第13話 終章 「災害という友情の終わり」
「あ、雨だ」
生徒会室からの窓越しの景色を見ていたスペラが唐突にそんなことを言った。
「うわぁほんまや、傘持ってきてたかな」
スペラのその一言につられるようにみんなが外を見る。
さっきまでの雲一つない晴れはどこに行ったのか、今は遠くの景色が見えない程、空一杯に暗雲が立ち込めている。
もちろん、オムが言うように、今日は朝から晴れていたから傘を持ってきているはずがない。
それにもっと質が悪いことに、そろそろ生徒会室の鍵を閉めて出なくてはならない時間なのだ。つまりはこのザァザァ降りの雨が止むのを待っていることもできない。
(うーん最悪だ、出来ることなら濡れたくない)
ヴィルはあごに手を当てて、いち早く解決策を模索し始める。
「ちくしょーあの予報士また外しやがったな、苦情いれてやろうか、まったく」
オムが愚痴っているのは多分、朝の情報番組の天気予報士のことだろう。たしか予想系の能力を持っていたはずだが、ランクが低いからそんなに当たらないらしい、よく自分で自虐ネタとして言っている。
当たらないのになんで予報士をやっているのか、うーんあれか顔か?顔が良いからなのか?
…違う違う予報士のことはどうだっていいんだ、文字数の無駄でしかない。
「くそ―どうやって帰ろうかなー」
やはり誰も傘や雨具を持ってきてはいないようで、みんな個々にどうやって帰ろうか考えているようだった。
真面目な話、本当に僕もどうやって帰ろう……
<つんつん
不意に後ろから肩をつつかれた。
僕はつつかれた方にふり返ると……
「じゃーん」
そうやってシスが得意げに見せてきたのは少し大きめの―――シスが使うにはやや幅広の―――傘だった。
「うわっ持ってきてたのかよシス」
「たまげたなぁこんなの予測できないって………あれ?」
遅まきながらも、僕は自分がだしに使われたことに気が付く。
「よし」とそう言ってシスは「まだ仕事がぁ!!!」とグダるラーをあっという間に引きずって帰ってしまった。
言わずもがな、あれは僕を驚かしたことで生み出し実体化させた傘で、僕はまんまと能力の餌となったわけだ。
この場にいる全員が、みんなの分も出してくれたらいいじゃんと思ったが、たまには二人で相合傘でもしながら誰にも邪魔されず帰りたかったんだろう。
まぁ帰ってしまったものにとやかく言ってもしょうがないので、また別の方法を考えるとする。
そう!雨に濡れない方法をね。
―――お!いいこと思いついたぞ。
「なぁオム、能力で降ってくる雨を全部集めることってできるか?」
「…ん?まぁできるけど」
「よっしゃ、みんな濡れない方法見つけたぞ、帰ろうぜー」
「いやいや、よく分からんのやけど、どゆこと?」
ふっふっふ、僕が思いついた作戦……それは!
「いやぁ簡単な話、みんなで一緒に帰って、それでみんなの上に振ってくる雨全部をオムに集めてもらって……」
「うんうん……て、いや、集める言うても俺が濡れるねんけど……」
「だからそれは、後で乾かして……」
「なんで俺が犠牲になる前提やねん! ほんでなんで俺、滝行しながら寮帰らなあかんねん! みんなの全部集めるってちっちゃい滝並みやぞ!?」
「あら、いいんじゃないかしら、煩悩も捨てることができて私たちにも感謝される、ウィンウィンじゃない?」
「普通に風邪ひくわ!」
うーんだめか、チェビも賛成してくれたから良い案だと思ったのになぁ。
残る案は……あいつに頼るしかないか。
そんなこんなで僕らがうるさくしていると、むくっとタッシ―が起きてくる。
目が険しいな、これは不機嫌だ。
「ちっ雨か」
外からの轟音で視線を外の景色に向けたタッシ―は今現在大豪雨であることを知る。
寝起きの険しい目がより一層深みを増した気がした。
頭を無造作に掻いたあと、彼は吐き捨てるように「帰る」と短く言い残して、ほんとに帰ってしまった。その動作はほんの一瞬だった。
あぁ頼みの綱が―――帰ってしまった……
オムにできなくてタッシ―にはできること、それは集めるという行為においてタッシ―は自分の記憶という場所に保存することができるのでタッシ―自身も濡れることがなく帰れるということ。
タッシ―は今まさにやってもらおうとしていた技を使って一滴も濡れることなく不機嫌に帰っていった。
とうとう時間的にも策的にも厳しくなってきたころ。
口を開いたのはチェビだった。
「みんな、ごめんなさい、そろそろ帰らないといつものルーティーンが崩れてしまうの、これは体力的に一人しかできないから……本当にごめんなさい」
謝罪するように言い残して彼女は生徒会室から帰って行ってしまった。
なんだよルーティーンって。
そんなおしゃれな言葉、僕にはわからないぞ。
あれか、決まった時間にご飯食べたりするとかいうやつか?
かぁぁこれだからお嬢様は。
そんなんだから、お肌もきれいで目の隈なんかもなくて姿勢が綺麗でいつも美しいんだよ!
くそう!! 誉め言葉しか出ない……
窓の外のチェビを見ると、本人も言っていたがどうやらかなりの荒業を使っているようだった。
それは有限の証明論を使って自分に降ってくる雨の雫の数をゼロに調整するというものだ。
不自然にも、雫たちはチェビを避けるように降っている。
あれでは、普通に生活していたらまずありえないことを起こしているので、体力消費も半端ないだろう。
そこまでして大事なのかルーティーン……
さてここで、残ったみんなに「チェビの真似をして助け合わなくても別にいいんだ」という考えが浮かんでしまった。
みんなでするなら厳しいが自分だけなら……みんな今までそんな状況だったのだ。まぁ僕は自分だけでも厳しいが。
そして、その心が出来たら最後、みんなは続々と自分一人だけでも助かろうと帰りだしてしまった。
オムは自分の部屋から、万物交番で傘を拾ってきて
「へへ悪いなヴィル、この傘は一人用なんだっ」(頭ツンツン金持ち坊ちゃまボイス)」
なんて言って帰りやがった。
絶対明日〇す。
スペラは万物運送で自分そのものを自分の寮に送って帰っちゃうし。
アシミ―も「ごめーん」なんて言いながら帰ってしまった。
ごめーんを翻訳すると、「ざまぁWW」である。
サブなんかはもっとひどい。結局最後まで残ったもの同士「一緒に濡れて帰ろうね」なんて言っておきながら、いざ玄関まで行くとこの前助けた女子か何だか知らないけれど、
「傘、ないの?」
「そ、そうなんです、忘れちゃって……あはは……そ、それじゃあぼくは友達と帰るので……」
「ふーん傘、ないんだ、なら……一緒に、は、入らない……?」
「え!?でも……」
「…………イッテヤレヨーボクノコトハキニスルナー」
「う、うんわかった、じゃあばいばい、また明日ね、ヴィルトスくん」
(ごめんね傘、小っちゃくて)
(いえいえ。だ、だいじょうぶです……!)
(もっとくっついて、いいよ……?)
(え?……は、はい……)
こんな感じで帰りやがった。
まじ許さん。
最後の最後までみんなに見捨てられた僕の気持ちをコテンパンにしないと気が済まないのか。
ほんとまじ許さん、あの英雄。
さて、残された僕がどうするのかと言われれば、正面突破しかないだろう。
全身、躰の至る所を効率化して、可能な限り屋根のある所を通って帰るしかない。
僕は入念に体をほぐし、スタートダッシュの構えをとる。
濡れたらただ濡れるだけ、そんな当たり前のことだけど何だか僕は妙にやる気が湧いてきた。
「絶対に濡れずに帰ってみせる」ってね。
脳から送り出される信号たちに淀みはない。
凡人の非効率的な体運用、非効率的エネルギー運用では到達できない領域。
そして僕は亜音速に迫るスタートを切る!
―――前に、濡れて滑りやすくなったコンクリートの地面に足を取られ、盛大なスピードでずっこける。
結果、目の前の水たまりにドボン。
結果、風邪を引いた。




