第34話 終章 「恋愛へのプロセス」―――⑤
そして舞台は D,C。
『――オペレーション、フォームα、どうぞ』
『――オペレーション、チェンジザ、β、どうぞ』
『――オペレー……』
『――うっさい!兄ちゃん!黙れ!』
『――ラジャー……』
ついさっき完膚なきまでに叩きのめしたはずなのに、オムは何事もなかったかのように平常運転だ。やつの無尽蔵の頑丈さはどうなっているんだろうか。
普通の人間なら二、三日は痛みでまともに眠ることもできず。頭の体積が二倍には膨らむはずなんだが……もう治ってるし。
―――はっ!?これが伝説のコマまたぎ完治法というものか!?どんな怪我を負おうと次のシーンでは全くの無傷というという。やれやれ、恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。
『――はいはい、それじゃあおふざけもそこまでにして、各員の行動を伝えるよ。
スペラとオムは一か所に集中している土機械を四方に散らしてくれ。場所は邪魔じゃなければどこだっていいから。
次に、タッシ―、アシミ―、チェビは被害の確認。ここだけに問題が起きているとも限らないからね。少しだけ僕の能力で見てみたけど変わった感じは見受けられなかった。でも、細かいところまで確認する暇はなかったから、その確認をしてきてくれ。
サブはヴィルと一緒にいてくれ、良いことが起きるようにね。
シスは……そうだね、少し大変だけど学園全体を見回ってきてくれ。
そして最後に、ヴィル。お姫様を助けるんだよ。ね?』
『――了解』
ラーの説明が終わった後、スペラが僕に聞いてきた。
「……なぁなぁヴィル、さっき思っててんけど。土機械が壊れてもタッシ―が直せばええんとちゃうの?それでババ―っとぶっ飛ばしてリポレムちゃん助けるとかさ」
「あとはタッシ―が記憶したりとか」
スペラにしては知的で納得のいく解決策を言ってきた。しかし、その夢のような簡単な方法がまさに机上の空論であることは、ラーでなく僕にだって分かった。
「そうはいかないんだよ」
「え?」
「タッシ―の能力はめちゃくちゃ便利に見えて、それなりに繊細で制約の多い能力なのは知っているだろ?一番早い話、体力消費がみんなと比べて途轍もないんだ」
「それに直すって言っても結構難しい作業だからね、学園のはその中でも特に複製や盗難に気を付けて作られているからね、タッシーでも苦労するんじゃない?」
「それだったら、最初から手分けして、みんながみんな傷つかない安全な解決策を選ぶ方が一番無難なんだよ」
「あぁ―……ナルホド」
「タブン、ワカッタ」
頭から湯気を出すスペラは、これ以上の情報は受け付けないと理解の伴っていない返事をする。
「深く考えなくていい、ただラーが言った仕事をこなせばいいだけさ」
「うん!それはわかった!」
早々に現場へと舞い戻る僕。状況は数十秒前と変わらない。
大量の店員土機械に群がられ身動きが取れないリポレムさん。ただ一つの彼女を彼女だと裏付ける隙間からはみ出す彼女の手。
さっきより若干腕の角度が落ちてきている。疲れてきているのかもしれない。
しかし、何より心配だった危害は加えられてはなさそうなので一安心。
そしてすぐに作戦が始まった。
ぽつぽつと僕の目の前から土機械たちが居なくなってゆく。
スペラが適切な場所に送り、オムが適当な場所に集める。
サブは僕の近くで「ぼー」と立っている。まぁこれは仕方がない事で、サブの能力は自発的には発動しないのだからどうもしようがない。
こうやって一緒にいてくれれば何かいいことが起きるかもしれないのだ。サブはそれだけで皆の役に立つんだ。それでいい。
僕はオムたちが適当に数を減らしてくれるまで待つ。
それとなにか問題が起きた時にすぐに駆け付けられるように準備はしている。
時々オムが【万物交番】をミスって自分のところに引き寄せてしまい、大量の質量で押しつぶされているが、まぁこれは助ける必要はないだろう。
「死んじゃうぅぅぅ!!!助けてぇぇぇぇ!!!」と聞こえるがまぁ大丈夫だろう。
不可思議ではあるが、いまいち地味な光景に目を向けながら、今か今かとタイミングを見計らう。流石に少なくなってしまえば僕でも安全に、そして適切に、救助が可能だ。
しかし、はぁ……こういう時に空を飛べたらなとつくづく思う。
それを僕ができたならば単独でこの救助も可能だっただろう。
どれだけ、空気抵抗を効率化してもどれだけ高く飛ぼうとも、僕は飛べたりなんかしない。絶対にいつかは自然に落下してしまう。僕は世界の規律を破ることができない。
人間が自身の肉体で飛ぶことなど、出来はしないのだ。
僕らの中で飛行が可能なのは、シス、タッシ―、スぺラ、後たぶんサブ。
いつもの派手派手組だ。
飛べる組が救助を行ってくれたなら解決もすぐだったんだけど、この状況―――というかこの場所がなんせ悪い。シスは能力の応用で飛べるけれど、正確な飛行はできないから救助には向いていない。そういう風に他のメンバーも何かしらの条件で不都合があるため、この配役なのだろう。まぁ強いて言うなればアシミーの能力ならば出来ないこともないだろうけれど、逆に後始末がめんどくさそうなので仕方がない。
そして時間は来た。
あらかたの土機械が居なくなったのを見計らい、僕は床を蹴る。
超人的な走り幅跳び。跳躍距離は約35m。
急速に加速し一気に空へと開放する。そして大量の土機械たちの上を飛び抜いた。目前にいた土機械は刹那の後に視界から消え失せ、集合体の景色はあまりの速さに一色へと統合される。
その瞬間、遠くの方でサブがこちらに呼び掛けてくる。
「ヴィルトスくーん!!カウントが減ったよー!」
どうやらサブの能力が発動したようだ。効率化した思考で、目が伝えてきた情報を指をさして1つづつ点検するかのように精査して確認するが、目に見える変化はない。
しかし、もし何かが見えたところでもう止まれはしない。このまま作戦を続行するのみ。
僕はどんどんと土機械たちの壁を飛び越えていき、とうとう到達した。囲むように形成された土機械たちの壁。その中央に。
そしてリポレムさんが必死に伸ばし続けた手を―――握る。
僕は勢いを殺さず、蹴った時の推進力をそのままに、リポレムさんを引っ張り腕に抱いて土機械たちの壁を渡り切った。
これぞ完璧。イッツスマート。
僕の腕には息を切らすように必死に呼吸をするリポレムさん。大勢に囲まれていたからきっと息苦しかったんだろう。
彼女はメガネをかけておらず、きゅるんとした目が僕の方を見つめている。
(―――うっへー、メガネかけててかわいい子が、メガネを外すとこうも雰囲気が変わるのか。
でもどちらの姿もかわいくて最高っす。
……っす、とか語尾につけはじめちゃったよ、もうクールとか最初の設定、付け忘れるとかいうレベルを超えて忘れ去られてるよ……)
彼女の潤った目が僕の瞳を捕まえて離さない。僕は彼女に視線を奪われていた。
まるで映画のワンシーン。さながらそれは大勢の悪漢から姫君を救う勇者のように。お互いを見つめ合い離さない。
そうか!これか、これなのか!?サブの能力は。
もしかすると、僕が助けたことによってリポレムさんが僕に惚れたりして……いや、というのは僕の思い込みで、何やら空気がおかしいぞ。
さっきから僕の手がプルプルと震えている。僕の震えじゃない、リポレムさんだ。
どうしたんだろうか、救出した時に怪我でもしたんだろうか。どこか痛いのかな?
彼女の潤った視線から目を離して少し全体を観察してみた。
顔、メガネがない、かわいい。
首、ほっそりとしていて、顔をうずくめたい。
体、服を中途半波に着ていない、彼女のほっそりともふくよかとも言えない良い感じのスタイルが見え隠れしている、その中途半端なの邪魔!どうせなら全部見せろ!
……え……え……………あ。かわいい顔に見惚れてて気づかなかった。
リポレムさん。ほとんど服着てないわ。そりゃ恥ずかしくて震えるわ。
さっきから服を纏っていない露出した柔肌を抱きしめていたにもかかわらず、ようやくそれに気がづいた瞬間、僕のあごには彼女の拳が突き上げられていた。
(―――ありがとう、サブ。君は本当に良い奴だ、あらためて感謝しよう。僕は今最高に幸せだ。そして……リポレムさん、ごちそうさまでした)
僕の視界はいともたやすく暗転した。
・・・
「―――えぇぇ!?能力の暴走!?」
すっかり人も帰ったストリートに轟いたのはスペラの声。生徒会とリポレムさんが集合した服屋に反響して、スペラの下から大きい声がより響いた。
「ごめんなさい、そ、その……」
事態も収拾し、全員が集まって、冷静さを取り戻してようやく落ち着いてきたリポレムさんはこう語った。
僕が彼女と別れた直後に、リポレムさんは一人でも服を見てみようと入り口から近い店を見始めたそうな。
その時、なんだか一人で服屋を訪れるという慣れないことをして緊張してしまったリポレムさんは、無意識に能力を使ってしまったそうな。
彼女の能力は【相手に好印象を与えやすい】という能力なので、それによって店員を自分と話せやすくさせて緊張をほぐそうとでもしたんだろう。まぁ無意識のことなので分からないが。
しかしそれによって誤作動が生じる。リポレムさんに好印象をもった店員土機械は直結した回路を通じて仲間に『この人に何としてでもおしゃれをしてもらおう』と、その意志を共有させた。
すると連鎖的に、共有の共有の共有の……となってしまい、結果。あのような店員土機械の集団が完成してしまったそうだ。
共有の連鎖がさらに意志の増長効果を手伝ってしまったため、土機械が言うことの聞かない状態、いわば暴走状態になってしまったのかもしれない。
幸いにも、土機械を作った先生を呼んでくることができたので、何とか沈静化はできた。
明日にはもういつも通りに動かせるそうだ。
あの土機械の集団の真ん中では鬼のように着替えさせられ、いろんな土機械に服を渡されたのだという。
僕が助けたタイミングはちょうど着替えている最中だったそうだ。恥ずかしがりながら教えてくれた。
そんなこんなで、彼女の全身隅々まで観察してしまった僕は事故とはいえ少し距離を置かれることとなった。しかし、彼女も助けられたことには感謝しているのか、プラスマイナスで丁度ゼロといったところだろう。
僕たちの距離感に発展はなさそう。
しかし、まぁなんとも、五話にも及ぶ長編だったにもかかわらず終わり方は何ともあっさりだ。でも、このくらいあっさりな方が良いのかもしれない。
誰かが悲しんだり苦しんだり、そっちの方が辛いから。
今回の事件の被害者はリポレムさんただ一人。それに特に怪我があるわけでもないし、メガネもあった。
店員土機械も一つも壊れることはなかったし、これにて一件落着!
あの後、オムから、【暴力に対する慰謝料請求】が来たが、オムごと蹴っ飛ばしてやった。
あの後、テラス席のある店から、【窓ガラスの修理代の請求】が来た。
学園長先生にラーと一緒に謝りに行った。




