第29話 終章 「心の後処理×友の存在」
空の彼方に消えていったオムのことはこれっぽっちも気にせずに、ヴィルは作業へと戻る。
やることはまだまだあるのだ。バカのことを気にする余裕はないし、しぶといから多分大丈夫だろうし。
壁の補修作業に没頭する。
作業に取り掛かる中思うのは、山羊の狂脚のやつらはこちらへの損害などお構いなしに暴れたということだ。
ところどころの分厚い壁に穴が開いているし、場所によっては骨組み事消し飛んでる。あの能力者用の壁が、だ。
いったいどういった経緯でこんなことになったのか甚だ疑問ではあるが本人たちは今頃刑務所だから、聞けるわけもなく。
(……?僕?やだなぁ僕がこんな学園をボコボコにするような動きをするわけないじゃないかぁ~。まぁ確かに緊急の避難口があったところは僕が本気を出したことによる超スピードの余波でボロボロになったけれど……
……そうだ、そこも直さないと……。
それにしても……人手が足りないなぁ。
僕が直接的に壊したところは僕が直すのは当たり前なんだけど。
学園全体の修理をするにしてはあまりにも人が少ない。
先生と管理人さんと僕達でこの島全体を回るのだから、それは足りなくて当たり前のことなんだろうけれど。
あぁ生徒たちはというと、全員一律に寮での臨時休暇を言い渡されている。昨日のことで精神的に負荷がかかった子もいるし、壊されたから一緒に直してくださいと頼むのもなんかおかしいだろう。
なんにせよ、寮で今日一日安静にしておくのが一番だ)
学園の対応を思案している内に、ヴィルはテキパキとした軽やかな動きで2組校舎の外壁補修を終わらせていた。作業開始からの疲労を感じつつも早々に校舎内の清掃に入る。
校舎内に入り、一日放置され酷い有様をいっそ鮮やかに見せつけられる。
乾いた血、こびりついた血、窓に滴る血。あたり一面の真っ赤な塗装、これだけを形容したら、なんともお化け屋敷のようである。
少しくらい遺体回収時に掃除していってもいいような気がするのだが……
ほぼまんま残ってる。
「警察めぇ……もう少し親切でもいいじゃないか……」
ヴィルは、親切とは言えない警察の対応に怒りとまではいかないが、呆れとでも形容すればいいのか、そんな曖昧な気持ちでため息をつく。
前衛的なアートに比肩する校舎内一面を使った血の芸術は、間違いなくヴィルが昨日刻み付けた混沌の名残であり、天井にまで達した“赤”は現場の悲惨さを言葉で語るより多く伝えてくる。
しかし、500人余の殺害より一人の学友の殺人を悔いるヴィルは、何の感傷に浸ることもなく、かおる血の臭いに憐れを感じるでもなく不快感さえ示す。
途中で、警察が回収し忘れた肉片を踏んでしまった時には、慌てるでも驚くでもなく反射的に蹴り飛ばした。
“どうでもいい”彼にとって、月一の清掃活動とそう大差ないこの校舎清掃は何か特別な感慨が湧いて出る訳はなく。ただ、いつも通り動かせない体に歯がゆさを感じながら、汚い廊下をスイスイと汚れを落としていくだけだった。
(ふぃー結構しんどい……こう思うと管理人さんもすごいな。
たった一人でこの学園の掃除やらなんやら全部やっているのか……。
いったい何者……?
―――しかし、まぁ、なんともこの臭いは好きになれない。
確かに残る人が死んだ跡。
僕が殺したやつかもしれないし、誰かが殺したやつかもしれない。
まぁでも、大概の敵は僕が殺したらしいから、多分僕なんだろうけど。
朝から僕を悩まして止まらない感触と、鼻から詰め寄ってくる汚い香り。
まったく、いやになる)
この感覚がどうしても嫌なら、今すぐにタッシ―の所にいって泣いて頼めば消してくれるだろう。
でも、そうしないのはこの感情に意味があると思うから。
彼の言葉に、この血の証に、それを思い悩むことに、僕の成長への“水”があると思うから。
だから、消さない。
……でもそんなカッコいいことを言っておきながら、正直分からない。
だって、僕はただの憎しみと少しばかりの殺意でこの血だまりを作り上げたけど、そんな僕と違って、生き残ったやつらが相手にしたのは僕と違って優しい人なんだろうから。
つまり、僕は敵を殺さない優しい人とは違って、優しくないやつだということになるから。
僕がこいつらを憎んでいるのは優しくないやつらだから。なら僕とこいつらに何の差異がある?
結局は、自分のエゴで他人を傷つけている。他人を害している。それも思い通りに。
最終的にはその論点から逃れることが出来ないのだ。
それに―――僕はこの学園のためにいろいろやってきたけど、僕を顔以外で敵視する人もいるってことが分かった。
誰にだって愛されて、誰にだって尊敬されて、誰からも優しくされる、そんな人間いるわけがない。寧ろ、いてはいけない気がする。
そんなこと友達の少ない僕にだってわかる。
でも、頑張った結果が誰かを不幸にするなんて、そんなつらい世界僕じゃなくても嫌になるだろう。
こうやって、ぐるぐると、ドロドロと、後からポンポン出てくる感情と感論と思想が堂々巡りをずっと繰り返しては結論が出ないでいる。
まさに感情のゲシュタルト崩壊だ。
もう……何を悩んでいるのかも。
わからなくなってきた。
。。。
ふと。
血で汚れた窓が、ようやく本来の外の景色を映し出すと、窓の外に目が行った。
そこにはどう見てもこの学園の生徒がいた。今は一般生徒は寮にいなければならない時間だ。
僕は鉄の塊のように重くなって遅くなった足を引きずるように、床を蹴った。
窓越しから見つけた生徒の後を追いかけると、そこは昨日の避難口だった。
と言っても、僕が光速で動くなんてことをしたから、地下にあるはずの天井は剥げて、地上にむき出しになっている。
今なら難解な通路も、いくつもの施錠もない。誰にだって入れる。
(しまったな……こんな風に、学園の極意情報などが露呈しないためにも今日一日は寮でいなればならないんだけど……これじゃその意味がなくなってしまった。
なんとかして、止めないと)
ガラガラと、崩れた瓦礫の間を通りぬけて。ヴィルは避難口があった空間へと入る。
そこにいたのは、この荒廃とした場所には似合わないとても派手な印象の……―――
―――ギャルさん?
ギャルさんというのは、学園での九官鳥探しの時にアシミーの伝手で知り合ったヴィルとは違った世界に住むキラキラの女の子の事である。
ちなみにギャルさんというのは、友達になった際に名前を聞いていなかったのでヴィルがつけた仮の名称である。
その人物はというと―――
「―――って、うわぁぁ!」
「―――ええええええ!!!」
「へ?」
「なんだ鬼ちゃんか……」
ヴィルの気配に気づいたのか、突然こちらを向いたギャルさんは、ヴィルに気付くや否や絶叫した。
たまらずヴィルもつられて絶叫。
この薄暗闇に、ヴィルの顔は少々刺激が強かったようだ。
そして、どうやらヴィルのことは覚えてくれているようで、ヴィルは一安心とばかりに「ほっ」と一息。
それより……
「こんなところで何してるんデスカ……」
「……ん?」
「あぁー……そうだな、なんか暇だったから散歩しててさ、偶然ここを見つけたわけ」
「なんだろなぁって見てたら、急に鬼ちゃん来るからさ」」
「びっくりしたわ~ほんとに」
その返答を聞いて安心する。どうやら彼女に何かを企んだりする考えはなかったようだ。
こんなところに今わざわざ来るのだから……と少し疑ってしまった。
(昨日の件がまだ尾を引いているのかなぁ……)
「……そうですか、でもどんな理由があっても、外出はしちゃいけないんですよ」
「まだ昨日の敵が残っているかもしれないし」
「あはは~ごめんごめん」
「すぐ帰るからさ」
「そんな軽いことじゃないんですよ?」
「わかったって、わるく思ってるって、でもなぁ鬼ちゃん」
「―――そんな先生っみたいに固くしゃべらなくてもいいんだぜ?」
「あたしはそんな言い方しなくてもちゃんと分かるって」
「そ、そうですか……?」
「なら――危ない、から、りょ、寮に、いろ、よ……?」
「うんうん、なんかギコチないけどそれで良し」
「うんじゃ、わかりましたよ~」
「すぐに帰ります~」
「……」
ヴィルはギャルとの会合に今日一番体が軽くなったように感じる。悪いことを注意しているはずなのに、なんだかとてもいい気分になってくるのだ。
新しい友達との会話、女の子との交友。
それだけで―――たったそれだけでヴィルの心は少しだけ温まっていく。
「鬼ちゃん、お仕事頑張れよー」
「あはは……うん頑張るよ」
冷えた心はどこか温まったけれど、まだ底見えぬ怨恨に苛まれるヴィルは精いっぱいの作り笑いをする。ほんとはこうして何かを話している方が心が落ち着くけれど。ほんとはもっと居ていたいけれど。
だけど……
生徒会として注意をした以上、ここで終わるしかない。
悲しいけれど、笑うしかない。
だってそれが仕事だから。
そんなヴィルトスの、友達の少ないヴィルトスの最大限の優しさなんて意に介さず、ギャルは目を細めて、神妙な面持ちで、全てを透かしたように心底くだらなさそうに言った。
「……」
「鬼ちゃん」
「……?」
「―――気持ち悪い笑い方するんだな―――」
「―――ッ!!!」
それを言われたとき、僕の中では焦りの感情が大量生産される。
何かの拍子に嫌われた?という焦り。気にしないと言われた顔に対する笑いの中傷?という焦り
そして。
心を見透かされた?という焦り。
『経験』というものの辞書が人の数倍も薄い僕にはこの事態を把握するページは見つからない。慌ててめくるページすらない。
「きもちわるい……?」
せいぜい出た質問がこれだった。
あぁいや、と前置きをして彼女は。
「別にディスろうと思っていったわけじゃないいんだよ」
「ただ、こう……ごめんな、なんかそう思ったんだ」
「心と行動と顔が、合ってない」
「そう、思ったんだ」
心と行動と顔が合っていない、か。
そうなのだろうか。
僕を悩ましてやまない原因はだいたい分かっている。昨日のペリターとのことだ。
いくら乗り越えたつもりになっても感情と感情が乖離性を持つように融合せずに反発する。
大丈夫、大丈夫、いくら甘やかしても心は落ち着かない。
謝れ、謝れ、いくら怒っても心は波立たない。
心―――はもう少し話してみたいとか、避難口にいるのは気分が悪くなるとか、さっきの血の匂いが嫌だとか、いろいろ考えてる。
行動―――立派な生徒会役員なら本気で追ってギャルさんがここに入る前に止めなくちゃならないし、こんな話をする前にとっととここを出なくてはならない。
顔―――自分は生徒会としてみんなに心配をかけたくない。もっと話したくても別れが悲しくても、心がゲシュタルト崩壊を起こそうと。
笑顔。
・・・
……そう、かもしれない……。 そうなのかも、しれない……。
―――なら……ならば。
<パンッ!
感情のマスクが崩れ飛ぶ。
「うる……い……! ……うるさい。 うるさい!!」
何もないただ荒れた空間で悲痛なヴィルの声が木霊する。
「黙ってくてくれよ!!僕にだって色々悩んでることなんてあるんだ!!君みたいなのに構ってる時間なんてないんだよ!!!」
「心と行動と顔!?だから何だってんだよ!! 違うかったら何だってんだよ!」
「説教したいのか!? この惨状に頭を下げさせたいのか!? そこに散らばってる粉に向かって許しを請うのか!!??」
「だったら教えてくれよ!僕はどうすればよかったんだ!?」
「みんなのためにやったことも、なんか知らないけど勝手に恨まれて!」
「僕の心はさっきから解決しないことでピーピーうるさいし!」
「どんなに憎くても、殺したやつの血を見たら後で後悔するんだよ!僕が殺したのかって!」
「それなのに何にも進まないまま時間だけは過ぎていく!」
「なら仮面で押し殺して、押しつぶして、無くなるまで待つしかないじゃないか!」
誰に対してでもない、怒り。
答えのない、問答。
子供のように駄々をこね。
消化しきれなくなった異物を、全く関係のない人物に吐き掛ける。
自分はよくやったという自己満足。
絶えずそこにある変わりなき事実。
弱った心に襲い掛かる今までの重し。
共感する弱者との共通点。
反発する弱者との類似点。
融合する弱者との思考点。
全てが彼を飲み込んでいく。ペリターが残したたった一言が、怨恨の鎖となってヴィルを拘束し始める。
気にしていないという逃避。気にせざるを得ない現実。逃げるには分厚すぎる目の前の屍。
いくら理由を述べようと、いくら弁明しようとも、甘んじて受け止めなければならない世界の理。 子供には重すぎて、強がって背負うには根性が足りない。
過去、昨日、今。その3種が限界を超えてペリターが宿した言霊を糧にしてヴィルを苛む。
ヴィルにももう何に怒っているのか分からない。
まだ大人にはなれない。
だけど。
そんな彼に―――
「―――いや、知らんし」
呆気にとられるヴィル。
「うーん、それは鬼ちゃんが勝手に悩む問題だろ?誰かに答えを求めた時点で、鬼ちゃんってのは死んじゃうんだぜ?」
「まぁ又聞きの情報だけど殺した殺してないなんて関係ないし」
「勝手にあたしたちを守ったって優越感に浸っとけばいいじゃん、でもあたしはそんな奴は友達にいらないね」
「あんたがやるべきだから、あんたがやりたいから、そうしたんだろ?」
「そのことで勝手に浮かれて勝手に悩んでる奴なんてあたしは嫌い」
「自分の思いを出汁にして、助けた奴を下に見る」
「それならまだ、バカの方が好感が持てるね」
ギャルは語る。
「見捨てたかったらそうすればいいじゃんか、自分が傷つきたくないなら逃げればいいじゃん、他人と関わるのが怖いなら目を開けなければいいじゃん」
「それが嫌だから、その方が悲しいのを知っているから頑張ったんだろ?」
「過去も今も何も関係ない、あんたを構成するのはその時々にあんたが生み出したあんたの気概だけ。貧弱なままでいたいなら過去のどんなことにだって逃げればいい。貧弱なままで誰かを助けられると勘違いしているならアホのままでいい。でも誰かを助けられるのはやっぱりその奴より強くなくちゃいけない」
「心でも強さでも何でもいい、その時にあんたを作り上げるのはやっぱり“気持ち”」
「それで一人でも気持ちを裏切ったからって悩むのか?」
臆病なヴィルに指を突きつけ罵るように言葉を浴びせる。
「いいか!?見返りを求めるな!」
「みんな勝手に生きてるんだ、お前の勝手な心の緩急はあたしには関係ない」
「知りたいなら耳を使え、考えろ!」
「失いたくないなら強くなれ!」
「悩むなら、悩め!」
「手を取り合いたいなら待つな!手を出せ!手を開け!」
「助けたかったら助けて、見捨てたかったら見捨てろ」
「それで見捨てるなら普通」
「それでも、手を差し伸べられるなら―――」
「―――あんたは良いやつだよ」
「それだけじゃ嫌か?」
「子供みたいに一つ一つの功績に良くやったって褒めてもらえないと生きていけないのか?」
「もしそうならあたしが褒めてやるから、他に当たるな!」
「自分で悩め!」
……僕は腰からへたり込む。
彼女の情熱的な“心の在り処”それが見えた気がしたから。
彼女の言葉。それがペリターの言葉を撃ち飛ばしてしまったから。
(すげぇや……)
ペリターが恨みの言葉を残していった。
……もう、知るかそんなもん。僕だって羨ましいやつはいっぱいいるんだ。
いっぱい殺したんだ。
そんなの……お前らが来るから悪い。
悪いことしたお前らが悪い、僕は聖人じゃない。
僕は元から嫌われ者だろ?
嫌われるのなんか小さい頃から慣れっこだ。
それに。こうして僕に構ってくれる人がいるだけで。
……それだけで十分じゃないか。
「……ありがとう」
ごく自然な流れでその言葉は出た。
「ん? 結構きつめに言ったつもりなんだけど……もしかしてМなのか?」
「詰られて喜ぶ的な……」
「違わい!!」
今度こそは、自然な流れで笑いが込み出た。
「でもほんとに、なんか……ありがとうギャルさん」
「スカッとした気分だ……」
「まぁ、いいってことよ」
彼女はけらけらと笑った。その笑顔は輝きに満ち溢れ、太陽のように温かく、僕の鎖を完全に溶かし切る。
そんな彼女の眩しい笑顔に僕の視線が外れることはなかった。
。。。
「……それにしてもなんだよ、そのギャルさんって」
「さっきから気になってたんだけど」
「いや……僕が鬼ちゃんだから、あだ名で呼ぼうかなって……」
「だめ?」
「アハハ!いいよいいよ、ギャルさんで」
「でも、その、だめ?って顔はもうやらない方が良いゾ」
「正直言ってきもいww」
「まじで?わかった」
どんな顔だったんだろうか。サブとかがやるとかわいいようなやつかな。
上目遣い的な。でも僕の方が身長高いし……。想像するのやめよ。
きもかったわ。
「おんじゃ、鬼ちゃんの笑い方もきもくなくなったし」
「帰るわ~」
瓦礫の間を縫うように地上へ出るギャルさん。
―――でも、ごめん
僕は音もなく彼女の背後へと忍び寄り、一切の怪我が残らないよう一切の痛みがないように、彼女の意識を暗転させた。
ここはこんな有様でも、極秘の場所。
一生徒が知っていていい場所ではない。
このままタッシ―のところに連れていき、記憶を消さなければいけない。
彼女には悪いがこれはルールだ。流石に破れない。
力なくして倒れるギャルさんを落とさないように両手で抱える。
正直、興奮する。決してやましい意味じゃないよ。
なんか印象になかったけど、ギャルさんめっちゃ美人だったから。
お肌もきれいで、間近で見ると何がとは言わないが、やばい。……ちょっとやましいかも。
まぁ……それより、なんでこんな綺麗なのに噂にならないんだろうか……
僕は、自分の理性が効いているうちに彼女を記憶消去一人分くらいならギリギリできるだろうタッシ―の所に運んだ。
・・・
「……あれここは?」
「ここは医務室だよ」
「ギャルさん」
「……ん?鬼ちゃん?あたしなんで医務室に……」
「いやぁ覚えてない?えぇーと……ギャルさん散歩してて穴に落ちちゃったんだよ」
「それで怪我をしたから医務室」
「散歩?怪我?」
「うーん、思い出せない」
「あ、一応言っておくけど、だめだよこんな時に外に出歩いたら」
「うーん、わかった?」
「外に出た実感がないからあんましわかんないけど」
「そういえば、ギャルさんてなんだよ、普通に馴染んでたから聞き逃してたけど」
「いやぁ僕が鬼ちゃんだから、あだ名で呼ぼうと」
彼女はその美しい顔を綻ばせる。
「ふふっ気に入った」
「……んじゃもうどこも痛くないみたいだし寮、帰るわ」
「あぁ、怪我は生徒会の仲間に治してもらったんだ」
「うん、じゃあ気を付けてね」
「気を付けてねってここ女子寮に近い医務室だろ?覚えてないけどありがと」
「へへっ、じゃあ僕は仕事があるから」
「おけ、ばいばい」
「うん、ばいばい」
・・・
(なんとか、ごまかせたぁぁぁぁ!!!!
会話下手な僕には深くまで聞かれたらラーなしで答えを返せる自信はない。すっと受け入れてくれてほんとによかった……。
ボロなんかは出ていないだろうか?……まぁ気にしないでおこう。
―――それでは気を取り直して。
よし!気分は最高!でも体は絶不調!
仕事に戻るかぁぁぁ!!!)
こうして作業を再開始した僕はさっきまでの重い動きとは打って変わって、なんとかいつもに近い作業効率で復帰できた。
これも彼女のおかげだ。もう迷いはしない。
そしていつもの動きを取り戻した僕は、無事に全ての修復作業をこの日中に終わらせることができたのだった―――
・・・
「うーん、ほんとに痛みはない」
「でも、まぁ―――鬼ちゃんもあんなことで悩むんだなぁ~~」




