第14話 「仕事と名の付くお泊り会」―――①
「へっくしょん!」
いつも通り喧々諤々とした生徒会室に響き渡ったくしゃみ音。
鼻をすすりながら口元をぬぐっているのは、昨日雨に濡れて帰ったため絶賛風邪をひいているヴィルだ。
盛大に、水たまりに「ぼちゃん」してしまったヴィルは、そこから濡れないようにするのもバカらしくなったのでいっそのことと吹っ切れてしまい、普通に歩いて帰ったため家に着くころにはずぶ濡れを通り越して水と同居していますくらいにはなっていた。
雨に長時間さらされて体が冷え切ったため、今に至ると。
まぁぶっちゃけてしまうと、体温の上昇効率つまり血液循環を効率化して体温をあげたり、全身の乾燥効率を極限まで上げて無理やりに一瞬で全身を乾かして歩くとか、実はいくらでもやりようはあったのだが、まぁ本人が思いつく最善策が全力ダッシュだったのが能力のボキャ貧というかなんというか……
能力に自我があったなら泣いていることだろうよ。
ズビズビと鼻をすするヴィルにハンカチを貸してくれるラー。
「ズビー……ありがと、ラー」
「うん、どういたしまして」
鼻をかんだハンカチはダストシュートされまた新たなハンカチを棚から出して常備する。
これ以上ないハンカチの贅沢な使い方。まさにリッチ。
「うーん、タッシ~風邪しんどいよー、治してよー、ぶー」
昨日までずっと、ヴィルは自分を置いていったメンバーたちに恨み節を言っていたのだが、今日生徒会室に集まった時に、いつもはそんなこと全くしてくれないはずのチェビがお茶を淹れてくれたので、それだけでヴィルの心の蟠りは消えた。
だから、あれほどあった「許すまじ」という怒りも無くなり、普通のちょっとおバカなヴィルに戻ったのだ。
そんな風邪を引いたこと以外平常運転のヴィルは、タッシ―に自身の風邪を治してほしいと懇願した。
タッシ―がその重い腰を一瞬でもあげて“編集”してさえくれれば、一瞬でこの気怠さとおさらば出来ると考えてのお願いであった。しかし、そんなヴィルのお願いも虚しく、タッシ―の心には一mmも届いちゃいない。自分に興味のあることしかしない。それこそがタッシーという人間の本懐なのである。
「お断りだ、だいたい自分で治せるだろそのくらい」
―――へ?
(僕の能力で治癒的なことは……)
ヴィルは、その効率化しなければ「やや残念」の部類に入る思考力をフル回転して考える―――がタッシ―が正解を言うのが早い。
「自然回復―――免疫を効率化したらいいだろう」
……それだぁぁあっぁ!!!!!
ヴィルはその強面な顔面をこれでもかと“驚嘆”然とした表情に変える。
かなりの衝撃を受けたのか、少し体ものけ反らせている。
(マジかよ……この能力を身に着けてから約五年、そんな使い方今まで思いつかなかったぞ……)
―――その後、試しにそれとなくやってみたら三十分くらいで熱は引いた。
熱が引いてきた頃、ラーが手を数回叩き、僕達に粛を求めてくる。
一瞬でラーの言葉を聞くために静まり返る生徒会室。
「みんなー今日はちょっと話したいことがあるから、席についてくれるかい」
久しぶりの会議だな。こういう、何か議題があるときは面白いことか厄介ごとの二択しかない。僕は期待半分めんどくささ半分で席に座る。何か個々で様々ことをしていたメンバーたちも続々と席に座っていく。
よし、全員揃ったねと前置きをしたラーはさっそく会議を始めた。
「……最近、学園内で不穏な事件が起きているらしいんだ」
最初の一行で理解する。
「あーめんどくさいやつだ」 と。
「具体的には心霊現象、ということになるんだろうか。とにかく、誰もいないのに窓が開いたりだとか足音が聞こえたりだとかの目撃情報がちらほら生徒会に来ているんだ」
「もっぱら多いのは夜遅くまでサークルをやっている子からの目撃情報だね」
心霊現象、多分というか絶対能力によるものだと思うんだけど。
「何か実害はあるの?」
心霊現象などには物怖じしないのか、チェビはいつもの通り冷ややか且つ澄んだ声でそう言った。結構これは重要だったりする。
この前起こった事件なんだけど、深夜に寮近くでたくさんの動物が徘徊する事件があったんだ。
犯人を突き止めてくれという要望がたくさん来たから生徒会総出で犯人を捕まえた。
実はその犯人、動物テイム系の能力を持った子が実技テスト用に毎夜練習しているだけだった。確かに規模が規模だから自分の部屋で練習するわけにもいかないし、かといって日中に練習すると同じテイム系のライバルたちに情報がバレてしまう。
そんなこんなで色々な事情がその犯人にもあることが分かったから、怒るに怒れなかったことがあった。
だから、生徒のプライバシーのためにも何か実害が出そうでない限り生徒会は手を出さないことに決めたのだった。何か起こってからでは遅いのでは、なんて意見もあったけど、そんなことが起きること自体異常だし、そんなことが起きない風潮を作って事故を起こさないようにするのだって立派な仕事だ。
束縛し過ぎるのも自由の妨げだ、ってね。
チェビの実害の有無についての質問に、ラーは少し神妙な面持ちになる。
「それが…あるにはあるんだ。 夜中に怖い思いをしたから夜の学校が怖くて夜型のサークル活動に集中できないっていうのとか、学園のセキュリティ対策に対する疑問の声も上がってたりだとか、とにかくなんとか犯人を捕まえてくれって要望が来ているんだ」
元々夜の学校というものはかなり怖いものだろう。そんなところで怪奇現象でも起きようものなら怖さも倍増しになっても仕方がない。
サークル活動などはやったことがないので分からないが、当の本人たちからしてみれば迷惑以外の何物でもないんだろう。
……うーん…でもなぁ…この現象には心当たりがある。
みんなも思考が合致したのか一人の人物に徐々に視線が集まっていく。
「……ちがう」
たまらず本人が否定した。
本人―――シスは普段からこの手のいたずらを仕掛けてきたりする。
僕も夜中にトイレに行こうとしたら、突然ガラクタ人形の集団が襲ってきたことがあってそれはそれは怖かった。
後で聞いたら、同じタイミングでトイレに行こうとしたシスが、先にトイレに入るためだけに僕を追い払おうとしてやったらしい。
まぁでも本人が否定するなら今回の犯人は違うな。
シスはそんなしょうもない嘘はつかない。
「でも、シスが違うならいったい誰だ?」
「うーん心霊現象に応用できる能力者なんて、この学園にいっぱいいるからねー」
確かに、オムの能力とかだって使い方によってはそんな使い方もできなくはない。
今ある情報だけで犯人を断定することは出来ないというわけだ。
しかし、だからと言ってこの事件どうしたものか……校舎内というのも寮から遠くて行き来が面倒くさいし、それに時間が夜というのも好条件とは言い難い……
生徒会の面々が、どうやって解決するかを考えあぐねていた時。
「安心して、考えがある」と言わんばかりにラーの雰囲気が和らぐ。
「そこで!ここで考えたって解決はしないので、今日から学園で交代で寝泊まりして犯人を見つけたいと思います!」
「えぇ……」とあまり乗り気ではない声がちらほらあがる。
誰だってこの状況の学園寝泊まりは楽しめないだろう。
「今日の議題もそのペア分けが本題なんだ」
「もしかしたら初日で見つかるかもしれないし、何日もかかるかもしれない、だから三グループに分けて順番で回していこうと思う、もちろん学園長の許可は取っておいてある」
順序が立てがいいラーはこうなることを見越していたかのように、すでに解決策を用意し許可取りさえも行っていた。
そんなラーの言葉を聞いた瞬間のこのときの僕は一見すると落ち込んだように、嫌な顔をしているように見えるだろう……しかしそれはフェ~イク。
頭の中は班決めのことでいっぱいだ。
三人三グループ、さっきラーはそう言った。
ならば必ずどこかは女子と当たるのだ。
この生徒会には女子は4人、女子3人を固めて一人だけがあぶれるような組み方をラーがするだろうか。
答えはネバーだ。絶対にしない。つまり、ここで取られると推測される手段は公平中立なくじ引きに決まっている。
ならば、この班決め期待しないわけがなかろう。
あのチェビの寝顔が見れる? 人によっては人生を対価に払ってもいいというやつもいるぞ。
小っちゃいときは一緒に寝ていたが、大人になるにつれ「一緒に寝よ」の反応が―――
「え、うん……」
↓
「………」
↓
「今日だけだよ……」
↓
「嫌……一人で寝て……」
―――になっていったシスともう一度添い寝ができるかも知れない?
最高じゃァァないかぁぁあぁ!
僕は誰にもバレないように心の中だけでこの状況を歓喜していたとき、オムと目があった。
―――はっ!?やつの目は!あれは覚悟ができたやつの目だ!
そうか、気付いたのかこの班決めの可能性に……まったく、こういうときだけ頭が回りやがって。
「ガラガラ」とくじ棒の入った箱をラーが持ってくる。
「班決めはこのくじで決めるよー」
きた!やはりそうするか、しかしその手は既に読み切っている。
とっくに、隔絶された勇気|で効率化した思考の中で神へのお祈り百回は済ませてある。
それでもまだ安心しきれない、くじを超高速で調整するか? いや、ラーがそんなことは許さないだろう。
きっと俯瞰的戦争で軽く見張っているはずだ。
ならば……後は運命を信じるのみ!!
「「「せーの」」」
みんな一斉にくじを引く!
・ラー、シス、チェビ
・サブ、タッシ―、スぺラ
・僕、オム、アシミ―
こうして、約男子二名の儚く淡い期待は悉く打ち砕かれた。




