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Mundus non re agnoscis ≫—僕達の異世界青春—≪  作者: ヒカワリュー
社会が生んだ獣《ベスティア》
3/75

第2話 「生徒会が見せた個性」

 

 リポレムとの一時の会話を途中で強制的に終了させてしまったことを、ヴィルトスは非常に悔やんでいた。

 なぜなら彼にとって他人、とりわけ女の子と会話をすることなど滅多にないことだから。

 ヴィルトスという男の性格は非常に平凡で、取り立てて何かに突出しているということももちろんない。

 よって、いたって善良な小市民のヴィルトスは、条件にさえ恵まれれば女友達の十数人簡単につくれた筈なのだ。

 しかし、如何せん顔が悪かった―――いや悪すぎた。

 その、見たものに平等に恐怖を振りまく悪鬼の体現然とした顔面は、他人からの評価を(いちじる)しく下げ、問答無用でヴィルトスをぼっち街道へと突き落としたのだ。

 

 入学初日から、誰一人とも会話をすることなく、ただのその見た目だけから一番目に女子の中でブラックリストに載せられたのだから、彼の悲惨さも少しは伝わるだろう。

 

(……もう少しリポレムさんと話せばよかったな…あんなに上手く喋れてたのに。

 ただ少し気になることだけを言われたからって逃げるだなんて僕も弱いよな……)


 一瞬で広がった感情を優先し、教室を足早に去ったことに心の中で愚痴を言う。

 朝からの憂鬱、リポレムさんとの奇跡そして逃走、どちらも嫌な感情ばかりが積もっていて、無意識にもヴィルの口からため息を吐き出させていた。


 ()()()()()()がため息を吐きながら廊下を歩くこと少し。


 ヴィルは生徒会室の扉の前に到着した。

 

「はぁ……」


 またため息だ。


「…嫌な予感」


 ぼそっと誰に言うたわけでもないが、ヴィルはこのどう考えたって怪しい扉を見てそう言った。


『秘密結社~生徒会~』


『ついに悪が悪を裁く時が来た!!』


『入団希望者は“混沌の支配者”までご連絡を』


 そんな文字たちが昨日まではなかった意味不明な張り紙として、デカデカと生徒会室に一つしかない出入り用扉の表面を埋め尽くしていた。


(いや、誰がやったかは大凡(おおよそ)分かるんだけどね)


 たっぷり悩むこと()()

 めんどくさいことが起きるのはもう絶対だ。それは変わり様のない云わば事実。

 それが今起きるかもう少し先で起こるかの違いだと認識したヴィルは、開けることを躊躇(ためら)っていた扉に手を掛けてドアノブを―――


「―――おっそーーい!!!!」


<バチコッーーーーン!!!!!


―――ひねる前に扉は開かれた。


「うげっ! ぼげっ! どぅはっ!」

 

 勢いよく開かれた扉は、ヴィルの178(センター)ある体を易々と吹き飛ばし、ここに来るまでに通った生徒会室へと続く長い長い廊下を、振り出しに戻されるかの如く5m(ミーター)は転がった。


(―――いってぇぇぇぇぇ!!!!

 なんちゅう馬鹿力だ!?あんにゃろう!

 くそ、ケガは、あれ……え、てか、人を吹き飛ばす力で当たったのに壊れてない扉”すごいのでは?

 というか、こんな硬い廊下を5m(ミーター)くらい転がったのに目立った外傷が一つもない

僕ってすごいのでは!?

 いや……これは………!!

 僕を産んでくれたお母さん最強説があるぞっ!?


 ……いやいや、落ち着け僕。

 僕はこのどうしようもない顔面を上手く有効活用するために、“クール”になると決めただろう?

 強面でもクールなら許される感は、多少無(たしょうな)きにしも(あら)ずだ。

 だから落ち着け僕? 一人ボケしている強面(こわもて)なんていないぞ?

 いたとしても狂気(きょうき)だぞ? 顔面凶器(きょうき)だぞ?

 ……誰が上手いこと言えと。

 ……いや、そう、クール。 クールに行こう)


「ハハッ…突然何かと思えば()()()か、こんな風に急に扉を思いっきり開けたら危ないじゃな―――」


「―――おっそーい!ヴィルぅぅぅ!!!!」


<バチコリィィィィッ!!!!!


 制服についた汚れを掃い、本人は慈母象レベルだとだと思い込んでいる羅刹(らせつ)の笑みを浮かべながら、これまた優し気に相手を正そうとしたら、(ほほ)を殴られた。

 

「グァムッッッ!!!」


 二回ほどバウンドしながら地に倒れるヴィル。

 これにはさすがのクール(笑)も…


「…いてぇな!何しやがる!?」


 怒った。

 

「ひっ………」


 まさに蛇に睨まれたネズミというように、硬直し動けない()()()とやら。

 

「はぁ…クール…クール…クール」


 呪詛のように唱えてから、


「そう、怯えんなってちょっと朝からイライラしててさ」

「スペラのノリは分かってる、もう怒ってないさ」


 こんなことは日常茶飯事だと思い直したヴィルはすぐに怒りを(しず)め和解の手を差し伸べる。


 スペラはいつもこんな調子だから、今になって怒ることでもない。

 少し謝ってくれさえすればそれでいい。


「僕は睨んで悪かった」

「はい、スぺラは?」


 そうそう問題にすることではないので、早く終わらすためにこちらから謝る。

 まぁ別に僕は悪いことをしたかと言われれば、悩みどころではあるが……


 ヴィルに一瞬だけ睨まれたことが予想以上に効いたのか、背筋が凍り付いたままのスぺラは……


「え! …あぁ、あー…」

「んー……………そうか!」

「―――ホームラン!!!―――」


「いや誰も僕が吹っ飛んだ絵面への感想を言わなかったことについて怒っているわけじゃないんだけどっ!?」


「え?! 違ったの!?」


―――さっきのは訂正。 もう絶対に許さない


(たっぷり悩んだ末に導き出した答えがそれか!

 まず、怒られている理由分からなかったんかい!

 ちくしょう! このアホ()()め!!)


「もういい!」


 そう言ってヴィルは謝罪を聞くことを諦めたのかズカズカと生徒会室に入る。


 ようやく入った生徒会室は暗くて、その正方形の間取りの奥が全く見えないほどに暗かった。

 生徒会室は全三部屋で、出入り口がある今僕が入った部屋が生徒会室の【会議室】だ。

 カーテンは閉め切っているわ明かりは点けてないわで、本当に何も見えない。

 

 すると、その暗闇の奥から声が。


「ふっふっふっ…遅かったな、ヴィル」

「いや、最速の支配者(テラー)と呼んだ方が良いか?」


「え、()だ」


「そうだろうそうだろう―――え?」


「だから、嫌だって」


「…………」

「ちょっと待ちぃーな、かっこよない?なぁない? もう一回考えてみ? 最速の支配者(テラー)やで? 最速の支配者(テラー)


「何回も言うな恥ずかしい」


「は、恥ずかしいってなんやねん!? それとも何か? 他のがええんか? 欲張りさんめ!」

「まぁ瞬間の支配者(サイコ)とか寸分の支配者(パス)とかならあげられんことも無いけど…」


「いや、いらないし」

「てかなんでそんなに僕に、カッコ良い、かっこ悪い置いといて物騒な名前を付けようとすんだよ」

「これ以上僕のマイナスポイントを広げてどうする、テラーとかサイコとかショッキングすぎんだろうが」

「それと、どうせならパスもサイコに入れてやれ、どうしてそこで区切った」


「えぇーどれもカッコいいと思ってんけどな~」


 部屋の電気が付けられる。


「残念だったな、【()()】」


 明るくなったことによって漸く視認できた仲間の姿。

 そこには僕以外の生徒会メンバー全員が揃っていた。


 明かりがつくなり言葉を発したのは【タッシ―】。

 本名を【タシウム・フォト】、高身長、超イケメン、ハイスペック頭脳という非の打ち所がない()()()()()

 性格はあんまりよくない。というか本人がいる手前あんまりって言ってるけど、めちゃくちゃ悪い。

 ……でもタッシーの前でそういう事を()()するのは命取りだから“あんまり”っていう。

 人のことをすぐに馬鹿にするし、すぐに揚げ足を取りたがる。

 僕達にはたまーに優しいところもあるけれど、普段の行動があれなだけに相対的に見て、優しく見えているだけでは、と最近では感じ始めた。

 

 その隣、先ほど僕に扉アタックを決めてきたのが【スペラ・プレストーテ】

 スペラは、双子の妹の方で、何かと考え無しな行動が目立つ人物。

 元気いっぱいのスポーツ少女なので健康そのものを体現したようにいっつも明るい。

 まぁその明るさとバカさ加減がスペラの先ほどの発言だ。


 そして、生徒会メンバーの中央。

 この会議室で一番大きくて派手で存在感のある椅子に座っている人物。

 彼こそが我らの生徒会長―――ではなくただの【オム】。

 【オームニア・プレストーテ】だ。

 名前からも分かる通りスペラとの双子の兄でれっきとした血の繋がっている家族だ。

 もちろん、馬鹿。もうこれ以上にないくらいバカ。

 プレストーテ兄妹はどちらもバカだが、バカ度加減で言うなら兄のオムの方に軍配が上がる。


 スペラの方は純粋に頭のどこかのパーツが足りていない感じだが―――まぁそれも結構問題なのだけど―――オムの方はもう救えない。

 さっきのイタイ発言然り、扉のイタイ張り紙だってまず間違いなくオムの仕業だろう。

 ちなみにさっき見た感じでは、扉の張り紙は【能力性超強力浸透粘着剤】という生徒会の備品で張られていた。

 まず間違いなく人の手で剥がすことは出来ないほど強力で、僕が力を出せば剥がせるかもしれないが、その場合、絶対に扉の素材の木が半分以上は一緒に剥がれてしまう。

 全部を剥がし終わるころには荘厳な生徒会室の扉は見るも無残なベニヤ板のようにペラペラになっているだろうな。


 ね。 これくらいバカ。


「うぅーヴィル~一緒に最速の支配者(テラー)混沌の支配者(カオス)で世界征服しない?」


「誰がするか馬鹿野郎」


「おいヴィル、いや最速の支配者(テラー)


 ご自慢の伊達メガネを「くいっ」とさせてこちらも明確に煽ってくるタッシ―。


「タッシー…? 一発殴ってやろうか?」


 優しく問うヴィル。

 この生徒会のメンバー全員がヴィルの幼い頃からの仲であり、いわゆる幼馴染。

 ヴィルが他8人を昔から知っているように、他8人もそれぞれがみんなのことを昔から知っている。

 なので遠慮は無用だ。ヴィルの顔面効果も生徒会のメンバーにはあまり効かない。


 思いっきり睨みつけるヴィル。

 そしてそれを嘲笑うタッシ―。


「俺に勝てると思っているのか、ヴィル?」


 余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な態度で立ちはだかるタッシ―。その姿は非リア飛び越えて虚リアのヴィルには目を開けていられないほどに眩しい。

 

(―――なんだこの光は!?

 これが…これがイケメン、高身長、週に一回以上は女子に交際を迫られている奴の眩しさとでもいうのかっ!? 絶対負けねぇ!)


 タッシーに売られた喧嘩は買う主義なヴィルは手の骨を鳴らし、攻撃の体制を取る。


「今日という今日は目にもの見せてやるよ…タッシー!」


 

 交差するお互いの鋭い視線。

 バチバチと白熱する音が聞こえるのでは、と感じるほどに尖った彼らの視線は一点の揺らぎもない。

 

「うおらぁぁぁぁぁ!!!!」


 能力は発動せず、タッシーに掴みかかろうとするヴィル。

 互いの距離はそう離れてはいない。

 ヴィルの手がタッシーに届くまであと二歩分もなかった。

 されど、ここまで来てもタッシーは動かない。


「とったぁぁぁぁあ!!」


 積年の恨み。

 思い返せばこの男には何度も悔しい思いをさせられてきた―――そして、今が

その雪辱を果たす時!!!

 ついに、ヴィルの手がタッシーを―――


「―――今日の【チェビ】の下着のデザインと色を教えてやる」


 掴む前に、タシウムに向かって伸びていたヴィルの手は空を切り、


「―――タシウム様、何でもご命令ください」


 地面に手をつき(こうべ)を垂れた。


―――やってしまったぁぁぁ!!! つい()()()の下着の色とデザインを聞きたいがために負けてしまったぁぁぁ!! 

 くそ! こんなもので釣るだなんてなんて卑劣なやつなんだ!

 許せん!

 でも、チェビの下着の色とデザインは気になるから教えてもらおー。



 躊躇う猶予もなくヴィルは即断即決し、何百回目の負けを認めた。

 しかもこの手に引っかかるのはもう十を超えている。とどのつまりヴィルは普通に()()()で誘惑には勝てない。


「―――勝手に私の個人情報を取引の材料にしないでちょうだい」


 そう言って、冷ややかな声と、凍える鋭利な目線を向けてきたのは【チェビ】というこれまた美しい人物。

 羞月閉花、仙姿玉質、容姿端麗。 そのどれほど並外れた美人に対して使われる言葉も彼女にとっては不遜なものではないと言い切れるほどに美しい、美しすぎる人物が彼女【イーチェ・テビダーク】という美女だ。

 チェビはこの【ゼノンテルア】を取り仕切る貴族という存在のさらにその中でも四家しかない貴族の貴族、『大貴族』という家柄の出身。言わばマジもんのお嬢様。

 その美しすぎる容姿は確かに、どの女性とも見比べても見劣りするはずがないのだが、特別に大人びた顔立ちというわけでもない。

 17歳という範囲においての究極の美女、美少女。

 もちろん学園での、というかチェビに関しては学園外でも出身家の都合から大変有名であり、彼女の特徴でもある冷えた眼差しを準えて【氷の姫】もしくは【姫】と呼ばれている。

 学園美少女3巨頭の一人だ。


 そんな彼女が怒りと共に発動させた()()によって、脱力し、立つことさえ叶わないヴィルとタッシ―。

 

「ちょ…まっ、て」

「悪いのは…タッシー……」


「…もどせ…チェビ」


 口を動かすことすらままならず、唸るように発言する二人。


「ふんっ、この私を愚弄するようなことを言うからよ」

「これに懲りたら少しは反省しなさい」


 冷たく言い放ちタッシーの命令を無視するチェビ。

 だがチェビよ、君は大事なことを忘れている。

 我らが生徒会のタッシーは傲慢で意地悪で………キレ症だ。


「…白、と、ライトブルー…」


「―――っ!?」


「青の線が煽情(せんじょう)的でまるで…誰かを誘惑したいとか思って、そうな、キワドイ…」


「―――死ねっ!!」


 ()()()()()()()によって、下着を言い当てらたことがよっぽど恥ずかしかったのか、涙目になったチェビは、ややヒールの高い靴でタッシ―を何度も何度も足蹴にする。

 チェビは普段の生徒会外の活動なら絶対に見せないような顔で、それはもう必死にタッシ―の口を止めようとする。

 がしかし…


「あぁこれは……特注か? こんなものに何十万もの(ゼノ)をかけて作ったのか?」

「ん?誰かに見せたいとかそんな思惑があるのか?ん?ん?」

「だとして~それは誰だったかな~? ん?」


「……ッ!?」


 ついには羞恥で顔を隠してしまい、隣の部屋に逃げてしまうチェビ。

 やっぱりタッシーは(したた)かな人物であった。

 生徒会の平委員ごときでは敵うはずもなかった。



「―――そろそろ会議を始めてもいいかい?」


 ぶっ倒れているやつがいたり、泣いているやつがいたり、はたまた寝ているやつがいたりする生徒会室。

 良く言えば十人十色まさに賑やか、悪く言えば混沌(カオス)というこの空間で言葉を放ったのは―――


「―――さぁ、席について」


 我らが生徒会長、ラー【ラーティン・アウラム】だ。

 学園総合順位、二位との差を極端に広げての()()

 彼の実家はこのゼノンテルアで知らない人がいないほど有名な超々有名企業つまり超いいところのお坊ちゃん。

 この異色の生徒会という個性がありすぎるメンバーをも制御し、あまつさえ学園全体という超規模の統括まで、生徒の身でありながら担っている。

 身長は女子に「可愛い~」って言われるぴったり160(センター)

 頭に段ボール!


 …と、こんな感じでモテない要素などなく、タッシ―のようにイケメンでも性格が残念ということも無く、逆にモテる要素しか持ち合わせていない男がこのラーという男だ。

 ん? …一つ変なのが混じっていただって?


 あぁー頭の段ボールね。そう、彼はいつどんな時だって頭の段ボールを脱がない。

 お風呂に入るときも寝る時だって外さない。

 そんなんだから勿論のこと幼馴染の僕達だってラーの素顔は見たことがない……あ。

 いや。一人だけいるな。

 僕の妹だ。


 僕と違って超絶究極ウルトラスーパーエキセントリックダイナミックエクスプロージョンハイパーイリュージョンゴッドゴッドゴットミラクルマキシマムメテオリックグランドモストベスト可愛い妹は十年位前に一度だけ見たって言ってた気がする。

 たぶん独り言みたいな感じだったはずだけどお兄ちゃんは聞き逃さず、十年間妹の発言を覚えていました。

 まぁでもそのレベルでラーの顔は知らない。

 本人に段ボールを被っている理由を聞いても、のらりくらりと巧みな話術で、はぐらかされてしまうから、もうここ数年では気にすることさえなくなっていた。


 それに気にするのも野暮ってもんだ。

 あのラーが言いたくないっていうんだったらそこまで追求する必要もない。


 しかも、追及してその先にある結果を見るのも嫌なんだ。

 僕ら兄妹とラーのアウラム家は幼い頃からとある事情でお世話になっている関係で、それでラーのお父さんとか兄弟にも会ったりする、みんな超イケメンなんだ…

 つまりはラーも………まぁ、そういうことだ。 

 これ以上この顔面偏差値が高い生徒会で(みじ)めな思いをしたくない。


 

「大丈夫かい…ヴィル?」

「どこか具合でも悪いのかい?」


 そう優しくヴィルに問いかけてくれるラー。

 顔はもちろん見えなくて、段ボールによって声も若干くぐもってはいるが、その言葉にはただの反射的に出た心配ではなく、短い言葉から溢れだした慈しみの感情があった。


 どうやら、ヴィルが思考を巡らせている間に、ぶっ倒れたタッシ―は起き上がり、寝坊魔のアシミ―は睡眠状態から起こされ、逃げだした半泣きの姫―――チェビはこっちの部屋に戻ってきていた。

 そしてもう全員がそれぞれ各人の席に着席しており、残すはヴィルのみだったのだ。


「あ、あぁ大丈夫」

「ちょっとぼーっとしてたみたい、ごめん待たせた」


「うん、なら良かった、気分が悪くなったら言うんだよ?」


 正方形の形で九人の生徒会役員が使うには十分すぎる広さを持った部屋を、惜しげもなく

使って置かれたテーブルと椅子は全員が全員を見渡せるような配置になっている。


 僕はいつもの右サイド、部屋の真ん中あたりに位置する場所に腰かける。

 ちなみにオム(馬鹿)はさっきから座っているこの部屋の奥の出入り口の扉とは逆の方、

窓の方の一番大きくて無駄に装飾の凝った、ゼノンテルアの歴史に出てくる王様が座るような椅子に腰かけている。

 そして生徒会長のラーはというと、左サイドの扉に一番近い席、右サイド真ん中にいる僕から見て正面左にいるということ、もちろん座っている椅子はオムを除いたみんなと同じものだ。


 この際だからもう一度だけ言っておこうと思う。ラーが生徒会長だ。


 僕が着席したのを見たラーは束ねた手元の紙を見ながら会議を始めた。


「それじゃあ今度こそ会議を始めるね」

「今日の議題は二つ、一つはすぐに終わるものだからそっちを先に話すね」


 頭に被った段ボールをかさかさと鳴らしながらラーは言葉を続けた。


「それで一つ目が、明々後日に控えた生徒会紹介についてだよ」

「もう何回かやったから覚えているとは思うけど、軽く生徒会紹介の流れだけを説明するね」

「と言っても本当に簡単なもので、みんなから集めておいた自己紹介文を、僕が適当に掻い摘んで、ここ四か月の間に入学してきた子を対象に生徒会からのあいさつをしようというものなんだよね」

「生徒会がどういった活動をしているのか、どういったメンバーがいるのか」

「そんなことを話して、入学、編入してきたばかりでまだ学園の右も左も分からない子達に、“生徒のためにある生徒会”を身近に感じてもらうためにこういった事を企画している」

「やっぱり相手のことを知るとその人と仲良くなれた気がするもんね」

「それでもし、原稿なんだけど完成していたら僕の所に持ってきてくれるかい?」


 この時期の開催はみんな予想出来ていたのか提出率は良い。

 まぁ若干一名(オム)が「えぇぇ!?」みたいな顔で慌てふためいているがノーカンで。


「…んーあとは照明とかスピーチとかの役割は朝の臨時会議の時に決まったからね」

「証明はタッシー、スピーチは僕が、後のみんなで()()だ」


 照明はタッシーの能力的に妥当だし、スピーチだとか人前で何かをするとか、そういった事にラー以外の適任はいない。

 よって、僕は出席はしていないが勝手に決まっていたことについてとやかく言うことはない。


 

「それと、朝の会議だけどヴィル、アシミー? ちゃんと来ないとだめだよ?」

「テストには間に合っていたみたいだけど、時間管理もしっかりしなくちゃね」


「うぅーすまん、もう金輪際(こんりんざい)遅れない」


 ヴィルは今朝の絶不調を思い出したのか憂鬱そうな顔を浮かべながら返事をした。

 そしてアシミーは…


()()()()()()、ラー。 今度からは間に合うように頑張るね」


 その言葉にヴィルは目玉をまるで引ん剥くようにこじ開けて、アシミーを見た。

 ヴィルの席の向かい側に座るアシミーを驚愕し凝視し続けるヴィル。

 そんな彼をおいて会議は進んでいく。


「うん、二人とももう自分で分かっているなら僕からはこれ以上何も言わないよ」

「……では、議題を二つ目に変えよう」


 その瞬間、確かにラーの声音が変わった。

 淡々と会議を着実に進めて行く声に変化はないが、声に篭もる感情が変化した様に窺えた。


「今、学園で起こっている―――()()()()()()についてだ」


 それを聞いた瞬間、次は生徒会の面々が神妙な面持ちとなり、全員の目がギラリと光ったようにも見えた。


「少し…確認が取れなかったことがあったし、いたずらにこの事件について知っている人間を増やすべきではないと決めていたから、みんなに報告するのが遅れたけれど、この事件はもう五人の被害者がいることが分かった」

「ここ一か月の間に5件起きているようで、犯行時間、場所、全部バラバラだ」

「学園でこのような忌々しき事件が5件も起こっていたなんてまさに前代未聞の大事件だよ…」


 事件について纏めているであろう書類に目を通しながら、僕達に事の詳細を話すラーは悲しみの溜息を吐く。

 


「つい昨日、生徒会当てに、事件の被害者の友達の生徒からの緊急の呼び出しがあって、僕とタッシ―が向かったんだけど、被害者のその子が言うには、学園に行く準備を寮の自室でしていたところ、突然下腹部に痛みが奔り、次いで吐き気を催したそうだ」

「タッシ―に調べてもらったところ、まず間違いなく()()からの暴行を受けた後だと分かった」

「それでさらに僕が他の事例がないか調べてみたら、4人も同一の症状がここ1か月の間に起きていたことが分かったんだ」

「どうやら怖かったり意味不明すぎたりで僕達生徒会に報告することでもない、と判断していたそうなんだ」


 事件を防げなかったことへの悔しさなのか、被害者の子たちへの悲しさなのか、それとも犯人への怒りなのか、何かの感情を極限まで積もらせていたラーは、意図せずして、手に持っていた書類がくしゃくしゃになるほどに拳に力を入れていた。


「幸い、被害者の子たちの忌まわしい記憶の()()も、それに()の再生もタッシ―が能力でやってくれた」

「でもだからと言って犯人の罪の跡が消えることはない」

「きっちりこの罪は認めてもらう、その為にも何としても犯人を捕まえないといけない」


 当たり前だと納得する一同。


「もちろん知っての通りこの事件に警察は介入できない」

「それはこの学園に部外者を入れてはいけないという規則があるからだ」

「入れたとしても面倒な手続きを何回もしなくちゃならないし、そもそも許可が下りるまでの長い時間、犯人が悠長にしてくれるとも限らない」

「次の被害者が出てからでは遅いんだ、そしてこの手の事件の犯人は必ずもう一度来る」

「僕達は6人目を出さないように頑張るしかないんだ」

「だからみんな、力を貸してくれ」


 そう頼んだラーの姿というのは本当にカッコよくて、尊敬できる僕達のリーダーそのものだった。



「……犯人の目星、大体はついていないのか?」

「ある程度の区切りがないと対象が多すぎてお話にならんぞ」


 冷静で知的なタッシーは伊達メガネを「くいっ」と少し上げてそう述べた。


「うん、そのことなんだけど、この事件の犯人はこの学園の人ではないと思うんだ」


「え!?」


「ヴィルが驚くのも無理はないんだけれど、多分、というか絶対そうなんだ」

「僕が能力で調べてきた、まぁみんなに報告が遅れた理由もこれなんだけどね」


 ラーの発言はヴィルだけでなく生徒会のメンバー全員を驚かせた。

 普通に考えて、この学園の人物でないというのは途轍もなく荒唐無稽な話だからだ。

 なんせ、学園が建っている場所というのは、ゼノンテルアの大陸からかなり離れた絶海の孤島で、陸から伸びている長い長い橋を渡って、ようやくこの学園の敷地に入ることができる。

 そしてその橋の上にはいくつもの検問が張られており、それを突破してここに入ってくるというのはおかしい。

 無理やり侵入するのは無理ということだ。なら逆に許可を取ってというのは?

 まぁそれもおかしい。許可を取っていたなら記録は残っているはずだし、その記録があるならこの事件は一瞬で解決していることだろう。


 そもそも、この学園に一度入ったなら卒業するまでまぁ出られない。

 外出申請して長期休みに里帰りすることくらいなら訳ないが、生徒も先生もみんな()に入って、そこで卒業までの時間を暮らすのだ。


 まぁつまり、この学園では人の出入りが大変少なく、もしいたならすぐに分かる

ということ。

 それでラーが言うにはこの学園の人間が犯人ではない。じゃあ犯人はどこから来たんだよ

っていう謎が残る。

 よって、多分この議題はどこから来たか分からない犯人の侵入ルートの予想でもあるというわけだ。



 すると今までラーの話を聞いていたメンバーが次々と口を開く。


「まぁまず十中八九能力による犯行やな、真っ先に考え付くのは超高速とか催眠とかか?」


 普段から発想がぶっ飛んでいるオムがこのぶっ飛んだ事件の犯人の考えられる手段を的確に並べていく。


「でも催眠じゃ侵入できひんやろ?」


 しかし、その説をスぺラ(オムの双子の妹)が否定していく。


「それを言うなら超高速だって女子を襲うにはあまりにも不向きだ」

「まぁ犯人が()()()()()()だというなら話は別だが」


 タッシ―もまだ見ぬ犯人を煽りながら会話に入ってきた。


 ラーが確認したというなら本当にこの学園の人間が犯人ではないのだろう。

 そもそもこの学園にいる仲間がこんなひどいことをしただなんて思いたくもない。


 今までの情報から導き出される術―――


―――島内に侵入することができ、相手に気付かれずに一瞬にして事件を起こす能力………


「……時間、停止……か?」


 僕の言葉を聞いてラーが驚いたようにこちらを見た。


「…ヴィルもそう思うかい? 僕もだ」

 

 ふっと出てきた可能性がまさか天才ラーと被るとは。


「なるほど時間停止ねぇ、時間を止めている間に検問を突破、時間を止めて婦女暴行―――筋は通るなぁ」


 オムも納得してくれたよう。


「それじゃあ暫定的に犯人の能力は、時間停止ということで警戒しておこう。

 個人の能力を使って、それらしい人物を探して見つけたらすぐに報告!その方針で行くよ」 


 もちろんそれでいいのでみんな頷く。


「うん、とりあえずは会議室だけで考えていても仕方がない。このくらいにしておこうか。

 まずは目先の生徒会紹介に集中しよう」

「今朝分けた役割の警備は当日に学園全体を見回ってくれ、僕の考えている推理が正しいと、次に犯人が狙ってくるのはその日だ」

「だから警備のみんなはより一層の警戒をね」

「それと一応言っておくと、僕たちは生徒会という権力を持つ身分だけれど実際はまだ学生なんだから、学生としての行動もしっかりしていくこと、分かったね?」

 

 その言葉で締めくくられ、今日の会議はお開きとなった。


 そして、仕事を終えた僕達はぞろぞろと一斉に帰る。

 みんなで揃ってに帰るのはいつものことだ。そしていつもの()の所で別れる。

 ただし僕たちは()へと向かう、この島に一つだけしかない【家】。

 学園に特別に建てられたラーの家へ。


―――あぁ言い忘れてたことなんだけど、

 僕と妹はとある事情でラーの家の居候、なの、さ…………


 生徒会のメンバーが二人もいるなら朝に起こしてくれてもよかったんじゃないかと、遅かれながらも気付く帰り道だった……。




。。。




 デュフフフッ

 楽しみぃだぁなぁ~~~~!!!


 夜の帳に汚い舌なめずりの音を響かせ、陰険で醜悪な目で学園を睨む人物が

―――1人。


 

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