第33話 「恋愛へのプロセス」―――④
目的を達成した僕は、タッシ―に中から出してもらう。
あいつのことならご心配なく。
常人の五、六倍程度の威力を込めた拳を数十発お見舞いしてやった。腫れあがった口と頬で今日一日はまともにしゃべれまい。いや、今日一日どころか一週間はまともに口もきけないだろう。それくらいの気持ちでやった。
僕の野望を邪魔した罪はそれほどまでに重いのだ。
願わくばこの事に懲りて少しはまともになってくれたらこちらとしてもありがたい。だがしかし、こんなことでオムが変わるとは微塵とも想像できないこの現実。たかだか数十発殴るだけであの性質が変わっているなら何も苦労はしていない。とっくに一万回殴っている。
まぁそれほどの男というのがオムである。今期待するだけ無駄だろう、というかそうに違いない。
そして……絶対に解決しないことに頭を使うのもまさに無駄というものか。
オムの事は放っておいて、僕は現在進行形で待たせているリポレムさんの所へと急いで向かう。
……しかしなんとも、こういう時の僕の能力は便利だなと思う。
常日頃から、他のメンバーたちの能力の派手さや便利さには嫉妬心を積もらせている僕だが、まぁそれも当然の妬みというものだろう。
僕の能力は弁解不可能で地味だし、本質が強化ではないから融通もあまり効かないので、派手で応用力のあるみんなの能力は羨ましいというほかない。
人探しだってラーやチェビ、アシミ―なんかの方が僕より早くできる。
ん?ならなぜ、僕が自分の能力を便利だと思ったかって?
なぁに、そんなに難しい話じゃない、簡単な話さ。
僕は今、自分の頬に付いたリポレムさんの匂いを嗅いで、その匂いが続いてる方向に歩いているわけだけど。さっきぶっ叩かれたときに付いたやつね。それがまぁ何とも素晴らしい物なんですわ。
え、変態だって?
ちみちみ、何もわかっていない。僕はただ、同行するといったのに先に行かせてしまったリポレムさんを効率的に追っているだけなんだ。
まぁ、確かに犬並みに敏感になった僕の効率的な鼻は、強化ではなくリポレムさんの匂いを嗅ぐというそれそのことにだけ効率化してあるから、その他一切の不純物を感じ取ることはなく、彼女の匂いだけを頼りに一直線に合流を図っているわけだ。
その過程で、普通の鼻では感じ取ることのできない繊細な香りを嗅ぐことができるのだが……。
ふぅ、便利じゃね?
いや何がとは流石に具体的には言わないけど……
仮に少しだけ言うとしたなら、においフェチには据え膳のものであろうということは言えるだろうか。
そんなこんなで、リポレムさんの残り香をまるで目視しているかのように追う。程よい混雑も効率的にいなして進む。
それにしても僕は普段こんなところに来ないから、これはこれで新鮮な感じだ。
もちろん生徒会の仕事の関係で来ることはあったし、この前の山羊の狂脚侵攻の後片付けの時だってここに来た。でも、業務で来るのと今回ではまったく感じ方が違った。
ここは一般に娯楽地区と呼ばれる、島の五分の一程の面積に作られた云わば商業地帯。
僕達が学園生活を営む孤島は、学園区画と、居住区画、それと娯楽地区、この三つで大まかに分けることができる。もちろん例外の場所もある、この前の避難口なんかがそうだ。あれはどこにも属していない場所だ。
学園区画が島全体の半分近くを占め、その後に残った面積に寮と僕が今いる施設なんかが建っている、という配置だ。
島全体がとても広いから、当然としてこの娯楽地区もかなり広い。僕が今いるのはストリート型の施設、と言えば想像し易いのだろうか。
人が横に数人並べるほどの道、その脇に所狭しと小型の商店が並ぶようにして一本の道を形成してあるのだ。
ここは、その類の中の一つ。服などの衣類を扱う店が密集した通りだ。
ここを利用するのは、もっぱら女子生徒だと生徒会の会議で耳にしたような気がする。というか外部の人間がいないこの島で、ここを利用するのは限られてくるわけだが。
店の品などは外部のちゃんとしたブランドの衣服店から直接取り寄せてそれを売っている。
店員などの店のシステムは、先生たちの協力のもとに作成した土機械や、お金が欲しい平民の生徒がバイトしたり、趣味でバイトをする貴族の坊ちゃんお嬢ちゃんもいる。
そも、ここは生徒会が設立したあくまでも娯楽施設なわけだから、商業地帯というと怪しい面もある。
お金云々より快楽優先みたいな。それを裏付けるかのようにここは毎月目を覆い隠したくなるかのような赤字が出ている。娯楽地区のほぼ全ての出費を担っているラーが言うには、楽しめればそれでいい、だそうだ。
学園内の生徒や先生しか利用することがないから、ほどほどの混雑で済んでいるが、これだけ色々なものが詰まってさらには値段も破格であるとするなら、場所が学園外にあれば、連日洪水のように人が押し寄せてくるのではないだろうか。
こんな数年前にはなかった場所があるのも、ひとえにラーのおかげだ。
娯楽のない退屈な生徒の声を聴いてここまでやってるんだからすごいよ。
ちなみに最近の学園内での流行りは学校帰りに寮に帰らず、そのままの制服姿でここにきて遊んだり服を買ったりすることらしい。
僕が古臭いのかもしれないけど、いまいち理解できてはいない。
友達とせっかく遊ぶなら制服なんかじゃなくてラフな格好の方が絶対いいに決まっているのに。
確かに学園の制服も良家の人間が着るんだからとデザイン性機能性において非常に優れてはいるけど、私服の方がバリエーションが出て、普段の制服姿とのギャップが相まって絶対可愛かったりカッコよかったりすると思うんだけどなぁ。
僕の頭が前時代的なのかしら?
さぁそんな学園の新たな説明場面を軽ーく挟んでおいて。
本題に戻ろう。
―――なぜこうなった?
つい一秒半前まで僕はリポレムさんの残した匂いを嗅いで彼女の後を追っていた。はずだった。
段々と彼女の特有の可憐な匂いは濃くなっていき彼女に近づいていた。そのはずだった。
そして幸い僕が用事を早く終わらせることができたから時間的にもリポレムさんはそんなに奥まで進んでいなかったからすぐに見つけられる。はずだった
それら『はず』を能力を使って回る回るよ~く回る思考の中で考えて、眼前の光景を注視するが、今一歩理解に及ばない。
なぜなら、僕の眼には大量の店員土機械に囲まれた……多分リポレムさん、が微かな隙間から手を伸ばしている光景が映ったのだから。
<魔法カード、発動!地割れ!
みたいな感じ。
わからなかったらすまんな。
まず本来安全である店員土機械が最悪危害を与えてしまうような行動をとっているのか分からない。
そしてゴーレムが群がりすぎていて範囲外の僕からは全く手出しができない状況。
「ん~~~~!!!~~~!!!ッ~~~~!!!」
それほど広くない空間で百に近いゴーレムに囲まれて、ゴーレムの想像に難くないその鈍重な体が動くことによって発生させる金属音が連鎖共鳴して、必死に何かを叫ぶリポレムの声を掻き消す。
常人にとっては三つの大規模工事現場が隣り合って作業するかのような大騒音。流石にこれではどれほど効率化した集音機能でも、リポレムが何かを叫んでいるなという程度の事しか感じられない。
囲みを成すゴーレムは千差万別で、接客用であったり荷下ろし用であったり在庫補充用であるなど様々な―――言い換えて類似点の少ない、用途も配置場所も全く関係のないゴーレムが続々と集結していっているのだった。
―――ほんとになぜこうなった。
僕は周る思考回路で現状把握に打って出る。
(土機械が暴走したのか?ありえない……それなら製造者である先生がいち早く気づいてもう避難勧告が出ていてもおかしくない頃合いだ。それともまたなにか別の事件が起きた……?
不具合を起こしているとしてその関連性は何だ? 推測するにここに集まるゴーレムに関連性は無いはずだ、近くにいる個体から徐々に集まっている印象を受ける。
そうだったとしてその不具合とはなんだ?
ちっ……。
私情を挟めばリポレムさんとのデートに期待していた気持ちがこんなことに巻き込まれてウンザリな感じだが……誰かが被害にあっている、さらにを言うとそのリポレムさんが危機的状況なのだ。
そんなことも言っていられないな)
頭を回すも情報が足りないと判断したヴィルは人命救助を優先させ、速断で行動を開始する。
(この状況……僕だけで判断するわけにもいかないか、まずは司令塔を建てなければ……)
僕は走る。騒音の異常性に気づいた近くの生徒にここを離れるよう声を掛けつつ、誰よりも早く。
。。。
「タッシ―!どこだ!どこ行った!?」
僕は先ほどまでタッシ―達がいたところまで引き返していた。
辺りを見回すが―――誰もいない。
リポレムさんをさっき見た感じでは、何か直接的に被害を受けている様子はなかった。
しかしあれだけの数に囲まれたら何かの弾みにケガを負ってしまうかもしれない。
悠長にしている暇はそれほどない。
隔絶された勇気を発動して壁を蹴って天に上る。
―――そして。
飲食系建物の二階の方。そのテラスに……いた!
ヴィルの効率化された眼は一面の光景全ての色を判断し、その中から豆粒のようになったタシウムの姿を捕捉した。
すぐさま空中で効率化を行い、流星のようにテラスめがけて降下して、屋根の窓もろともカチ割る。
<バリンッ!
飛散するガラス、転がるヴィル。
「ふんふーんふんh……ッ!?」
「何をしているヴィル……」
「説明は後だ!」
「全員出してくれ!」
『――あぁ、すぐに出してくれ』
通信で聞こえてくるのはラーの声。
「はぁ……わかった。しかしどうしたんだ今日のお前は、いつになくめちゃくちゃだぞ」
「せっかく楽しくコーヒーを飲んでいたというのに、ぶちまけてしまったじゃないか」
「この代償は高いからな?」
「忘れるなよ」
くいっ
「わかったからわかったって!」
「とりあえずみんな出して!」
そう言ってタッシーは広いスペースまで行くと、腕を振るようにしてみんなをタッシ―の記憶から出す。
「……現状はヴィルが突っ込んできた辺りから把握した」
「避難誘導ありがとうヴィル、少し羽を伸ばし過ぎていたようだ、危険への対処が遅れてしまっているね
中から出てくるや否や、タッシーの中ですでにこの事態を察知していたラーは感謝し、すぐに行動に移る。
しかし、ほんとうにうっすらとだけだが、キスマークが見えているのが台無しだ。
「リポレムさんが店員土機械の大群に囲まれてしまっている」
「原因は現場にいた僕でも不明、僕単体では解決不能と判断した」
「あの土機械の群れに人がいるのか……厄介だな」
ラーは拳をぎゅっと握ると、鼓舞するように宣言した。
「だとしても……やれることを行動してみるまでだ」
「これは生徒会として仕事の質を問われている!」
「全てを、穏便に済ませようじゃないか!」
「各員追って連絡する、第一に『行動開始!』」
「「「「「「「「了解」」」」」」」」




