第22話 「確然と充ち着く活路への回答」
「へるぷみ~~~~~」
ここは1組校舎、三階の広場。
そこには四肢を血に濡らして、顔さえも傷の痛みによって流れる涙で濡らして、そんな全身びしょびしょになりながら倒れる人物がいる。
あいつだ。
<せめて名前くらい呼んで……
その近くには全身におびただしい数のナイフを刺した―――いや刺された男も倒れている。
そうだ彼は、バカは勝ったのだ。
あの絶望的状況にも立ち向かい。一人で困難を打開したのだ。
『――……オム。頑張ったね』
『――ん?あぁラーか、うん、勝ったで』
『――途中から僕がなに言っても聞こえてないみたいだったから、ほんとに心配したよ……』
『――えぇ!聞こえんと思ってたけど、なんや通話切ってたわけじゃないんか……え、もしかしてこれがかの有名な、そうかこれこそが、ふっふっふ……私欲私想一切断捨離か!?
ゾーンすげぇ……
『―――ハハハっ、そうだね、でも、まぁほんとに良かった……」
ラーの安心したような雰囲気は念話からでも十分に伝わり、オムは釣られて安心の涙を流す。
『……それにしてもオムもあんなことを考えるんだね。
長くいるから全部知っている気になっていたけど、オムにもあんな一面があるなんて思わなかったよ』
パチクリ、とオム。
流れる涙を一旦止めて、ラーが何のことを言っているのか頭の中で探る。
ラーとの能力を介した通話というのは、基本的には普通の会話の延長線上なのである。
というと、言いたいことは口に出して相手に伝えるのと同じように、このラーの能力での会話も言いたいことしか伝わらない。
しかし、現実にもあるように、大きい独り言と云うのは時として他人にも聞こえてしまうわけで……
つまり、だ。
『――俺の一世一代の覚悟の言葉とかは……』
『――うん、聞こえてるね』
何も隠すことがないように堂々と言い切るラー。流石の中二病でも覚悟のシーンはやり過ぎた自覚があるのか、ラーに知られてしまったことに「バフンッ」と頭から湯気が出るほど羞恥した。
『――忘れろー!!ああいった手合いのものはな! 心の中で一人で孤独に思うからこそかっこいいのであって、聞かれてたらただただ恥ずいだけやねんんんん!!!!』
『――アハハッ!いや、十分かっこよかったさ。
それに覚悟一つで困難に突き進める、それこそが人間の心の面白いところさ。
そう、だからこそ人とは面白く楽しく飽きないようにできているのさ、何も恥じることはない』
『――ちきしょーもういい!タッシーのところに早く俺を連れてって!体中痛いの!』
『――はいはい、ただいまヴィルをお送りしますね~』
くそう、完全にラーのペースに持ってかれた。
あぁ~~~くそぉ、最後までカッコよく成り切れんな~~~、ほんまに。
でもまぁ、俺、生きてるんか。
そうか、そうなんやな、勝ったんよな。
あの時、オムは最後の最後まで諦めなかった。
一対一の対人戦において多大に不利なオムの能力。
追い込まれ、傷を負い、攻撃の手段さえ失い、もう立つことすらできなかった時。
オムの意識は、走馬灯でもなく、仲間や、友達のことにも周っていなかった。
ただただ、痛かったのだ。
足に突き刺さる刃。
ピクリでも動かせば身が削れるような迸る手の痛み。
その全ての痛みに耐えることのみに全意識を向けていたのだ。
その折、ふと思ったのだ。
そういえば相手はどうやって自分に攻撃したんだ、と。
今まで考える余地もなかった、だから気にしていなかった。
そもそも気にできなかった。
相手の攻撃手段は、終わらない無限のような刃の雨、そうだと思っていた。
それは、投げるそばから回収することによって成立する技術。
回収、そう敵の攻撃は戻ってくることなのだ。
???
ならば極論的に考えて自分ではなく相手に回収させることも可能なのでは?
そうか相手は自身ではなく敵に回収させることもできるのか……ちょっと待て。
そんなことが在りうるなら己にも同じことができるのでは?
……いや、出来ない。己の能力は自身に対象物を持ってくる能力だった。
!!!
ちょっと待て。
そもそも自分ってなんだ?
突如として降って湧いたのはバカだからこそ出る疑問。
普通の人間は“自分”という一番身近な物なのに一番訳の分からないという不条理な存在に、自身とはこういう物だ、と色々と折り合いをつけながら生きていく。
だからこそ、その瞬間に、この差し迫った状況で、この疑問に辿り着くのはバカくらいなんだろう。
考える。
俺とは……
俺、俺、おれ……
どの程度が“俺”なんだろうか。
普段の、ヴィルとバカやってる自分が俺ならば、はたして今の傷ついて思考もままならない俺は俺足りうるのか。
俺の境界線。俺の基準線。俺の識別線。
そもそも今まさに死を迎えようとする俺は俺なのか……
etc.
現在進行形で瀕死の重傷を負っている人物が考えるわけもないことを考えてみる。
しかし、普通の人でも終始答えが出ないのに、この痛みを堪えている状況では絶対に答えは出ない。
ならば聞こう。
オムはバカではあるが、無駄に強がったりしない。
分からないことは素直に分からないと聞くのだ
そして、敵は言った。
「俺がお前と認識したもの」
と。
みんなの身近にも一人はいるだろう。
知恵は足りなくても発想だけは飛び抜けた奴が。
彼らは、その足りない頭を補うのだ、天才的発想で。
それは時として神の設定にすらバグを探り出す。
―――そうか……人によって俺の感じ方は違う。当たり前や。
もし相手が俺の服だけを見たとしても、それが誰のかはわからんのや。
俺が着て、それを見た瞬間に、俺の服であることが確実になるんや。
だとしてもし俺が半分になってもどちらも俺と言えるんか?
じゃぁその半分。
また半分。
そのまた、また……また!
……その時に、俺と他人でまた意見は合うんか?
……そうか、そうか!
俺が俺であることはみんながみんな同じではないんか!
ならば、と。
“俺が俺であると思ったのならばそれはもう俺で間違いあるまい”
この結論に至った。
そこからは速かった。
そこらに飛び散った細かい肉片も、逃げ回った時にこぼした汗も。
俺なんだ。
俺だったものなんだ。
俺というものを構成する一部だったものなんだ。
ならばどうなろうと、“俺であることは変わらない”。
あとは、いつも通り。
万物交番を発動する。
集中して、狙いを決めて、落とし物を集めてやる。
相手の服についた俺の返り血に。
オムの可能性が芽吹いた瞬間である。
「この技……名付けて!【派出所だ!」
「いてて、あぁ傷開いた」
「まぁもともと閉じてへんけど」
。。。
8組校舎。
この殺伐とした雰囲気に、華を添えるあの人物が歩いている。
その様子は、まるで戦場の天使のように。
というか、いつでも天使。
毎日がエブリデイに天使。
天使というか女神。
このように文章がおかしくなるくらいにはふつくしい。
「いやぁ来てくれて助かるよ、ありがとうテビダークくん」
「いえ、先生、これが私たちの役目でもあります、なので礼は結構ですよ」
「私たちにお任せください」
完璧な佇まいと仄かな微笑による悩殺攻撃。(本人に自覚なし)
それを受けた数学教師、齢36歳。
女性経験一切なし!
当然の結果として、死亡。
死因:ドキドキし過ぎによる大動脈の決壊。
突然倒れた教師をタッシ―の所に運ぶように他の教員にお願いして、チェビは廊下を進んでいく。
(もちろん死んでないよ)
彼女の心に怯えなどはない。
あるのは使命感だけである。
彼女に与えられた任務―――何の前触れもなく前代未聞の襲撃を行ってきた賊の“掃討”を遂行するまで。
それ以上でもそれ以下でもない。
でも、少し、少しでも、邪念があるとしたなら……
(もし……頑張ったら、彼は、ほ、褒めて、くれるかしら……?)
想像しただけで顔を真っ赤に化粧した、元は鉄仮面であるはずの美麗な氷の姫は、そのやや高いヒールの靴からカツカツッと鳴らして、美しく品よく敵の拠点へと進んでいった。
私の文章は説明が足りないかなと思ったのですこし説明感強めで書いてみました。




