を持つラーの話に耳を傾け「生徒会と何かしらの関係を持ってこい」とでも言われたのか、あわよくば生徒会とお近づきになろう、という卑しい考えをしている貴族家の人間もいる。


 しかし、そうではない一般階級の……言い換えて庶民の生徒たちには、メチャクチャ偉い

人たちに囲まれている状況は緊張と恐怖でしかない。

 とてもじゃないが壇上の人間の発言など集中して聞けるわけがない。


 だが、それでも今のラーの全員に等しく語り掛けるような言葉で少しだけ肩の力が抜けたようだ。 

 ラーの完成された人格はどんな人であっても悪い印象を与えない。

一瞬にして「あの人いい人そうだな」という風に思わせ安心させることができるということだ。



『――流石ラーだね!年下を労わる気持ちを忘れない!』

『――え? なに? 過剰にほめ過ぎだって? いいじゃないか、人の善意はありがたく受け取っておくものだよ』


 ん? いったい何を一人でぶつくさと言っているのか、だって?

 これは会話をしているのさ、会話の相手っていうのはそりゃもちろんラーだ。


 (ヴィル)は警備のお仕事で議事堂入り口前付近の警備中。

 ラーはもちろん壇上にいる。

 この長距離での、しかも声を全く出さずでの会話を可能にするのは、ラーの()()

俯瞰的戦争(プリフェクトアリオス)】によるもの。

 ラーによるとラーが持つ能力というのは人類全体を見ても稀というか偏屈というか使い勝手が悪いというか、そんなものらしい。

 なんでも、ラーが能力を発動すると一種の意識世界のような、本来は存在しえない空間がラーの視界に生成され、それは二次元とも三次元とも形容し難い奇怪な盤面を表しており、その盤面というのはラーが能力を発動した時の目的によって変わるらしい。


 簡単な話題にすれば、駄菓子屋で当たり付きのお菓子を買うときに、当たりだけを買うという希少な現象を()()()に起こそうとしたとき、ラーの視界に生成された盤面を見れば、このお菓子が当たり、このお菓子は外れ、などという風にまるで盤面に設置されたユニットを見るかのようなことができる。


 さらに、俯瞰者であるラーはそのユニット―――ここでは駒としよう、その駒に対してある程度の命令や規則、設定ができる。

 一見するとこの能力に長距離での意思疎通の力があるとは思えないだろうが、今回の会話を可能にする技というのはこの盤面の捉え方の応用だ。

 ある意味ラーの駒となっている僕達はラーからの命令という名の情報交換ができるのだ。

 

 神が与えた能力が彼に影響したのか、それとも彼の性格に能力が影響したのかは分からないが、だとしても彼の素質に合っているまさに“王”のような絶対的力を模範したような能力。

 世界を思考ゲームの盤面のように捉える能力。

 だからついた名前は【俯瞰的戦争(プリフェクトアリオス)

 


 …あらかじめに言っておくと、これはラーが自分で付けたものじゃ断じてない。

 僕達には能力が発現した時から能力に名前がある。


 そう、あれは確か…僕らがまだ12歳の誕生日を迎える前のこと………………



 ~突然ヒストリー①生徒会備忘録~



「―――なぁなぁ聞いてぇなぁ!能力の発動にはなんとか意識のどうたらに意味があるから名前付けた方がいいねんてー」


 それは変声期前の子供たちの何気ない、いつもの会話。

 今や学園でもその存在を知らぬものがいないほどに有名人な彼らがまだあどけなく、純粋無垢な幼き頃の記憶。


「オム…重要なとこほとんど覚えていないじゃないか!」

「いや! なのになんでそんなにドヤ顔できるんだよっ!?」


 話を始めたオムにとって情報の正確さは問題じゃあなかった。

 ただ一つ重要なことは、自分がなんか頭のいいことを言い始めた、ただそれだけなのである。

 言い換えれば、あれである。思春期のときにおっぱいとかの隠語を女子の前で言いのけるやつが勇者化したり、いっぱい下ネタを知っている奴が賢者扱いされる、そんな思春期の子ども達特有の自己優越感である。

 ツッコんだ11歳の僕も、今思い出している現在の僕も思うことは同じ、殴りたいこの顔面(ドヤ顔)


「オム、それじゃあみんなが解らないよ。あれでしょ? 能力への名付けは能力を発動するにあたって重要な深層意識の働きかけの補助になる。 っていう論文の話でしょ?」

 すかさず、この時から、いやいっそ初めて会った時から頭の良かったラーが補足してくれる。

 もう補足というか代弁だけどね。


「…え。あっ、うーん、そう、それ……! たぶん………」


「いや、聞いても分からんのかい!」


「まぁええねん、そんなこと、ほんでな! みんなもうすぐ、能力手に入るよな? だから俺が名付けしたるわ!」


「兄ちゃん,,,そんなに勝手に決めたら,,,みんなに悪いって,,,」


 今の野生生物のような容赦のない性格と違って、まだしおらしかったスペラが兄の服の袖を引いて止めようとする。

 

「能力の名づけ? ふんっ好きにするがいいさ、まぁ俺はそんなのどうでもいいんでね」

 

 これは嘘である。ご自慢のインテリ眼鏡がカッチャカッチャいうくらいメガネを、くいっとそれはもう見事に、くいっとしている。 それこそが証拠。

 大好きなドッグフードを前にした子犬のしっぽのように、それはたいへん、くいっとしている。

 1秒間に3くいっである。3くいっ、である!!!3くいっ、毎秒である!!!!!!

 

 テケテケもびっくりするほど、けたたましい音を立てながらメガネを「くいっ」とするタッシ―に若干引きながらもオムは続けた。


「別に減るもんじゃないし、いいよなみんな!えぇと今から一番早くに12歳になるのはラーか」

「能力に合った名前がいいよな,,,それでも,,,やっぱり,,,アレモ,,,コレモ、、、、、、」


 そんないつもの光景(オムの中二病)を「やれやれ」と、でもなんだか和ましくって、少しだけ苦笑しながらも楽しそうに眺めるヴィル達だった。


。。。



『――ヴィル、昔を懐かしむことも良いけど、今は警備の仕事をしていることも忘れないでね? 物騒な事件も起きているんだからね』


 壇上にて、生徒たちに話しかけているはずのラーから注意されてしまった。

 そうか繋がったままだったのか。



『――んーちょっとしんどくなってきたから、会話切るよ?またなにかあったら繋ぐから、仕事はしっかりしてね。


 能力の発動には体力を使う、その能力の体力消費は能力によって差が出るが、もちろん使いすぎると疲れるし、極度の疲労状態だと能力だって発動できやしない。場合によってはぶっ倒れるし最悪の場合生命の危機に陥ることもある。


 ラーは僕達全員とずっと連絡を取り続けた状態だったし、それと並行してスピーチまでもしっかりとやっているのだ。

 そりゃ疲れる。



―――それでもやっぱりすごいよなラーは。僕たちの書いた原稿をかいつまんで、主観的な感想や生徒会の活動を通しての出来事を、会話にすることで僕たちがどういった人間でどんな精神の持ち主かを、スピーチでできるだけ分かるようにして話している。

 やはり相手のことを知ると、その相手との距離が近くなったと思えるもん。


 それにそのスピーチを行いながら、僕達全員と連絡をつなぎ続けて、さらに警備状態の近況報告を聞いて命令を出す。その上で生徒たちへの喋り方などの気配りも忘れていない。

 もう僕には流石という言葉しか出てこない。

 

 


 よし!ラーを見習って僕もしっかり警備の仕事を続けr――――


『――ヴィル!緊急事態だ!君の妹の【()()】が敷地内を散策中に、明らかに怪しい人物が女子寮に入っていくのを見たらしいんだ。

 敵が複数犯でないことを確認できていない今、全員をそちらに向かわすことはできない、それにこの会も中途半端に終わらしたくはない、僕が現場に行かずに対処できるなら願ったりだ、危なそうだったらすぐに言ってくれ、中止にしてでも僕もすぐに向かう!…現場は頼んだ………』

 


『――まぁ任せろ、リーダー』


 安心しろ! 僕の、超絶プリティ&スーパーウルトラビューティフルリトルシスターはこの僕が守ってみせる!!!!





―――頼んだよヴィル。君のシスコンパワーに賭けるよ。




。。。



「あれ?おれの(おもちゃ)が一人もいないなぁぁぁ」


 女子寮の華やかな内装にこれっぽちも相応しくない人物が、恐ろしく穢れたことを口走りながらお目当ての(むすめ)を探す。

 それに立ち向かうのは―――1人の可憐で佳麗で華奢な美少女。


「人は…おもちゃ、なんかじゃ…絶対に、ない………」


 彼女の語勢は明らかに弱々しいものであったが、その声の気迫とは違って込められた感情というのは静かに轟轟(ごうごう)()ゆる大火のようであった。


 しかし、彼女の言葉に秘められた怒りの感情を受けた【()()】は、全く以て気にしたそぶりを見せず、ただニヤリ、と。

 

「ん? んんん~~~~?」

「かわいいぃぃこ、み♡つ♡け♡た♡」



 純白な少女と、穢れた下衆の性犯罪者との戦いが―――始まった。



 気色の悪いことをさらりと言ってのけた青年と対峙するは可憐な少女。

 青年にとって相手(少女)はただのカモでしかない。

 余裕をひけらかしどう嬲ってやろうかと舌なめずりをしている。

 それに対し少女は…


「先に…言って、おかないと…いけないから、忠告は、する。 …ここは、国が管理する、唯一の能力者用、学園です。 …本日、部外者、のかたの、立ち入りは…許可されて、いません。 即行の退場を、おねがい、します…」


 普段から、彼女―――【()()()()()()()()()()()()()()】という少女はそれほど会話を得意とする人物ではない。それこそ、ごく限られた特定の人物と少しの意思疎通程度にしか言葉を発しない。


 そんな彼女がここまでの長文を喋ったのだから、常人にとっては普通のことでも彼女は重労働の後のように息を切らしている。


 そんなことはつゆ知らず青年は、にたにたとした顔で彼女(シス)に話しかける。


「んんー?君はこの学園の何か偉い子なのかい?まぁいいか、ところで他の子たちはどこに行ったか知らないかい?少し探したんだが見当たらなくてね」


 会話の間にも青年はにたにた、にやにやとした顔で、シスの年齢のわりには発達途上でまだ成熟しきっていない体と、幼さと可愛らしさがミックスされた顔を、ジロジロと舐めまわすように見ている。

 シスは青年からの視線に全面的耐えがたいものを感じたが、あくまで自分の仕事を全う(まっと)しようとする。


「…ご退場を……」


 シスが言葉によって事を解決しようとしたその時。



 <ぶちっ!



 青年は理不尽に一気に感情を爆発させると能力を発動させた。


「おまえはよぉ!?なんなんだよぉ!!あぁ!!おれのよぉ!言うことをすんなり聞いておけばいいんだよぉ!」

「全然質問の答えになってねぇんだよぉ!このバカが!!あぁ!?何様だぁ!?さっきから下手にでてたらよぉ年上には敬語だろうが!」

「このメス豚が!!!!」


 青年は思ったことを次々に怒鳴り散らしていく、もちろんシスからの()()()()()

 女子寮の廊下に棒立ちする彼女から意識というものは見受けられず。 まるでそこに特別に存在している物体のように、ピクリとも動かず、まさに石のように固まっているのである。

 しかし、無機物の者とは思えないほどのその端正な顔立ちと、生物であるかのような肌の微かな火照り具合が、血を通わせる生物だとも訴えかけてくる。

 ロリを愛でる紳士諸君なら誰もがこの完璧な物体もしくは生物を、家に飾っておきたいと思うであろう、そんな静止したシスを前に、青年は口を汚くひん曲げ、彼の顔面と(さか)りきった野生動物との差が感じられないほどに本能に忠実な、いや知性が人並みにあるからこそより本能を極限なまで我儘に飼い太らせた様で、まさに醜悪だ。

 

 


「はぁ……はぁ、どうせその頭の中もバカが詰まってんだろぉ?なぁ、おれが犯してやったやつはみーんなバカなやつばっかりだ、その空っぽの何も考えてない頭をすぐに頭を俺で満たしてやるよぉ、なぁぁ…?」

「デュフフフ、顔はめちゃくちゃかわいいしこれはそそるなぁ!」


 青年は毎日の自堕落な生活によって磨き上げた肥満体を揺らしてシスにどんどんと近づいてくる。

 息遣いは気持ち悪いわ、待ちきれないという自制心の欠片も感じられない「そわそわ」とした手つきが気持ち悪いわ、臭いも、顔面も、学園での行いも、全てすべてが気持ち悪いこの男。

 この男―――青年の極悪の能力の使い方が、いっそ青年からの慈悲であるかのように、シスが止まっているのはむしろ幸運であった。

 常人のメンタルならば()せ返り、己の口に含んだものをすべて吐き出している頃だろう。

 それほどまでに醜悪(しゅうあく)


 限界まで体を近づけさせ、下衆な青年が可憐な少女の肩に手をおいた―――その瞬間。


<ズバンッ!!!


 彼女(シス)の体より大きな戦斧(せんぶ)が突如として、そして何処(どこ)からかも分からず振り下ろされた。

 ほんの一瞬の出来事ではあったが青年はその、怠慢(たいまん)な体からは想像もつかない速さでなんとか回避に成功しているのであった。


「なっなんだ!?どこからこ、こんなのが!」


 これだけで青年の顔はさっきまでの余裕に満ち溢れた傲慢(ごうまん)の汚い顔が崩れ、一気に臆病者の汚い顔へと変化する。

 しかし見事な回避に思えたのも束の間、青年の腕からツーっと赤い液体が流れ落ちる。

 それを見た青年の顔はみるみると青ざめていく。


「お、おれの腕がぁぁぁっ!あぁぁあぁ!!!!!」


 もちろん、切断されてなどいない。

 5(リーター)ほど少し切れただけである。

 それでも、青年はまさに小物に相応しい大げさな叫び声を上げ続ける。


「ち゛、ち゛くしょう!だれだ!おれにこんなことをしたのは!ぶっ殺してやる!出てこい!」


 青年は(いか)りながら護身用のナイフだろうか、を服のポケットから取り出した。

 見えぬ敵に牽制するように、丸まった腰つきで前に突き出し構え、振り回すようにしながら辺りを視認する。

 



(―――やばいっ、いたい!……お、おれの低ランクの能力じゃあ空間ごと時間を止めるなんてことは、できない……だからいつも、要所要所だけ時間を止めてやり過ごしてきたのに………

 あのメスガキの意識の時間は完全に止めた、動けるわけがない!?ならあいつの仲間が来たのか?逃げられねぇ!……でも、幸いにも集中は途切らせなかった。

 まだ意識は止めてある! そしてまだ体力もある! 能力は使える。

 大丈夫…大丈夫だ……逃げれる!)

 

 意を決した青年は冷や汗をまき散らしながら叫ぶ。


「どこのどいつだぁ!おれにこんなものを投げやがったやつはぁ!?仲間のガキの命はおれが預かっているんだぞ!この意味は分かるな!?さぁ出てこい!」

 

 青年は辺り一帯に聞こえるように怒鳴ったが、返ってくるのは自身の怒号の反響のみ。

 ここは15階建ての女子寮の3階通路、見晴らしが良いとは言えない。

 その事実は青年をもっともっと焦らせてゆく。


―――敵はどこだ?どうやってこんなデカいもの(戦斧)をピンポイントでおれに投げた?

 くそぅ!わからねぇ!



「出てこないんだな!?なら!まずは足だ!」

  

 先ほどから、意識を止められてなお、呆然と立ちつくすシスにナイフが振り下ろされる。


 刃渡りは短く、殺傷性もそこまで高そうには見えない貧弱そうな護身用ナイフであるが、流石にこんなものを生身の何の防御もしていない状態で受けたら大怪我は必至で、小柄なシスともなれば傷跡はシスの玉の肌の大部分を塗り替え、当たり所が悪ければ死にも直結しかねない。

 

―――だがしかし。

 

<カァンッ!



 またしても青年の行動は阻まれる。

 そして、今度は多大な犠牲をもってして。


「あ?あっあぁぁぁぁ!!?ゆ、指がァァ!!!」

 

 またもや突如として頭上から現れた()()

 その鉄球としっかりと握って持っていたナイフに挟まれる形となった指は当然のごとくひしゃげていた。

 骨を砕かれ、潰れた肉の間から逃げだす血をぼたぼたと垂れ流す青年はあまりの痛さに通路を転げまわる。

 

「……いたい?」


 痛覚からの異常警報に絶叫する青年。そしてこれまでの悪行の痛みを一身に受けるかのような痛烈な痛みに襲われる青年に声をかけたのは、か細い()()()()

 青年は涙ぐむ顔を声の主の方へと向ける。

 

「まさか!?お、おまえがやったのか!?ありえない!!どうやって!?」

「―――ッ!!? いてぇぇ!!!!!」


 そこに佇み、冷ややかな視線を送り続ける少女が一人。

 もちろん―――シスである。








「~それじゃあ生徒会メンバーが一人、【カリシス・ジェントジェミニス】! 彼女は普段からあまり饒舌ではないんだけれど、でも別に陰気なわけじゃないんだよ?本当はとても、はつらつとした、元気な女の子なんだよ。」

「うんうん、何人か頷いてくれている人がいるね。だから彼女とまだ接点がない人たち、どうか怖がらないでほしい、彼女は少し恥ずかしがり屋なんだ。最初は上手くなじめないかもしれない、でも声をかけ続ければきっと彼女のいい面がみれるはずさ!僕が保証しよう」 


―――うーん、シスは今頃大丈夫だろうか、ヴィルは間に合っているだろうか、はぁ、なんでこんな時に厄介ごとが…………

 でも、僕がやることはただ一つ、僕はみんなの()として最大限に動くだけだ。

 ……よし、把握した。


『――みんな、敵は一人だ。今すぐ女子寮に向かってくれ、先に行ったヴィルはまだついていない。

 合流次第ことに当たってくれ、それと……あんまりこんな強い言葉は使いたくはないんだけど………敵は雑魚だ! 

 体に影響が出るほど無理して能力は使わなくてもいい、シスだけで対処できるかもしれない、でも……誰に…どこに手を出したのか、敵に徹底的に分からせてきてくれ! 頼んだよ!』


「「「「「了解」」」」」


―――ん? あれ? おかしい、シスとの連絡が途切れた……?


『――前言撤回!みんな今すぐ向かってくれ!シスとの連絡が突然切れた!』


『――ラーもう着くぞ!何階だ?』


『――ヴィル!3階南通路だ!』


『――了解』



――…あとはヴィルが何とかしてくれるはず……

 あまり楽観視もしていられないけれど、そう悲観してもいられない。

 もちろん心配は尽きないけれど。

 今僕にできるのは信じること、僕の仕事をしっかりとこなすこと。これだけだ。

 よし、思考を変えよう。



「……そうそう、さっき僕はシスという女の子は良い子だとは言ったけれど、少し()()()()()()なところがあるから、気を付けた方がいい……」

「まぁそれも含めて彼女の魅力なんだけどね……よし!それじゃあ次のメンバー紹介といこうか」



・・・



 どうしようもない痛みにどうにかして耐えようとし、歯を食いしばりながら青年はその少女を凝視する。


―――ありえない!?どうして!?どうやって!?

 


 (もだ)え苦しむ彼の心中には、不可能への疑問、不条理への混乱。

 そんなものが乱れ舞っていた。


 確かに普通ならありえない、なぜなら能力の行使には個人差があるが、体力の消耗と集中力が必要不可欠なはずだからだ。

 もちろん、青年の卑劣な能力(思考の時間停止)は効果を十分に発揮していたから、()()できるはずがないのだ。


 それでも、やはり何事にも例外は存在するもんでここは生徒会の一員、ただ者ではなかった。

 【カリシス・ジェントジェミニス】有する能力は【空虚な宝箱(エクスティディム)】by中二病(オム)命名

 ランクは―――【()



 ……このゼノンテルアという世界には当たり前のように能力が存在し、それは人類が元から

持っているちっぽけな力とは違い、異常を日常に変えてしまうものであった。

 【S】ランクが生まれるまでは。


 

 改めて能力のランクについて話そう。

 能力は、自身が12歳の誕生日を迎えると封筒が贈られてきて、それを読めば異能力という

形で才能が開花する。

 封筒にはランクについて書かれたものが入っており F~A の六段階。

 一般的にはランクが上、Aに近づくほど能力が適用される範囲が大きくなる。

 逆に下になればなるほど範囲は下がるがその分過剰に使うことも無いので、高ランク能力者がたびたび問題視される所以(ゆえん)の能力の暴走も万が一ほどにも起こらない。


 そして、この六段階から逸脱したランクがある。それが先ほどから度々太枠で囲っている

―――【S】だ。

 Sランクの能力というのはどれもこれもが用途が意味不明なものだったり、それまたオーバーパワーなものが多い。

 今現在分かっている、歴史上神降臨からの五百年間でSランク保持者は20人にも満たないわけだが、確かに最高ランクであるAランクも保有率は低い、だがそう考えたとしてもこの割合はあまりに桁違(けたちが)い。

 それでこのSランクが世間で度々特別視される理由はそのおかしい割合からだけではない。 

 Sランクはただ能力の使用用途が意味不明で超珍しいということだけではないということだ。

 もう一つの理由、それは―――()()()()()()()()。 ということ。

 

 …今はその情報さえ知っていればいい。


。。。



 シスの能力【空虚な宝箱(エクスティディム)】は相手を驚かすことができる能力。

 (12歳の時に送られてきた封筒より一部抜粋)


 シスの能力の恐ろしいところは、能力の応用の幅の高さにある。

 体力消費は皆無に等しく、集中は()()()()、この能力に必要なものはただ一つ、【相手が驚くこと】それのみ。


 今回の場合で説明するなら、シスは青年に話しかける前に()()()()カウンター型のびっくり箱()を自分の周りに大量設定。

 設定の内容は生徒会メンバー以外の何かが自分に触れるないし、接近した場合に物理攻撃をもって迎撃、撃退というものだった。

 つまりはシスの意識があろうがなかろうが止められていようが関係ないのだ。



 しかしこの能力にも弱点はある、それは相手が驚かなかった場合である。

 例えば、もしさっきの場面で青年が戦斧に驚かなかった場合、戦斧は触れる前に消えてしまうのだ。

 能力の解明はまだまだだが、その中でもSランクは群を抜いて謎が多い、なのでシスの意味不明な能力をできるだけ具体的に説明するならば

 『実行する内容を相手が驚けば実現する幻』、ということになるだろう。


 しかし、このことを知る由もない青年は『集中を出来るはずがない少女』が、『集中の必要な能力』を行使した、と認識するだろう。

 一般常識から考えて困惑するしかない。


 もし仮に彼がここで「有り得ない」という現象を突き詰めて考えればシスの能力は脅威(きょうい)に値しない。 

 だが、自身とあまり大きさの変わらない凶器が迫ってくるのが一瞬でも見えれば、それに心をドキッとさせない人間なんてそうそういない。

 つまりここでの彼の勝ち目は……




―――くそっ、勝てっこない!ここは逃げるのが最優先だ!

  

 当然、彼に勝ち目などなく、そもそも青年に戦おうとする気概(きがい)はない。

 逃げることを最優先にした。


 青年は潰れた右手を左手で支えながら、目の前の怪物から逃げようと反対側へと走った。

 しかし、青年の行く手を阻むように長い通路の先に()()()()が見える。


―――ちくしょう!仲間が来やがった!まずはあいつの時間を止めて、それからあいつの後ろの階段から……



 一瞬。


 

 そう。 青年が見たはずの男ならさっきまで、20(ミーター)ほど先にいたはず、少なくとも青年の刹那ほど前の記憶では間違いなくいたのである。

 しかし現実はどうであろうか、20(ミーター)先にいたであろう男は、あろうことか青年を拘束し、女子寮の通路の堅い地面に取り押さえているではないか。

 青年の目には未だ、眼前で僅かな粉塵が舞っている。


「……ラー、犯人を捕まえた、シスも無事だ」



―――へ?



 (お、おれは捕まったのか……い、一瞬で?

 なんだこれ……動かねぇ

 しかもこいつなんだ、さっきから一人で喋りやがって……

 に、逃げないと……捕まるわけにはいかな……い!)


 青年を抑える男というのは大巨漢というわけでもないのに、青年のその肥え太った図体を寸分とも動させはしなかった。

 一向に自分を解放しようとはしない男に苛立った青年は、奥の手を使う。

 

「は、離せ! おれを誰だと思っている!?

「おれはな!!! かの有名な―――」


―――でも、その奥の手は()相手に利きはしない。


「……僕に言っているなら、一回しか言わないからよく聞けよ」

()()


 血の気が引いた。


 男は、声という比較的なんの身体的痛みも与えることのできない機関しか使ってはいない、にもかかわらず青年は()()という無数に存在する感情のたった一面に叩きつけられたような気がした。

 それは痛く、辛く、凍えるような苦しみだった。

 体をガチガチと揺らし、物理的に押さえつけられた状態から何とか顔をあげて男の顔を窺う。

 そこにいたのはまさに鬼。悪鬼羅刹も慈母象と思えるほどの顔がそこにはあった。



―――こ、ころされるぅ!!!??? 逃げるんだ!何としても!

 

 青年は意を決した。


 

。。。




「……それじゃあ次は、シスの兄を紹介しようか」

「彼は、その……言いづらいんだけど、どうにも初めて会う人に良い印象を与えないんだ、別に彼に問題があるわけじゃないんだけど、いや問題? まぁそのいわゆる顔が強面なんだ……あはは……」

「でも、安心してほしい!彼はとても優しくて情に厚いやつなんだ、よほどのことじゃないと怒ったりなんかしない、だから彼の一つの()()に慣れることができたなら、彼はとても頼れる友人へとなっているはずだ」

「まぁでも最初のうちは目が合うだけでもぎょっとしちゃうかもね」



『――……ラー犯人を捕まえた、シスも無事だ』

『――わかった、お疲れさま、もうすぐこっちも終わるからそれまで捕まえておいてくれるかい』

『――了か……



―――また通信が途切れた……?




「いてぇ!体中がいてぇ!」


 青年は男が自分から意識をそらした一瞬の隙を狙って能力を発動し、そのまま拘束を抜け出していた。



―――このままじゃまた仲間が来て捕まる……こうなったら!


 決意を固めた青年は階段ではなく通路からそのまま一階へと飛び降りたのだった。

 3階の高さから落ちたことによる奔る足への痛み、しかしそんなことはもう青年にとってどうでもよかった。今大事なのは逃げること、ただそれのみ。

 ただ一つだけのこの島から脱出できる橋へとひた走る。


。。。



「…おにいちゃん、起きて」


 ()()()()()()思考が動き出す。


「……ん?ここは……?はっ……!?シスゥ!心配したんだぞぉ、もう一生離さないィ!」


 抱きつこうとする(強面)、日常茶飯事とばかりに華麗に避ける(ロり)

 傍から見ればもう犯罪な絵面。

 


「逃げられたか……」


「うん、飛び降りてった」


「うへっまじかよ、まぁどうせみんながいるし、ゆっくり行くか」


「……ん」



(―――僕は、どうしてもあの犯人が許せない。

 どんな理由があろうと女の子が気付かないうちに襲うなんて、やっちゃいけない。

 それと……僕なんか教室でもこの顔のせいで避けられ続けて友達も少ないし、それに人生で数えられるほどしか、女の子と話したことだってないんだぞ!?

 ゆ、許せない……!)

 

 ヴィルは犯人への個人的な感情を大事にして()()()()と犯人を追う。

 まぁ常人にはヴィルが消えるように移動して見えるだろうが。


 彼、【ヴィルトス・ジェントジェミニス】の能力はいたって簡単、効率化。

 オムから付けられた名は、【隔絶された勇気(ラナム)】これで名乗ったことは一度もないし、名乗る機会も一度もないだろうが………。


 体のいたるところを効率化すれば、一秒間に落ちる雨の雫の数を数えることも、立体物があるところなら50(ミーター)を一秒台で走り抜けることも、万人が息を吸うようにできる。

 それが彼の能力。

 そして今ヴィルは、犯人の痕跡を超人的な感覚器官を使って、目もくらむような速さで追跡している。

 このくらいでは、体力消費で体に負担はかからない。

 なんてったって、彼も【S】ランク、超常的で意味不明な能力と言われるランクなのだ。

 そしてシスと同じで体力消費がとても少ないので長時間の連続使用が可能だ、集中はいるけれども。


 

 青年の時間停止の制限時間が切れたのか、それとも効果が適用されるには一定の距離がいるのかは分からないが、ヴィルは時を止められてからおよそ1分後に目を覚ました。

 そして、ヴィルは青年がその1分の間に必死になって稼いだ二人の間の距離を、10秒で無かったことにする。

 能力が広く浸透しているこの社会でも、誰もが目を見張るような異次元的動きで、障害物あえてヴィルの感覚から言えば()()を、蹴り、飛び越え、掴んで進む。

 道なりの移動などまさに非効率、直線的な移動こそすべてと言わんばかりのありえなさだ。

 人間の…いや生物であるが故の若干の非効率さを能力で補い、人間科学の学者が唱える(からだ)の構造上の限界など、鼻で嘲笑(あざわら)うかの如く空を跳び三次元的な全方向移動を使って青年を追い詰める。



「鬼ごっこは終わりだぞーっと」

「…あ、いや、この状況を鬼ごっこと言うのはそれはもう自分で自身を鬼だと認めるようなものでは?」

「うーん、はぁ……追いかけっこも終わりだぞーっと」


 ヴィルは、彼が彼なりに想い描くクール像を体現すべく、一人ツッコミをかました後にもう一度クールなセリフを口にした。

 彼の想像する今の自分は、スーツを着た仕事のできるクールな始末屋が決め台詞をさらりと言うシーン。

 …まぁ実際に客観視してみれば、世紀末スタイルのモヒカンヘアーが良く似合う男が、ギラギラのナイフを舐めながら美しい女性を追いかけるシーン、こんなものだろう。

 

 能力を発動させる間もなく侵入者の意識を刈り取るため、ヴィルは標的を定め、そこにめがけて建物の壁を力のままに蹴った。

 残像が生まれるほどのスピードで迫り、ヴィルの腕が青年に当たるまで残り1秒を切ろうとした時。



―――ん? あれは……()()()か。


 ()()()()を視認したヴィルは先ほどまでの攻撃の向きのエネルギーをなんと空中で相殺。

 建物の壁から生えていた手に届く看板を掴み勢いを全て殺したのだった。


 すたっ、と高度十数(ミーター)から降りてきたとは思えないほど軽やかな着地の音を鳴らして今までの行為が軽いジョギングのような、これまた軽い表情のヴィル。

 鈍重で足に溜まりやすい落下の衝撃を、効率化してするりと逃がしたからこそできる芸当。


 手についた(ほこり)を掃い、自分より少しばかり早かったチェビの方を見た。

 

 彼女の目の前にいる犯人は見るからに満身創痍(まんしんそうい)

 だが、それでも、逃げようと必死だ。

 まぁチェビが逃がすわけがないのだが。


 すると、


 あ、犯人が転んだ、何もないところで。

 また転んだ、起き上がっては転ぶ。

 もう一度言おう、何もないところで犯人は転んだ。

 偶然だろうか、否、必然。


 【()()()()()()()()()()】、みんなにはチェビと呼ばれている美女。

 その可愛らしい愛称とは裏腹に、彼女の雰囲気は堅物、真面目、お嬢様、というのが妥当。

 美少女であることに変わりはないのだが、少女というより美女。

 先日はタッシ―という暴君に散々にやられた学園の氷の美姫だ。


 

「あら、ヴィル遅かったわね、こいつに出し抜かれたんですって?そういうところが甘いのよ」


「……おっしゃる通りです」


 現場にたどり着くと開口一番に心を刺される。

 

「…んー」

 

 ヴィルは思案した。


 チェビは普段から、他人に対して必要以上の意識を持たない主義。

 そのチェビが、なんだか感情的になっているように僕には見えたからだ。

 なのでその感覚をそのまま言葉にして聞いてみる。


「…なぁそいつのこと知ってたりするのか?」

 

「どうしてそう思うのかしら」


「んー勘」


「そう。えぇ、知っているわよ、貴族階級の集まりで見たことがあるわ」


 まるで何事でもないようにさらっと重要なことを言うチェビ。


「えっ、そいつ貴族なのか!?」


「私の記憶に間違いがなければ、そのはずよ」

 

 ヴィルとチェビが話している間、犯人はこけ続けても何度も立ち上がり、懸命に逃げようとしていた。

 その姿をチェビは冷徹なまなざしで見る。

 股間が「ヒエッ」となるような視線。


「……時間を止められるなら、止める隙を与えないよう、息も整える時間を与えず、こうしておけばいのよ」 

 

 チェビの能力は【有限の証明論(イ・ヌーラ)

 数字を視認し調整することができる。 

 まぁ身近なところで言えば、今ずっこけている犯人が次また転ぶ確率がチェビには見えている。

 十分の一なら一に、10%なら100%へ、数字を調整、変更、修正、できる。

 そうすることで、()()()()へと、全ての事象が()()へと成る。

 以前、ヴィルが本人から直接聞いたことだが、彼女が本気を出せば目の前に隕石を落とすという、ほぼゼロに近い現象を意図的に起こすことも、可能だそうだ。

 がしかし、その分体力消費も激しく一日ほど寝込むと思う、だそう。


 チェビの能力はヴィルトスたち兄妹に比べて体力消費が激しい。

 それでも、災害を人為的に起こすことの代償が、寝込むだけで済むのだから、その恐ろしさも十分伝わるだろう。

 もちろん、チェビのランクは【S】だ。

 そろそろ一回一回説明するのもめんどくさいので、先に言っておくと、ヴィルトス達生徒会メンバーは9()()()()が【S】ランク保持者である。

 

 するとヴィルとチェビが話している間を割るように、急に二次元的亀裂ができる。


「うわっ!……はぁ」


 その二次元的亀裂から「ぬっ」と、おどろおどろしい雰囲気を(まと)わせて現れたのはシス(マイエンジェル)だ。


「あの、シスさん?その移動方法は心臓に悪いからヤメテイタダケマセンカ……?」


「おにいちゃんの顔の方が、心臓に、悪い」

「それに、おにいちゃんがいないと、能力、発動しない……」


「はうっ!!」


―――天使に怖いと言われた……もう生きていけない……


 シスの瞬間移動。

 この原理は表面的な説明だけなら簡単である。

 シスの能力は相手を驚かせることができる能力であるから、()()()()で遠く離れた相手を驚かそうと思えば、結果的に瞬間移動ができる。

 能力の本質を上手く使った裏技だ。

 もちろん、相手が驚かなければ発動しないから、強面だけど案外ビビりな兄がシスにとっては丁度いい存在というわけだ。


「あら、シス、連絡が一時つかなかったみたいだったけど、大丈夫なの?」


「……ん、問題、なし」


 きょろきょろと自分の体を見たシスは安心とばかりに、ほんの小さな笑みを浮かべて返事をする。

―――メーデーメーデー、チェビさーん、ここにマイエンジェル(いのち)に、息の根を止められた重症患者が一名いまーす。 

 至急救助願いまーす。


 そんな僕には目も向けず、犯人へと興味の対象を向ける、二人。


―――デスヨネ~


 そこに、しびれを切らした犯人は大声をあげた。


「くそぉぉぉ」!!!おれを舐めやがって!そうやって見下してるんだろう!おれのことを!お前らはいつもそうだ!おれを……おれを無能無能と馬鹿にしやがって!!!」

「あぁっ!!!くそッ!!立てやしねぇ!……そうだおまえだ!テビダーク!おまえもいつかはやってやろうと思ってたんだ!お高くとまりやがって!」

「他にもみんなおれを馬鹿にするやつはやってやるんだ!だから!こんなところで捕まるわけにはいかないんだぁ!!」

 

―――い、意味が解らない……

 言っていることに関連性がないし、やってやるっていう復讐も強姦だろ……


 奴の言葉を聞いてえぇーとチェビさんは……


「黙りなさい、名も知らないただの下種」

「例え、この場を切り抜けてもあなたの犯行は全て筒抜け、もうあなたの居場所は豚箱だけよ」

「あきらめなさい」


 冷淡に事実を述べた。

 そこに犯人に対しての何の情も持ち合わせてはおらず。彼という全てを見放すかのような冷たい声だった。

 

 犯人はみるみる肩を怒らせ、感情を募らせていく。


「う、うるさいぃぃぃ!!!!!だまれぇえええ!!!!」

 

 その時、僕の第六感的感覚に何かが引っかかかる。

 ま、まず………



―――半径10メートル。

 その全ての時間が()()()()


「で、できた……? お、おれは出来損ないなんかじゃないぞ!!」

 

 青年は走り出そうとする。

 橋がある前門まで、あと少しのところまでは来ていた。


 逃げられる!


―――父様に頼めばこんなこといくらでももみ消してもらえる。

 おれの真の能力が覚醒したと言えば、喜んでくれるかな、褒めてくれる!

 でゅふふ、帰るんだ、はやk……




<ぴゅ~ん


 <ドコっ!


 どこからともなく飛んできた、鈍器らしきものが青年の頭頂部を直撃。

 結果、青年気絶。

 停止から覚めたメンバーと、後から合流したラー含め残りの六人で取り押さえられ御用となった。








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