第17話 「悠然と色付く同輩」
広大な敷地面積を誇る学園をこれはあーだとかこれはこーだとか、一つ一つ丁寧に説明しながら巡ること早一時間、僕は新しくこの学園に入ってきた生徒の案内をしている。
話しておかないといけないことやこの学園にいる以上覚えておかないといけないことをちゃんと教える。それは偏に学園生活で何か不便なことが起きないようにするため。
まぁ真面目ついでにちょっとどうでもいいことなんかも混ぜてみたり。
例えば、昼休みの時間は食堂が混むから急いだほうがいいとか、歴史学担当の先生はイケメンだけどせっかちだとか。
え?もっと他に言うことがあるだろって?
……ないんだなーこれが。それとも何か、「この学園に入ってきたからには守ってもらわないといけないルールがある……それは何かって? ふふっなぁに、嫌でもわかるときが来るさ……」
とか意味ありげに言うの?ねぇよそんな裏校則。
ここは、ちょっと多種多様な人が集まるだけでそれ以外は普通だよ!
もしあったとしても……
「ついに、触れてしまったかそのルールに!くっくっく、お前は今この学園のルールを破った、そう!廊下は走ってはいけませんというルールになぁ!」
ぐらいだよ。てか何で喋り方が標準装備で中二病なんだよ
「なぁなぁ先輩!」
先輩と呼ばない方がいいといったそばから……
まぁ別にいいか、そんなに神経質になるほどのことでもないし。
「なんでしょう」
「この学校にも、やっぱりかわいい子とかいるのか!」
うーーん個人的にはシスを推したい気持ちなんだが……。
後々になって……「なんで彼氏持ちのやつなんか紹介したんだ、俺の恋心を弄んだのか!?死ね!」
ってなって襲われても困るし……。といっても、そもそもこの子と年齢の近い子が多数いる下位クラスの子の事とか知らないしなぁ。
うーん、とりあえず、チェビでいいか。
ヴィルは思考を放棄し、手ごろで万国共通美人のチェビに決めた。
「イーチェテビダークって知っているかい?」
「え?あの貴族の有名な人!?」
「その有名な人です、あれがなななんとこの学園にいちゃうんです!」
「すげえ!そんな人に俺も出会えたりするのかなぁ!」
(ふっ彼も、まだ見ぬ美少女たちに心を昂らせているのか……。
僕にもあんな時期はあった。
この学園に入ったばかりの時はなんか自分が特別になった感じがして、モテそうな気がしていたんだ。
だけど、実際は……うっ、イケメンや貴族のボンボンに寄り付く女子。
僕は入学早々声をかけようとした女子に悲鳴を上げられ、女子の中でのブラックリストに載った……
頑張れ、未来多き少年、願わくばあなたの道に幸せがあらんことを)
勝手にヴィルが少年の未来を案じていると―――
「あのーちなみにかっこいい先輩とかは……?」
「あぁーいるいる、いっぱいいる」
。。。
僕はさっきの少年の時の返事とは打って変わってそっけない返事をする。
おっといけない、かなりの私情を挟んでしまったな。
僕としたことが年下の子を引かせてしまったようだ。
声のトーンが低かったのがいけないんだろう、そうだ、そうに違いない、でもでも、僕にそういう話をするのはいけないことであって、でもでも話せるようになった相手に急にそっけなく返事されたらなんか、え?ってなるのは当然だし、でもでもでもあの子だってわざといったわけじゃないんだから僕が気にしちゃいけないし、でもでも知ってなかったからっていうのは逃げる口実であって例えば殺人をいけないと教えてもらわなかった子がもし……以下早口
っは!いけないいけない、僕の闇があふれるところだった。
―――なんかオムっぽい言い回しだな。最近一緒に寝たりとかもしたから毒されてきたのかな?
僕はクールだ、クール。
僕の中ではひと悶着あったがその後も順調に校内の案内は続く、女の子との距離は心理的にも身体的にもかなり遠くなった気がするけれど、気にしない。
気にしない……
しかしながらここまででもかなりの距離を歩いたがもう少し案内は続きそうだ、何せこの学園はとても広いのだ。
そりゃあ時間はかかる。
でも、僕が思うのは、こんなにいっぺんに紹介されても覚えられないし、絶対後でここに行くにはって地図見ることになるだろ、ということだ。
一度見ておいて損はないのだろうけど。
だいぶ歩いてきて、疲れてきたからすこし休憩しようか、なんてことで第8食堂の椅子に座って休憩を取っている時。そんな中で、女の子の方が口を開いた。
「あのーここまで見てきて思ったんですけど、こんな大きくてすごい学園に私ついていけるんでしょうか、あの私普通の一般市民だったのですごく怖くて……」
今までとは全く違う、能力者のための学園をという物を案内を通じてまじまじと見せつけられた彼女は心配や不安に苛まれているようで、その心労が彼女の視線を下に向かわせ気持ちに重しを掛ける。
確かに、今まではごく普通の生活だったのに能力が覚醒した時から、はいあなたは上流階級がたくさん通う学園に行ってくださいね、なんて言われたら怖いだろう。
友達とも離れるし家族とも間違いなく疎遠になる。
それに、この学園は最新の技術が詰まった一種の都市になっている。普段とは違う景色に当分の間は慣れないだろう。
それでも、心配はいらない。
なぜなら、
「怖がるのも無理はない、けれどどうか卑屈にはならないでほしい、君の可能性が消えてしまうから」
「慣れなくて、急に一人になって心細く、そんな君に無責任にどうにかなると僕は言いたくない」
でもそれでも、僕は、僕は……
「それでも僕はきみに笑顔で学園生活を送ってほしいから、言わせてほしい」
「僕達がどうにかする、と」
「だから、心配はいらない」
「生徒たちみんなの安全と健やかなる安全を見守り、導き、助けるのが僕達の役目なんだ」
「だから、安心して、僕に君のことを守らせてほしい、何かあれば僕達を頼ってほしい」
……今更なんだが、かなり恥ずかしいこと言ってないか……?
やべぇ……頬っぺた熱ッ!? いや……だって、ヒートアップしちゃったんだもん。
誰からも相手してもらえなくて一人ぼっちで寂しかった時の昔の自分を見てるみたいで、助けたいと思ったんだ。
言った後になって恥ずかしい気持ちが蒸気のように煙を上げて頭から噴き出てくる。慌てて視線を右往左往させて、効率化した手の動きで髪の毛が逆立つほどの風を生み出し扇ぐ
そんな間抜けで年上らしからぬヴィルの言葉を聞いて、心配という重荷で顔を上げづらくしていた彼女は顔を見せて「ふふっ」と短く笑う。
(いったいどういう笑いなんだ?わ、わからない……)
変なところで裏目に出る彼の対人経験の無さは、彼を鈍感への道へと誘う。言葉によって少しでも救われた少女に、もう先ほどまでのヴィルに対しての恐怖感はないのに。
あるとするなら……いや、内緒か。
「ふふふ、すみません、笑ってしまって」
「そんなに真面目な答えが返ってくるとは思わなくて」
一度出した笑いが止まらないらしい彼女にさっきまでの陰はもうない。
「でも、ありがとうございます、なんか元気出ました」
「心細いけど頑張れそうです」
控えめな少女の笑みは、シスとはまた違った“繊細さ”と“優しさ”を持った温かいものだ。
(……びっくりした、喜んでくれていたんだ。てっきり「プギャーそんな恥っずいセリフ言ってて死にたくならないんですか」、とか言われるのかと思った。
でもそうか……僕の、僕の言葉で、誰かを勇気づけることができたんだなぁ……)
初めて人に何か良いことをしてあげられた、と実感するヴィルが感慨に耽っているとと―――突然緊急のアラームが学園内にけたたましい音で鳴り響いた。
『―――侵入者、侵入者、学園内にいる生徒はただちに避難所へ避難してください、避難場所は……』
アラームに続いて緊急の放送が学園内への侵入者の存在を知らせてくる。
「なんてことだ……ッ!?」




